young love 02
「ロシナンテさん、明日は非番?」
「ああ、は?」
「私は遅出なの」
互いに海軍に籍を置く身だ。
同じ日に完璧な休みをとることは難しい。
ソファに隣がけて話していたの頭がロシナンテの腕に当たる。
「どうした?」
「ロシナンテさん。今日はしないの?」
の手がロシナンテの腕を縋る様に掴んだ。
灰色の瞳が細められている。いつもの微笑み方だ。
でもその目の奥には小さな火が見える。
「ああ・・・、いや、・・・うん。・・・する」
ロシナンテは目を逸らしながらも頷いた。
は笑みを浮かべて、ロシナンテの袖を引く。
「最後までする?」
「・・・?さん?・・・ちょっと待って何言ってんだ!?」
驚いたロシナンテに、は少し頬を膨らませてみせた。
「だって、ロシナンテさんはいつも私の身体が心配だって言うんだもの。
むしろ私は夢魔だから、ロシナンテさんの方が心配なんだけど」
「毎回おれはなんともないから、そこは大丈夫なんだけど、
その、・・・ホントのこと言うとな」
ロシナンテは視線を彷徨わせながら頬をかく。
「うん」
「加減がきかなくて、ぶっ壊しそうで怖い。
体格差とか、色々、」
はしばし考え込むも、首を傾げてみせた。
「今更じゃない?」
「うぐっ・・・いや、そうなんだけど!
だからって毎回はちょっとなんか抵抗があって・・・!」
尚もああでもないこうでもないと呟くロシナンテに焦れて、
はそっとロシナンテの頬を掴み、口づけた。
ロシナンテの身体が硬直する。
軽く触れるだけのキスをして、はロシナンテの瞳を覗き込む。
「せっかく貰ったばかりだから、エプロンは汚したく無いんだけど、良い?」
「そ、そう言うつもりであげたんじゃないから」
「フフ、そんなに慌てなくても良いのに」
クスクス笑う声がロシナンテの耳朶を打つ。
は再びロシナンテに口づけた。
今度は深いキスだった。頭が痺れそうになる程の。
蕩けた瞳と目が合った瞬間、全身の血が熱を帯びて行くのが分かった。
が夢魔でなくとも、恋人に心から求められ、誘惑されないわけがなかった。
ロシナンテは内心で両手を上げる。
降参だ。実のところ勝てたためしがない。
「・・・ベッド行こうか」
を抱き上げてロシナンテが言う。
はロシナンテの首に抱きついて、頬をすり寄せた。
※
はまだ若いが、その身体の描く線はほとんど完成形に近い。
普段衣服に隠されたその曲線の美しさを自分だけが知っていると言うことが、
ロシナンテにどれほど満足感を与えたことだろう。
受け身に回ると、はどうも落ち着かないらしい。
困った様に眉を顰め、ロシナンテに抗議するのだ。
「っ、わ、私ばっかり・・・!」
ロシナンテは顔を上げた。
先ほどまで顔を埋めていたの肩には軽い歯形が残っている。
それを舌先で触れると、は小さく息を零す。
掌での全身を確かめる様に触れ、
その果てに愛液の滴る入り口に指を入れて、味わっていたところだった。
「ふふ、嫌か」
「ぁッ、ん、わたしが、良くして、あげたいのに、も、いじわるっ」
切なそうに目を細め、声を上げるは嫌ではないのだろう。
ただ一方的に熱を帯びて行く身体が不安なのだ。
しかし恋人の感じ入る様に平生で居られるほど、
ロシナンテも枯れてはいない。
を散々嬲っていた指を引き抜き、硬くしたペニスを入り口に当てると、
の肩が大きく震えた。
期待と恍惚に蕩けた眼差しで射抜かれて、
ロシナンテは今すぐその期待に応えてやりたくもなったが、
後少し我慢することで、がもっと可愛い顔を見せてくれることを知っている。
