哀れ? 彼女は娼婦 birthday 2015
”あなたがいるから世界は素晴らしい”
思えば、多数で相手をしたことはあれど、多数を相手にしたことはなかったなと、
は脳みその端の、僅かに残る冷静な部分で考えた。
息が弾む。体中を手が這い回っている。
5人がを愛撫しているのだからたまらない。
口づけられながら乳房を弄ばれ、指で陰部をかき混ぜられながら首筋に唇が這うのを感じ、
指先を口づけられながら腹を撫でられる。
「流石にここまでやると邪魔だな、それにしても、フフ、良い顔だ、」
「んんっうっあ、あっ、や、もっ、おかしく、なる」
「おかしくなっちまえ、ほら」
ぱちん、とかるく尻を打ち付けられては震える。
どれが本物で、どれが偽物なのか、集中すれば体温や感触の差で分かるのだろうが、
もうめちゃくちゃになりつつある今、快楽に翻弄されてしまえば分かるまい。
※
ドロドロに乱れたは大変具合がいい。
ほどけてぐずぐずになった身体は温かく、柔らかく、何もかもを受け入れる。
欲望、破壊衝動も全てだ。
何もかもを壊したいと言う絶望をぶつけても、
ならその底なし沼のような肉体で飲み干してしまうのではないかと錯覚してしまいそうだった。
実際には、己の欲深さに絶望と諦観を覚えて自ら快楽に身を浸した弱い女であるというのに。
成長に従って、はその精神をますます狂わせているようだった。
その成果はドフラミンゴをしても”悪趣味で胸が悪くなる様な”ものであった。
極めて理性的な好人物がの手にかかればゴミクズの様な悪人になる。
人間の本質なんてそんなものだと突きつけるように、は人間を堕落させた。
善人を悪人に、強者を弱者に、痛みを快楽に、恐怖を喜びへと作り替え、
その反面、自身には名匠が作り上げた彫刻や絵画の如く気品ある美貌が備わっていく。
やさしげな眼差しで嘲笑し、甘い声で醜悪な言葉を吐き出すの成長は
ドフラミンゴファミリーにとって概ね歓迎すべきことであった。
では、ドフラミンゴにとっては?
その問いを向けてくるのが誰なのか、薄々勘づいていながらも、
ドフラミンゴは快楽に身を沈めることに没頭する。
夜が更けていく。
やはりと夜を過ごすと、悪夢を見ること無く眠れるのだった。
※
が目を開けると、部屋の主はどこかへ行ってしまっていたらしい。
奇妙な寂しさを覚えて伸びをする。
シーツがするりと、の素肌に沿って落ちた。
「ああ、また着る服を選ばなくては・・・。
ノースリーブも、デコルテが出る様なものも着れそうにないわ」
歯形、鬱血痕、青あざ。
の身体に刻まれた色濃い情交の痕を確認して、ため息を吐く。
昨夜はあまり機嫌の良く無かったドフラミンゴとその糸で作り出したブラックナイトとの
数人掛かりで夜通し攻められ、めちゃくちゃにされたのだ。
四つん這いにさせられ、銜えさせられる傍ら、
後ろから奥まで捩じ入れられるのは大変気持ちがよかったが、
その後が問題なのである。何しろ今日は特別なのだ。
入浴後、は少々衣装部屋で悩み、
白い襟付きのシャツと上品なプリーツの入った膝丈のスカート、
ストッキングに足を通した。
大きな鏡の前で息を吐く。
「まぁ、随分禁欲的な装いですこと」
夜会にはもう少しマシな格好をしたいものだと、
化粧品の中にコンシーラーを探すことにした。
※
新たな国王陛下の誕生日のお祝いは国をあげて盛大に行われた。
朝から晩まで王宮の外には露天が立ち並び、紙吹雪や花びらが舞い散っている。
音楽がかき鳴らされ、誰も彼もがドフラミンゴを祝っている。
王宮の食卓にはいつも以上に豪勢な料理が並び、用意されたワインボトルはどれも上等なものだ。
ジョーラやベビー5、シュガー、モネ、ヴァイオレットも着飾っている。
も袖付きのドレスを纏ってはいるが、どちらかと言えば地味な装いである。
それでもどこか華やいで見えるのに、ヴァイオレットは感嘆のため息を吐いた。
「、紫色のドレスなのね、素敵・・・」
「ふふ、あなたも深紅のドレスがよく似合っているわ、ヴァイオレット」
ヴァイオレットは笑みを見せてはいるけれど、内心は複雑だろう、とは目を伏せた。
ドフラミンゴからヴァイオレットの籠絡を命じられてはいるが、あまり効果は芳しく無いだろう。
ヴァイオレットはの本質を見抜いている。
こうして会話しているのも、王女として教育されてきたヴァイオレットにとっては
苦痛ではないだろうか、とは眉を下げた。
ヴァイオレットはそれに気がついていながら、何も言わなかった。
を好ましく感じる部分と、厭わしく感じる部分がヴァイオレットの中で渦巻いているのだった。
扉から待ち人が現れて、は挨拶をしに、とヴァイオレットと別れた。
「ヴェルゴさん、お久しぶり」
ヴェルゴは潜入先から一時的に戻って来ていた。
タイミングの問題で祝い事に参加出来ることは少ない彼だが、
今回はが是非と頼んでいたために、
こうしてドフラミンゴの生誕祭に参加することになったのだ。
サングラスで表情を隠したヴェルゴだが、その顔色は明るいとは言えない。
「、・・・本当にこれで良かったのか。
おれは未だに、分かりかねている」
「いいのよ。ドフィのためですもの、そうでしょう?
