幽霊と天竜人
ボンチャリを飛ばした先で、叫び声やどよめきが聞こえ、
ルフィらは首をかしげた。
大柄な男が、首輪を壊したいと叫んでる。
「誰でもいい! オノかノコギリを頼む!! 故郷に嫁と息子がいるんだ!!!
帰りたいんだ! 助けてくれ!!!」
しかし、周囲の人間は男が近寄ると逃げていってしまう。
ハチが忠告するように言った。
「関わるなよ! あいつは多分、人攫い屋に捕まって、売り飛ばされた海賊だ!
飼い主に連れられてこの島に来て、脱走したんだ!
・・・逃げられねェって、わかってるハズなのに」
ケイミーが硬く目を瞑り、大柄な男から目を背けた。
男が首輪を掴むと電子音が響く。
「この首輪、これさえなきゃ、おれァ」
男の目に恐怖と絶望がよぎった瞬間、首輪が爆発した。
かろうじて男は生きているようだったが、衝撃で歯が抜け落ち、
周囲に血が飛び散った。いっそ、まだ生きていることが哀れなほどだ。
「・・・奴隷はいつも、鎖で首をつながれてて、
鎖を外して逃げると、首輪は爆発する仕組みだ」
男の惨状にルフィは眉根を寄せた。
「ひでェな・・・!」
倒れ伏した満身創痍の男から逃げるように、町の人間は散り散りになった。
それを見て、ブルックが声を上げる。
「ちょ、ちょっと、あの人助けた方がいいんじゃありませんか?!」
「ばか!!何が起きても関わるなって約束したろ!?」
パッパグがブルックを引き止め、
チョッパーはけが人を放っておく町の人間が信じられないのかパニックを起こしていた。
幽霊は怪我をした男をじっと見ていた。スカートを握りしめている。
「お嬢さん・・・?」
その様子を見たブルックは首をかしげている。
「はっちん、どうしよう、”天竜人”が近くにいるよ!」
怯えたケイミーに頷いて、ハチはルフィにボンチャリから降りて跪くように促した。
それに皆従うが、幽霊だけは物陰に隠れ、天竜人の一行を伺い見ていた。
顔に刺青と傷のある、大柄な男の奴隷と護衛、付き人を引き連れた天竜人は二人。
ロズワード聖と、シャルリア宮だ。
彼らは髷を結い、シャボンをかぶり、煌びやかな衣装を身に纏う。
ロズワードは胸にいくつもの勲章をつけていた。
下々民とは目を合わせたくないと言わんばかりに、二人はサングラスをかけている。
「やだ、お父上様、またいっこ壊れちゃったアマス」
「鎮静剤はちゃんと毎日与えたのかえ?」
「やってアマス、おバカで効かないのアマス」
「全く、お前は”シツケ”が下手だえ」
逃げ出した奴隷を、彼らはまるで物のように扱った。
シャルリアは気絶した血まみれの男の顔を容赦なく蹴りはじめる。
「このコがダメなのアマス・・・」
目の前で行われる非道な行いに気づいていながらも、跪いた市民は目をそらした。
誰もシャルリアを止めに入らない。
「家族家族と、大の男が泣く始末。ただの人間のくせに、・・・気分悪いアマス」
しまいには銃口をもう動かない男に向けて、容赦無く銃撃したのだ。
ルフィは黙っていられずに飛び出しそうになったのを、ハチに止められている。
シャルリアとロズワードは気が済んだのか、
さっさと奴隷と護衛を引き連れてその場を立ち去っていった。
「お嬢さん、大丈夫ですか?あまり気分の良いものではなかったでしょうに・・・」
「ええ、そうね・・・見苦しいわ」
幽霊はすでに立ち去った天竜人の方を見て、吐き捨てるように呟いた。
その声色にははっきりとした軽蔑が滲んでいる。
ブルックは内心で驚いていた。
幽霊のことだから、撃たれた海賊の方を心配すると思っていたのだ。
「まずい、海兵が来た!
