幽霊のスピーチ


ドレスローザから王が消えた次の日、
ドレスローザ、そして近隣諸国のモニターに、一人の女性の姿が映った。

奇妙なことに、映像は彼女だけが色を失ったモノクロだった。
彼女が背にした壁は薄い水色だったというのに。

『もう映ってるのかしら・・・、さて、』

バストアップで映る彼女は小さく咳払いすると、やがて落ち着いた様子で喋り出した。

『ドレスローザの皆様、また近隣諸国の皆様、ご機嫌よう。
 私は”麦わらの一味”の海賊ドンキホーテ・
 一つ、重要なお知らせを皆様にお伝えするわ、
 ああ、それと、ちょっとショッキングな映像が流れるから、ご注意を』

は膝に抱えていたのだろう、ドフラミンゴの首を掲げて見せた。

『我が兄、ドレスローザ王国国王、王下七武海ドンキホーテ・ドフラミンゴを討ち取りました。
 この通り、首を刎ねちゃったわ! ウフフフフッ!』

は何が面白いのか朗らかに笑っている。
ドフラミンゴの首は何か物言いたげに口をへの字に曲げているが、
に気にするそぶりもなく、生首はすぐに画面からフェードアウトした。

は小首を傾げてみせる。

『そういうわけで、今ドレスローザは王様が不在なのよ。
 誰が統治するか、あるいは王政を撤廃するか・・・色々選択肢はあるでしょうけど、
 その辺りはドレスローザ国民の自由ということになるのかしら、
 ・・・そうね、もしも王様を頂くのなら、余計なお世話だと思うけど、
 少しばかりのアドバイスをしましょう』

生首を抱えていたときもの表情にはどこか可愛らしさが残っていたが、
まぶたを閉じると、それが消え去った。
顎を引き、居住まいを正したが目を開く。

『”我々が貴族たるには、高貴なる者であるためには、課される義務を果たさなければならない”』

口を開いた瞬間、雰囲気が一気に変わった。

『”王たるもの民草のために私財を投げ打ち、
 世界の危機とあれば真っ先に戦場に立ち、民草を守り、
 社会の規範となるべく、務めなくてはならない”』

思わず聞く側も背筋を正さずにはいられないような、そんな言葉だった。

『”我々が民草から血税を吸い上げ、権力を示すべく絢爛な衣装をまとい、
 住まいを豪奢に整え、血をつなぐのは、全て世界の民のためである。
 断じて己の私利私欲のためではない”』

理想を見つめるような眼差しに、放送を聞く誰もが息を飲んだ。

『”大いなる力には、大いなる責任が伴う”』

貴族とは、王族とはどんなものかを滔々と語ったには、
その時確かに、人を統べるに相応しい風格が備わっているように見えた。

しかし、はクスクス笑いだす。まるで自分の言ったことを笑い飛ばすように。
纏っていた凜とした雰囲気はたちまち霧散した。

『そういうことをちゃんと分かってる人が国を治めればいいんじゃないかしら?
 どれだけの王侯貴族がこの規範を守ってるかは全然定かじゃないし、
 私は頼まれたって絶対嫌だけれど!』

誰かが小さく「おいおい・・・」と言っているのが聞こえた。
はそれから、と前置いて話を進める。

『一応言っておくと、今ドレスローザには海軍大将が来ているので攻め入ろうとするのは愚かだと思うわ。
 治安の維持も彼らの仕事だもの・・・え? だったら私たちを捕まえるだろうって?
 まぁ! 正義の味方って国の一大事と一海賊と、どっちが大切なのかしら?
 大体、優秀な海軍なら今じゃなくってもいつでも私たちのこと捕まえられるんじゃない?
 優先順位は間違えないで欲しいわね?』

