SUPERCAR 02
「海軍本部所属、コビー軍曹です」
「海軍本部所属、ヘルメッポ曹長です」
敬礼すると帰って来たのは鋭い眼光と面白がる様な声色だった。
「ふぅん?テメェらがガープの秘蔵っ子か」
「中佐、顔怖いですって。あと行儀悪いですよ」
「うるせぇ。顔はもともとだし、これが一番集中出来るんだよ」
軍曹、曹長となったばかりのコビーとヘルメッポの前に2人の女が居る。
一人は執務室のデスクに脚をかけて何らかの書類に目を通しつつ
横目でコビーとヘルメッポを値踏みしていた。
一人は座る女の横に立ち、咎めるような声を出すが、積極的に止める様子は見せない。
咥えていた煙草を灰皿に押し付けて、黒髪の女が言った。
「ああ、話が逸れたな。知ってるだろうが一応名乗っとく。
海軍本部所属、中佐」
「海軍本部所属、少尉です」
海軍巡回車、レッド・ウアイラの乗り手であり、優秀ながら問題のある2人組。
”海軍の赤い暴れ馬たち”を目の前に、コビーとヘルメッポはごくりと唾を飲んだ。
海兵と言うより海賊を相手にしている気分だ。空気がぴりぴりしている。
「こ、この度はインターンの受け入れを感謝いたします」
「・・・ガープ中将が無理をいったようで申し訳ありません」
ヘルメッポが猫を被っている。
それもそのはずだ。機関銃のと言えば赤犬派の筆頭とされている。
いわば苛烈なまで正義の体現者だと噂されているのだ。
それを自覚しているのか、が鼻を鳴らした。
「はん!どーせボガード辺りが派閥関係のことで様子見に来させたんだろ?
赤犬派の筆頭をその目で見とけってな。随分目をかけられてるじゃねぇか、ええ?」
「・・・中佐、そう威圧することないでしょう」
バレてる。
コビーとヘルメッポの額に俄に汗が滲んだ。
まだ経験の浅い2人に海軍の派閥を理解させようとボガードが気を回したことは
コビーとヘルメッポ、両者とも気づいている。
狼狽える2人を尻目には書類をテーブルに叩き付け、簡単にサインしだした。
カリカリと万年筆を動かしながら、が言う。
「まあ、いい。ガープのジジイにゃ何度か世話になってるしな。
テメェらならウアイラも乗れるだろう。乗せてやるよ」
「え?いいんですか、乗っても」
思わず無遠慮な言葉遣いになった。
ヘルメッポが慌ててコビーを見るが、がその疑念に答える。
「ああ、なるほど、乗せてくれないっておっしゃってたんですね、ガープ中将。
あれは正確に言うと乗れないんですよ。
ウアイラは体重制限と身長制限がありますから」
「こいつでギリだ」
クイ、と親指でを差したに、が抗議する。
「ちょっと!語弊!今の語弊ありますよ!?」
「ヒスるんじゃねぇよ2メートル」
「身長で人のこと呼ばないでください!」
コビーは内心、思っていたよりはこの人達恐ろしくはないんじゃないか、と呟いたが、
3時間後、思っていたよりもこの人達は恐ろしい、と手の平を返すことになる。
※
「まず、ウアイラの運転だが基本的には私かがする。
とりあえず今日の巡回で私とが死んだとか、
そういうどうしようもない時のために教えとくとこっちがアクセル。こっちがブレーキ。
これがステアリング。舵みたいなもんだな。
あー・・・細かいことはマニュアルがあるからこれ読め。
あと私の運転見とけ。
後ろには武器もある。ウアイラはフロントに銃器もついてるから、
マニュアル見つついざとなったらぶっ放せ。
エターナルポースもログポースもあるし、
まぁ、死ぬことも本部に戻れないこともないさ、多分な」
「・・・中佐、あなたの説明適当かつ不穏すぎます!
