長男と次男 各々の復讐
「なんだこの胡散臭ェ受け答えは」
ショートケーキを頬張り、渡された号外のインタビュー記事を読んで、
ドフラミンゴは露骨に眉を顰め、同じくショートケーキを口にしているを睨んだ。
ドフラミンゴは牢獄の床に胡座をかき、は用意させた椅子に腰掛けているという、
ドフラミンゴにとってはなんとも腹の立つ状況である。
は肩を竦めて見せた。
「聞かれたから答えただけさ。口調は編集されてるよ。おれはもっとラフに答えたんだ」
「当たり障りのねェことをそれらしくのらりくらり・・・。
お前はいっつもそうだよなァ、。
お前がおれの海賊稼業を諌めたことなんかあったか?」
は心外だ、と言わんばかりに眉を上げた。
「『止めねェけど巻き込むな』そう言っただろ」
「そりゃ諌めてるうちに入らねェよ」
「・・・諌めて欲しかったのか? 生憎だがおれは殺されたくなくてね」
ドフラミンゴの眉間に皺がよる。
は脚を組み、ドフラミンゴの顔を眺めていた。
「大体、おれはあの時、お前の家族じゃなくなってたさ。そうだろ?」
「・・・なんの話だ。お前はおれの弟だろう」
「”ドンキホーテ・ファミリー”がお前の家族だった」
は目を眇め、皮肉を吐いた。
「勘違いしねェで欲しいんだが、”おれたち”がお前を捨てたんじゃなく、
お前が先に”おれたち”を捨てたんだぜ」
ドフラミンゴは頭に血が上ったようで、にフォークを投げつける。
しかしすぐさま看守の2人が間に入り、にフォークが当たることはなかった。
憤慨するドフラミンゴを見て看守はに立ち去るか問いかけるが、
首を横に振ってはその場から動かない。
「お前は、わざわざ、金を払って、おれを怒らせに来たのか?!」
激するドフラミンゴに、はフォークを拾い上げ、ため息をついた。
「動物園の猿みてェな真似すんなよ。品がねェなァ」
くるくるとフォークを弄ぶに、
ドフラミンゴの形相が恐ろしく鋭くなっていくのを見て、
は顎を撫でた。
「・・・いや、今のはおれが悪かった。すまない。
実は先日、息子が2人生まれてな。その報告も兼ねて来たんだ」
ドフラミンゴは怒りを忘れ、を唖然と見つめた。
それから呆れた声で尋ねる。
「おい、何人目だ? 去年誕生祝いをくれてやったのを覚えてるぞ」
「映えある9人目と10人目だ。一家は6男4女になった。
いやはや、妻には全く苦労をかける。
産後に『そろそろいい加減にしろ』と殴られたよ。フフフフフッ」
笑うに写真を渡され、ドフラミンゴは目を細めた。
写真の中ではとその妻が革張りのソファに座っている。
と妻の手に赤ん坊が3人抱えられており、
顔立ちのはっきりとして来た子供達がソファの周りを取り囲んでいた。
子供達の顔はに似ていたり、その妻に似ていたり、
はたまたドフラミンゴの父母に似ている者もいたりと様々だったが、
きっと何不自由なく育つのだろう。
皆自信と愛情に溢れた幸福そうな顔の子供たちだった。
「・・・結局、お前みてェなのが美味しいところを全部持って行きやがる」
苦々しい響きを含んだドフラミンゴの言葉に、は首を傾げていた。
ドフラミンゴはなおも続ける。
「正義にもならず、悪にもならず、お前は中庸だ。
海軍にも、海賊にもならず、お前は商人になった。
簡単にドンキホーテの名を捨てて、・・・何が”・”だ。
プライドってもんがねェのか。
復讐心がカケラもなかったっていうのか、お前には!」
「あったとも」
は力強く頷いた。
「”生きるためならなんでもしてやる”
それがおれのプライドであり、復讐だ」
面食らった様子のドフラミンゴに
は腕を組み、ため息を零す。
「”ドンキホーテ”の名前はおれが生きるのに結構な邪魔になった。
天竜人を相手取って商売するなら、ドンキホーテの名前は警戒されるし、
何より兄貴の傘下だと思われるのは癪だからな。
妻の両親が婿入りを打診して来たのは全く渡りに船だったよ。
しかし・・・フフフフフッ!」
「何がおかしい」
突然笑い出したに、ドフラミンゴは訝しげな表情を浮かべた。
は愉快そうに微笑む。
「昔ロシナンテにも似たようなことを言われたのさ。『お前はズルい』ってな」
なんとも言えない表情を浮かべるドフラミンゴを、は笑う。
「おれ達はやっぱりどう足掻いたって兄弟なんだなァ、クソ兄貴」
ドフラミンゴは口を噤み、はショートケーキを食べながら15年前のことを思い返していた。
ロシナンテときちんと話した、最後の時を。