が海軍に釘をさすと、走るような足音が近づいてくる。
それからドアを激しく叩くような音。

はそれを聞いて口元に手を当てた。

『あら、もうそろそろ逃げないとまずい?
 ではドフラミンゴ政権と”色々な”取引をしていた方々にも一言申し上げるわ、”ご愁傷様でした”』

全く「ご愁傷様」などとは思っていなさそうな明るい笑みを見せた後、
は緩やかに手を振った。

『ウフフ、それでは皆様良い一日、良い人生を!
 ・・・ねぇ、もしかしてこれって心霊映像だったりする?』

誰かの『どうでもいいわ!』と言う切れ味の良いツッコミが入り、映像は途切れた。



ドレスローザに派遣された海軍の拠点には半分倒壊した教会が使われた。
崩壊したドンキホーテ・ファミリーの幹部たちがある者は海楼石の錠を嵌められ、
ある者はどういうわけか生きたままバラバラにされた状態で捕えられている。

その中の一人を呼びつけ、ヴィオラは記憶を見せつけた。
ドレスローザを完膚なきまでに叩きのめした、ドンキホーテ・の演説を。

「この映像が世間に流れた上に、
 藤虎がドフラミンゴを王にしたことを土下座してお父様に告げたものだから、
 ドレスローザだけでなく、世界が混乱しているわ。この目で見通すまでもない・・・」

「それで? これをおれに見せて、どういうつもりだ、”ヴァイオレット”」

わざわざヴェルゴだけにの演説を見せたヴィオラへ、
ヴェルゴは眉を顰めた。
ローにバラバラにされたまま枷をはめられ、モニターの中の”相棒”と同様に
ヴェルゴの首もその胴体と分かたれてしまっているのもその不機嫌の原因の一つだ。

ヴィオラはかつての、忌まわしいとも言える呼び名で呼ばれても涼しい顔で応じてみせる。

「そうね・・・単なる八つ当たりよ、”ヴェルゴ中将”」

ヴィオラとは対照的に、ヴェルゴはますます不愉快だと言わんばかりだった。
その顔を見て、何か溜飲を下げたのか、ヴィオラは小さく息を吐く。

「彼女は根こそぎ奪っていったわ。何もかもを」
「怒りのやり場さえ奪われて、おれに当たっているのか。いい迷惑だな」

ヴェルゴの言うことを、ヴィオラは否定しなかった。
明確に答えないまま、ヴィオラは別のことをヴェルゴに尋ねる。

「それから、少し興味があって・・・。
 彼女をあなたは殺したでしょう、それも、2度も」

ステンドグラスのマリアがヴィオラの背中越しに色とりどりの光を落とす。
ヴェルゴはサングラスをかけたままだと言うのに、それが嫌にまぶしく思え、目を眇めた。

「どんな気分だったの?」
「・・・見通してみるがいいさ」

ギロギロの実の能力からは誰も真意を隠せない。
だが、ヴィオラは首を横に振った。

「あなたの口から聞くことが望ましいのだけれど」

ヴェルゴはヴィオラを見上げる。
逆光の中の眼差しに、挑むように答えた。

「・・・無駄なことだ、わからないだろう、お前には。
 どれほど言葉を尽くしても、どれほど言葉を探しても、
 あの感覚を表すことはできない」

1度目は死にひた走る彼女を見送った。
2度目はこの手で彼女の意識を奪った。

その時感じた手のひらの温度さえ、忘れていたはずの感情ですら
13年ぶりに現れた亡霊は蘇らせた。

「おれの心に土足で踏み入って視界を荒らそうとも、
 あの感触までは奪うことはできない」

その生々しい感触は、誰のものでもなく、ヴェルゴのものである。
たとえヴィオラが記憶を覗いたとしても、ヴェルゴの覚えた感情はトレースできない。

「この記憶はおれだけのものだ。
 せいぜい羨むがいい」

ヴィオラは瞬き、そして目を細めた。
ヴェルゴにとって腹立たしいことに、憐憫と同情が滲んでいる。

「・・・ええ、羨ましいわ。だけど同情もしてる。
 あなたはインペルダウンに送られたら、実らなかったものに縋るしかなくなるでしょう。
 あなたの視点の彼女はあまりに鮮やかだった。最初から最後まで完璧だった。涙の一粒まで。
 まるで呪いのように」

