夢幻万華鏡ー悪夢ー

が瞬くと、そこは懐かしの木造校舎、教室の一つだった。
連なるアーチ窓から夕焼けが差し込んで、白く塗られた壁を赤く染めている。

は自分が異常な状態に置かれていることには気がついていた。
ひどく頭が痛む上に、取り巻く状況が二転三転している。

自分の格好も不自然だった。
矢絣柄の着物に海老茶の袴などここ最近着た覚えもないし、
髪を半分下ろしたのも、女学校に通っていた時以来だ。

はこめかみを抑え、必死に考えを巡らせる。

 思い出せ。私は、……私は鬼の調査に汽車に乗ったはずだ。
 これは、血鬼術……? 幻覚を見せられている? 

だが、目の前に広がるのは幻覚にしては、
あまりにもの記憶に深く根ざした光景だ。

何より、はこれからこの場で起きることを知っている。

先輩?」

は教室の入り口に佇む、後輩の顔に目を瞬いた。

「……燐子、さん?」

に呼ばれた少女は飾り紐で結わえた髪を揺らして微笑んだ。



実のところ、の女学校時代にはろくな思い出がない。

父の明峰がの将来を思って入れてくれた学校だが、
入学してみれば同級生は名家出身のご令嬢やお金持ちのお嬢様ばかりで、
のように医院の手伝いをしながら通うような生徒はいなかった。

はとりあえず当たり障りのない振る舞いで凌ぎ、
父の払った学費の分だけ教養なりなんなりを身につけようと、勉学に励んだ。

だが、それも良くなかったらしい。

が優秀な成績を修め、教師からの評価が上がるたび、
朋輩の中でも素行がよろしくないご令嬢たちの
を見る目が面白くないものに変わった。

口さがない者からは手が荒れていることや、着物や持ち物の質、
片親であることを遠回しに揶揄された。

自分のことはともかく父親のことを悪く言われるのは我慢ならない。

は学業と評判において一切同級生には譲るまいと血道をあげた。
喧嘩を吹っかけて来られれば、
表向きシクシクと悲しむふりをして周囲の同情を誘い、裏で10倍に言い返したし、
場合によっては相手の差しむけた粗暴な輩と素手喧嘩に持ち込んで黙らせた。

その結果、先輩、同輩の目立つ者からは生意気だなんだとすこぶる嫌われ、
あるいは恐れられ、もしくは遠巻きにされた上で、
後輩や一部の生徒たちからは異様に好かれた。

散々猫をかぶり、表向き優等生を演じていたために、後輩にはが、
“文武両道、才色兼備の孤高の女生徒”
または“影のある才女”として映っていたようだ。

それはそれで煩わしかった。

の理解者になりたいのだと口にする、私を見て欲しいと口にする、
あるいは手紙をいくつも下駄箱に投函する少女たちに、
の抱えるどろどろとした、浅ましい気質を打ち明ければどうなるかは理解していた。
だから、のらりくらりと好意を躱して、如才なく対応してみせる。

そういう鬱憤のたまる学生生活の中、
唯一と言っていい話し相手がこの籠原燐子という後輩だった。
図書室で燐子が読んでいた怪談小説に、
が興味を示したのがきっかけでよく話すようになったのだ。

燐子は輸入商売で財を成した大店の娘で、
忙しい両親を困らせぬため本ばかり読んでいた。
それも、おどろおどろしい物語ばかりを。
そのせいもあって、学校ではほどではないが浮いていたらしい。