と、とりあえずマニュアルを読んでおいてください」
港で美しいレッド・ウアイラを前にから出てくる言葉は死を否応無く連想させる。
が力なく微笑むのにコビーとヘルメッポが頷いた。
自由過ぎる上司に苦労する部下、という構図は海軍では珍しく無い。
コビーがマニュアルに目を通して、
かつてから聞いてみたかった疑問をにぶつけた。
「あの・・・以前から思っていたのですが、
レッド・ウアイラは軍艦に備え付けて、
海賊を拿捕するときにだけ使うことを前提としているように思えます。
給油や物資の補給も軍艦から行うことを想定されている・・・。
なぜ軍艦も部下もつけず、ウアイラを走らせるのです?」
コビーの問いにが目を眇めた。
の顔からも表情が抜け落ちている。
ヘルメッポがおい!とコビーの肩を叩く。
小声で叫んだ。
「お前今、上官に向かってお前のやり方は無謀だって言った様なもんだぞ!」
「あっ・・・!」
コビーが自分の失言に気づいた時には、は笑い出していた。
「アッハハハ!おい、、聞いたか?!
仮にも赤犬派の筆頭とか言われてる上官に向かって随分な言い草だったな!アハハハハ!」
「ええ、・・・もうちょっと気をつけた方が良いですよ、コビー軍曹」
「し、失礼いたしました!」
ビッ、と敬礼したコビーに、笑うが目尻から涙を拭いた。
「いやぁ、良いよ別に。クク、ガープのジジイが気にかけるのも分かるなぁ。
嫌いじゃない」
「は、」
「答えてやろう、コビー軍曹。
お前はまだ正義を背負っては居ないだろうが、そのうち背負うことになるかも知れない。
その時までにお前は一度は考えるはずだ、自分の掲げる正義と、海軍の行いの”ズレ”について」
「”ズレ”ですか」
はいつになく真剣な面持ちだった。
「ああ、私の正義は”攻撃的正義”だ。、お前は?」
「”柔軟な正義”です」
が間髪を置かずに答える。
は軽く頷く。
「は少尉、私は中佐だからな。
この2人の上官が指揮を執る作戦において、どちらの正義に重きが置かれるかは分かるだろう?
例えばが私の正義に異議をもったとしよう。だがそれは黙殺される、ということだ。
それがどんなに正しい理想や思想から基づく判断であったとしても、
上官の正義が己の正義に背くことだと思っていても、だ。
断言しよう。力なき正義になど何の意味も無い!」
の喝に、コビーとヘルメッポが背筋を正した。
がそのまま言葉を続ける。
「階級がイコールで戦闘能力の高さを意味するわけではないが、
海軍本部の将校にはその階級に相応しい実績と実力が問われる。
テメェの正義を貫きたきゃ、実力を示すべきだ。
つまりは、どんな劣悪な環境下であっても生きて帰って来れる、海賊を拿捕できる。
そうすることで私は私の正義を通しているわけだ。
コビー軍曹、ヘルメッポ曹長。これが私の答えだ。
質問なら受け付けてやる。なにかあるか?」
コビーが唾を飲む。口の中がカラカラに乾いていた。
あまりに苛烈だ。だが、惹き付けられる。引力の様なものをに感じ始めていた。
「ありません。中佐」
「自分も、ありません」
敬礼した2人にがニッと笑いかけた。
「よろしい。じゃ、乗るか。
キッド海賊団の目撃情報がこの辺りであったから、
んー・・・、この辺にいるんじゃねえかと踏んでる。
4人でぶっ殺しにいくぞ!な!」
コビーの肩にぽん、と手を置いた朗らかに笑うに、
コビーは敬礼を解く間もなく、顔が強ばるのを感じていた。
超新星の筆頭であるユースタス・キッド率いるキッド海賊団相手に、
4人で挑むと言わなかったか、この上官は・・・。
驚きに内心での正気を疑いつつ、
まともだと思っていたを見たヘルメッポが目撃したのは
「あ、なら私も船に乗り込みますね、
いつもウアイラで留守番でしたからねー、腕が鳴ります!」
と柔らかい笑みを浮かべる上官の姿だった。
ヤバい。死ぬ。普通じゃない。とヘルメッポが最初に思ったのがこの時だったが、
2時間後、ヤバい。死ぬ。普通じゃない。
とヘルメッポが心中で唱えた回数はきっと100を超えていたと後に語る。
※
赤い弾丸の様なスピードで現れたレッド・ウアイラを見つけたのは
キッド海賊団が比較的穏やかな海を航海中の事である。