ヴェルゴはやけにその言葉が腑に落ちた気がしていた。
そう、何もかも根こそぎ奪い去ったが残したものは、まさしく”呪い”だったのだ。

「私はやり直せる。あなたはやり直せない。
 だから、そう・・・結局これは、八つ当たりなのよね」

ヴィオラは笑っている。
清々しい笑みとは言えなかった。諦観の混じった苦い笑みだ。
しかしそこにはどこか居直る様子もあった。

ヴェルゴはサングラスの下、目を眇める。

ヴィオラは呪われなかった。鳥カゴから解放され、未来は開かれた。
市井の人となることも、やろうと思えばできるはずだ。
しかし、ヴィオラはそれを選ばないだろう。王族としての自負のある女だからだ。

ヴェルゴは呪われた。
あまりに鮮やかな亡霊が胸のうちに巣食っている。
インペルダウンの苦痛と暗がりの中での慰めに、亡霊はヴェルゴの肩を叩くのだろう。

本来なら呪われなかったヴィオラを羨むのが普通なのだ。
しかし、かといってヴィオラが自分を羨むのを、
滑稽だと笑い飛ばすことも、ヴェルゴにはできなかった。

愛した男を殺せなかった女は、静かに部屋を立ち去った。
愛した女を2度も殺した男は、ただひたすらに沈黙したあと、小さく呟く。

「さようなら、2度と会うことのないよう、願っている」

懺悔にも似た言葉を聞いていたのは一人だけ。
ステンドグラスのマリアは俯き、微笑んでいる。



キュロスの家では簡単な夕食会が開かれていた。
はロシナンテに目を向ける。

「それにしても、なんで海軍は私たちを捕まえに来ないのかしらね?
 多分居場所の検討はつけられてるでしょうに」

ロシナンテはつい先ほど吹き出したコーヒーを拭き取りながら答えた。

「お前が『治安維持を先にしろ』って言ったから市民の目が気になるんだろう。
 その上藤虎はサイコロでおれ達を捕まえるか否かを決めてるらしいな。
 いや、どういう狙いがあんのかは知らねェが、船の調達にも時間がかかるから助かる・・・」

ホッと息を吐いたロシナンテにが手を叩いて喜んだ。

「あら良かった! 私勢いに任せて挑発しちゃったから、どうしたものかと思ってたのよ!」
「結局勢いだったのかよ?! こえェよ! 本当! いろんな意味で!!!」

演説に付き合わされたウソップは涙目である。
逃亡に付き合わされたローも腕を組んでため息を吐いているが、何も言わなかった。
そろそろの無茶には慣れ始めている。

キュロスが苦笑して、皆に声をかけた。

「まあ、明日には航海の準備もできるだろう。コロシアムの戦士達が要所で働いてくれている」
「ありがてェな、サニー号を先に行かせたんで困ってたんだ!」

フランキーが頷いた。
も感激したように微笑んでいる。

「兵隊さん、ありがとう、本当に、何から何まで・・・!
 特にドフィ兄さんなんか目に入れるのも嫌でしょうに、寛大に私たちを置いてくれて・・・!」

「いや・・・」

キュロスは困ったように頭を掻いた。
ドフラミンゴは生首の状態のままムッとした様子で口を噤んでいる。

確かに、最初はキュロスも難色を示さなかったわけでもない。だが。

『確かに生首はインテリアに向かないわよね! 悪趣味だわ!』
『透明にしたほうがいい? できるけど?』
『それとも海楼石の錠でもかけて拷問すれば溜飲が下がるかしら?』

などと笑顔で提案すると、それに抵抗できそうもないドフラミンゴを見ていると
どうも、妹に散々な扱いを受けているのを衆目に晒されるのが一番の罰らしいと、
気がついたのでそのままにしている。

ドフラミンゴはからの雑な扱いに耐えかねたのか、
煙草をふかすロシナンテに声をかけた。

「おいロシナンテ、このわがままな妹をなんとかしろ」
「残念。おれは大体の意見に賛成なんだよな。生首でも会話ができるだけ感謝しろよ」
「てめェ・・・!」
「ウフフフフ、わがままなのは兄譲りだと思うから我慢して欲しいわ!!!」

