アガスティアの葉 03
夜。静まり返った部屋に小さな小さな声がする。
「ねえ、お兄さま、ごめんなさい」
「・・・どうした?」
ローは与えられたベッドから顔を出した。
枕を抱えた妹、がそこにいる。
「・・・眠れないの」
「しょうがないな。ほら、来いよ」
布団を持ち上げると、いそいそとがそこに入り込んだ。
はローに縋り付くように額をすり寄せる。
ローはの背中をさすってやった。
かつて、父が、母が、眠れなかったローにそうしてくれたのを思い出す。
ローには分かっている。
は、ローが眠れないのを察して、こうして側に来るのだ。
死体の山に埋もれた時、腐臭に塗れ、冷たい肉体が自身に纏わり付く気色の悪さに耐えられたのも、
爆弾を身体に巻き付けてドフラミンゴを脅した時でさえ。
の手が、ローの手を握っていたから耐えられた。
いつだって、ローを信じ、背中を押してくれる妹。
最悪の体験を分かち合った、愛おしい最後の家族だ。
だが、ローには時々、が全くの別人になってしまったのではないかと思う時がある。
自身もかつて裕福な医者の息子であった時と比べたら、
ドフラミンゴの言うように、変わってしまったのだろうが、
の変貌はそれを凌駕する。
無邪気な笑みは失われて久しい。
時折生意気な口をきくのは前からだったが、
最近ではローも舌を巻く程悪知恵が働くようになった。
人の顔色を伺うのも上手くなった。グラディウスもに目をかけている。
そして何より、はローの命を最優先するようになった。
ローを襲った銃弾の前に躍りでたことさえあるのだ。
そのときはコラソンが を蹴っ飛ばしてなんとかことなきを得たが、
ぽつりと呟いた、の言葉と、瞳が、忘れられなかった。
『お兄さまはともかく、私はなんで死なないんだろ、そうなってもおかしくなかったのに』
まるで、ローが助かって当然だと言わんばかりの口ぶりと、自分の命に対する諦観。
ローは思わずの手を引いた。
はきょとん、とした顔をして、ローの顔を見上げる。
『・・・、お兄さま?どうしたの?』
まるで先ほどの言葉なんか無かったみたいな表情。
聞き間違いなどでは決して無いはずなのに。
その不吉な言葉が頭からはなれないのだ。
目の前でうとうとと微睡むの顔を見つめて、ローは小さく囁いた。
「、お前がどんなに変わっても、おれはお前といっしょに居たいんだ。
・・・どちらかが死ぬまで」
ローの言葉に反応したのか、がうっすらと目を開いた。
「悪い、起こしたか?」
「・・・ローは死なないよ」
の手が、ローの頬を撫でた。
その手の甲には、珀鉛病の兆しが見える。
それでもは微笑んだ。
「それが、運命なの。きっとね」
反論しようと口を開いたが、は目を閉じて、こんどこそ眠ってしまった。
もし仮に、生き残ったとしても、が死んでいたのなら多分、最後の最後の糸がキレるだけだ。
全てを壊したい衝動に拍車がかかり、全て燃やし尽くした後に、きっと自分も燃え尽きる。
それだけなのだと、ローはそのとき思っていた。
※
「お兄さまって、あれだよね、・・・迂闊だよね」
「・・・うるせえよ」
「お前ら喧嘩するな」
「オイ、誰のせいだと思ってやがる!縄をとけ!」
縛られたローが抵抗しているが、コラソンは意に介した様子も無い。
ロー同様に縛られている私はため息を吐いた。
さっきまでドフラミンゴの船に居たはずなのに、今や小舟で海の上。
そこで口がきけないはずだった、コラソンがごく普通に喋って、煙草をふかしているのだ。
実のところ、私はコラソンが喋れることも知っていた様な気がしていた。
記憶は私にインスピレーションを与えてくれるが、断片的なことしか分かりはしない。
私が分かるのは、ローが何らかの方法で珀鉛病を克服し、大人になること。
そしてそのためにコラソンが尽力すると言うこと。
どういうわけか、ドフラミンゴが敵になること。
ドフラミンゴを倒すために、ローが苦難の道を歩くこと。
この4つが確定的な未来なのだと記憶は囁いていた。
