夏空の瞳

鼓鬼討伐戦

爆煙から猪

炭治郎と善逸を率いては屋敷へ足を踏み入れた。
刀に手をかけ、いつでも抜けるよう前を見据えながら、後輩二人に声をかける。

「竈門は先日の任務で肋骨を折っているからな。
 我妻と私で補佐しながら鬼を狩るぞ。
 私の勘が、こたびの鬼はそれなりに強力だと言っている。気張って行こう」

炭治郎が「はい」と頷くより先に、善逸が半狂乱になって叫んだ。

「いやァーーー!!! 嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!?
 炭治郎は何を折ってるんだよ!!! 折れてる炭治郎を俺に守れと言うのかよ!?
 むしろ俺を守って欲しいんですよ!!! 頼むよォーーー!!!」

は盛大に深いため息をついて振り返る。

「やかましいぞ、我妻」

「あと勘ってなんですかそれ! 怖すぎるんですけど!!!
 死ぬじゃないですか俺! 九分九厘の確率で死ぬじゃないですか!?」

が呆れ果てていることに気づいているのかいないのか、
善逸は頭を抱えてブンブン首を横に振っていた。

なんだかんだでの気迫につられ素直に屋敷に入ったはいいものの、
しばらくして恐怖の方が優ってきてしまったらしい。
見かねた炭治郎が善逸に声をかける。

「善逸、静かにするんだ。お前なら平気だ」
「気休めはよせよォーーーッ」

一向に叫ぶのをやめない善逸に、はやれやれと肩をすくめた。

「あんまり大声出すとそれこそ鬼が来るだろうが。
 まあ、来ても私が返り討ちにしてやるつもりだが……」

「たたた頼みますよさん。俺はあんたが頼りなんだよ……。
 ……ヨッ美人ッ! 日本一ッ!」

の忠告に声を潜め、その上揉み手であからさまにゴマをすり始めた善逸を、
炭治郎は呆れ混じりに呼んで咎める。

「善逸……」

一方おべっかを使われたは高らかに笑って、バシバシと善逸の肩を叩いていた。

「はっはっは! よせよせ、ゴマを擦ったところで無駄だぞ!
 至極当然のことを言われても乗せられたりはしないからな私!
 ただちょっと機嫌が良くなるだけだ!」

さん……」

乗せられはしないと言いつつ機嫌は良くなるのか、と
炭治郎は深々とため息をこぼしている。

「まァ、冗談はさておくとして、」

は咳払いの後、善逸を指差して首をかしげた。

「我妻は別に私が守る必要なさそうだけど? 
 自分で対処できるだろ」
「俺もそう思う」

“女の勘”が働いているのか、善逸を実力者であると目しているらしいに、
鼻の利く炭治郎もウンウンと頷いている。

しかし当の善逸はというとと炭治郎を見比べて嘆くばかりだ。

「あんたらの目って節穴か何かなの……?」

「……いや貴様、とんでもなく失敬だし自虐にもほどがある、」

が善逸の自己評価の低さに疑問を呈したところで、皆が足音に気がついた。
顔を向ければ外に置いてきたはずの子供たちが屋敷に入ってきてしまっている。

「入って来たら駄目だ!!」
「だ、だってお兄ちゃん、あの箱カリカリ音がするから……」

炭治郎が忠告するも、子供たちは禰豆子の入った桐箱から物音や気配がするのが怖かったらしい。

炭治郎が屋敷に入る前に、もしもの時は箱が子供らを守るから、と禰豆子の入った箱を置いてきたのだが、
ただでさえ兄が鬼に連れ去られて不安になっていたのだろう。
姿の見えない“何か”に過敏に反応してしまうのはわからんでもない、とは腕を組んで頷いた。