この、大人しい後輩のことをは気に入っていた。
の心のうちには一歩も足を踏み入れず、
程よい距離を持って接してくれた生徒は燐子の他にいなかったからだ。

だから見誤った。

は目の前に立つ、優しげな目をした後輩が近寄って何を言うのかを知っている。

先輩の卒業までご一緒したかったのに、今日が最後になるなんて……。
 随分と急な縁談だったのですね」

去った日と寸分狂わず、の口が勝手に動いた。

「申し訳ありません。燐子さん。先方が一刻も早くと言うことでしたので」

鬼殺隊に入るために女学校を辞める方便は
縁談がまとまったから、と言うことにしていた。

それが一番もっともらしい理由であったのだ。
の他の同級生も、同じ理由で幾人かは卒業をまたず結婚している。
誰も不自然には思わなかっただろう。

燐子はの言葉に、少しばかり目を伏せた。

「……髪飾りを交換しませんか、思い出が、欲しいのです」
「髪飾りですか? 良いですよ」

燐子は赤い飾り紐をに手渡した。
もそれに応えるように、髪を半分まとめていたリボンを燐子に渡す。
互いに髪を結わえ直した。

「そういえば燐子さん、この飾り紐、あなたのお気に入りではありませんでしたか?」
「ええ、だからこそですよ、先輩」

燐子の声に、遣る瀬無さが混じった。

先輩は、気づいていらしたんでしょう?
 私の気持ちなんて、お見通しでいらしたんでしょう?」

は黙り込んだ。
燐子から向けられる視線に、熱があるのには気づいていた。
気づいて黙っていた。

「知ってて見て見ぬ振りをしたんだわ。
 それとも、私が本気でないと思ってらしたの?」

新聞に煽るような見出しで載る、
女同士での、あつらえた物語のような恋愛沙汰や無理心中に、
少しかぶれただけだろうと見くびったのだ。

燐子はの侮りを見抜いていた。
見抜いて、そして許しがたく思ったのだろう。

一瞬のことだった。

袴の後ろに隠していたのだろうハサミが、の手を浅く切った。
はとっさに、さらに切りつけようとする燐子の手首を打って、ハサミを落とす。
腕を掴んで身動きを止め、暴れる燐子に口を開いた。

「燐子さん、やめなさい。
 こんなことをしても、あなたが損をするだけですよ」

「人でなし」

燐子はついぞ聞いたこともないような、低い声でを詰った。

「ひどい。憎らしい。私、私は……!
 あなたを殺して、私も死んでしまいたい……!」

涙をハラハラとこぼす燐子を、は黙って見つめていた。

燐子は何も言わないに、奥歯を噛む。

「でも、しません。文武両道。才色兼備。
 先生の覚えめでたく、なんだってこなしてしまう先輩。
 あなたにだってできないことがあるわ」

を嘲笑いながらも、燐子は歯痒さに喘ぐように息を切らす。

「あなたは人でなしよ。情に欠けてるの。
 だからこうやって私があなたを傷つけようとしても、きっとなんとも思わない。
 誰かの気持ちに寄り添うことなんてできないんだわ……!」

の顔は今、能面のように無表情だった。
揺らがなかった。
燐子はの目の奥を覗き込んで、途方にくれたように、泣きながら微笑む。

「だけど、そういうところが、うつくしかった」

息を飲んだに燐子は囁いた。

「ご結婚、おめでとうございます。
 どうか二度と、顔をお見せにならないで」

「何をしている?! 君、大丈夫か!?」

廊下をパラパラと歩いていた生徒の何人かが何事かと
教室の入り口からこちらをのぞいている。

通りがかった初老の用務員はの手から流れる血と、
床に転がったハサミを見て何が起きたかおおよそのことを察したらしい。

燐子を抑えて、の様子を心配そうに伺っていた。

「君は保健室へ行きなさい。一人で平気かね?」

は頷いた。
頷いて燐子が素直に用務員と連れ立って歩く背を、ぼんやりと見つめていた。

実のところ、は平生を保つよう、表情を変えぬよう必死に努めていた。

涙をこぼして心を吐露し、を憎らしいと罵る燐子の顔を、
は途方もなく愛くるしく思っていたからだ。
もっともっと長く、近くで眺めていたかった。

大人しく控えめな質の燐子が、顔を真っ赤にして、ぐっと眉を顰めて、
見てくれを気にする余裕もなく涙や鼻水を零し、悔しさに唇を噛み締める様は
いじらしくて、かわいそうで、可愛くて、たまらなかった。