巻き込まれた私はローとコラソンの会話を整理する。
「お兄さまがウチの隠し名を喋ってどういうわけかそれにコラソンが反応した。
コラソンは本当は喋れるし、ドフラミンゴの悪事を止めたいと思ってる。
お兄さまはコラソンの目的をドフラミンゴに話そうと思ったけど、
昔コラソンを刺したのを黙ってもらってたから自分も黙ってることにした。
・・・ここまであってる?」
「あってる」
「あってるな」
うんうん、と頷いたローとコラソンに、私は言葉を続けた。
「それで、なんでお兄さまの病気を治すとかそういう話になるわけ?コラソン」
コラソンはすぅ、と煙を吐いた。
「お前らがヤケを起こしてるのはそもそもその病気のせいだろう。
珀鉛病が治れば、お前達はただの仲の良い兄妹だ。海賊なんかになる必要は無い」
「・・・”海賊なんか”、ね」
「・・・そうだ、お前さっきでんでん虫してたな?『にんむ』とか何とか言って!
コラソン・・・、お前海兵じゃねえだろうな!?」
ローの追求にコラソンは淡々と返した。
「海兵は嫌いか?」
ローは唸るように答える。
きっとフレバンスのことを思い出しているのだろう。
奥歯を硬く噛み締めていた。
「政府に関わる奴は吐き気がする」
「右に同じく。嫌いだよ」
即答した我々兄妹にコラソンは煙草をふかして、答えた。
「おれは海兵じゃねえよ」
「本当か?!」
ローが訝しんでいる。
ここで押し問答をしても埒が空かない。私はコラソンに続けて質問をする。
「・・・ねぇ、具体的に、何するつもり?」
「さっき言ったろ、あらゆる病院を回るつもりだ」
コラソンの言葉に、ローも私も眉を顰めた。
「そんなことしたって治らねぇ」
「なんでそんなことが言い切れる?わからないだろ」
断定したローの言葉に、コラソンは不思議そうに首を傾げた。
「お兄さま、いいよ。コラソンの言うとおりにしよう」
「、お前何を・・・!」
ローが驚いて私を見る。
「多分、それでコラソンも分かるよ。
どうして私たちが世界政府を嫌うのか。海賊になることを選んだのか。
・・・私たちが彼らにとって”何”なのか」
ローは言葉に詰まる。コラソンは私の言葉の不穏さに、眉を顰めていた。
「、それは、どういう意味だ?」
「・・・見れば分かるよ」
私は予感していた。これから私たちに、何が降り掛かってくるのかを。
※
コラソンはいくらかの病院をリストにしていたようだった。
一番はじめに連れてかれた病院はとても大きく、立派な建物だった。
こんな病院を見ると生家を思い出す。
ローと私はコラソンに抱えられるようにして医師と看護婦の前に座らされた。
コラソンがなんの迷いも無く珀鉛病だと説明すると、彼らの表情ががらりと変わる。
医師が出身を聞いて来た。
私が唇を噛んでいるのを察して、ローが躊躇いながらも答えた。
「フレバンス」
それを聞いた医師と看護婦の反応と来たら、酷いものだった。
まず看護婦が泣き出した。かけられた言葉はおおよそ予想通りだ。
感染の危険、ホワイトモンスター、病原菌、頼むから帰ってくれ。
それはつまり、”死ね”と言われているのと同じだった。
医療に従事する者が発しているとは思えない言葉だが、
彼らに治療する気は無いらしい。
分かっていた。それでも悔しいし悲しい。
まるで世界中が敵だ。
世界が私の、ローの死を望んでいる様な気さえしてくる。
涙が堪えきれずに落ちた。
それさえも、目の前の医者は恐ろしいと言わんばかりに遠ざかる。
「・・・もういい」
ローが私の手を取って立ち上がる。
警告の放送が院内に鳴り響き、人からは遠巻きにされる。
まるで本物の化け物になったかのようだった。
「ロー!!」
「見ろよ、コラソン。おれたちはもう、人間じゃない」
ローの言葉にコラソンは途方に暮れた様な顔をしたと思ったが、
なおも口汚く私たちを罵る医師の頬を思い切り殴った。
そして私とローを抱え上げるとあろうことか病院で銃をぶっ放しその場を立ち去ったのだ。
「最悪の病院だ!
