SMILE

ゾウの背の上、モコモ公国 くじらの森

侠客団の居住区では夜の王、ネコマムシの旦那主催の宴もたけなわ。
ハートの海賊団と麦わらの一味、侠客団の面々が輪になって
どんちゃん騒ぎが続いていた。

そんな中、はがぶがぶと酒を煽るネコマムシの旦那に食ってかかっている。

「ゴロニャーゴさんちょっと飲み過ぎだって!
 怪我してんのにお酒飲むの良くないんだってば!」

「ゴロニャーゴさん!?」
「おい、相手は王様だぞ」

同盟を組んだとあってお互いの話をしていた
ペンギンとウソップがの物言いを見とがめ、嗜めるが、
は構わずぷりぷり怒っていて、その様子をネコマムシは豪快に笑っている。

「かまんちや、かまんちや!
 そんな堅い事言わずに、ほれ!!ガルチュー!」
「もー!誤摩化そうとしてるでしょ!・・・ガルチュー!」

ぼふ、とネコマムシの毛並みに頭を埋めたは楽しそうだ。

「お酒は、ほどほどに!ね!」

「・・・本当物怖じしねェよなァ」

ネコマムシの怪我をしていないほうの腕をばしばし叩いているを見て
ウソップが呆れたように声を上げた。
それにペンギンが頷く。

「あと完全に誤摩化されてるな、あいつ動物大好きだから」

それを聞いてウソップが、ああ、と腕を組んで相づちを打つ。

「うちのチョッパーにもめちゃくちゃ餌付けしてたぞ」
「ああ、あのたぬきか。いかにもが好きそうだ」
「うん、まあ、トナカイなんだけどな」

現に今もネコマムシの側を離れると、はチョッパーにジュースを注いでいる。

それを見て面白く無さそうな白熊が一人、じとりとを見つめていた。
シャチがベポの肩を組んでもつぶらな瞳はを睨んでいる。

「おう、どうした!不景気な顔して」
「・・・の馬鹿」
「ベポ?」
「フカフカしてるなら誰でも良いんだ・・・」

シャチがペンギンと顔を見あわせた。

「おい、ペンギン、見ろよ。ベポが拗ねてる」
はメスのクマじゃねえのにな」

うぅ〜、と唸っているベポの熱烈な視線に気づいたのか、
が4人のもとに足を運ぶ。
手にはビールの瓶が数本握られていた。

「ベポ!シャチ!ペンギン!あとゴッド!」
「おれはついでか?!」

ウソップの突っ込みには笑って誤摩化した。

「アハハ、いやー、一応女手だからお酌して回ってるんだけどこの人数でしょ?
 積もる話も色々あるんだけどなかなか抜けられないもんだね・・・、
 って、ベポ?どうしたの?何か顔怖いよ?」

の馬鹿・・・、おれより旦那の方が良いんだ・・・あと麦わらのとこのたぬき」
「は?何の話?たぬき?」

頭に疑問符を浮かべ、状況が良くわからないから説明しろ、と言わんばかりに
がシャチとペンギン、ウソップに視線を向けると、
シャチとペンギンが顔を見合わせて、
それからニィ、と悪そうな笑みを浮かべた。

、浮気はよくねェぞ」
「ん?」
「大体お前、気ィ持たせるだけ持たせて、
 あっちへフラフラ、こっちにフラフラってのが多いからな」

「よくわからないけど・・・私が悪いの?」

首を傾げるにベポが唸る。

の馬鹿、嫌い・・・」
「・・・ふーん?なんとなく察したけど。
 そっか。ベポは私の事が嫌いか。・・・落ち込むなァ」
「うっ」

があからさまに悲しそうな顔を作ると、
ベポはぎくりとしたように肩を跳ねさせる。

「キャプテンとパンクハザードに居たときも、ドレスローザに居る時も、
 ベポたちが居なくて寂しかったのにな、そっかー、嫌われてたのかー」
「うぅ・・・っ」

つんつん、とベポの鼻をつつくに、ベポはタジタジになっている。
終いには俯いて観念したように呟いた。

「すみません、嘘です・・・嫌いじゃないです・・・」
「むしろ?」
「好きです・・・」
「私も好きだよ!ベポ、ガルチュー!」
・・・!ごめんね!ガルチュー!」

キャー!と言いながらハグをするベポとを見て
その場に居た男達は戦慄していた。
一瞬でベポがに手玉にとられていた。

「おれたちは今何を見せられたんだ?」
「何が起きた?」
すげェ」

ベポから離れたが目を細めてペンギンとシャチに向き直る。

「・・・あと、揉めたら面白いだろうって思ってた
 ペンギンとシャチはあとで覚えておくように」
「はいはい」
「りょーかい」

適当な返事をするペンギンとシャチにはやれやれと肩をすくめる。
するとどんちゃん騒ぎの中でも一際大きな声がを呼んだ。

「おーい、トラ子ー!トラ男が呼んでるー!」

ぶんぶんと手を振るルフィに、が頬を引きつらせた。

「麦わら!その呼び方止めろって言ってるでしょ!?
 って呼べ!って!」

の言葉に、ルフィとなにか話していたらしいローが首を横に振っていた。
ルフィがそれに面白そうに笑う。

「ししししっ、おれは良いけどトラ男がダメだってよ!」
「そうだ。いくら同盟だからって気安く呼ばせるな」
「トラ男とトラ子も充分気安いでしょうが!
 ローとで良いじゃない!呼びやすいのに!」

