哀れ? 彼女は娼婦 01
ドフラミンゴが幼い椿を手折るまでの顛末
その日、ドフラミンゴは酷く疲れていた。
一日が悪夢によって始まってしまったというのがその要因の最たるものだったに違いない。
かつて味わった屈辱の記憶というのは例えるのなら泥沼である。
這い上がった今でもその足には泥が染み付き、足取りを鈍らせる。
あるいは火傷や古傷でもある。
雨が降ればじくじくと痛み、なぞれば他の肌に比べ敏感にその感触を伝えてくる。
つまりその日のドフラミンゴの目覚めは最悪だったのだ。
起き抜けに気付けとして飲んだ強い酒はそれなりに高い代物ではあったが、
ドフラミンゴの気分を転換させるには値せず、それどころか恐ろしく彼の具合を悪くさせた。
さらにドフラミンゴにとっては都合の悪いことに、銃火器の取引相手が金を持ち逃げする事態が起こった。
激怒して直ちに処理、後始末はしたが、収益が損なわれることはやむを得ない。
ドフラミンゴが苛立ちを隠せず
その口元に浮かべている笑みに不穏な物が混じれば、
家族と呼ぶドフラミンゴファミリーの幹部達は必要以上に近づいては来ない。
気遣いは不要であることは長年の経験で知っているのだ。
ドフラミンゴはこういう場合は適当な女でも買い、
夜通し快楽に身を浸してしまうのが良いと知っていた。
歓楽街、夜の闇の深い、きらびやかな街に一人で足を踏み入れたのも、
そう言うわけである。
歓楽街は道ばたでも女達の香水と化粧品の安っぽい香りが鼻についた。
ドフラミンゴは勝手知ったるさる娼館、”ホテル・プリメーラ”に足を踏み入れる。
内装は豪華絢爛、大理石ときらびやかなシャンデリアに
あちこちで生けられる季節の花々もドフラミンゴの気分を上向かせはしない。
「ご機嫌麗しゅう、ドンキホーテ様」
「ああ、今日は客として来た」
店主はみかじめを徴収にきたのかとひやひやしたはずだが、
そんなことはおくびにも出さず、ドフラミンゴの簡素な返答に頷いた。
この、若かりし頃はさぞ女達を虜にしたであろう
甘ったるい顔立ちの紳士風の店主がとんでもないゲス野郎なのを
ドフラミンゴは知っている。
「ご希望などあればお申し付けください」
レストランのメニューのような、女の名前と特徴が書かれたリストを渡される。
ドフラミンゴはぱらぱらと目を通し、
一番最後に書かれた女の名前を指差した。
店主は少々面食らった様子であったが、何も言わなかった。
ドフラミンゴの指差したという名の女は序列で言えば一番下っ端で、
この高級娼館でも一番安い女である。
普段は一番高い高級娼婦を侍らすドフラミンゴだが、
女を抱き殺してしまいかねない程の自身の機嫌の悪さに気づいてもいる。
店主も同様だ。
なるべく高級な商売道具を失いたく無いのはお互い様なのだ。
だから店主は恭しくお辞儀をして、シンプルな真鍮の部屋の鍵を渡して受付へと戻る。
椿の部屋まではそう遠く無かった。
赤い絨毯の敷かれた廊下を進むと壁紙の花が何度か変わる。
ドフラミンゴはこの贅沢の過ぎた、ある種醜悪な建物に辟易としながら、
椿の花があしらわれたドアの鍵を回し、開けた。
女が一人、こちらに背を向けて座っていた。
ゆっくりと振り返った女の瞳が少しだけ見開かれたように見えたが
その挙動にさして興味は涌かない。
ドフラミンゴは吟味するように女を眺める。
黒い髪に濃い紫色の大きな瞳、唇は艶やかに赤く、肌は発光するように白かった。
纏う黒いレースのネグリジェが良く映えている。
だが、ドフラミンゴは軽く目を眇めた。
若過ぎる。
歳の頃は12、3だろうか、
あと数年も経てば酷く美しくなるであろうことは想像に難く無いけれど、
どこか少年のような雰囲気さえ漂わせる彼女は
ドフラミンゴの好みからは外れていた。