悪かった。昔を思い出させたか?」
「・・・これで分かったでしょ。どこ行っても同じだよ」
私が目尻を拭うとコラソンは首を振った。
「だが次は良い医者が居るはずだ!」
「うそだろ!さっき見ただろ・・・アレが普通なんだよ!」
ローが叫ぶが、コラソンは聞かない。
「たまたま薮医者だっただけだ!
しかし、なんで医者が患者にあんなこと言うんだ腹が立つ!」
コラソンは本気で怒っていた。
そして本気で信じていた。この病を治せる医者が居るのだと。
それからと言うもの、コラソンは嫌がるローと私を無理矢理引きずって病院を巡った。
どこも同じだった。
どんなに立派な病院でも、どんなに名医と呼ばれた医者が居ても、
彼らは私たちの身体の白い痣を見るや否や罵り、死ね、居なくなれ、と平気で口にしてみせた。
遂には兵士までもが珀鉛病を駆除しようと、我々を追いかけ回して来た。
コラソンはそんな兵士に食って掛かって立ち向かった。
コラソンはドフラミンゴとは似ていない。
ドフラミンゴが冷静で、合理性を重視するなら、
コラソンは感情的で、とにかく行動する人物だった。
その行動に、私たちが何も思わないわけが無かった。
ローは私が居るからか弱音らしい弱音を吐かず、夜にこっそりと涙していた。
私はそのローの背を擦り、手を握ってやることしか出来ない。
私の目からも涙がこぼれる。それを拭うのはローだった。
涙を拭い、手をつないで慰め合っても、肌が白くなるのは止まらない。
そろそろ潮時だろう。
私はたき火を囲みながら、コラソンに話しかけた。
「ねえ、コラソン、いい加減にしてよ。
幾ら病院に行っても、ダメなものはダメなんだって」
「・・・なんでそんなことを言い切れる!?
次は大丈夫かもしれないだろう?」
コラソンは自分でもどこかで北の海の医者に期待出来ないことは分かっているみたいだった。
その声には、そうであって欲しいと言う願望が乗っているように聞こえた。
私はコラソンを見つめる。
出来るだけ感情を乗せないようにと、努めて冷静を装った。
そうでなければ泣いてしまいそうだったのだ。
「私たちが会った大人で、
・・・珀鉛病に関して正しい知識を持ってたのは、ドフラミンゴだけだったよ」
「!」
コラソンの顔に動揺が走る。
ローは黙って私の話を聞いていた。前々から二人で話していたことだった。
「ドフラミンゴが珀鉛病について、どういう調べ方をしたのかは分からないけど、
・・・ドンキホーテファミリーが、闇取引を主に行ってる海賊なら、
北の海以外の情報も入ってくるんでしょう?だからだと思った。
医者だったお父様が珀鉛病を中毒だっていっても、
政府も、近くの国の医者も耳を貸さなかった・・・。
たぶん、政府は情報を規制してるし、治療法を編み出すのを遅らせたかったんだと思う」
「・・・!」
ローが咎めるように名前を呼ぶが、私は軽く首を振る。
「お兄さま、コラソンになら、話しても良いでしょう。
本気で私たちを治そうって思ってくれてるのは、多分、この人くらいだもの」
「でも、なぜ政府がそんなことを・・・」
コラソンの戸惑いに、ローが短い舌打ちをして、低く呟いた。
「治療法が出来たら困る奴が居る」
コラソンはそれで理解してくれたようだった。
愕然としていた。
ローが呪うように吐き捨てる。
「フレバンスの王様も、世界政府も、
今思えば注意深く珀鉛病にならないように気をつけてた。
王様の暮らす城は質素だったよ。珀鉛なんか使われてなかった。
もし、王様が、政府が、珀鉛病が中毒だって分かってて、
金のために珀鉛を掘らせた。それが国民にバレたら?
