ネガティブな幽霊


「おーい、お前じゃんかー!!
 おれだよ、おれー! あん時ゃありがとなー!!!」

ルフィはワニのケンタウロスの肩の上からローに手を振った。
はその横に浮かびながら、ローの出方を伺っている。

「あいつは、シャボンディのヒューマンショップで会った奴だな」
「トラファルガー・ローよ」

ルフィがロビンの言葉に振り返り
ワニの背に座る皆に頷いて見せた。

「そうそう、トラフォル・・・トラ男!!
 そうだった、あいつよー、”白ひげ”の戦争からおれを逃して、
 傷も治してくれたんだ!」
「傷を・・・!?」

初耳だ、と驚くそぶりを見せたロビン達に、
ルフィは再び前を向いて、言う。

「そうさ、ジンベエと同じように、あいつも命の恩人なんだ!」

ブルックがを気遣うように見上げた。

「・・・さん、彼で間違いないんですか?」

は胸に手を当て、目を細める。

「わからない、まだ・・・、でも、やはりどこか懐かしい、」

ルフィはワニのケンタウロスから飛び降りて、ローに近づいた。
はその様子をワニのケンタウロスのそばで見守っている。

ローはから視線を外し、挨拶に近寄ってきたルフィへと目を向けた。

「・・・よく生きてたな、麦わら屋。
 だが、あの時のことを恩に感じる必要はねェ。
 あれはおれの気まぐれだ。
 ――おれも、お前も海賊だ。忘れるな」

忠告するような言葉だったが、ルフィは屈託のない笑みを浮かべて見せる。

「・・・ししし!! そうだな。
 ”ワンピース”を目指せば敵だけど。
 2年前のことは色んなやつに恩がある。
 ジンベエの次にお前に会えるなんてラッキーだ。
 本当、ありがとな!!!」

ローはそれに無言で応じた。
がルフィの横へと移動する。

「・・・”ロー先生”」

その声は静かに雪の中に響く。
無表情に見えたローの顔色が、驚愕を滲ませたものに変わった。

「ん? お前ら知り合いじゃねェはずだったろ?」

シャボンディ諸島では、ローはを知らないと言っていたような、と
ルフィは首を傾げている。
はローから視線を外さぬまま、ルフィに答えた。

「・・・それを、確かめるために聞いているのよ」

は胸に手を当て、挨拶する。

「私の名前は
 2年前、シャボンディ諸島で”誰か”が私の名前を呼んで、思い出したの」
「・・・それが、どうした」

ローの声色は驚くほど冷たい。
だがその表情には迷いのようなものが浮かんでいるように見えた。

は首を傾げる。

「あなたではないの?」
「違う」

ローの答えに、は軽く眉を上げる。
は表情を読むことが苦手ではない。
ローは嘘をついているわけではなさそうだった。

「そう。
 ・・・でも、私は、”トラファルガー・ロー”という医師を、知っていたわ。
 私を治そうと、必死になってくれた少年のことを。
 長い間・・・忘れてしまっていた。新聞で、その名前を見るまでは」