ロシナンテからの助け舟も期待できないようで、ドフラミンゴはため息を吐いていた。

ウソップが恐ろしい形相のドフラミンゴを見て「ヒッ!」と声をあげ、
ひたすらソーセージとハムを口に入れているルフィに目を配らせる。

「ルフィ・・・マジでドフラミンゴを仲間にすんのか・・・?」
「おう、がそうしてェって言うし、あ、そうだ。よろしくな! ミンゴ!」
「麦わら・・・」

ドフラミンゴの表情はよろしくするどころか、
もはや子供が泣いて逃げ出すような形相になっているが、
ルフィは全く気にならないらしい。

そのやりとりを見てフランキーは腕を組んだ。

「悪魔の実は使えねェとは言え、すげェ戦力だよなァ、生首から戻せるんだろ?」
「改めて考えると、そうよね」

ロビンもフランキーの意見に頷いている。
酒をあおっていたゾロは震え上がるウソップの肩に手を置いた。
まるで諦めろと言わんばかりである。

「まァ・・・仲間っつーか、捕虜っつーか、・・・とりあえずの管轄だ、ウソップ」
「ええー・・・」

やっていける気がしねェ、とウソップは険悪なそぶりのドフラミンゴを横目で見る。
は何に引っかかったのか頰に手を這わせ、首を傾げていた。

「でも、一応”麦わらの一味”に籍を置くわけだから、
 ルフィを”麦わら”って呼ぶのはちょっと不自然かもね。
 ドフィ兄さん、”ルフィ”って呼ぶのは嫌なの? ”船長”はどう?」
「・・・」

ドフラミンゴはからの質問に無言で返した。
どうやら気に入らないらしい。
は腕を組んで首を傾げてみせる。

「それが嫌なら”キャプテン”とか。・・・ルフィ、後は何があるかしら? ”お頭”とか?」

ルフィは齧っていたハムを飲み下すと、
の挙げた候補にお気に召すものがあったらしく、目をキラキラさせて笑った。

「おおー! いいなそれ! ミンゴ、お頭って呼べよ! シャンクスもそうだったし!」

恩人も”お頭”と呼ばれていたのだと屈託なく笑うルフィにドフラミンゴは短く舌打ちした。

「おい、調子に乗るなよ? 誰がお前みてェな小僧に、」

「あら、お兄さま? 今、何かおっしゃった?」

が微笑み、ドフラミンゴは黙った。
どうやらルフィの悪口は慎めと言うことらしい。

「ドフラミンゴ・・・」

ベラミーが葛藤と困惑の滲む表情でオロオロと視線を彷徨わせている。
見かねたようにローがを咎めた。

、あんまりドフラミンゴで遊んでやるな」
「ウフフ! こんな風に砕けて話せるのが楽しくて、つい」
・・・」

そう言って照れたように笑われてしまうと、ドフラミンゴも返す言葉がないらしい。
そんなやりとりを微笑ましそうに見守るロビンだったが、何かに気づいたのか扉に目を向けた。