お前らも思うところがあるだろう。落ち着いたら話してやる・・・!」
ハチが後処理に訪れた海兵たちの姿に気づくと、ルフィたちを町外れまで連れていった。
一行が一息つくと、ケイミーは青ざめた顔で呟く。
「気分が悪くなっちゃった」
チョッパーは納得いかないのか、首をひねっていた。
「あの海賊のやつ、あんな爺さんや女にくらい勝てただろ?!」
それにパッパグが神妙な面持ちで答えた。
「”天竜人”をキズつけたら、海軍本部の大将が軍を率いてやって来る」
それに一味の面々は驚きの声をあげる。
「なんでアレが、そんなに偉いんだ!?」
「”創造主”の血を引いてるんだ。
800年前に『世界政府』という、一大組織を作り上げた20人の王たち。
その末裔が”天竜人”。長い年月が権力を暴走させていることは間違いねェな」
幽霊は目を伏せてパッパグの話を聞いていた。
胸の内でどろりとした感情が渦巻くようだ。
今までこんな思いを感じたことはなかったと言うのに。
※
途中賞金稼ぎの妨害にもあったが、なんとかシャボンディ諸島13番グローブまで一行は到着した。
ヤルキマングローブの木の根の上に、小さな店が構えている。
かけられた橋を渡ると、看板が目にはいった。
幽霊は思わず看板を読み上げる。
「”シャッキー’S ぼったくりBAR”・・・?」
「・・・この店、ぼったくる気が前面に押し出されてんだが、ハチ」
「大丈夫だ。良い人間たちだ」
パッパグの懸念も気にせず、ハチは店のドアを開いた。
「レイリー、シャッキー、いるかー?」
ドアを開けて目にはいってきたのはくわえ煙草の店主と思しき女性が、
ほとんど意識のないガラの悪い男の胸ぐらを掴んでいるところだった。
よくよく見れば床に男の仲間らしい二人が倒れ伏している。
「いらっしゃい。なんにする?」
店主、シャッキーはハチを見ると明るい笑みを浮かべて見せた。
座ってくつろいでくれ、と言うシャッキーだが、
やはり胸ぐらを掴んでいた男たちからは
法外なお代をぼったくっていたところだったらしい。
財布からほぼ有り金全てを抜き取ると、
軽々と男たちを店から投げ捨てるように追い出していた。
固まる幽霊とチョッパーとケイミー、パッパグをよそに、
ハチとルフィ、ブルックは席へと向かった。
「あー・・・、なんと言うか、個性的な、お店ね」
「おれ、ぼったくり初めて見た・・・」
チョッパーと幽霊は顔を見合わせて、息を吐いた。
シャッキーがハチやケイミーと話してる間に
ルフィもブルックも必要以上にくつろいだ様子で冷蔵庫を漁っている。
「ちょ、ちょっとブルック、それはよろしくないわよ!?」
「ヨホホ、でもこの煮豆、美味しいですよ」
幽霊の忠告にも耳を貸さず、ブルックは煮豆に舌鼓を打っている。
「あはは! ええ、好きにやって」
「お前らぼったくられるぞ!?」
「安心して、はっちゃんのお友達からお代は取らないわよ。
はい、キミにはこれね」
シャッキーがチョッパーの好物、わたあめを差し出すと、
チョッパーは目の色を変えて飛びついた。目を輝かせてぱくついている。
「なんでチョッパーの好物知ってるんだ?」
ルフィが首を傾げると、シャッキーは紅茶を入れながらルフィたちを知っていたと言う。
「私は情報通なの。ガイコツと幽霊が仲間なのと、
ガイコツが動いたり幽霊が存在するとか言う現実は知らなかったけど」
幽霊とブルックを見て目を細めるシャッキーに、幽霊は微笑んだ。
「ウフフフ!」
本題に入ろうと、ハチがシャッキーに声をかける。
しかし、コーティング職人の”レイリー”は今このバーには居ないらしい。
しかも、半年ほど帰ってきてないようだ。
「弱りましたね・・・じゃあ探すしかないですね。検討はつきますか?」
「そうね、1番から29番には居るんじゃないかしら。彼もフダ付きだから。
あとは・・・『シャボンディ・パーク』も好きね」
「あの観覧車のあったところかしら?」
「遊園地か!!! そこ探すぞー!!!」
