ドンキホーテ兄弟 家族を偲ぶ


インペルダウンでケーキを兄弟2人で静かに平らげながら
は懐かしむように目を細める。

泣きながらかつて、ロシナンテはケーキをほおばっていた。
目の前にいるドフラミンゴは涙こそ流していないものの、
その時のロシナンテと同じようにどこか悲しげにケーキを口にしている。

は呟く。

「ロシナンテは結局最後まで逃げなかった、我を通しやがった。
 おれは『逃げても良い』って言ったんだ」
「あいつが聞くわけねェだろ、そんな忠告」

ドフラミンゴは苦々しくため息をついた。

「どうあってもおれを止めるつもりだった。
 お前、あいつが止めようとして止まると思ってたのか?」

は面白そうに口の端を持ち上げる。

「いや? 全然?」
「・・・相変わらず良い性格してやがるぜ、お前は」

ドフラミンゴは床に視線を落とす。

「・・・だから撃ったんだ」
「引鉄が引けなくなる前に、か?」
「そうさ。おれには”家族”が必要だった」
「だろうな」

がドフラミンゴを見下ろしている。
自分と似ているが違う顔だと、ドフラミンゴは改めて思った。
自分はこんな柔和な顔をしない。赤い瞳を優しく細めたりなどしない。

ドフラミンゴは皮肉に唇を歪める。

「・・・知ってるぜ、お前はおれを否定はしねェが、肯定もしないんだろう」
「その通り」

はにこやかに微笑み、頷いた。

「おれはどっちにも肩入れしない。ただ、そうだな。
 ドレスローザがお前の国じゃなくなって・・・なんとなくだが、」

は少し考えるそぶりを見せた。

「今ならロシナンテはようやく、お前を許せるんじゃないかと思うんだ」

ドフラミンゴは絶句した。まさかの口から、血の通った、
慰めるような言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

唖然とするドフラミンゴには続ける。

「決めたことには頑固。まったく自分を曲げないエゴの塊。他人を容易く振り回す。
 それがおれ達兄弟に共通する性質だが、そろそろあいつも折れてくれるだろう」
「・・・親父もそうだった」

ドフラミンゴがポツリと零し、はそれを聞いて笑いだした。

「フフフフフッ! そうだな、遺伝だ。まったく・・・最悪だな!」
「・・・フフ、フッフッフッ! その通り、最悪だ!」

ドフラミンゴも釣られて笑い出した。
腹を抱えて笑う似通った顔の2人を他の囚人は薄気味悪そうに眺めている。

それからしばらく、たわいもない話をした。

が恐ろしく気の強い妻の尻に敷かれていること。
ドフラミンゴが麦わらのルフィに殴られて気に入っていたサングラスが割れたこと。
ロシナンテは冷たい飲み物以外の熱い液体状の食べ物はだいたい吹き出していたこと。
商会がドレスローザとの取引を未だに続けていること。
麦わらの一味とハートの海賊団の動向とその突拍子も無さについて。

面会時間の終わりを看守に告げられ
は素直に立ち上がると、椅子を片付けるように頼み、
ドフラミンゴに手を振った。

ケーキはとうの昔にチョコレートプレートを除いて、二人の腹に収まっている。

「じゃあな、兄貴」
「フッフッフッ! 二度と来るなよ、

しかしドフラミンゴには分かっていた。
はおそらく来年同じ日にまた来るだろう。
薄情でどこまでも自分本位な男だが、
もドンキホーテの兄弟であることに変わりはないのだ。