怒りながらも適当な酒を調達して船長達の酌に向かったの背を見送った。

「・・・馴染んでるな」
「あァ」
「最初っからあんな感じだったのか?」

ペンギンがウソップに問う。

「パンクハザードでもドレスローザでもとトラ男はあんな感じだったな」
「そういやお前はトラ子って呼ばねェな」
「いや、トラ男の前以外ではって呼べって念押しされたんだよ」
「・・・相変わらずキャプテン過保護だな」

呆れを滲ませたシャチとペンギンにウソップが頷く。

「そうだな、ウチのサンジはとてつもない女好きなんだが
 例によってを口説きに入ったときにゃあ
 トラ男がサンジを思いっきりバラバラにしてたし」

「ああ、するする。キャプテンならやるね」
「むしろ良く生きてたなサンジ」
がとりなしたんじゃない?」
「納得」

腕を組んで頷くハートの海賊団に、ウソップが続けた。

「パンツ見せろってブルックがに言った時はトラ男がめちゃくちゃ怒ってな。
 問答無用でなます切りにしたブルックを海に捨てようとして
 止めようとルフィがギア2を使う羽目になったし、
 危うく同盟の危機だったな、あれは」

「おい、そんな命知らずな事言ったのかよあの骸骨!?」
「良く生きてたなお前ら!?」
「それはキャプテン怒るよー・・・」

「これもがとりなして何とかなった」

ウソップが神妙に頷いた。

「他にも 
 『、チョッパーかまい過ぎ事件』とか
 『、ナミと組んでパンクハザードの金を強奪事件』とか
 『、フランキーの腕もぎ取り事件』とか
 『、ゾロをべろべろに酔わす事件』その他諸々を起こしてな・・・」

「おい、ウソップお前大概にしとけよ、嘘だろうが!特に後半!最後!」

端で聞いていたらしいゾロが突っ込むも、ハートの海賊団の面々は首を捻る。

「どこからが嘘だ?」
「全部あり得そう」
「・・・しかも全部のせい」
「キャプテン苦労してたんだろうなー」

宴の中心、ルフィやローに混じり楽しそうに笑う
ハートの海賊団のムードメーカー兼トラブルメーカーを見て、
シャチとペンギンは小さく笑った。

「まぁ、でも、キャプテンもあいつも、なんか吹っ切れたみたいで良かったよ」
「ああ、おれも同じ事思ってた」
「キャプテンの隈薄くなってるもんね」

 ああして笑っている船長と副船長を見るのは感慨深いものがある。

ローがパンクハザードに兄妹2人だけで行くと言ったとき、
ペンギンは正直止めようかとも思ったのだ。
ハートの海賊団全員で臨むような、
違うやり方だって、ローなら考えついたはずだった。
余りに危険な潜入。それでもストッパーになるはずのが止めなかった。

多分、船員に伝えてないことも、あの兄妹には多いのだろう。
強く冷静で時に残酷な兄と、明るくお調子者で、なのに冷徹な妹。
2人の絆は、単なる兄妹というには余りに深い。

だから打ち明けてくれなくても良かったのだ。
こうしてハートの海賊団に帰って来てくれた。それだけで良かった。
これから先、カイドウを前に立ち向かうことになると分かっているが、
不思議と怖くはない。
あの兄妹と海賊をやれるなら、それで良いと思っている自分が居る。
多分、同じ船に乗るクルーは皆、ペンギンと同じ気持ちだろう。