あの子は良い子にしていますか?」
「ああ、それは・・・問題ない」
の表情は柔らかい。
だがその奥に頑な意思を感じてヴェルゴは黙った。
の根底にあるのは、今、殺されても良いと言う諦観だ。
ヴェルゴも一度はの計略に賛成した身ではあるが、
下手を撃てば己も殺されかねないと密かに覚悟はきめている。
だが、ヴェルゴはを見ていると、不思議とそうはならない気がしてくるのだ。
※
ドフラミンゴが簡単に挨拶を行い、乾杯の音頭をとる。
談笑する皆をくるりと見渡して、がドフラミンゴに近づいた。
「お誕生日、おめでとうございます、国王陛下」
「フフフッ、ああ、ありがとよ、」
機嫌の良さそうなドフラミンゴには微笑む。
「僭越ながら私からお祝いを用意いたしました。
・・・気に入って頂けると良いのですが」
「えっ!?」
ベビー5が慌てている。
の贈り物は毎年あまりに突拍子が無いので、
前年ついにドフラミンゴが「もういい、気持ちだけで充分だ」
と言ってはいなかっただろうかと思い出したのだ。
記憶違いではない証拠に、他の幹部達は面白がっているようだ。
「ウハハ、おいおい、、こんどはどこの海賊を落として来たんだ?」
一昨年は海賊を一人で籠絡して部下か労働力にでもどうかと勧めてきた。
億を超える懸賞金の持ち主だったがに骨抜きにされており、
跪いてその脚に絡み付いてはに鞭で打たれている様は滑稽を通り越して哀れであった。
今はどうしているのだったか、思い出せないということはおもちゃにでもしたか、
適当な駒として使ったのだろう。
「ベヘヘ、それとも美術品か?意外とおまえそう言うのにうるさいからな・・・
んんー?でももう用意するなと言われていただろう?」
昨年は絵画、彫刻などの美術品だった。
国宝級の代物を集めて来たに出所を問うとさる島の貴族に譲ってもらったのだと言う。
嫌な予感がして新聞などで情勢を確認するとそのさる島の貴族とやらが
王家から国宝を盗んだ咎で処刑されていた。
その盗品がドフラミンゴの手元にあると知れれば返せと言われるのは目に見えているので
その後始末にグラディウスらが奔走していた覚えがある。
「・・・おれは誕生日からお前の贈り物の後処理に追われるのは
ゴメンだと去年も言っただろう・・・?」
ドフラミンゴが額に手を当てて唸るが、は微笑みを崩さない。
「ご安心を、後処理をするのも今回は簡単に済むでしょうから」
「おい、それはつまり若の手を煩わすのが前提ってことか・・・!?」
「誕生日プレゼントを何だと思ってんだイーン!」
グラディウスとマッハバイスが抗議するも、はどこ吹く風だ。
何を思ったかは扉を開け、誰かに声をかけたようだった。
「お入り、ジュニア」
の優しげな声にドフラミンゴは怪訝そうな顔をする。
大きな扉からにその背を押され、おずおずと顔をのぞかせたのは金髪の少年だ。
まあるいサングラスをかけている。
口を真一文字に結び、少し緊張しているようだ。
ゆっくりとのそばに寄る。
幹部も、その場に居る誰もが、
の突拍子もない行動に慣れているはずのドフラミンゴでさえ、
開いた口が塞がらなかった。
ドフラミンゴは少年に見覚えがあった。
いや、それどころではない。
幼い自分がそこにいるのだ。