「気休めが仇になったか」

「だからって置いて来られたら切ないぞ……!
 あれは俺の命より大切なものなんだが……」

炭治郎はほとほと困り果てた様子で答える。
オロオロする炭治郎と不安げな子供達を見比べたは親指で玄関を指差した。

「……仕方あるまい。竈門、いったん貴様その子らを連れて外に行け」
「え?」

瞬いた炭治郎にが続ける。

「ひとまず私と我妻は残るから、落ち着かせたら戻ってこい」

それに異を唱えたのはぶるぶる震えながらも黙って成り行きを見守っていた善逸だ。

「ちょっとォ!? さんそりゃないでしょ!? 
 鬼出るんでしょここ!! 俺がその子ら連れて外行きますよ!?」

「ちょっともだっても聞かん! 
 だいたい貴様に子供らを落ち着かせられるのか? 無理だろ?
 貴様が落ち着いてないんだからな」

は高慢な顔つきで善逸を見下ろし、指差した。

「そもそも私は先輩、竈門と我妻は後輩。序列に従え下っ端が」
「おーーーぼーーー! 横暴だァーーーッ!」

善逸が抗議した時だった。
屋敷中がミシミシと軋むような音を立てた。

はすかさず声を張り上げる。

「逸れてはまずい! 一ヵ所に固ま……どわっ!?」
「うわっ、あっ!? すいませんっ、尻が!」

の声に驚いた善逸の尻がを突き飛ばす格好になり、それに炭治郎と
子供のうちの一人、少女が巻き込まれる形で廊下から隣の部屋へと押しやられてしまった。

鼓の音が反響する。

その瞬間、、炭治郎、少女。3人を取り巻く景色が一変した。



現在らの居る部屋はタンスや棚の置かれた部屋である。
先ほどまでいた、玄関を入ってすぐの廊下はどこにも見えない。

置かれた状況に戸惑い泣き出した少女に、炭治郎は声をかける。

おそらく血鬼術で移動させられたのだと気づいていたが、
それがわかるのは鬼殺隊である炭治郎とくらいのもの。
訳も分からず巻き込まれた少女は不安だろうと、努めて優しげな声を作った。

「お兄ちゃんと離ればなれにしてごめんな。
 でも、お兄ちゃんのことも善逸が守るし、君のことも俺たちが守るよ。名前は?」
「てる子……」
「そうか、いい名前だな」

てる子は横にいるに目を向けて、ヒッと息を飲むと
炭治郎の後ろに隠れた。

「ぁ、あのお姉さん、きれいだけど、怖い、」

「我妻あの野郎言ってるそばから逸れおって……! 
 ていうかどういう勢いだあいつの尻! ふざけているのか……!?」

善逸に怒り心頭と言った様子で一人呟くは般若のような顔で確かに恐ろしいが、
炭治郎は心配ない、とてる子の肩を優しく叩いた。

さんはああ見えて優しい人だから大丈夫だ!」
「ほんと……?」

てる子はまた、恐る恐るを伺う。

「そんなに私の尻叩きを食らいたいと言うわけか……!?
 次会ったらお望み通り百叩きの刑に処してくれるわ……!」

「百叩きって、言ってる……」
「大丈夫だから気にするな!!!」

炭治郎はもう必死である。
は横目でそのやりとりを確認すると、深く息を吐いた。

「ハァ。まあ、あんまり怒ると美貌が衰えるからな。この辺にしとこう。
 さて、場も和んだところで、」

 今の和ませてるつもりだったの……?!

てる子と炭治郎が信じられないものを見るようにに目を向けるが、
はけろっとした様子で明るく言った。

「とりあえず、連れ去られたと言う、てる子の兄を探すことを優先順位の第一としよう。
 我妻は言動こそアレだが、相当の実力者と見た! そして私も強くて出来る美少女だ! 
 大船に乗ったつもりで頼りにすると良いぞ!」

どん、と胸を張ったの勢いに押されて、てる子は頷く。

「う、うん」

「だから合流は後回しで平気だと……、竈門」

言葉を区切って、がすぐさま臨戦態勢に入った。
炭治郎もその理由を察して応える。

「……てる子、俺たちの後ろへ。棚の後ろに隠れるんだ」

襖の後ろに影が映る。
影の正体は鬼だ。身体中から鼓を生やした異形。
その風貌、気配から鬼がかなり人を食った、屋敷の主であることは明白だった。

鼓鬼はブツブツと何事かを呟き、苛立っているように見える。
誰より早く攻勢に移ったのはだった。

 先手必勝、いざ!