一味とケイミーが諸手を上げてはしゃぎだす。
シャッキーは思案するように顎に手を当てた。
「どこを探すにしても・・・とにかく気をつけて。
私の情報網によると、キミたちが上陸したことで、シャボンディ諸島には11人、
”億”を超える賞金首がいるわ。
それも、みんな今年台頭してきた、いわゆるルーキーたちよ!」
シャッキーはルフィに目を配らせた。
「モンキーちゃんとロロノアちゃんを除いても9人揃ってるわ」
幽霊は思わず息を飲む。
「懸賞金、億を超えるのって、難しい、わよね?」
「そんなのがゴロゴロいるのか!?」
「ええ、あなたも新聞をよく賑わせてたわよ、モンキーちゃん。
ライバルの名前くらいは知っておいたら?懸賞金で言えば、キミはNo2よ!」
幽霊はヒソヒソとチョッパーに耳打ちした。
「ルフィの懸賞金って確か」
「3億だぞ・・・」
「すごい額よね・・・、でもそれでも上がいるのね」
シャッキーはタバコをふかし、11人の超新星たちに思いをはせる。
「この億越えのルーキーたちの誰かが、次世代の海賊たちを引っ張っていく存在になるかもね。
いずれにせよ、これだけのルーキーが一気になだれ込めば、新世界もタダじゃ済まないわ」
「キャプテン・キッドがキミより賞金が高い理由はね、
あの子たちが民間人に多大な被害を与えてるから・・・可愛くないでしょ。
だから私は断然、モンキーちゃんたちを応援してるわ!」
しかしルフィはマイペースに笑って見せた。
「まー、おれはとりあえず楽しけりゃいいや。
でもそんな荒れた町にいるって心配だな、職人のおっさん」
「ウチの人なら大丈夫よ。ボーヤ達の100倍強いから」
自信ありげに微笑んだシャッキーは、手を振って一行を送り出した。
※
一行がしばらくボンチャリを漕いでついたのが、
32番から34番までの区画を使って整えられた遊園地。
”シャボンディパーク”だ。
「観覧車、ジェットコースター、ゴンドラ、フリーフォール・・・、
楽しそうだわ!!!」
幽霊は目を輝かせながら遊園地を見上げた。
ルフィはコーティング職人探しそっちのけで、「遊ぶぞ!」と宣言し、
パッパグを怒らせている。
「職人探す気ねェんじゃねェか!?」
「大丈夫よ、パッパグさん。遊びながら探せば!」
「そうは言うけどよ・・・」
「ウフフフフ! 行きましょう!」
幽霊はジェットコースターもメリーゴーラウンドも、フリーフォールも楽しんでいた。
安全装置に触れることができないので、実質自分で動いてるようなものではあったが。
ブルックはいわゆる絶叫系は苦手なようで悲鳴をあげている。
何しろ比較的穏やかなアトラクション、コーヒーカップも、
ルフィにかかれば高速回転の絶叫系に早変わりだ。
これにはさすがに幽霊を除き、ルフィ本人も加えて皆グロッキーになって居た。
「ウフフフッ!ブルックったらそんなに怖かったの?」
「・・・ちょ、ちょっと休憩できませんか」
「なら、観覧車はどうかしら、ゆっくりできそうよ!」
はしゃぐ幽霊の提案に、皆えづきながら頷いた。
てっぺんに上がる頃には回復してきたようで、景色に歓声をあげていた。
「超高ェ!!」
「本当に!」
それからは元の調子を取り戻したのか、ルフィが先陣を切って遊園地を闊歩する。
「おい、次はあれいくぞ!お化け屋敷!」
「ええ~!?」
「ルフィさん、私お化け苦手なんですよー!?」
慄くブルックに、幽霊が笑う。
「ウフフフフ、でも看板のガイコツはあなたにそっくりよ、ブルック」
「あ、本当ですね。ヨホホホ、怖い!!!」
はしゃぎ、笑い合う時間は、それまでだった。
数分後、シャボンディパークの公衆でんでん虫の前で、
チョッパーと幽霊は狼狽えていた。
少し目を離した隙に、人魚のケイミーが何者かにさらわれてしまったのだ。
ルフィとハチ、パッパグはすでに飛び出して行ってしまった。
今から合流するのは難しいだろう。
「まさか、ケイミーが攫われるだなんて・・・」