「ねぇ、、このサングラス、とっちゃダメかな、ちゃんと見たい」
舌ったらずな声が場違いにも王宮に響いた。
が頷く。
「良いですよ、ちゃんとご挨拶できますか?」
「できるよ」
ちょっとムキになって、ジュニアと呼ばれた少年がサングラスを外した。
紫色の瞳が露わになる。
星空の色。深海の色。
の目だ。
その目がまっすぐドフラミンゴを射抜いている。
「はじめまして、ドンキホーテ・ドフラミンゴ様、
ぼくはジュニアと呼ばれてますが、まだ名前がありません。
あ、あの、・・・その、できるなら、ぼくに、名前をつけて、くれますか?」
練習したのだろう。挨拶は完璧だった。
お願いのところで緊張のあまりシャツを握る姿が愛らしい。
モネでさえ頬を抑えていた。それを横目で確認しながら、
ドフラミンゴは苛立ちを抑えて少年を呼んだ。
「・・・ああ、そうだな。
・・・こっちに来い"ジュニア"」
少年は不安そうにを振り返る。
は頷いた。
少年はドフラミンゴに近づく。
その目は喜びと不安に満ちている、薔薇色の頬の子供だった。
ドフラミンゴが少年と目を合わせるべく、しゃがみこんだ。
近くで見れば見るほど、幼い頃の己と瓜二つだ。
「いくつになる?」
「3歳です」
誰かが息を飲んだ。
少年は随分としっかり言葉を話す子供だった。
「・・・今までどこに居た?」
「ええと、ヴェルゴさんと、といっしょにいました」
ドフラミンゴが咎めるような声色で腹心の名前を呼んだ。
「ヴェルゴ」
「がどうしてもと言ったんだ」
睨まれたヴェルゴが肩を竦める。
は相も変わらず微笑みを浮かべている。
「はい。・・・ドフラミンゴ様はとても、いそがしい方だからと。
ないしょにして、おたんじょうびにごあいさつしたら、
とびきりおどいて、よろこんでくれるんじゃないかなってが言うから・・・」
ドフラミンゴを見上げて不安そうな少年にドフラミンゴは目を細める。
そうして、全てを黙っていただろうにようやく目を向けた。
「・・・」
「はい、ドフィ」
「おれの息子だな」
ドフラミンゴの言葉には微笑むだけだ。
ドフラミンゴはサングラスの奥で目を眇める。
「ご随意に」
「・・・どういう意味だ」
「幾つか懸念がありまして時間を置いたのです。
・・・私をその立ち位置に置いてよろしいのですか?」
ドフラミンゴが黙る。
幹部達も難しい顔をした。
つまり、国王の地位に就いたドフラミンゴに、突如として息子が現れたのである。
そしてその母親が問題なのだ。
はドフラミンゴの情婦だが、妻とするには厄介な女である。
ヴェルゴがの計略に乗ったのはこのことがあるからだ。
だが、そんな懸念もドフラミンゴの怒りを煽るだけだったらしい。
「お前、そんなことを気にしておれからガルサと過ごす時間を奪ったのか!」
ドフラミンゴがに怒鳴った。
びく、と少年が肩を跳ねさせる。
は一度大きく目を見開いた。
ドフラミンゴが憤怒の形相でを睨む。
怖がっているらしい少年の肩に置いた手は限りなく優しいというのに。
「おい、見くびるなよ。おれはお前がどういう女だか全て承知している!
今までだって好きにさせて来たろう、何が不安だ?何が不満だ?!
よりにもよって息子の存在を知らない間抜けにおれを仕立て上げやがって・・・!