間違いなく王様は玉座から引き摺り下ろされる。政府も糾弾されるはずだ」
ローの手が私の手の平を包む。
「コラソンが探してくれた大きな病院の関係者、
本気で感染症だって信じてる医者も居ると思う。けど、半分くらいは分かってる。
珀鉛病が感染症じゃないって。
でも、”そんなこと”口にした医者は、多分、何らかの罰を受けるんだろう。
・・・おれたちの父親が殺されたように」
ローの目に、憎悪が宿る。
私はその手を硬く握り返した。
「フレバンスがどういう経緯で滅んだか知っている、
珀鉛病患者のおれたちは、政府にとってみたら都合の悪い存在だ。
出来れば居なくなって欲しい怪物みたいなもんなんだ。
政府はほとぼりが醒めるまで・・・今居る珀鉛病患者が”全滅”するまで、
珀鉛病は感染症だって言い続けるに違いないんだ」
私はローの言葉を引き取った。
「・・・気持ちは嬉しかったよ、コラソン。
あなたが私たちのことを思って、病院を回ってるのは分かるもの。
でも、病院に行くたびに、死ねって言われ続けるのは、つらいかな」
コラソンは唇を噛み締めている。私はたき火の始末をしようと立ち上がった。
「コラソン。ドフラミンゴの船に戻ろうよ。
そもそもあなた、ドフラミンゴの悪事を止めるために、”海賊なんか”になったんでしょ」
「それは・・・、そうだが・・・」
「私たちに構ってばっかいると、目的を見失うんじゃない?」
あるいは既に、目的を見失っているその人に、かける言葉にしては強過ぎると知りながら、
私はコラソンにそう言わざるを得なかった。
なぜなら、私は、コラソンのひたむきさを無視出来なかったからだ。
我々のために心を砕くコラソンに、無茶をさせることはできなかった。
※
コラソンは次の日は流石に病院へ連れ出しはしなかったが、船に戻るとも言わなかった。
私が起きた時にローの姿は見えなかった。どこかに出かけているのだろう。
コラソンは海をぼうっと眺めていた。
どことなく、いつだったか紙飛行機を飛ばしていたときのような雰囲気を感じ、
私はコラソンの側に寄った。
「コラソン、何してるの」
「・・・別に何も。ただぼうっとしてるだけだ」
「・・・前から思ってたんだけどさあ、コラソン、私たちのこと幾つだと思ってる?
ナギナギの実の能力を見せる時とかすごい子供扱いするよね」
『おれの影響で出る音は全て消えるの術だ!』
そう言って花瓶を割ったり銃火器を撃ったコラソンは化粧の通りの道化のようで、
ローや私を励まそうとしていたようだった。
「お前が11だろ?ローは13。子供じゃねえか」
「コラソンは幾つ?」
「26だ」
「・・・意外と歳食ってる」
「うるせえよ。素敵なお兄さまと呼べ!」
「私には本当に素敵なお兄さまがいるので遠慮しとくよ」
私の言葉に、コラソンは可愛くねえな、とムッとしたようだったが、
神妙な顔つきで言葉を紡いだ。
「なあ、、お前どうして兄をそんなに信じられる」
「・・・簡単なことだよ。お兄さまは、私の手を引いて逃げてくれた。
自分のことで精一杯になってもおかしく無かったのに、私を見捨てはしなかった」
「・・・ローが、全てを壊そうと言ってもか」
コラソンは何故だか泣きそうな表情で私を見つめている。
なんだか私に、何かをかさねて見ているようだ。
「お兄さまはね、私の前で絶対人を殺さないの」
「!」
「馬鹿だよね、私が銃を持つのだって、嫌な顔するのよ。
・・・それでも身の内を焼く様な憎悪は消えないくせにね。私も。お兄さまも。
