洋菓子譚・サンプル版
煉獄が柱の女性陣のお茶会に招かれたのは、
新しい義手の調整にが蝶屋敷に立ち寄った時のことである。
父、明峰が義手の具合に太鼓判を押したところで、
胡蝶しのぶから声をかけられたのだ。
街に新しくできた洋菓子のお店で、甘露寺蜜璃と待ち合わせているから、一緒にどうかと。
「せっかく近くにいらしたんですから、さんもご一緒しませんか?」
はしのぶの誘いに喜びながらも、少々懸念があって戸惑ったように尋ねる。
「お誘いいただいてありがたいですけども、急にお邪魔してご迷惑ではないですか?」
「いいえ、実はここだけの話、蜜璃さんたっての希望なんですよ」
しのぶの言葉に、はうっ、と言葉に詰まった。
この後起きる展開を予想してげんなりしたのだ。
それもそのはず、祝言後の宴席の際、
蜜璃はに杏寿郎との馴れ初めを根掘り葉掘り聞きたがった。
それはもう微に入り細に入り、詳細に。
蜜璃の横にいた蛇柱・伊黒小芭内が見かねて止めるまで、
は時にしどろもどろになりながら蜜璃の質問をのらりくらり躱し、
しかし躱しきれなかった質問にはきちんと答える羽目になったのである。
その様相は一種の戦いであった。逃げるに追う蜜璃。
はおおよそ7対3の割合で勝ち越したが、
それでも口にしなければならなかったことが多々あったので、
最終的にかなり消耗することになった。
自身なんなら鬼殺の方がまだ楽だと思ったくらいだ。
ちなみにの夫であり蜜璃の元師範である煉獄杏寿郎は、
新妻対元継子の刃物の介在しない戦闘が繰り広げられている横にあって
「甘露寺は相変わらずだな!」と笑うばかりで、
逃げの一手を打つことしかできないを一切手助けしなかった。
「あなた、あの時困ってる私を見て楽しんでましたよね?」と後々尋ねたところ
「わっはっは!」とジト目のと目を合わせず高らかに笑っていたので、
そういうことである。
その《絶対に馴れ初めを聞きたい甘露寺蜜璃》対
《恥ずかしいからなるべく何も話したくない煉獄》の
戦い以来の顔合わせであるから、おそらく話題はの結婚生活などになるのではないか、
とは今からちょっと怯んでいた。
「私、そんなに面白いことは話せないと思うのですが……」
「ふふ。そんなことはありませんよ。で、どうします?」
そしてしのぶは全て承知の上で、いたずらっぽくの顔を覗き込んだ。
はやれやれと苦笑してしのぶに応じる。
「はぁ……、柱の方々の頼みは断れませんもの。ご相伴に預かります」
「あら、人聞きが悪いですよ。まるで私が脅してるみたいじゃないですか」
「……胡蝶さまは全部分かっていてそういうことをおっしゃるんですから、もう」
「ふふふ」
しのぶは含み笑いではぐらかした。
普段天邪鬼で、人を食った言動ばかりする元弟子がオロオロしたり、
たじたじになっている様を見るのが、しのぶは実のところ嫌いではないのだ。
(後略)