「サンジに待ってろって言われたのに、パッパグもハチも飛び出して行っちゃって。
こういう時バラバラになるのって危険だと思うんだけどなー」
そんな二人を横に、ブルックは落ち着いた様子で紅茶を飲んでいる。
「ヨホホ、お二人とも落ち着いて、焦ったからって、
そうそう問題が解決するわけでもありませんよ」
「そうね。だけどブルック、くつろいでる場合でもないわよ!」
「ヨホホ・・・すみません」
ブルックは幽霊の指摘に居住まいを正した。
チョッパーもそれに習って、心配そうながらも、腕を組んで、迎えを待った。
「トビウオさんたち、来たわね!」
ウソップを乗せたトビウオライダーズと合流し、
チョッパー、ブルック、ウソップは散らばることにした。
幽霊はブルックを乗せたトビウオに並行するように浮き上がる。
しばらく人攫い屋を当たっていると、無線が入った。
『犯人は”ハウンドペッツ”! 場所は1番グローブ!!』
「オークションハウスだな!」
運転していた男が言うのを聞いて、幽霊は少し思案するそぶりを見せた。
「ねぇ、ブルック、私多分、もっと早く行けると思うの」
「ああああ!? トビウオちゃん、こんなに早いのに?!」
「先に行ってもいいかしら? ケイミーちゃんが心配だわ」
真剣な眼差しで問いかける幽霊に、ブルックは頷いた。
「ええ、もちろんですとも・・・、後から必ず行きますので!!!」
幽霊はにこりと笑って、風のような速さで1番グローブまで向かった。
※
幽霊がオークションハウスに着いた頃には、すでに状況は悪化していたところだったらしい。
ケイミーを5億で落札し、ハチを銃で撃った天竜人チャルロスをルフィが殴ったのだ。
会場が一気に静まり返る最中に、
天井に開いた穴から幽霊がふわりとルフィの横に立った。
「あら、随分静かね・・・? 間の悪い時に来たかしら」
「悪い、お前ら。
こいつ殴ったら海軍の”大将”が、軍艦引っ張って来るんだって」
ルフィの一言に、幽霊は振り返る。
そこには殴り飛ばされ気絶したチャルロスの姿があった。
すでに集結していた一味はルフィの言葉に各々構わないと言わんばかりに、
ケイミー救出に向けて動き出している。
幽霊は目を瞬き、ルフィに問いかけた。
「ルフィったら、天竜人を殴ったの?」
「ああ、ムカついたからな! あいつ、ケイミーを物扱いするし!
ハチの奴を撃ったんだ!」
腕を組んでムッとした表情を浮かべるルフィに、幽霊は面白そうに笑った。
「ウフフフフッ! そうなの?」
しかし、事態は急速に動き始める。
我に返った天竜人たちが叫び出したのだ。
「チャルロス兄さまー!!! お父上様にも殴られた事などないのにー!!!」
「おのれ!!! 下々の身分でよくも息子に手をかけたな!?」
ロズワードは今まで座っていた椅子に立ち、銃を乱射し始めた。
客たちが悲鳴をあげて散り散りに逃げ出す。
幽霊はそれを見て、ロズワードに近づいた。
「え、お嬢さん!?」
近くにいたサンジが、幽霊の行動に驚く。
ロズワードは息子に向けられた暴力に怒り、喚き散らしていた。
「この世界の創造主の末裔である我々に、手を出せばどうなるか・・・」
ロズワードは突然目の前に現れた幽霊に目を見張るも、すぐに引鉄を引こうとした。
しかし、その顔を見て、ロズワードは手を止めた。
「・・・ドルネシア?」
幽霊は黙ってロズワードを見つめていた。
ロズワードの顔がみるみる蒼白になって行く。
「お、お父上様?」
「幽霊?」
訝しむそぶりを見せるシャルリアと麦わらの一味らをよそに、
幽霊はその首を横に振った。
「・・・いいえ、それは私の名前ではないわ」
幽霊はゆっくりと口角を上げた。
いつもと同じような、柔らかな笑みであるはずなのに、
ロズワードにとっては冷や汗をかくほどに恐ろしかったのだろう。
二の句も告げず、震えている。
「どうしたの? さっきまで銃を撃っていたでしょう。
”創造主の末裔”に手を出せば、どうなるんだったかしら?