そう言えばリストにはろくに目を通しはしなかったか。
「お前、幾つだ」
「・・・先月12になりました」
しばし逡巡したのは正直に答えるべきか迷ったのだろう。
ドフラミンゴを見つめる娼婦、の目に、怯えの色は無い。
「へぇ、ならそんなに客はとってないのか。
この店の店主は12から店に出すんだったな?」
「あなたが初めてのお客様です。ドンキホーテ・ドフラミンゴ様」
ドフラミンゴは怪訝な顔をする。
露骨な嘘、ヘタクソな誘い文句だが、
それを口にしたは妙に自信に満ちていて、美しい。
「ヘタクソな嘘だな」
は座っていた椅子から立ち上がる。
末席であっても高級娼婦の端くれということなのだろうか。
取り乱すこともせず、ドフラミンゴの半分にも満たない背丈で
ドフラミンゴの顔を見上げる。
「嘘だと申されるなら、お試しくださいませ」
「お嬢ちゃん、そういうセリフはあと5年は経ってから言ってくれねぇか」
ドフラミンゴが幼子を相手にするようにしゃがみ込み、
と同じ目線になった。
「いいえ、ドフラミンゴ様」
は首を振った。
「私には”今”しかないのです。・・・失礼いたします」
断りを入れてドフラミンゴの頬に手を伸ばしたその仕草は確かに女のものであった。
「酷くお疲れのよう。おいたわしい」
眉を気遣わしげに下げるにドフラミンゴは笑った。
「フッフッフ、おれを慰めてやるってか?お前が?」
「ええ」
簡潔に返事をよこしたは微笑んだ。
「私の役目というのはそう言うものです」
大きい伏し目がちの、紫色の瞳が煌めいている。
紅の引かれた唇が弧を描く。
その顔を見て、ドフラミンゴはの好きにさせることにした。
12の小娘とは思えない媚態に好奇心が疼いたのである。
「フフッ、好きにしな」
腰掛けるとベッドがギシリと音を立てた。
幼い椿が大輪になるまでの顛末
驚くべきことに、は大いにドフラミンゴを満足させた。
気づけば10代の、セックスを覚え立てのガキのように行為に没頭し、
夢中になってを貪り、蹂躙した。
きめの細かい肌に乱暴に触れ、膨らみかけた乳房を揉みしだき、
小さな尻や細すぎる腰を掴んで揺すっていくうち
何かを考える余裕は途中から失われていたように思う。
はドフラミンゴのなすがまま、
その若い身体で欲望を受け止め、噛み締めているように見えた。
いつのまに眠ったのか検討もつかないが、
ドフラミンゴが目を覚ましたのは朝になっての事だ。
は身なりをすでに整えていた。
「おはようございます、ドフラミンゴ様」
愛想の良い声色だが、しかしすこし掠れている。
昨晩夜通し啼いていたのだから無理も無い。
レモンとオレンジの浮かぶ、
よく冷やされた水をから渡されるがままに飲めば、
驚く程気分と身体がスッキリしていることに気がついた。
を改めてまじまじと眺める。
「お前、若いのに大したもんだな」
ドフラミンゴの言葉に、はきょとんとあどけない年相応の表情を見せたが、
少し肩を震わせ、次の瞬間には声を上げて笑っていた。
「アハハッ、おかしなことを仰るのですね。ドフラミンゴ様。
私にはこれしか能がないのです」
「フッフッフッ、おれが初めてなんじゃなかったか?」
「ええ、初めてですとも」
は陶然と微笑んでみせる。
「私の心を揺さぶった殿方はあなたが初めてです、ドフラミンゴ様」
まっすぐ、恥ずかし気もなく言われた言葉は常套句に近いものがあるだろうが、
それでもドフラミンゴは気分が良かった。
「・・・また来る」
「いつでもお待ちしております」
ドフラミンゴがホテル・プリメーラをあとにし、
妙に新鮮な心地だと思い返していると、ある事実に思い当たった。
娼館の女と共に眠り、朝を迎えたのが初めてだったのだ。
いつもは途中で追い出していたか殺してしまっていたように思う。
ドフラミンゴは心底愉快だと思った。小娘の癖に、良い女だ。