宴の中心を見やって、ペンギンは思わず苦笑した。

「キャプテン、相変わらずだ」
が麦わらに酌するのがそんなに嫌なのかな」

「トラ男も大人げねェなァ」

ウソップまでもがそう口にしていた。

がルフィに酌をしたジュースを、
横から奪って飲むローに、ルフィが抗議しているのが見えていた。



「なんか向こうで色々あることないこと話されてる気がする・・・、
 あとキャプテンは普通のお酒あるんだから横から取るようなことしないでよ」

の忠告もどこ吹く風で、ローが黙ってジョッキを煽る。
がウソップらのほうに視線を向けると、
注ぎ直したジュースを片手に骨つき肉を齧っていたルフィが首を傾げた。

「どうした?トラ子?食わねェのか?
 さっきからお前、酌してばっかりじゃねェか」

「ほりゃあいかん。!食え!飲め!」
「そうだぞ!食え!」

「わっ!?ちょ、多い多い!
 麦わら、あなたと私じゃ胃袋の大きさ全然違うし、
 旦那はこれ一升瓶じゃん!私べろべろになるよ」

ずずい、とルフィとネコマムシが押して来た料理と酒に圧倒され、断りながら
何とかはローの隣に腰を落ち着かせた。

「楽しいけど疲れるね、これ。今日よく眠れそう」
「ああ、そうだな」
「・・・隈、薄くなったね。お兄さま」

の言葉に、ローは顔を上げた。

「幾ら私が”凪”かけてもダメだったけど、やっぱり精神的なやつだったんだね。
 ほんと、麦わらさまさまだよ」
、」

頭の後ろで腕を組んだに、ローはかける言葉を選んでいた。
が悪夢にうなされるローを常に心配していたことは、ローも承知している。
が軽く息を吐くのを見て、ローは腕を組んだ。

「話は変わるが、・・・一つ聞いておきたい事がある」
「なに?」
「お前、なんで最後に会いに行った?」

ローの鋭い眼差しに、は茶化したりおどけたりはしなかった。
それが何を指しているかはすぐに分かった。

ドフラミンゴのことだった。

「・・・私なりのケジメかな。
 16年前、あの人に救われたのも事実だし。
 クソ外道で家族殺しの悪魔野郎でも、一言言っておきたかった。
 ナギナギ見せたら吃驚してたから・・・ちょっと溜飲下がったよ」
「・・・」
「でも結果的には良かったんじゃないかな。
 コラさん、ドフラミンゴを殺そうとは思ってなかっただろうから、
 インペルダウン送りが一番理想的な、形だったと、」


ローはの言葉を遮った。

「まだ13年前のこと、後悔してるんだろ、お前」
「・・・さっすがお兄さま。目敏い上にデリカシーの欠片も無いね」

シニカルな笑みを浮かべたかと思えば、は目を伏せる。

「当たり前じゃん。過ぎた事はしょうがないって割り切れないよ。
 割り切れるわけ無い。それでも」

視線を上げて宴会を見るの眼差しは優しい。

「こうやって皆でばか騒ぎできるんなら、悪くは無いって思うんだ」
「・・・そうだな」

ローの口元にも緩やかな笑みが浮かぶ。
もそれを見て小さく笑った。

「あとさー、お兄さま。
 私からもちょっと一言あるんだけど」
「なんだ?」
「・・・自分だけ死ぬ気だったでしょ」

は頬杖をついてジョッキをローの肩にぐりぐりと押し付けてくるが、
ローはされるがままになっていた。
は目を眇めながら呆れたように言う。

「私が分からないって思った?
 ドフラミンゴ相手にするのに私を連れてかないって時点で察するよね。
 ナギナギで動き止めるなり、隙をつくなりいろいろ出来たしさ。
 ・・・大体理由は想像出来るから、ぶん殴らないでおいてあげるけど」
「・・・ああ」
「ばーか、愚兄、クソ兄貴」

は子供のようにローを罵る。
茶化すような言葉はしかし、僅かに震えて聞こえた。

「『おれより先に死ぬんじゃねェ』って言っときながら、自殺行為は止めてよね」

ローは口の端をつり上げる。
いつもの不敵な笑みを浮かべてみせる。

「少しはあの頃のおれの気持ちがわかったか、愚妹」

その言葉に、は唖然と目を瞬いてから、肩を竦めてみせた。

「・・・そうだね。ほんっと最低な気分になるね。
 二度とやりませんよ。だから二度目はないからね」

は泣いてはいない。
成人してからはローもも滅多に泣かなくなった。

は気を取り直すかのように問いかける。

「さて、これから先は何がしたい?」
「とりあえずカイドウを何とかする。
 ・・・おれたちはどうせ、麦わら屋の無茶に付き合わされるんだろうぜ」
「あー・・・そうね。麦わらめちゃくちゃだもん、苦労するよ、多分」

「だから
「なに?」
「麦わら屋だけは止めとけよ」

はきょとんとしてローの顔をまじまじと見つめる。
至って本気で告げられたらしいその言葉に、やがては肩を震わせた。

以前ローがに言った、付き合ってもいい男の条件
”ローより強い奴”にルフィが当てはまるのでは?と
冗談めかしてが言った事を、ローは引きずっているのだ。

「あっはははっ!」

宴会の中でも一際大きな笑い声に、なんだ?と皆が顔を向ける。

「確かに!お兄さまの胃に穴開くね!胃潰瘍!くくくっ」
「笑いごとじゃねぇぞ。お前の冗談でもおれは胃が痛くなったんだ」
「そうなの!?ふふふっ、それは失礼いたしました!あははははっ」

は笑う。ローも小さく笑った。

これから先は幾らだって笑える。

誰に喧嘩を売ろうが、誰と笑い泣こうが、2人は自由だ。
世界、権力、法律。襲い来る敵。
きっと切り伏せ、いなしてみせる。
なにしろ長く続いた、眠れない夜が終わったのだ。

もうここに、泣き虫だった兄妹は居ない。
居るのは海賊。どこまでも自由な、ならず者だった。