は鼓鬼に火薬玉と羽織に隠し持っていたクナイを投げた。

「!?」

火薬とクナイが同時に鼓鬼の肩に突き刺さり、爆発する。
煙が生じ鼓鬼の視界を奪う。
困惑する鼓鬼の頸に向かい、が刃を振るったその瞬間、
ガラガラ声が部屋に響いた。

「猪突猛進! 猪突猛進!」
「な……!? ぐっ!?」

半裸の猪頭の男が飛び込んできたのだ。
煙のせいでのことが見えて居るのかいないのか、突っ込んできた猪男に体当たりを食らい、
は部屋へと押し戻される。

さん!」

の後に続いて刀を振り抜いていた炭治郎が鼓鬼に向かいながらも
案じて声をあげた。

「大事ない! 私に構うな! 来るぞ!!!」

受け身をとったに鬼が鼓を二度鳴らす。
部屋が回転すると同時に巨大な爪を振るったような斬撃が飛んだ。
跳躍して避けた場所の畳がえぐれ、はこめかみに汗を浮かべる。

防御の姿勢をとった炭治郎もまた部屋の中へ押し戻されていた。
が転んだてる子を急いで抱え、状況を把握すべきと目を配る。

に体当たりを食らわせた猪頭の男が両手に日輪刀を構えて咆哮した。

「さァ化け物!! 屍を晒して俺の踏み台となれェ!!」

見たところ、猪男の握る刀はかなり刃こぼれが激しいが、それで首を切るつもりらしい。
は目を眇める。

 確かにあの猪、私を突き飛ばした膂力はなかなかのものだった。
 しかし……!

「そいつは異能の鬼だ!! むやみに斬りかかるな!!」

炭治郎が猪男に忠告するが、聞き入れるそぶりがない。
また鬼が鼓を鳴らした。

部屋が回転する。

はてる子を抱えたままなんとか攻勢に出ようとするが、
部屋が回転し、また猪男が目の前をちょこまか動くので、
クナイを使って炭治郎の援護をすることさえままならない。
はイライラと声を荒らげた。

「血鬼術も厄介さることながら……猪貴様!! 鬼殺を妨害するんじゃない!! 
 その身なり、貴様も鬼殺隊士だろうが!! 協調性という言葉を知らんのか!!」

「知らないねェ!!」

当て付けるように、てる子を庇うの腕を蹴って猪男は体勢を整えた。
衝撃にてる子が呻くのを見て、炭治郎が吠える。

「いい加減にしろ!!」

猪男の足をとって、炭治郎は投げ技を使い、
らから距離を取らせた。

猪男が炭治郎に顔を向ける。どうやら睨んでいるらしい。

「人を足蹴にするんじゃない!」
「……アッハッハァ! いいなァ!いいなァ! この屋敷!
 部屋も回るし爆発するし、人間に投げ飛ばされたのは初めてだ! 面白ェ!」

勢いをつけて猪男は炭治郎へと向かっていく。

は鬼殺隊士と思しき猪男が鬼を無視して人間に向かうという、
常識を無視した行動に困惑していた。

「あァ?! なんでそこで竈門を狙うんだ猪貴様!? ……避けろ!!」

内輪揉めの様相になりつつあったところを、
鼓鬼が呪詛とともに、身体に生えた鼓を打って攻撃する。

「虫め」

「消えろ」

「死ね」

音速で繰り出される斬撃。何度も回転する部屋。
はてる子を抱えつつ、クナイで味方に向けられる衝撃を殺し、斬首を狙って行くが、
足場が不安定であること、てる子が重石になっていることでやはり狙いが定まらない。