挿入することなく、ゆっくりと舐める様に擦り付けられて、は小さく声をあげる。
期待に潤んだ瞳が涙ぐんでますます揺れていた。
目尻にさっと赤味が走った。怒っている。
「ッ、ばか、」
「ん?良く無い?」
「あッ、良い、気持ち良いけど、違う、んっんん・・・!」
は目を瞑り、首を振った。
焦らされて混乱して、喉から弱り切った声を漏らす様が可愛くてしょうがない。
ロシナンテはゾクゾクと甘い痺れが背筋を走るのを感じていた。
の手がロシナンテの腰の当たりに伸びる。
「ロシナンテさん、お願い、もう、来て」
ロシナンテは首を傾げてみせた。
勿論、が何を求めているのかは良くわかっているが、
もう少し強請られていたい。
は殆ど泣きながら懇願してみせた。
「ロシナンテさんが欲しいの・・・!」
多分それが互いにとっての限界だったのだろう。
のすらりとした足を抱え、ロシナンテはの中に押し入った。
熱く、潤んでいて、どこまでもロシナンテを受け入れてくれた。
「う、ん・・・」
吸い付いてくるような、うねるような、強烈で絶妙な感触だった。
ロシナンテが油断したらすぐに何もかもをぶちまけてしまいそうだ。
夢魔だから、こんなに恐ろしいまでの恍惚をロシナンテに与えることが出来るのだろうか。
こみ上げる射精感を何とか堪えながら、を窺った。
小さく喘ぎ、快楽にその顔をとろけさせている。
のこんな顔は多分誰も知らない。
ロシナンテ以外は、誰も。
ロシナンテはの華奢な身体に伸し掛かり、我を忘れて腰を振った。
獣のような有様だった。
誕生日を迎えたばかりの15歳の少女に、海軍将校が働いて良い所業ではない。
十二分に理解していた。
理解していたが、今はその背徳感すら背筋を粟立てるのだから始末に負えない。
部屋に酷く淫らな水音が響いていた。
「ロシナンテさん、ロシィ、あっあッ、すごい。良い、気持ち良い、ロシーっ」
背中に手を回しながら、は甘ったるい声でロシナンテを煽る。
「好き、大好き・・・!」
「おれも、」
激しい挿抜の最中に、ロシナンテは目を細めた。
「好きだよ、、愛してる」
は微笑んだ。
貪られるように犯されているとは思えない程の柔らかな表情だった。
ロシナンテは眦を緩める。今この瞬間も、許されているのだ。
ロシナンテは唇を噛んだ。
抉る様に奥に押し付けると、抱えていた足が震えている。
「ッっ・・・!おれ、もうっ」
こみ上げる快楽に耐え切れずに囁くと、
ぎゅう、との腕と足先に力が入った。
「ぁ、お願い、ちょうだい、そのまま、
わたし、わたしも、いく、いっ――ッああ!」
の白い喉が反り返る。
奥を突いたまま何度かに分けて吐き出した。
息が弾んでることにようやく気づく。
に言われるままに、結局また最後まで、
しかもなんの隔たりも無く、してしまった。
軽い自己嫌悪に襲われながら後始末をしなければと、
の中から引抜くと、が小さく息を詰める。
入り口から白い粘液が糸を引いた。
ロシナンテがそれから目を逸らし、距離をとろうとすると、
にその手を掴まれる。
灰色の目が宝石のように煌めいていた。
身体が言うことを聞かない。逆らえない。
「・・・?」
ロシナンテを仰向けに寝かせて、はロシナンテの下腹部に顔を埋めた。
「おい、まて、ッ!?・・・ぅあ!?」
熱く滑る舌と白い指が、まだ吐き出し切れなかった精液を絞り出す様にペニスに絡む。
吐精したばかりのペニスを舐められて、ロシナンテは奥歯を噛んだ。
「は、あ・・・ッ」
啜るような動きに耐えられず、の髪をロシナンテは掴む。