後悔を滲ませたの目は真っ直ぐに、ローへと向けられていた。

「あなたなんでしょう、”ロー先生”」

ローは答えない。
は問い詰めるように続ける。

「あなた、2年前は私を知らないと言っていたけれど、
 それは、嘘だったのでしょう?」

の声は震えていた。

「なぜ、私に、嘘を吐いたの」

は欺かれることは嫌いだった。それが杜撰な嘘であればあるほど。

ローは帽子のつばを持ち、表情を隠す。
唇は引き結ばれ、何も答えない。

が業を煮やし、口を開きかけた時、声が響いた。

「スモーカーさんっ!!!」

振り向くと海兵らしき倒れた人影と、海軍が大勢押しかけているのが見えた。
ウソップが慌ててルフィとに叫ぶ。

「おい、まずいぞ! 海軍だ!!!」
「ああ、」

ルフィは頷き、海兵の顔を見て目を瞬かせた。

「ケムリン達じゃねェか!!」

は海軍の乱入で、会話の機会を逸したことに気づき、眉根を寄せる。

女海兵が倒れた人影の側により、何を見て取ったのか涙を浮かべ、
ローに斬りかかった。

「よくも!!!」

ローを中心に、薄い膜のようなものが広がる。
刀を抜いて空中を突くような動きを見せた。

「・・・鬱陶しいな」

ローが左手を返すと、突然女海兵がその場に倒れてしまう。

「たしぎちゃーん!!!」
「畜生、二度までも!!」
「スモさんも倒れてんぞォ!!!」

海兵たちが味方を傷つけられ声を荒げはじめる最中、はローを見た。
おそらく、ローは悪魔の実の能力を使ったのだ。

海軍から逃げようと、ワニのケンタウロスが走り出した。
ルフィもそれに続くが、はまだローを見ている。

まだ何も話らしい話が出来ていない。消化不良だ。

「ルフィ! ! 早くっ!!!」
「うん! 行くぞ、!!!」
「・・・ええ、今行くわ」

しかし時間も状況も待ってはくれない。
はルフィに返事をすると、ルフィとワニのケンタウロスを追いかける。
その背にローの声がかかった。

「・・・麦わら屋、研究所の裏に回れ。
 お前らの探し物ならそこにある。
 互いに取り返すべきものがあるはずだ」

は振り返る。

「今度は信じても良いのね?」

ローは頷いた。
は目を眇め、今度こそルフィの後を追いかけた。

! 早く来い、海軍から離れるぞ!!!」
「大丈夫かなケムリン達!! トラ男に敗けたのかな」
「・・・」

ルフィは心配そうに振り返る。

はブルックの横に座り、顔を俯かせた。
落ち込んでる様子のに、ブルックが声をかける。

さん、大丈夫ですか?」
「答えてはくれなかった。私の知りたいことは、何も」

顔を上げたは腕を組み、空を睨みながら頰を膨らませた。
わかりやすく怒っている。
 
「でも! あの人はロー先生だわ! 絶対に、そう!
 すっごく大きくなってるし、おヒゲとか生えてるし、
 刺青なんか入れちゃってるから、すぐにはわからなかったけど!
 ・・・なんなのあの変わりようは! すぐに分かれって言う方が無理だわ!
 昔は、もっと、」

 子供だった。屈託無く笑った。

は目を伏せる。

ローは病を克服したのだろうか、2年前も白い痣は見当たらなかった。
それを喜ばしいと思うのに、年月がローの何を育み、
何を削ぎ落としたのかを思うと、は暗澹たる気持ちになる。

死んでしまったのことなど忘れたかったのかもしれないと、
あの耐えるような表情を見て、考えずにはいられなかった。

は深く、深く息を吐く。
それでもは思い出したかったのだ。

「・・・絶対、問いただしてやるんだから!」
「ヨホホ! ほどほどに、お嬢さん」

ブルックは軽く肩を竦めて笑う。
何もかも、見透かしているように。



ローの言った通り裏口に回ると、
サンジ、ナミ、チョッパー、フランキーと合流することができた。

その上大きさが様々な子供たちや”生首”といった面子が増えている。
吹雪をしのげる場所に移動して、一味はひとまず状況を整理することにした。

ルフィが気に入っていた下半身だけの生き物は”ワノ国の侍”だったらしい。
サンジの持っていた生首と合流して一味の皆を睥睨している。
胴がないので見た目はまだアンバランスなままだったが。

一味がパンクハザードへと上陸するきっかけ、
緊急信号はワニのケンタウロスへ部下から送られた信号だった。
侍がケンタウロスたちを斬ったことが全ての元凶だったのである。

しかし、それについては言い分があると侍は言う。

「拙者は行方知れずの息子、モモの助を救うべく、邪魔する者を斬ったまで。
 現に、見ろ! これだけの子供らが施設に閉じ込められていた!!
 きっとモモの助もまだ中に!」

巨大な子供達の一人も、サンジらに連れられて来たのは全員ではないと頷いた。
は顎に手を当てて、いぶかしむように眉を顰めた。

「子供を誘拐して、施設に閉じ込めていたと言うこと?・・・一体何のために」
「それもそうだが、問題は信号の後だろ、
 ・・・何が起きたんだ?」

ゾロの問いかけに侍は忌々しそうに奥歯を噛んだ。

「さっきの男でござる! 周りの者達が”七武海”と囃し立てていた」

ルフィは驚きの声をあげた。

「え!? トラ男か!? あいつ七武海になったのか!?」
「ええ、この2年で加入したのよ」

ロビンも知っていたらしい。
も新聞を流し見ていたので、ローが七武海になったことは知っていた。
海賊の心臓を100個、海軍本部へと届けた狂気の海賊として、
一躍ローの名前は新聞を騒がせていた。