 くそ、やはりこの状態で精密な投擲は無理か……! だが。

代わりに炭治郎の動きが良くなっている。
だんだん鼓鬼の術の癖を読めるようになってきているのだ。

 このまま援護しながら炭治郎に首を取らせよう、問題は猪男だが。

猪男がの視界の端で廊下に叩き出されているのが見えた。
くしくも邪魔が入らない状況を鼓鬼が作り出してくれた、とが笑みを浮かべ、
畳みかけようとクナイを片手に握ったところで、
また鼓の音がした。

「は?」

鬼は鼓に触れていないにもかかわらず、再び景色が一変した。



炭治郎ととてる子は全く別の部屋に移動していた。
座卓と座布団が用意されている、応接間のような部屋だった。鬼の気配もなくなっている。

「部屋が変わった……? 鼓鬼は鼓を打っていなかったのにか?」

クナイをしまって、が一人呟く。
炭治郎がそれに答えた。

「他にも鼓を持っている鬼がいるのかもしれませんね」
「……そうだな」

は抱えていたてる子をゆっくりと床へと下ろした。

「怖かったろうに、暴れず大人しくしてくれてありがとうな! てる子は偉い!」
「うん……」

目線を合わせたに爽やかに微笑みかけられて、
てる子は瞬いたかと思うと、うっすら頰を赤くした。
はてる子の頭を優しく撫でると立ち上がる。

「しかしなんだったんだあの猪は。まるで嵐のようだった。
 不覚も不覚よ! この私が好機を逃してしまうとは……!」

悔しげに顔をしかめ腕を組んだに、
炭治郎が「あれはしょうがない」と首を横に振った。

「仕方ないですよ、誰も予想できない……」

目を合わせた炭治郎とはどちらからともなく息を吐いた。

まさか鬼殺の任務の最中に猪の皮を被った男が乱入してくるとは思わなかった。
その上鬼殺隊の人間と思しき身なりをしているのに、
なぜか人間を攻撃してくるという訳の分からなさである。