※
「ナイトをっふ、シー、の6に、あっ、んんッ」
「フフフッ、ビショップを、b5だ。、次はどうする?」
「は、あっ、うぅ、も、わからな、わからないですッ、ぁああッ」
その小さな膣に陰茎を押し込んで抉るようにしてやると、
は恍惚の息を吐いて震える。
高級娼婦に相応しい教育を得ているはチェスを打たせてみても、
音楽を奏でさせても、政治の話をしてみてもそつなくこなすのだけれど、
やはり一番得意なことというのは男を悦ばせ、肌を合わせることなのだろう。
年齢に見合わぬ色気や媚態は、
実のところ自身が淫乱であるところが大きいのではないか、
とドフラミンゴは推察していた。
特にどろどろに蕩けた瞳で口淫するは大変に淫らでそそられる。
快楽に従順で、いつでもその手練手管でドフラミンゴから欲望を引き出し、
満足感を与え、心地よい眠りを捧げるにドフラミンゴは奇妙な愛着を覚えていた。
そして、そう思う男はドフラミンゴだけではなかったに違いない。
簡素だったベッドは肌触りの良いシルクのシーツがかけられ、広くなった。
何の飾りもなかった鏡台は金色の緻密な細工が施されたものに変わった。
さらには小さなクローゼットでは間に合わなくなったらしい。
衣装部屋を新たに調達したようだ。
ドフラミンゴがことあるごとにに服を贈るからだ。
故に、ドフラミンゴは が一度として同じ服を着ているのを見たことがなかった。
宝石も服もどんなものでも着こなし、はにかみながら
「ドフラミンゴ様は私を包装するのがお好きですね」と独特の言い回しをする
の顔がドフラミンゴは好きだったのだ。
そうこうしているうちにの名前はみるみるメニューの上の方に連ねられていったのだ。
最初は大した値段でなかったも、
今やグランド・オリゾン・タール、超高級娼婦の仲間入りを果たしていた。
「フッフッフ、、お前随分出世したじゃねえか」
「ドフラミンゴ様のご支援あればこそです」
事を終えて同じベッドに横たわるは純真ささえ漂わせてそう言った。
裸体にドフラミンゴの贈った金のアンクレットと
そろいのチョーカーを身につけたは男を悦ばすのが相変わらず上手い。
成長に伴って女性らしい丸みを帯びて来たの身体も
その魅力に拍車をかけているのだろう。
ドフラミンゴは不意にが常に側に居ればいいのに、と思った。
どういうわけか、と夜を過ごすと、驚く程深く眠れるのだ。
「うちに来る気はないか。身請けしよう」
は突然の提案に困惑しているようだった。
「とてもありがたい申し出、ありがとうございます。
ですが、その、私のようなものが侍ってはご迷惑ではありませんか?」
は娼婦のくせに嘘やハッタリが得意ではない。
どちらかといえば娼館に残りたいのだろう。
ドフラミンゴは並の娼婦ならば飛びつくであろう自身の提案を袖にされたことに、
怒りを覚えはしなかった。
だが理由は知りたいとも思っている。
だからの懸念を払いのけて見せた。
「迷惑だったら最初からこんな提案はしないさ」
は少し逡巡した様子だったが、やがてポツポツと話し始める。
「ドフラミンゴ様はもうお気づきかと存じますが、
私は生まれついての淫乱なのです。
この娼館に拾われる前、10を数える前、殿方を知る前から、
私の質というのはその様相を呈しておりました。
私の故郷でと言えば恐るべき毒婦、
淫魔の代名詞として噂が一人歩きしていると店主から伝え聞いております。
”サキュバス・”
”余りに女を泣かせていると、その噂を聞きつけてが来る”と」
ドフラミンゴは喉の奥で笑った。
の瞳の奥に影が落ちる。
夜の闇よりも深い絶望の色である。
背筋を甘く痺れさせるような、蠱惑的な顔だ。
「随分とませたガキだったんだなァ、一体全体、どうしてそうなったんだ?」