たまらなくて、絶望した。

人の心を弄んで、傷つけて、悦んでいる自分がいる。
「お前は本当に“人でなし”なのだ」と見せつけられたようだ。

「……やっぱり、学校を辞めて良かった」

まともに人として生きるには、の感性は狂っている。

 やはり、私は鬼と殺し合って死ぬのが似合いの、“鬼のような女”なのだ。

は改めて突きつけられた自身の悪癖の浅ましさに眉を顰めながら、俯いた。

 ――鬼はこれを私に見せて何がしたい? 何を狙っている?
 私の心を折る気なら意味がない。
 私の気質が醜悪なのを、誰より理解しているのは私だ。
 今更何を見せられたところで……。

「やあ君、こんなところにいたのだな!」

が思索にふけっていると、朗らかな声が耳朶を打った。
顔を上げると男が一人、立っている。

「煉獄、さん?」

「行こう君! 急がねば足場が崩れるぞ!」

男はの手を取ったかと思うと教室を出て、廊下を駆け出した。
も手を引かれるまま走りだす。

振り返れば男の言う通り、地面が虚空に飲まれている。
そこにいたはずの人影は、どう言うわけか消え去っていた。
人らしきものは目の前を走る男と、だけだ。

「一体全体、何なのですか、これは!?」

が声を荒らげると、男は声をあげて笑う。

「はははは! さてな! 俺にもわからん! 
 怖いなら目を瞑れ! そうすれば“場面が変わる”!」

はわけがわからないままに、男の言う通り、目を瞑った。



「もう目を開けて良い。邪魔する者は誰もいないからな!」

男の声に促されて目を開けると、確かに場面が変わっている。

桜の花びらが、はらはらと目の前を落ちていった。
満開の桜の森に青空が、目を灼くように眩しく光る。

は自分の手を引く男の手のひらを見やった。
無骨で、温かな手のひらだった。

「煉獄さん」

風が強い。

は自分の髪が桜の花びらと共に舞い上がるのを鬱陶しく思い
片方の手で押さえながら、の手を取って目の前を歩く男に尋ねた。

「あなた、本当に煉獄さんなのですか?」
「なんだ、俺の顔を忘れてしまったのか!」

明るく朗らかに、男は答える。
振り向いた顔は確かに煉獄杏寿郎そのものだ。
透明な眼差しがを射抜く。

「ずっと君を見ていると言ったのになぁ、俺は!」
「それは……確かにそうおっしゃってましたけど」
「そうだろう!」

そう言って男はに笑いかける。
はずっと繋がれた手を見やって、首をかしげた。

違和感がある。

杏寿郎がこんな風に、の手を引いて歩くようなことはなかったはずだ。
どれだけ打ち解けても、も杏寿郎も、お互いに踏み込まずにいるところがあった。

頭がうまく働かない。
さっき理解したはずの、それも“決定的な何か”をもう忘れている。
何かがおかしい。
それはわかっているのに、それを打破する方法がわからないでいる。