「拙者、あっという間に体を3つに斬られ、
 頭は施設へ、胴は置き去り、足は何やら猛獣のエサになるところでござった」

は腕を組む。

「サンジ、ナミ、チョッパー、フランキーの精神も、
 彼の能力のせいであべこべになってしまったわ。
 トラファルガー・ローには、もう一度、会わなくては行けないわね。
 治してもらわないと、困るもの」
「本当よ!!!」

フランキーと精神が入れ替わっているナミが死活問題だと憤っている。
それを見ては苦笑した。
一味の間で外見と中身があべこべだと色々とやりづらい。

「とりあえず、頭にお面でもつけとくか。
 そうでもしねェとおれたちが混乱しちまうよ」

ウソップが見事にそれぞれの特徴をつかんだイラストのお面を作り上げ、
サンジ、ナミ、チョッパー、フランキーにつけさせていると、
鎖で縛り付けていたワニのケンタウロスが騒ぎ出した。

「ちゃひげ〜?」
「そうだ、聞いたことあるだろう。おれの昔の通り名だ」
「知らねェ」
「何だとてめェ!!!」

ルフィににべもない言葉を投げかけられ憤慨する茶ひげに、
ゾロが首を傾げる。

「どうした、さっきまで固く口を閉ざしてた男が・・・」

茶ひげは不敵な笑みを浮かべ、ルフィとゾロを見下ろした。

「ウォッホッホ!!! お前らもうすぐ殺される。
 ローがおれを助けに来てくれるからな。
 おれは”最悪の世代”の海賊達が大嫌いだが、ローは別だ」
「最悪の世代?」

2年前シャボンディ諸島に会した11人の億越えルーキーに、
黒ひげを加えた12人を”最悪の世代”と呼ぶのだと茶ひげは語る。

白ひげ亡き後、新世界に飛び込んで海を荒らし回り、
起きる大事件の渦中にいるのはこの世代の海賊達。
茶ひげの海賊団を壊滅させたのも、
最悪の世代の一人、バジル・ホーキンスなのだ。

「奴から命からがら逃げ出して、たどり着いたのがこのパンクハザードよ!」
「・・・あなた、この島が何なのか知っているの?」

が問いかけると、茶げは興が乗ったのか嬉々として頷いた。

「もちろん。その昔は緑が青々と茂る生命の宝庫だったと言う」
「ここが?!」
「見る影もねェな・・・」

茶ひげはパンクハザードの成り立ちを話し始めた。

ロビンが予測した通り、パンクハザードは元々政府の科学者、ベガパンクの実験施設で、
”兵器””薬物”の開発実験が繰り返されていた。
監獄がわりに囚人達を連れて来て、人体実験なども行われていたのだ。
しかし、4年前、ベガパンクが化学兵器の実験に失敗し、
3つあった研究所の2つが吹き飛んだ。
ルフィ達が今いる場所がその研究所跡なのだ。

「どうりでめちゃくちゃなわけだ」

雪の中に広がる荒れ果てた景色に目を向けて、ゾロが呟く。

実験失敗時の爆発は高熱と有毒物質を撒き散らし、島の命という命を奪い、
政府は実験体の囚人達を置き去りに、島を完全に封鎖したのだと、
茶ひげは沈鬱な表情を浮かべた。

残された囚人達は残された研究所に立て籠もり、
島中に立ち込める毒ガスから身を守っていたそうだ。
死ななかった者達も、強力な神経ガスのせいで主に下半身の自由を奪われ、
やがて訪れる死を待つしかない状況だった。

茶ひげはそこまで語ると顔を上げた。
その顔には、希望のようなものが浮かぶ。

「そこに降り立ったのが、我らが慈悲深き”マスター”だ!
 彼は特殊な能力で島中の毒ガスを浄化し、歩くこともできなくなっていた囚人達に
 科学力の足を与え、部下として受け入れてくれたんだ!!!」

「うおー! マスター!!!」
「マスター!!!」

チョッパーとフランキーがマスターの優しさに心打たれて思わず叫んでいた。
茶ひげは涙を浮かべながら、今度は自らの過去を語る。

「おれがここに上陸したのはそれから1年後、2年前のことだ。
 まだ有毒物質がかすかに残り、息をすれば吐き気がした。
 ・・・そこに現れたのがおれと同じ足を失った元囚人達、そして、マスター!」