「深く考えるのも無駄な気がしてきた。気を取り直して先に進もう」
「……そうですね」

鼻の利く炭治郎を先頭にてる子を挟んでが並び、
一列になった一行は廊下を行く。

いくつかの廊下を越えると、炭治郎は何かの気配を嗅ぎ取ったらしい。振り返ってに声をかける。

さん、多分、けが人がこの先にいます。独特な血の匂いです。
 怪我の程度は、そんなに重くないようですが」
「……そうか」

は口元に手を当て考えるそぶりを見せたかと思うと、
どこかピンと来た様子で人差し指を立てた。

「ふむ、……もしかして、鼓を持っているのはその人物かもしれん」
「勘ですか?」
「勘だ」

炭治郎の疑問には首を縦に振る。

「なら、驚かせないようにしたほうがいいですね」
「うん。移動させられては救護もままならん」
「てる子、静かにできるか?」

会話を聞いていたてる子がコクコクと頷く。
三人は目を合わせ頷き合い、炭治郎が一息に襖を開いた。

部屋の奥には柿色の着物を着た少年が鼓を手に座っている。

「清にいちゃん!!」

青ざめた清はてる子に呼びかけられると、
鼓を打とうとするのをやめ、妹を見て気が抜けたのかフッと肩を落とした。

炭治郎とはすぐさま清の救護に移る。
足を怪我した清の手当てを終えると、清はポツポツとこれまでの経緯を話し始めた。

攫われて食べられそうになったところに別の鬼がやって来て、
誰が清を喰うかで争いになったこと。

鼓鬼が他の鬼から攻撃を受けた際に落とした鼓を利用して、
なんとか鬼が来たら鼓を打って部屋を変えてしのいで来たこと。

「鬼がそんな風に取り合いをするとは。
 ……なァ、竈門は清の血を独特の匂いと言ったな?」

「はい。あまり嗅いだことがない感じでした」

は腕を組んで、目を伏せる。

「ならば、清は“稀血”かもしれん」

「そうだ、そう! 化け物は俺のことをマレチって呼ぶんだ!」
さん、知ってるんですか?」

不安げな清と、疑問を投げかけた炭治郎に目を向けると、
は口を開き、淡々と説明を始める。

「……“稀血”とは稀なる血と書く。その字の通り、珍しい血の持ち主だ。
 その血肉は鬼にとって非常に美味で、50人から100人食うのと同じ効果があるらしい」

「えっ……」

炭治郎が青ざめる。

 それは、つまり……。

は炭治郎の察した事柄を肯定するように頷いた。

「鬼は人を食えば食うほど強くなる。
 奴らは程度の差こそあれど、得てして好戦的で“強くなること”に貪欲だ。
 ……おそらく鬼舞辻がそのように操作しているのだろうがな。
 故に稀血の人間は、鬼から常人以上に狙われることになる」

難しい顔をする炭治郎と、震え上がる清とてる子に、
は勝気な笑みを浮かべた。

「安心しろ。対処法も無くはない。……!」

言葉の最中、が廊下に視線を向けた。
炭治郎も鬼の匂いを嗅ぎ取って、その表情を引き締める。

さん、すぐ近くに鬼がいます」
「ああ」

炭治郎は鼓を持った清とに目を配らせ、深呼吸してから口を開いた。

さんはここで清とてる子を守ってください。
 それが清たちにとっても一番安全だと思うんです」

は瞬き、言葉の意味を飲み込んで眉を顰めた。

「しかし、お前は……!」

炭治郎はに、はにかむように微笑んだ。
いつだっては周囲に気を配っている。
炭治郎や禰豆子に対しても、それは変わらない。

さんが優しいのは、よく分かります。
 今だって俺の怪我を案じてくれている。でも、」

それでも炭治郎はにきっぱりと告げる。

「俺は、あなたに助けられて、守られてばかりではいけないんだ」
「……」

「信じてください。俺なら、大丈夫ですから」

沈黙するに、炭治郎は言い募る。
その意気に何を思ったのか、はふう、と小さく息を吐く。

「貴様はあえて難しい道を選ぶのだな。結構。そういう男は嫌いじゃないぞ」

それからは、ニッと唇をほころばせた。

「だが、手短に助言だけはさせてもらおう!」

はすぐに真剣な面持ちになって炭治郎に指南する。

「貴様も気づいているだろうが、
 鬼の使う血鬼術は発動の際に規則があることが殆どよ。
 鼓鬼も術の発動のためには鼓を叩く必要があることは明白。
 斬撃を飛ばすのと部屋を回転させるのとでは叩く鼓の位置、回数が違った」

「はい。分かっています」

確かめるように言ったに、炭治郎も頷いた。

以前戦った矢印鬼・矢琶羽も血鬼術を発動させるときは
手のひらについていた目玉が必ず瞬きしていた。

鼓鬼にしても、血鬼術を使うための規則があることに変わりはない。

「私ならば短期決戦。相手に術を使わせぬうちに頸を斬るが、貴様はどう対処する?」

「……確かに、今の俺にさんと同じことができるとは思えない。
 けど、それでも戦いようはある」

血鬼術の規則を読み切って勝つ。

のように爆煙で視界を奪い、自由に隙を作ったり、
素早い動きで首を刎ねることは炭治郎には難しい。怪我をしているのならなおさらだ。

だからこそ、あえて鬼の術の内に入る。
血鬼術の法則を理解し、その上で隙の糸を嗅ぎ取り、手繰り寄せて頸を斬る。

「必ず倒して戻ってきます!」
「よく言った! 武運を祈る!」

の激励が合図だったかのように、鼓鬼が再び姿を見せた。

「清、鼓を叩け」

の声の後に鼓の音が響き、そこにいた兄妹との匂いがかき消える。
炭治郎は刀を構え、鼓鬼と向かい合った。