美しく、凶暴な車体を目撃した見張りは叫んだ。
「海軍の暴れ馬共だ!」
その叫び声を聞いて、キッド海賊団は阿鼻叫喚となる。
暴れ馬が現れると船体は著しいダメージを被るハメになるのである。
捕まるか死ぬか。今のところどちらも免れてはいるが、次はどうなるか分かったもんじゃない。
戦々恐々とする大半の船員達と裏腹に、
キッド海賊団船長、ユースタス・キッドは唇の端をこれでもかと言う程つり上げた。
「来たか、・・・!」
「・・・随分楽しそうだな、キッド」
戦う前からすでに疲れた声のキラーに、キッドは笑い、
そして部下を鼓舞してみせた。
「おい、野郎共!なに腰ひけてんだよ、おれぁあのウアイラが欲しいんだ。
奪った奴は、一番に乗せてやる!」
キッドの声に部下が涌いた。
水陸両用のスーパーカー、ウアイラはどうも一度乗ってみたいと思わせる引力の様なものがある。
士気が上がってキラーがため息をつき、キッドがますます笑みを深める。
だが、それも長くは続かなかった。
突如爆音が船に響く。
いつの間にかがその体躯に見合わぬほどの銃器を持って、
キッドに襲いかかってきたのである。
部屋をぶち抜いて船室でが笑う。
「よぉ、ユースタス、久しぶり」
例えばそれは街中で友人と出くわしたときの挨拶のような、そんな気軽なものである。
「テメェも相変わらずのようだな、」
例えばそれはしばらく会っていなかった血縁へ顔を見せるような、そんな感慨さえも2人に与える。
たとえそれが血飛沫と硝煙、弾丸飛び交う戦場で殴り合う2人の間で交わされる会話であっても。
額の上を切ったらしいキッドが血を拭い、が獰猛な笑みを浮かべる。
こうして、死闘がはじまったのだ。
※
の放った弾丸がキッドの頬を横切り、
キッドの投げたネジの雨がの足元に突き刺さった。
「避けてんじゃねぇよ!」
「こっちのセリフだユースタス!」
床を蹴り付けが突っ込んできた。
鉄の塊で拳を作り、キッドが防御の態勢を取る。
その拳に大型の銃を殴りつけるよう叩き付けたがニィと口の端を上げ、
短く手首のスナップを利かせて跳ねるように幾つもの銃弾を叩き込む。
下手を打てば銃口に弾が詰まり暴発しそうだが、
がそんな愚行を犯さないだろうことはキッドが一番知っている。
撃ち込められる弾丸の反動でひしゃげる鉄の感覚にキッドは短く舌打ちをして蹴りを入れる。
吹っ飛ばされたが距離を踊らせた。
腹を抑えているところを見るに、相当のダメージを与えられたようである。
まるで獣が相対するように2人は睨み合った。
数十分前、2人の姿はもっとマシだったはずだ。
キッドのファーコートは戦いの最中にに破られぼろぼろだし、
の履いていたタイツは所々伝線している上、着ていたジャケットは穴だらけだ。
キッドの顔に切り傷と打撲痕が見え、
も口を切ったのか唇の端は血で真っ赤に染まり、体中のあちこちに青あざを作っている。
お互いの有様を笑い合い、罵り合う。
口火を切ったのはキッドだった。
「毎度毎度しつけぇ女だ!何度おれに鉛玉を浴びせりゃ気が済む?」
「そりゃ決まってんだろ、お前が捕まるか死ぬまでだ」
「フン、このじゃじゃ馬が・・・!」
罵るキッドだがしかし、その口元に浮かぶのは凄絶なまでの迫力を孕む笑みだ。
それに答えるようにが同じ様な笑みを浮かべる。
その目は火のようにギラギラと光っていた。
この瞬間がたまらなく好きなのだ。
それはどちらの思考だったのだろうか。
お互いの力をぶつけ合って殴り合い、血だらけになりながら罵り合い、獣のように笑う、
この瞬間を好ましく思うだなんて言ったら、目の前の相手はどう思うのだろう。
そんなの決まっている。
「くそくらえ!」
キッドが大技を使おうと腕を高く上げる。
がその鋭い目つきをいよいよ尖らせて睨む、と、キッドの部下が叫んだ。
「お頭!"機関銃"にばっか構ってねぇでこっちなんとかしてくれ!」
「ああ?!テメェらでどうにかしろ!邪魔すんな!」
キッドが叫ぶ合間にも、どこで弾薬を補充しているのか、が銃撃する。
部下が小さく悲鳴を漏らしながら大声でがなりたてた。
「"撃滅"が船ぶっ壊してんですよ!
