哀れ? 彼女は娼婦 番外編 poison
※小ネタ※原作軸740話のあたり
※ロー氏が大変可哀想。
”ご機嫌麗しゅう、過去の亡霊よ”
ハートの椅子に縛り付けられていたローはドフラミンゴの言葉に首を傾げながらも、
麦わらが予想外の動きを見せているらしいことは把握した。
そして恐らく、それはローに取っては都合の良いことなのだろう。
ドフラミンゴがかつてなく苛立っている。
「なぜ”シュガー”を狙う・・・!?
偶然でなけりゃ、奴ら、この国の闇の『根幹』を知っていることになる・・・!」
そんな主の様子をみてベビー5がいつかのようにローをはたいた。
「答えなさい!若が聞いてんでしょ!?ロー!」
ローはその眼光でベビー5を黙らせる。いつかと同じやり取りに、
バッファローが呆れている様子だ。
ローは麦わらとの同盟はすでに解消されたと告げる。
「お前の言ってることはほぼ理解できねェ」
ドフラミンゴは鼻を鳴らした。
「ヴァイオレットがいりゃあ、瞬時に真実を見抜けるんだが」
ギロギロの実で人の心を見通すヴィオラ王女。その能力をドフラミンゴは買っている。
小人の反乱と言うことでリク王にその言葉の切っ先を向けようとした、その時だった。
扉を小さくノックするような、こつん、こつん、という音が響いてきた。
「昨夜からずいぶんと」
女性らしい声色が王宮に響く。
ローは背筋が粟立つのを感じていた。
この声、このむせ返る様な夜の気配はあの女だ。
「騒がしいと思ったら」
真っ黒なドレスに赤黒い羽のショールを腕に巻く女が一人、王宮のその部屋に現れた。
その紫色の瞳が夜空のようにきらめいている。
ノックするような音は彼女の履く洗練された形のハイヒールのものだったのだろう。
深いスリットから白過ぎるふくらはぎが覗いていた。
「懐かしい人をお招きのようね、ドフィ」
「・・・」
ドフラミンゴが僅かな感情を込めて女を呼んだ。
「さん、その・・・具合は大丈夫なの・・・?」
ベビー5が狼狽を隠せずにに問う。
は赤い唇を艶やかに微笑みの形に変えてみせた。
「今日はとても気分がいいわ。
うるさいでんでん虫だったけれど目覚ましにはちょうど良かったもの・・・。
それにしても、久しいわねえ、ロー。
随分見ないうちに精悍な顔立ちになったようで、なによりだわ。
幾つになったのかしら」
今にも人を殺せそうな視線で睨んでも、のその笑みは崩れない。
ローの視線から何か読み取ったのか、は沸々と声を上げて笑い始めた。
「あら、やっぱりそうなのね。私があのとき思った通り。
フフッ、アハハハハ!おかしいわ。とても!
こんな気分になるだなんて思っても見なかった!
フフッ、フフフフフッ!」
「なにがおかしい!」
ローが冷静さを失って吠える。
はぴた、と笑うのを止めて、表情の抜け落ちた顔でローを一瞥する。
「”哀れね”ロー」
「・・・!」
あの日、宝箱の中で聞いたのと同じ声だった。
「本当にあの男、人を縛り付けるのが、お上手だった。
だってあなた今も縛られている。
ふふ、今の状況のことだけを言っているのではなくてよ」
蠱惑的な笑みを向けられ、ぞわぞわと背筋を冷気が走る。
それと同じように、ふくれあがる殺意がに向けられる。
は嘲笑する。
「自由に生きろと望まれたのにね・・・。
ドフィだってあなたを泳がせ続けていた。
この13年間、あなたを追いもしなかった。
超新星ともてはやされ、七武海として名を上げた
あなたに接触する機会なんていくらでもあったのに。
ねぇ、その意味をちゃんと理解してる?
・・・結局あなた自由なんかじゃなかったわ。
気づかなかったの?」
ローはを睨む。
自分で決めたのだ、コラソンの本懐を遂げると。
それが自由でなくてなんだというのだ。
だが、の言葉はどこまでもローに揺さぶりをかける。
それがこの女の十八番なのだとわかっていながらも、ローは平生を保てない。
は舞台女優さながらに腕を広げる。
「あなたは広い広い鳥かごのなかに居るの。
飼われていることに気づかない哀れな小鳥。
見たいものしか見ずに、聞きたいことしか聞かないでいるのは
幸福だった?それとも辛かった?」
「黙れ売女!お前に何が」
思わず罵りの言葉を吐くが、は笑うばかりだ。
「なぁんにも?分かるわけがないじゃない!
それとも分かって欲しいとでも思ったの?
あは、アハハハハっ!」
哄笑するはその外見と裏腹におぞましい狂気を滲ませていた。
ローは内心で叱咤する。
飲まれるな。飲まれては終わりだ。
この女の狂気は普通じゃない。
「可哀想なロー。
でも大丈夫よ。私はあなたのことが嫌いじゃないわ」
が手を叩くと金髪の使用人らしい子供が何かを運んで来た。
ローはそれらが何なのかすぐに分かった。
見覚えがあるものばかりだった、それは医療器具だ。
注射器、メス、ピンセット、持針器、剪刀、鉤、開創器といった外科医が使うものから、
抜歯鉗子、骨膜剥離子、ヘーベルエレベーターと言った歯科医がつかうものまで幅広い。
ローの顔から血の気が引いた。
が”何をするのか”
それがローの想像通りなら、
今から味わうのは未曾有の苦痛だ。
「なんだ、、今日は医者の真似事でもしてみるのか?」
ドフラミンゴが揶揄うように笑った。
それを聞いてドフラミンゴファミリーの人間までも顔色を悪くする。
は、異常だ。
「ええ、ドフィ。
知りたいこと、聞きたいこと、好きなときに好きなタイミングで質問してあげて?
私は死の外科医と名高いお医者様に比べれば、
それは腕は落ちるでしょうけれど、大丈夫」
いつかと同じく、の目の奥で狂気と官能が渦巻いている。
それはかつてより濃度を増したようで、暗い影をの瞳に落とした。
「安心してちょうだい、苦痛を味わうのは最初のうちだけ。
痛みだってそのうち気持ち良くなるわ。
私はそんな人間を幾らだってみてきたの。本当よ」
つま先まで完璧に整った手が、選び取ったのはメスだ。
白魚の様な指先が官能的に、その刃の形をなぞる。
「そういえば、昔は手当を断られたわねぇ、懐かしいわ。
そう、あのとき出来なかった”続き”をするだけなの」
ノックするような音がする。ヒールが王宮の大理石を踏みつける音だ。
上気した頬に蕩ける様な笑みを浮かべたは、
それはそれは淫らで美しかったが、それ以上に本能的な恐怖を駆り立てる。
甘い声が囁いた。
「ねえ、ロー、お医者さんごっこ、しましょう?」