だからは、尋ねてみることにした。

「我々、こんな風に、手を繋ぐような間柄でしたかね?」
「さて、どうだろうか! 
 だが俺は君に時計を贈った! 君の懐にある、それだ」

言われてみれば、の懐では懐中時計がチクタクと時を刻んでいる。
指摘されて急に懐が重くなった気がした。

「……ああ、そうでした。貰いましたねえ」
「はははは! それだけわかってくれてればいい!」

快活に笑うと、男はまた桜の森を歩き出した。

風は強いが日差しはうららかだ。
舗装された道を、は手を引かれるがままに歩いている。
だがは、男の行く先を知らない。

「どこへ向かっているのですか?」
「君が何も傷つけなくて良いところだ」

は足を止めた。

青空が眩い。
逆光で、振り返った男の表情がうまく読めない上に、
ゴウゴウと風が竜巻のように、花弁を巻き込んで吹き荒れている。

「それが君の望みだろう?」

男が優しく囁いた。

は、男が何を言っているのかを理解していた。
理解できてしまった。

「……ええ。私はずっと、死にたいと思っていました」

震える声で男に言えば、男は口角を上げてみせる。

「どう死にたい? ぽんと首を刎ねようか? この手で首を締めようか?
 望む通りに殺してあげよう」

繋いでいた手のひらを解いて、男はの首にそっと触れた。
その手つきは甘やかですらあった。

は硬く目を閉じる。自身の見苦しさに唇を噛んだ。

 これは現実じゃない。“夢”だ。

だとすれば、なんて見下げ果てた欲望が胸の内に巣食っているのだろうと思った。
“煉獄杏寿郎に殺されたい”などと。

 私はあの、神仏のような境地に至った人の教えを受けながら、
 「殺されるならこの人が良い」と考えている。

だからこうやって、杏寿郎の皮を被った、
杏寿郎ではありえない言葉を口にする男がの前に現れるのだろう。

は眉を顰めながらも、答えてみせる。

「煉獄さんに殺されるなら、どんな死に方でも構いませんが、」
「君は悪趣味だな!」

いかにも杏寿郎の言いそうな口ぶりだった。
は耐えられなくなって男の手を振り払い、距離をとる。

「あなたには負けます。
 あなた、煉獄さんの顔で私の前に現れるなんて、本当にいい度胸だわ」

「ほう」

男は目を眇めたようだった。

「俺が煉獄杏寿郎でないと言うのか?」
「もちろん。だって……」

は、杏寿郎の顔をした男を睨む。

「だって煉獄さんは、私を殺してはくれません。
 そんな逃げを許してはくれませんもの。
 あの人『苦しくても苦しくても、自分を律して生きろ』って言うのよ、きっと」

男は黙ってを見つめていたかと思うと、
やがて眦を細めて微笑んだように見えた。

「なら君は、辛くとも自分で決着をつけるべきだ。心を燃やして鬼を斬れ。
 もう少し、もう少しだけ頑張るんだ、君」

がはっとその顔を見上げると、突風で桜の花びらが舞い上がって、
あっという間に男の姿を隠してしまった。
あまりの風圧にが目を閉じ、やり過ごして目を開けると、そこには誰もいなかった。