今でも思い出せるのだ、と茶ひげは笑みを浮かべて言った。

「おれも同じくマスターの優しさによって命を救われた。
 同志達の足を奪ったベガパンクが悪魔なら、マスターは心優しき救いの神だ・・・!」

「さらに数ヶ月前のことだ。
 2人目の救いの神、”七武海”の称号を得たトラファルガー・ローが島にやって来た」

歩くことのできなかったマスターの部下達に、ローは悪魔の実の能力で足を与えたのだ。
生きた動物の足を接合することで、自由に歩けるようにしたらしい。

それを聞いて、ルフィは笑みを浮かべる。

「やっぱりトラ男はいい奴なんだ。おれも助けて貰ったしな」
「研究所で見た羊足の奴らはあいつの能力か、」
「ケンタウロスも鳥女も・・・それで納得だ。
 ん? 待てよ、ドラゴンは?」

ウソップが首をひねった。

「あれはベガパンクがこの島の護衛にと作り出した人工生物だ」

茶ひげの話によると天竜人が気に入って名前もあったらしい。
しかしその肉は今となっては大部分がルフィの腹に収まっている。

は「何気なく問題なのでは」と思ったが、
「凶暴だから逃げることだ」と忠告した茶ひげにしらばっくれるゾロをみて、
聞き流すことにした。
おそらくそれほど重要な事柄でもないだろう。

パンクハザードの骨子を語り、皆を脅しつけるように茶ひげは笑う。

「とにかく、この島で誰が偉いかわかったな?
 今や誰も寄り付かねェ、この”パンクハザード”は我らがマスターの所有地だ。
 喜べ! マスターは今日も人類の未来のため、研究を続けられている。
 そのために僅かばかり必要な、”実験体”にお前達はなれるんだ!!!
 決して逃げられやしねェぞ!! ウォッホッホ!!! 」



茶ひげの話でパンクハザードの成り立ちを知った一行はそれぞれに動き出す。

サンジとゾロ、ブルックは自身の”胴”を探しに行った侍を追いかけ、
ナミは一刻も早く元の姿に戻りたいと言い、
チョッパーは子供達の病気を改めて診察する。

そして身の振り方を考えようと提案するウソップだったが、
急に苦しみ出した子供達にそれどころではなくなってしまった。

子供達は頭を押さえ、気分が悪いと倒れ伏していく。

「でけェ奴ら中心に倒れてくぞ・・・!?」
「どうなってんだ?」

慌てふためく一味の中で、ナミがチョッパーに声をかけた。

「チョッパー、いま検査してたんでしょ!?
 この子達本当に病気だったの!?」

「・・・違う」

チョッパーは血液検査の結果の出たフラスコを睨んだかと思うと
首を横に振り、子供の1人に問いかけた。

「お前達、今欲しいものはないか?
 いつもこの時間何してる?」

子供は検査の時間の後、キャンディをいつも貰っているのだと答えた。
その答えを聞いて、チョッパーの顔色がみるみる変わっていく。

そして、縛りつけられた茶ひげに詰め寄ったのだ。

「茶ひげって言ったか!? お前は何を知ってるんだ!?
 この子達は病気なんかじゃない!!!」

茶ひげは訝しむように眉を上げた。

「何言ってる、おれは外回りで研究所内のことはそう詳しくはねェが、
 そのガキどもは難病を抱えていると聞いている!
 慈悲深いマスターはわざわざ他の島からそいつらを預かって、彼の製薬技術で
 治療を施している愛の科学者だ!!!」

は苦しみ出した子供達を戸惑うように見つめた。

「たった一回治療を受けられないだけで、こんなに苦しむことって、あるの?
 それほどの、難病だと言うこと・・・?」

チョッパーは憤りを隠せずに叫んだ。

「違う!!!」
「チョッパー、どうしたの!? 何かわかったの?」

チョッパーの剣幕は普通ではなかった。

「『NHC10』子供達の体内から出てきた。
 微量だけど、これは、『覚醒剤』だよ!!!」
「!?」

その場にいた誰もが息を飲んだ。
は苦しみに喘ぐ子供達を振り返る。

「なら、この症状は中毒!? でも、治療でそんなになるまで使うことは・・・」
「ああ、まずないよ! この子達はこれを少しずつ体に取り込み続けて、
 もう慢性中毒になってる! この苦しみから逃れるために次の薬を欲する!
 何のためにだ、こんな子供に!!!」