の頬に手を伸ばせば猫が甘えるように頬をすり寄せてみせた。
「この質は生まれつきだとは思うのですが、それが開花するきっかけ、
この私にそれらしいものがあるなら、
家庭教師の男が私の手を鞭で打ったことから始まるのかもしれません。
私はかつて良家の子女として生まれ落ちたのです」
の言葉にドフラミンゴはサングラスの奥で目を眇めた。
「家庭教師の男からは語学、数学を学んでおりました。
綴りや計算を間違えると乗馬鞭で指を打たれるようになったのは
いつからだったでしょう。それはもう痛くて、痛くて、
私は打たれる度に泣きわめいていました。誰だって痛いのは嫌いです。
彼は良くこう呟いていました。
”出来の悪い娘には痛みと共に教えるのが一番”だと。
私は必死に、ええ、それはもう必死に、寝るのを惜しんで勉学に励みましたが。
・・・結局のところ、私の成績が上がっただけで、根本的な解決には至りませんでした。
彼は私が間違えなくても鞭を振るうようになったのです。
そして打つ場所も、指から手の甲、手の甲から腕、腕から肩、
肩から腰、腰から尻へと、つまり、エスカレートしたのです。
彼は狡猾でしたから、傷を残すようなことはしませんでしたが、
そのかわりその瞬間だけは酷く痛む方法を愛しているようでした」
は嘲笑するような表情を作る。
ドフラミンゴはそれを見て、の心の奥深くに踏み入ったのを感じていた。
このような顔を見るのは初めてだ。
「幼心にも羞恥心と言うものはあります。
私は家庭教師が私に取る行動が”恥ずべきこと”なのだと分かっていました。
だから、誰にも相談出来ずに居たのです。
なぜ、このような理不尽な痛みを味わわなくてはならないのか、
私は一人で考え抜きました。
その時にはもしかして、私は頭のネジと言うべきものが飛んでいたのかもしれません。
痛みの他に、その時は明確な言語化の難しい感触、
快楽の兆しと言うものを感じ始めていたからです。
私はついに痛みと、その感触について考え、ある結論に達しました」
この話の結末がどうなるのか、がここに居る以上、
ドフラミンゴにはある程度検討は着いている。
それでもの声は美しく、
まるで寝物語でも子供に話しているようなうっとりとした声色で、
おぞましい物語を綴った。
「”あの醜く唾を飛ばし、私に鞭を振るう男は、私に同様に鞭で打って欲しいのだ。
なぜならアレはこんなにも気持ちが良いのだから”
そう思いました」
どろりとした空気にドフラミンゴは背筋を粟立たせる薄暗い興奮を感じていた。
これだからと話すのは飽きない。
「だから私は彼の作法を真似たのです。
まず、理由を作ることから。
あまりよくは覚えていないのですが、
予めヒビの入ったカップを渡して割らせたのか、
それとも今までのことを両親に言いつけると脅したのか、
とにかく、そのような理由付けをいたしました。
それから、私は彼の鞭を手に取って、鞭を持つ手の甲に口づけさせました。
彼が今まで私に強要したように」
醜い男が鞭を持つ少女に跪き、その手にキスをする、
酷く倒錯した絵面が脳裏に浮かんだ、
ドフラミンゴは一度口を休めたの頬を撫で続きを促す。
「彼は堪え性も無く、2発程鞭で打ったところ、あっけなく吐精いたしました。
それから彼と私の役割は逆転したのです。つまらない男でしたわ、とても。
でも私に、他人の欲望の形を的確に掴み、
その形をなぞり、愛でることへの欲望を目覚めさせたという一点において、
彼は優秀な教育者でした」
の瞳は絶望で潤んでいた。
「かくして欲望の輪郭を掴むようになった私は、気づけば周囲を巻き込んでいました。
身の回りの世話をするメイド、使用人。友人達。
私を可愛がっていた兄弟姉妹、父までも、私は自身の欲望と衝動の対象にし、