鈴口を吸い上げ、吐き出された精液をは何のためらいも無く嚥下した。
※
「は、気持ち悪いとか、不味いとか、思わないのか?」
「何の話?」
シャワーを浴びてシーツを変えたベッドに寝転んだロシナンテが、
枕の下に手を入れながら問いかける。
はロシナンテの横に同じ様に寝転んで、
頭に疑問符を浮かべてみせた。
「全部飲んだろ、おれの」
「・・・ああ」
は何でも無さそうに頷いた。
それから悪戯っぽく微笑む。
「私は夢魔だし、そうでなくても気持ち悪いとか、
不味いとか、思ったりはしないわ、多分」
「そういうもんか?」
「フフフッ、そうよ」
はロシナンテの髪を撫でる。まだほんの少し水分を含んでいた。
耳を指先でくすぐると、ロシナンテは小さく笑った。
赤い瞳が細められる。
「」
ロシナンテの手がの頬を撫でた。
「・・・いつも無理させてる気がする」
「そんなことないわ」
「そうやって、おれを甘やかしてもろくなことねェぞ」
はきょとんとした表情を浮かべてみせた。
それから目尻を緩めて、口角を上げる。
「どんなろくでもない目に遭わせてくれるの?」
「ドジって一緒に転んだり」
ロシナンテの手がの手に触れる。指先が触れ合った。
「痛い思いをするわね、一緒に」
「結構恥ずかしいんだからな」
ロシナンテはため息を吐いている。
はクスクス笑って続きを促した。
「熱い飲み物を飲んだら大体吹き出すし」
「拭けば良いじゃない」
「火傷させたくないんだよ」
「じゃあ、冷まして飲ませてあげましょうか?」
の提案に、ロシナンテは苦笑する。
「それはそれで、結構勇気がいるなァ」
「フフフフフッ」
指をなぞる。
白くてふっくらと柔い、女性らしい掌。
ロシナンテの傷を縫い合わせた指。美しい手。
「・・・順番が狂って、先に子供が出来たらどうするんだよ」
は目を瞬いた。
「ロシナンテさん、私、夢魔よ」
「・・・うん?」
「生命力を吸い取る魔物。
子供を授かるには、私が満腹でないといけないの」
ロシナンテは不思議そうに眉を顰めた。
「つまり?」
「何回か連続して子作りしないと出来ませんよ」
の声に甘い響きが籠る。
「それとも今からする?子作り」
「だ、ダメだ。それは・・・!順番おかしくなるだろ!?」
「フフフ、そうですねぇ」
は面白がっていた。
道理で欲望に飲まれて理性が吹飛んだロシナンテが我に返り、
自己嫌悪に苛まれているのを、は不思議そうに見つめているわけだ。
唇を尖らせ「今までのおれの心労はなんだったんだ」と呟くロシナンテの頬に、
は口づける。
「怒ってますか?どうしたら許してくれますか?」
ロシナンテの掌をとって、自らの頬を当てる。
ロシナンテは何とかむっとした表情を作り続けた。
「・・・明日、キャベツのスープが食べたい」
「あなたのくれたエプロンをつけて?」
「・・・そうしてくれたら、許してやっても良い」
は笑っている。
「フフッ、分かりました。ねぇ」
「なんだ?」
「誕生日、お祝いしてくれてありがとう。
私は、あなたとこうして過ごせるだけでも、とても嬉しいから。
・・・それだけで、本当は何も要らないから、」
ロシナンテはの身体を引き寄せた。
腕の中に閉じ込める。
「ロシナンテさん?」
「、今日はもう喋るな」
「・・・ええ?」
困惑するに、ロシナンテはため息を吐いた。
「ダメったらダメ。おれが色んな意味で持たないからダメ、・・・寝るぞ」
ロシナンテの言葉には小さく笑って「お休みなさい」と呟いてみせた。
にとって、その日は本当に幸福な、誕生日だったのだ。
叶わない永遠を、夢見る程度には。