しかし、チョッパーの中で結論は出ていた。
そして、皆も同じ答えにたどり着く。
 
「研究所から逃がさないためか?!」

どんどん子供達が倒れていくのに、皆慌てていた。
チョッパーは中毒の元であるキャンディは
もう二度と食べさせてはならないと言う。

しかし、子供の1人がキャンディを求めて暴れ出した。
近くにいたルフィがパンチをくらい、吹き飛ばされる。

「なんて腕力! 大丈夫なの、ルフィ!」
「巨人族の子供なら腕力もあれくらいあるだろう!」

ルフィがゴム人間でなければ骨が砕かれ死んでいた、
それほどの威力だが、体が大きく、力も強い巨人族ならば
子供であってもあり得る話だ。
だが子供の1人が首を横に振る。

「シンドは巨人族じゃないよ!!」

連れてこられた子供は元々は普通の大きさだったのに、
研究所にいる時間が長い子供ほど、体が大きいのだ。

それを聞いて、チョッパーは愕然と呟いた。

「普通の人間が巨人族のようになる病気なんかないよ・・・、
 じゃあ、脳下垂体のホルモンが、異常高進してるのは元々じゃないんだ・・・」
「チョッパー・・・?」

「この子達、”実験”されてる・・・!!!」

は血の気が引いていくのを感じていた。
子供を薬漬けにして、実験を行う人間がこの島に居るのだ。
おそらく、”マスター”と呼ばれる人間が、人類の未来のため、と大義名分を掲げて。

チョッパーは怒りに奥歯を噛み締めて、唸る。

ウソップが暴れ出した子供達を抑えるために、睡眠効果のある植物を撃ち出した。
植物から煙が吹き出し、子供達を眠らせていく。

煙が晴れれば、子供達は皆眠りに落ちていた。
ナミが静かに呟く。

「やっぱり、誘拐された子達だったのね」

「ルフィ、こいつら可哀想だ・・・!
 家に帰りたがってたし、親にだって会いたいだろう・・・、
 助けてやろうよ!!!」

ルフィは頷いた。

「んー、じゃあ全員親のところへ送り届けてやるか!」

あっけなく賛同したルフィに待ったをかけたのはフランキーだ。

「バカ! 簡単に言うな、問題は山積みだぞ!」
「そうね。それにまだ、全てが予想でしかない。
 元凶に尋ねなきゃ、何も確定しないわ」

ロビンも冷静に告げる。
がそれに、苦々しい表情を浮かべた。

「”マスター”ね」
「でも今、ゾロ、サンジ、ブルックは侍探しに行っちまったし。
 ・・・まーいいか。俺たちはさっきの研究所へ行こう。マスターに会いに!」

ルフィがそう言うと、がふわふわとルフィの元へ歩み寄る。

「ルフィ」
「ん?」

ルフィに、は静かに頼み込んだ。

「私は、トラファルガー・ローにもう一度会いたいわ。
 聞きたいことがあるの。
 彼が”マスター”と繋がっているのなら、研究所に行けば会えると思うから。
 ・・・もし彼と、敵対するのであっても、
 私に、話す時間をくれないかしら」

ルフィはしばらく首を傾げていたが、何に思い当たったのか頷いた。

「あ〜、そっか、おれはトラ男のこといい奴だと思ってるけど、
 そうじゃねェかもって心配してんだな」
「ええ。私だって、こんな心配したくないけど」

視線を彷徨わせたに、ルフィは眉を上げた。

「なんだお前。今日なんかネガティブだなー。
 らしくねェ! そん時ゃそん時だろ!」

呆れた様子のルフィがの肩をうっすらと覇気を纏わせた手でバシバシ叩く。

「・・・ウフフ」

は苦笑してみせ、そっとルフィの手を避けた。
そのごまかすような顔を見て、ルフィは不満げに頬を膨らませる。
しかし、ルフィが何か言う前に、フランキーが話に割って入った。

「どのみち精神が入れ替わっちまった4人は、
 トラファルガーに会わなきゃ元に戻れねェだろう」
「そのままでもいいけどな。面白ェし!」

あはは、と呑気に笑うルフィだったがナミは
「絶対に嫌! 変態のままでいたくない!」と抗議していた。