そして彼らを完膚なきまでに壊してしまいました。
・・・母だけが私の異常に気がついていました。
母だけが、まともで居られた。この店の店主に話しをつけたのも母なのです」
それは懺悔にも似た慟哭であったが、は笑っていた。
「私は、肉親をこの毒牙にかけた時、酷く落胆し、
心底絶望いたしましたが、それに勝る快楽と恍惚を覚えても居ました。
私はそのような女です。お側に置くには、質の悪い女です」
は一度目を閉じて、うっすらと目蓋を開く。
「ドフラミンゴ様、私の心を揺さぶり、奥底まで踏み入った初めての方。
私の淫蕩な本質で、あなたを困らせるのは堪え難いのです。
私はこの鳥かごに飼われているからこそ、
羽を伸ばし、歌い、あなたを癒すことができましょう。でも・・・」
はドフラミンゴの頬に手を伸ばした。愛おしむような仕草だった。
「きっと私は、強く望まれれば拒まないでしょう。
あなたのお側にいればやがて、あなたを困らせてしまうと分かってはいても」
ドフラミンゴは理解した。はやはり骨の髄からの淫乱なのだ。
だが不幸なことに、理性を捨てきれずに居るのだろう。
だからこそは絶望し、快楽にそのつま先から頭のてっぺんまで浸しているくせに、
より強い欲望を求めるのだ。何もかもを忘れたいがために。
ドフラミンゴと同じように。
ドフラミンゴはを引き寄せ、その頬に口づけ、背中に腕を回した。
「朝になったら起こせ」
絶望と愛着の果てに名前を付けるべきか、
ドフラミンゴはしばし迷うことにした。
は少しだけ震える手で、ドフラミンゴの背を撫でる。
「かしこまりました、ドフラミンゴ様、お休みなさいませ」
そして迷う間も、やはりと共に眠れば夢を見ることも無く、
素晴らしく晴れやかな目覚めを迎えることが出来るのであった。
椿、あるいはカナリア、籠を変えるまでの顛末。
一週間経った日の朝、は石畳に白いパンプスをつけていた。
横にはピンク色の羽をあしらったコートを纏う、金髪の大男。
は息を吐いて言った。
「そんなにも眠れぬ夜をお過ごしとは存じ上げませんでした」
「言ってなかったからなァ」
しばらくぶりの贅沢な買い物だった、と愉快そうに笑うドフラミンゴに、
買われた女、は頬に手を当てて困ったように眉を顰めた。
「すこし不安ですわ、何しろ、一人の殿方に操立てするのは初めてですもの」
ドフラミンゴはしばし耳を疑い、やがて腹を抱えて笑った。
流石は骨の髄からの売女である。
「フッフッフッフッ!!!安心しろよ。その必要は無い」
は目をぱちくりと瞬かせ、首を傾げた。
「お前には情報収集の役目をやる。
男に取り入って依存させ、お前に何もかもぶちまけさせろ。
そうして手に入れた情報を、おれに話せばいい。簡単だろう?」
は眉を跳ね上げた。
「おや、情婦にするつもりで召し上げたわけではないのですか」
「フフッ、それもいいかと思ったんだが、
・・・お前にゃ向かないだろう。そのうちファミリーの奴らに手を出しかねないしな」
は微笑んだ。
「随分と私の事を存じ上げていらっしゃる」
「フフ、そうだろう?」
ドフラミンゴはに目線を合わせるよう、いつかのようにしゃがんでみせた。
の白い頬に手を添える。
「だが、裏切れば許さない。
最後にはおれの元へ帰って来い、」
貼付けたような笑みをぬぐい去って紡がれた言葉に、
は紫色の瞳を見開いた。
「・・・まぁ、熱烈ですこと」
は頬を薔薇色に染め、その瞳を蕩けさせた。
「仰せの通りに、ドンキホーテ・ドフラミンゴ様」
「ドフィで良い。ファミリーはそう呼ぶ」
足取りも軽くトランクを持っては一歩を踏み出した。
頭のネジがぶっ飛んだ男と女が2人、
並んで歩いている光景なんて、この海ではそう珍しくも無い。
何しろ世は大海賊時代。
この世は悲劇と喜劇に溢れ、満ちているのだ。