キラーが応じてるがあのアマ!トゲ鉄球持ってやりたい放題だ!」
「なんだと?!」
鈍い音を立てて壁が崩れた。棘のついた鉄球の先が転がっている。
それをみてが高らかに笑う。
「ハハハっの奴暴れてるじゃねえか、
さてはあのプッツン女怒らせたアホがいるな?ざまあみろ!」
そういえば女のヒステリックな声が聞こえる気もする。
キッドは今にも人を殺せそうな目でを睨みつけた。
するとタイミング良く、の腰ででんでん虫がけたたましく鳴る。
飛んでくるネジやナイフをよけ、銃撃しながらそれに出た。
「どうしたコビー!」
「中佐!キッド海賊団の連中、ウアイラを狙ってて!
僕とヘルメッポだけじゃとても・・・!」
「アァ?!・・・ウアイラを乗りこなせりゃ撒くのなんざ楽勝なんだが。
しゃあねえ、プッツン女拾って戻るから待ってろ!」
「は、はい!不甲斐なくてすみません・・・!」
が受話器を戻し、キッドを睨む。
「ウアイラを狙うとはいい度胸じゃねぇか・・・!」
剥き出しになった苛立ちに愉悦を覚えつつキッドが言う。
「テメェのその趣味だけは認めてやってんだぜ、。
レッド・ウアイラを寄越せば命だけは助けてやるよ。
それともおれの船に乗ってみるか?海軍よりはよっぽど様になると思うがなァ」
「正気かよ。ふざけてんのか?
とりあえずウアイラは諦めろ、アイツはお前にゃ乗りこなせねえ」
「おいおい・・・誰にモノ言ってんだ?」
キッドがを嘲笑う。
そのこめかみに青筋が浮かんだのを見てますます挑発的に言葉を吐いた。
「海賊が欲しがったモンを諦めるわけねぇだろ?」
が苛立ちに目を眇め、息を吐く。
「そうだな、テメェらの道理は何度聞いても虫唾が走る」
金属のぶつかる様な音が響いた。
が弾薬を込める音だ。
「おまけに海賊風情に成り下がれなんて戯言聞いちまった日にゃぁ、
鳥肌が止まんねぇな、それともテメェが私を暖めてくれんのかよ」
思わぬ反応に目を見開いたキッドにがその隙を狙って肩を撃った。
「・・・その血潮で」
が言葉を続けて、肩を抑えたキッドが憤怒の形相でを睨みつける。
「おっと、期待でもさせたか?」
「・・・ハァ?テメェみたいな口の悪ィ女に欲情するか馬鹿、色気もクソもねぇ・・・。
辞書で”色気”の意味を引いて来いよ、そうすりゃテメェでも理解できるんじゃねえか?
身につくかは定かじゃねぇがな!」
「アァ?!私が海賊風情に色気や愛想を振りまいてるとでも思ってんのか。死ねユースタス」
「テメェが死ね」
ガキの罵り合いのようなやりとりのさなかでも銃弾と鉄塊が飛び交っている。
が引こうとするのをキッドが追う。
気づけば甲板まで出てきていた。
※
が腕を鎖に変え、
鉄球を持ってぶん回しているのがの視界に入る。
キラーが大振りの刃をに振り下ろしたが、
ジャラジャラの実の能力者、鎖人間のにその刃は届かない。
甲板は鉄球で穴だらけだった。随分と暴れたらしい。
「!おい、引き上げるぞ!」
がらしからぬ凶悪な目つきでを睨んだ。
「・・・この船落とすつもりなんですけど」
「それどころじゃねえんだよこのプッツン女!