自身でさえも。



眩い青空と桜の森は消え失せて、漆黒の夜と青白く光る月があった。
は白い着物に黒い羽織を纏い、ぼうっと月を見上げて立っていた。

それは見知った場所だった。
何度も繰り返し見た夢に出てきたのだ。

足元が急に冷たくなったので下を見ると、
月光に照らされた砂利の上を、赤黒くどろりとしたものが這っていく。

血だ。

が振り返ると、血の源らしい積み重なった死体の山があった。
死体の格好はバラバラだったが、誰も彼も同じ女の顔をしていた。

 皆、 わたし の顔をしている。

野放図に積み上げられたそれの前には朱色の着物を着た女がうずくまっていた。
女の肩は震えている。しくしくと、泣いているようだ。

「……何を泣いているのですか」

はどこかうんざりとした様子で尋ねた。
毎度、この質問を繰り返していたからだ。

「屍山血河を築かねばならぬからです」

女はさめざめ泣きながら、決まり文句を答える。

「どうして」
「私が期待に応えられないのがいけないの」

「“気持ちの優しいよい子”になれなかったから」

女の声に呼応するように血の河が、広くなった。

「せっかく選んでもらえたのに、優しく面倒見の良い
 あの美しく愛らしい方も裏切ってしまった」

血の河の水位が上がる。の足首までドロドロと、赤黒い血液が流れていく。

「あぁ、それに何より、私は心を燃やせない。炎になれない」

ドッ、と、河の勢いが増した。
河の真ん中にいた女はゆらりと立ち上がると、振り返ってを見る。

女は鬼だった。額からは見事な金色のツノが生えている。
白目の部分は金泥を塗ったように陰り、白い牙を唇から覗かせて、
を見てはらはらと涙をこぼす。

「悲しい、苦しい、辛い。
 ……どうしたら我が身を哀れまずにいられましょうか。
 どうしても涙が止まらないわ、どうしてこんなにも“私”は醜悪なのかしら」

赤黒く染まった長い爪で、鬼はを指差した。

「鬼に遭って救われたでしょう? 本当は鬼舞辻無惨に感謝しているのでしょう?
 人間の代わりに鬼を殺しても良いと言う、大義名分を貰えて安心したのでしょう?」

下ろした黒髪が風に舞い上がり、バサバサと鬼の女の顔を隠したが、
その表情は克明に見て取れる。
泣き濡れた顔に浮かぶのは怒りだ。

「私は悲しい。浅ましいったらありゃしない。
 こんな下衆な女は見たことがありません。
 よくもまあそんな汚い心持ちのまま、皆さまの前に顔を晒せるものです」

鬼は、能面のような無表情になった。

「恥ずかしいとは思わないの? 
 誰の期待にも応えられぬお前が、なんでのうのうと生きている?」

「死ね」と、鬼は言った。

それが合図だったかのように、積まれた死体の目がぱちぱちと開いて、
を睨み、各々が「死ね」と呟き始める。
声が重なって、雨のようにに届く。
最後には怒鳴りつけるような大声で、死体が、鬼が、を詰った。

 死ね、死ね。死ね!

血の河はの太もものあたりまで水位をあげていた。

これはが繰り返し見た悪夢だった。
今まで殺した鬼の格好をした自身の死体。血の河。そして鬼になった自身。
皆がを寄ってたかって責めたてる。
この夢を見た後、は震えるほど死にたくなった。

けれど。

「……いい加減にしてほしいです。
 悪夢も見飽きれば茶番に同じ。私はそこそこウンザリしています」

どれだけ同じ夢を見たかは数え切れない。
白と黒と、やけに朱色だけが鮮やかなこの夢を。

だからどのように目覚めればいいかは知っている。
は喚き続ける己自身を睨む。

「だいたい、何ですか。『死ね』とは他力本願な。
 どうせなら『殺す』と申せばいいものを」

拳を握れば薙刀の感触が確かにある。
白い着物は隊服に変わる。

「特にそこの わたし

を押し流そうと、川の流れは速くなる。
だが、はものともしなかった。

「お前はどの口で何を言っているんですか?
 修羅道に堕ちた“私”の分際で」

 罰の呼吸 参ノ型 咎弁天 とがめべんてん

罰の呼吸の、関節、首、手首足首を狙ったぶった斬りがこの技だ。
これで斬られたものは身動きを取ることが出来なくなる。

河の真ん中に居た鬼の関節と首が砕け折れる、鈍い音が辺りに響いた。
傷口から血が吹き出し、首は千切れ飛んで、
鬼はあっけなく血の河に倒れていく。

「まして自分を哀れむことほど醜悪なものはありませんでしょうに。
 嫌になりますわね、本当」

ざぶざぶと、はさらに河を遡って死体の山に辿り着き、死骸を河へと蹴り出した。

一かたまりだった死体の山は雪崩れるように赤い河に浮かび、解けていく。
それはまるで、惨たらしい帯のようだった。

母がを身ごもってる時に作りかけた、
花嫁衣装の引き振り袖と合わせるための、あの赤い帯に似ている。

はそれを見届けると、腰に下げていた刀を取り、自ら胸を突いた。

痛みは一瞬。

赤い河に背中から身を投じ、は目を瞑る。
体はとぷんと、重石をつけたように水底に沈んでいった。