おい、笑うな、怒ってるんだぞ、おれは!」
「フフ、フフフフ。ねえ、ジュニア!あなたの名前はガルサですって。
鷺という鳥を意味するの。フラミンゴに似ているのよ」
「ほんと・・・?!」
少年、いや、ガルサがぱっと喜色を滲ませる。何度も”ガルサ”と口ずさみ、喜んでいた。
ジョーラが思わず胸を抑えているのが目に入る。
は目を細めた。
「疑わないのですね。そっくりな子供を連れて来たとは思わないのですか?」
「お前は馬鹿か」
ドフラミンゴが頭を振った。
「こんなどこをどう見てもおれとお前にそっくりなガキが他人なわけねぇだろうが!」
そりゃそうだ、とドフラミンゴの幼少期を知る幹部達が頷いた。
「お前、どういう了見で名前も与えずに・・・!」
「・・・どういう立場に置かれようと、あなたに名前だけはつけて頂きたかったのです」
途中で言葉を遮ったにドフラミンゴは息を飲む。
普段なら絶対にしない動作だった。が微笑む。
ドフラミンゴの側に居たガルサを手招きすると、ガルサが小走りでの横に立った。
その肩を抱いて、が口を開く。
「喜んでいただけたかしら」
「びっくりしたでしょう?」
微笑み方は母親に似たらしい。
悪戯っぽい笑みが二つ並んで、ドフラミンゴはため息を吐いた。
※
「ねぇ、本当に3人で眠ってもいいの?ぼく、邪魔じゃない?」
「・・・、どういう教育をしたんだ?」
「ドフィ、私は極めて常識的な教育をしたわ。少なくとも頭のネジを抜くような真似はしてないですよ」
思いのほかまじめな返答があったのでドフラミンゴは内心で胸を撫で下ろす。
「でも、そうね、猫かぶりは上手だったわね、ガルサ。
いつもの感じでしゃべっても良いですよ」
「・・・ほんとに?」
「ええ、きっとドフィもいつものあなたが見たいはず」
ガルサがドフラミンゴを見上げる。
「・・・なぁ、おれはアンタをなんて呼べば良い?」
こどもらしい無邪気さが抜けている。
ドフラミンゴはガルサをまじまじと見つめ、次第に、肩を震わせ笑い出した。
「フフッ!確かに猫かぶりが上手いな!誰に似たんだ?」
「わかんない。ヴェルゴにはうそつかれたことないし。はそういうの下手だもんね。
一度母さんじゃないってうそ吐かれたんだよ。ほかにこんな目のひといないのに」
「フフフッ、コイツが嘘つけねぇのは昔からだ。だが黙ってることはできたらしいな」
じとり、とを睨んだドフラミンゴに、ガルサは頭を振った。
その仕草はドフラミンゴそっくりだ。
「あんまりいじめないでやってくれよ。割とまじめに悩んでたみたいだから。
産もうか産むまいかにはじまり、会わせるか会わせないか。
まともにそだてるべきか否かとか。そんなのアンタにきめてもらえりゃすぐなのにな」
「ガルサ。余計なことを言わないの」
「おれだって父さんにあってみたかったんだ。けっこうがまんしたんだよ、おれは。
うーん、やっぱりしっくりこないな?
ドフィって呼んでもいい?みんなの前では若様ってよぶからさ」
生意気な口でかわいいことを言う。
肯定する意味を込めてくしゃくしゃと頭を撫でると、ふふ、と小さくその口が笑った。
※
「フフ、寝てると本当にガキのころのおれだ。
・・・、おれがコイツを殺すとでも思ってたのか?」
「そうですね、どちらかと言えば、あなたがガルサに依存してしまう方が恐ろしかった。
時期が時期でしたもの。今思えば、無用な懸念でしたわね」
3年前。コラソンが死んで1年経つか立たないかの時だ。
精神的に荒れていたのは否定出来ない。
意外にも納得出来る理由を口にしたに内心で驚く。
は白痴美のようなものを漂わせているのと、
その狂的な淫乱のせいでつい忘れがちになるが、
まともな教育を受けているし、冷徹な、頭のキレる女である。
がドフラミンゴに隠し事ができたという事実と、
がなんとしても子供を産み落としたがったと言う現実が
ドフラミンゴの思考を少なからず揺さぶったのだった。
「・・・写真とかねぇのか」
「ヴェルゴがもの凄い枚数を撮ってたわ」
「」
「なぁに、ドフィ」
「次は黙っていてくれるなよ」
「あら、次があるのですか」
はカラコロと笑った。
「お誕生日おめでとうございます、ドフィ。
あなたが生きていてくださるおかげで、
私、とても充実した人生を謳歌出来ているのです」
ドフラミンゴがの頬を指で撫でる。
満ち足りた、どこか脆く温い感覚がドフラミンゴを包んだが、
それでもに一言言わねばならないとその唇を開いた。
「その気持ちだけで充分だ。
誕生日プレゼントはもういい。金輪際くれるな」
「フフ、フフフフッ!
肝に命じておきますわ、フフッ、アハハハハ!」
笑い事じゃない。
まさか3歳になる息子が誕生日プレゼントだなんてありえないだろう。