周り見ろ!ウアイラの方に人が行ってんのがわかんねえのかこのダァホ!」
「ハッ?!」
の据わっていた目に理性が戻る。
そして周囲を見渡し、小さく悪態をついた。
「私としたことが・・・殺戮武人、貴様囮か!」
「今更気づいたところでもう遅い」
キラーの声色に面白がる様な色が見えて、のこめかみに青筋が浮く。
だがの叫びにそれが掻き消えた。
「さっさとズラかるぞ、!」
その言葉に今度はキッドが声を荒げた。
「黙って見てると思うのか!逃げるな!」
「今日のところはこの辺で勘弁してやるっつってんだ!ありがたく思えクソ共が!」
中指を立て、手榴弾をぶん投げたが一目散に走る。
背後で派手な爆音が響いた。
が鎖にした腕をがウアイラに投げた。
鎖になっていない掌がドアにしっかりと指をかける。
「後は頼みますよ中佐!私能力者なんで!海に落ちたら期待しないで!」
「わかってるよ!」
に捕まったが目をつむる。海に飛び込んだのだ。
幸いウアイラは少々の弾痕がついているが概ね無事である。
「中佐!少尉!生きてて良かった!」
「お、生きてたか。運転席でくたばってたらどうしようかと思ったよ。
ウアイラもまあまあ無事だしな。褒めてやる。ハハハ」
「笑い事じゃないわ!!!おれがなんとか運転できたのが不幸中の幸いだっちゅーの!!!」
ヘルメッポが涙を流しつつ叫んだ。
「お、おちついて、ヘルメッポ・・・」
コビーがため息を吐く。
「しかし、なんつー無茶を・・・!」
「先に引き上げろ。ヘルメッポ、運転変われ!」
その声にヘルメッポが慌てて席を譲った。
がハンドルを握る。
「シートベルトしとけよ」
が天井を開け、片手でハンドルを握りながら小銃を撃つ。
こちらに銃弾を撃ってきていたキッド海賊団の狙撃手の腕をことごとく撃ち落とし、
はアクセルを踏んだ。
ウアイラがその能力を遺憾無く発揮し、猛スピードで海面を走りだす。
こうして、コビーとヘルメッポの地獄の3時間は終わりを告げた。
だが彼らは知らない。
このインターンが終わるまで、この調子でとの暴走に付き合わされることを。
※
ガープが心底疲れきったコビーとヘルメッポを見て声をかけたのはそれから一週間後のことである。
「ガープ中将、・・・僕、あなたについていきます」
「ガープ中将、・・・ガープ中将は模範的な海軍将校だ・・・おれぁよーくわかった・・・」
「な、なんじゃ急に、気持ち悪いのう・・・」
死んだ目の2人にぎょっとすると、ボガードが言った。
「2人には中佐と少尉の元にインターンに行ってもらってたので」
「なるほど。そういえばサインしたな。・・・あの2人についていけるのは限られてる。
よほどタフでないと無理じゃ、なんせ1人で海賊船を落とす様な小娘共だからな!ぶわっはっは!」
笑い飛ばされ、コビーが息を吐いた。
「・・・信じられないです。今でも・・・、中佐は8千万の首を、
3億2千万の首と戦った後にやすやすと船に乗り込んでしとめるし、
メルセデス少尉は中佐のしとめた海賊船の舵をとってるし」
「あんなの命がいくらあっても足りねえ」
ガープはボガードからコビーとヘルメッポの戦績を聞いて苦く笑った。
ガープから見ても異常な拿捕数だった。
「随分この1週間で鍛えられたろう?」
「そう言えば、そうですね・・・」
「そりゃあ、あんな異常な状況にいたらそうなる・・・」
「そう。異常じゃ。中佐と少尉は海賊を捕まえるためなら手段を選ばない。
だがそれを部下にまでは求めん。
お前達を受け入れたのも1週間という期限があったからじゃろう。
あの2人は、階級以上の実力の持ち主だ。だが上に嫌われとる。扱いやすい部下ではないからな。
赤犬とも決して上手くやっているわけじゃない。
は特に、赤犬の上官命令に背いて一度降格処分を受けている」
驚くコビーとヘルメッポ。そしてボガードに、ガープは言った。
「なんじゃ、ボガード、お前も知らんかったのか・・・。
はかつて、新世界海賊傘下の島の殲滅作戦を命じた赤犬に背き、
謹慎、2階級降格の処分を受けている。
本来ならあの子は今頃准将でもおかしく無かった」
「・・・あ!」
コビーは思い出した。
『断言しよう。力なき正義になど何の意味も無い!』
が力強く言いはなった厳しい言葉。
それはもしかしなくても、自身の苦い体験を元に発せられた言葉なのだろう。
「あれは・・・中佐自身の・・・」
「そうか、力なき正義には意味が無いか。あの子らしい苛烈さじゃ。
だがそれも一つの真理だ。コビー、ヘルメッポ。
がそれを口にし、
お前達を1週間だけでも鍛えたことはお前達にとって良い経験だったろう。励め」
「「ハッ」」
敬礼したコビーとヘルメッポを見送り、ガープは懐からだした煎餅を齧った。
「まったく不器用な娘達め」
目尻を赤くし、唇を噛み締めながらも泣くのを堪えていた、
かつてのと、寄り添うを思い出し、
ガープは久々に挨拶にでもいくか、と思い立った。