私のことは撃たないのかしら?
ウフフフフッ、撃ったところで、なんの意味もないけれど!」
幽霊の明るい声色に、ロズワードはやっとの思いで唇を開いた。
「わ、私は、私に、何をしろと言うんだえ!? あの頃私には何もできなかったし、
それに、あれは”自業自得”じゃないか!そもそも、今更だろう!
もう何年の月日が経ったと思ってる!?」
「だから・・・私はドルネシアって人じゃないと言っているのに。
わからない人ね。
人の話は、よく聞くべきよ。・・・言うだけ無駄か」
幽霊は腕を組んでため息をつく。
「ちょっとお伺いしたいことがあっただけなのよ。
ねえ、あなた、”靴紐はご自分で結べるのかしら?”」
「は・・・?」
幽霊の質問は状況にそぐわないものだった。
ロズワードの目が大きく見開かれる。
「”お洋服はご自分でお着替えになれる?”」
わざとらしく慇懃な口調を作り、揶揄するように幽霊は笑う。
ロズワードは口を噤んだ。
「恥ずかしい人ね」
ロズワードの顔にカッと血が上った。
歯を食いしばり、引鉄に指をかける。
「だ、黙れ!」
ためらう事なく放たれた銃弾は、幽霊の胸のあたりを通りすぎて、
背後にあった椅子に命中した。
幽霊は手を広げる。
「ウフフフフッ! 幽霊なのよ、私は。
体が、服が、透き通っているのをご覧になって?
・・・銃や剣が、効くわけないでしょう!
私はもう死んでいるのだから!」
幽霊の啖呵に、ロズワードの顔が恐怖で引きつった。
幽霊はその頰に指で触れる。
その冷ややかな感触に、ロズワードは今や恐慌状態に陥っていた。
「死んだ”誰か”に化けて出てこられるほどに、恨まれている自覚があるのなら、
償う方法を頭を振り絞って考えなさいな。
だって、その”誰か”が、あなたの首を刎ねてしまうかもしれないでしょう」
幽霊の指が、ロズワードの首の前をすっとなぞった。
ヒッ、とロズワードの口から小さく息が漏れる。
「そうならないように、頭を低くして生きなければね?」
よほど恐ろしかったのだろう、ロズワードは気絶してしまった。
幽霊はそれを冷ややかに一瞥する。
周囲の喧騒をよそに、その一角だけは恐ろしいほどに静かだった。
「幽霊! 幽霊のお嬢さん!」
サンジが思わず幽霊に声をかけた。
幽霊はハッと我に返り、振り返る。
「様子が変だ、らしくもない!」
幽霊は戸惑うサンジの顔を見て、瞬いた。
自身の言動を振り返っているようだった。
「・・・私いま、おかしかった?」
「ああ、知り合いだったのか・・・? 昔酷い目にあったとか?」
幽霊は静かに目を伏せた。
「どうかしら・・・でも、すごく、頭に血が上ったわ。
“天竜人”が、許せなくて。
あんな風に人を、口汚く罵ってしまうなんて」
幽霊は眉を顰め、自らの手のひらを見つめる。
「・・・私、昔はどんな人間だったのかしら」