「あら、客人だわ、多分ルフィの」
「おれ?」

ノックの後にドアの隙間から顔を覗かせたのはシルクハットを被った、金髪の男である。

「夕食時にすまない。ルフィいるか?」
「サボ!!!」

ルフィがテーブルを叩き、立ち上がった。

「最後に顔を見に来たんだ。
 もうそろそろドレスローザを発つから」
「ええっ?! もう行っちまうのか?!」

積もる話も山ほどあるのに、とルフィが膨れているが、サボは苦笑して首を横に振る。

「残念だが、『CP0』がここへ引き返しに来てる。
 狙いはおれたちだ」

「革命軍”参謀総長”サボ・・・」

ロシナンテが思わずといったように呟く。
それに瞬いたのはだ。

「え! ルフィ、知り合いなの?」

「兄ちゃんだ!」
「ああ、弟がいつも世話になってる」

ルフィは明るく答え、サボも朗らかにそれを肯定する。
その場にいた誰もが驚いていた。

「ええ?!」
「エースだけじゃなかったのか!?」

ウソップもゾロも知らなかった、と呟いている。
2年間の修行の最中、革命軍と関わりのあったロビンだけは知っていたようで、
落ち着いた様子を見せていた。

「初耳だ・・・」

フランキーの言葉に、サボは肩をすくめて見せた。

「だろうな。・・・一番驚いたのはルフィだろう」
「そうだぞ! たまげた! ずっと死んだと思ってたんだ!」

「!!」

ルフィの言葉に皆息を飲む。
サボはここまで話したなら、と口を開いた。

ルフィとサボとエースは、血が繋がった兄弟ではない。
サボは懐かしむように子供時代のことを語る。
3人で島中を暴れまわり。ルフィの祖父ガープにしごかれ、海賊を夢見て
兄弟の盃を交わした日のことを。
貴族に生まれたことを恥じ、家から飛び出して航海に出た矢先、
天竜人の乗る船から砲撃を受け、革命軍に助けられたことを。
そして。

「砲撃されたショックで、おれは記憶を失ったらしい。
 明白だったのは両親のもとにだけは帰りたくねェって強い想いだけ。
 あとは何も覚えていなかった・・・」

「”記憶喪失”、と同じ・・・」
「・・・!」

ゾロの言葉に、も息を飲む。
フランキーが気遣わしげに声をかけた。

「よく記憶が戻ったな」
「エースが教えてくれたんだ。今ではそう思う。
 ・・・タイミングは最悪だったが、だからこそ、あいつはおれを呼び起こした」

2年前の火拳のエースの死亡記事。
それがサボにとって、記憶を取り戻すトリガーだったのである。
確かにタイミングは最悪だった。生きての再会は叶わなかった。

だが、サボはコロシアムでメラメラの実を口にし、
悪魔の実の能力者となった。
まるでエースの意思を受け継ぐように。

サボは小さく息をつくと、ポケットから紙を取り出してゾロに渡した。

「ああ、あと、そうだ。
 これ。一応ルフィの『ビブルカード』作っといた。
 欠片貰っとくな」

「へぇ、いつの間に・・・」

ビブルカードは何かと重宝する代物だ。
ありがたく受け取った麦わらの一味にサボは微笑むとシルクハットをかぶり直した。

「じゃあ、おれは行くけど。
 お前達も可能な限り早く出航しろよ。1日2日でドレスローザは混雑する。
 にしても、ドフラミンゴを倒したのが・・・」

サボはへと目を向ける。
は瞬いた後、小さく微笑み首を傾げてみせる。

「私だったのが意外かしら?」
「意外中の意外だ。でも頼もしくもあるよ。おれの弟をよろしく頼む」

「ウフフ、言われなくとも!
 それにしてもルフィのお兄さんって心配事が絶えないんじゃない?」
「・・・お察しの通りだ」

揶揄うようなの言葉にサボは眉を下げて大げさに頷いてみせる。
それを聞いてルフィが頬を膨らませた。

「おい! サボも! どういう意味だ!」

サボは喉を鳴らすように笑う。

「ふふ、冗談だよ。でも兄貴なんてそんなもんだ。
 いつでも、下の弟や妹が心配なのさ、そうだろ?」

「まさかアンタに同情する日が来るとはな」とドフラミンゴに目を配らせたサボに、
ドフラミンゴは口角を上げた。

「・・・ああ、全くだな」

サボはドアノブに手をかけて、振り返る。

「それから、あの演説だけど、
 ・・・もしも、アンタの語る貴族がおれの周りにいたなら、」

サボがを見る目にはどこか、複雑なものが混じっている。
不思議そうに首を傾げたを見て、サボはハッとしたように首を横に振った。

「・・・いや、もしもの話はしてもしょうがねェな。キリがないから」

顔を上げたサボに、もう迷いは見えなかった。
気を取り直したように明るく別れを告げる。

「ほんじゃ、ルフィにゃ手を焼くだろうが、よろしく頼むよ!!」

「おう!! 任しとけ!!」

涙脆いフランキーは感激した様子で涙を流しながら、
ウソップは力強く頷いて返した。

「エースと似たようなこと言ってやがる・・・」

ゾロは思わずと言ったように笑い、
ロビンとは手を振った。

「お元気で!」
「またなーっ!!」

ルフィも一抹の寂しさを覗かせながらも明るく別れる。
次会うときに、また笑顔で出会えるように。