怒りの行き場が無いの。諦めて受け入れたくない。本当は、・・・死にたくないから」
「」
コラソンは不器用に私の頭を撫でた。おっかなびっくりといった手つきだ。
致命傷を与えずに暴力を振るうことは出来るくせに、と私は内心で思う。
「ねえ、コラソン。あなたはドフラミンゴの側に居るなって言う。
それは何故?」
「何故って、そんなの・・・」
「あなたは、ドフラミンゴは血も涙も無い怪物だって言うけど。
血のつながった家族を、あなたがそんな風に言わなきゃいけない
何かがあったっていうのもわかるけれど・・・、ごめん」
コラソンの顔を見たら、それ以上は酷なのだと分かった。
「・・・なんで謝る?」
「余計なことだった。多分、あなたが何百回、何千回って、考えて出したことに、
私が口を出して良いわけがなかった」
コラソンは答えを言わず、ぐりぐりと私の頭を撫でた。
「お前は本当にガキらしくねえなァ、
ローも、お前も、もっと笑えばいいのに」
ニッ、と自分の唇をつり上げて笑うコラソンに、私は苦笑した。
きっと彼は努めて明るく振る舞っているだけなんだろう。
引きつった笑顔だ。
「ヘタクソだよ。笑顔」
「ぐ!?」
低く唸ったコラソンは何か思いついたらしく、私に悪い笑みを浮かべてみせた。
作り笑顔は下手なくせに、何故だかさまになっている。
「お前だって眉間に皺よってるぞ!くすぐってやる!」
「わっ、ちょ!あ、あはははは!や、やめてよ!?っふふふふ!」
「あ!?おいコラソン、に何やってんだよ!?」
薪をもっていたローが帰って来ていたらしい。
コラソンに抗議する声が聞こえて来た。
※
「あっ、あはは!もう!ばか!は、ははははは!!
お、おにいさ、ま!た、ふ、たすけてフフフフっ!」
「コラソン!」
ローが咎めるようにコラソンを呼んで、
手を離されたはようやく息を吐くことが出来た。
「は、ハァ・・・」
笑っている時は子供らしかったが、息を整えるは妙に艶かしく、
コラソンは不覚にもどきりとしてしまった。
何か察したらしいローが思い切りコラソンの背中をどついている。
「テメェ、おれの妹に何してんだよ、犯罪だぞ!この野郎!」
「な、そ、そんなつもりじゃなかったんだが」
弁解するコラソンにローがギャーギャーと騒ぎだす。
「どういうつもりなら許されると思ってんだ!?このペドフィリア!」
「ペ・・・!?断じて違う!ロー!お前何言ってんだ!?」
コラソンが必死に否定するがローは聞く耳を持たない。
がローの剣幕に引きつりながら袖を引いた。
「お、お兄さま、その辺で良いよ。私、怪我もしてないし
・・・あとペドフィリアって何?」
空気が凍る。
ローがあからさまにヤバい、と言う顔をした。
コラソンもあわあわ言っている。
が首を傾げた。
「フィリアってことは何かの嗜好ってことだよね?」
「・・・いいか、、世の中には知らなくて良いこともあるんだ」
真面目な顔での肩をつかんだローにコラソンも神妙な顔で頷く。
「ああ、ローの言うとおりだ。知らなくて良いことだ」
「・・・深く追求はしないけど、
妹に知られたく無いような言葉を使って、
相手を罵るのはどうかと思うよ、お兄さま」
ジト目でローを見つめるにローはたじたじになりながら、
「悪かった、」と帽子を目深に被る。
その様子を見て、コラソンが笑った。
その光景が、にはなんだか幸せなものに思えてしまったのだ。
は思った。
運命は既に決まっている。それは確かなのだろうか。
今、自分が生きている世界の運命は、もしかしたら、
変えることが出来るのだろうか、と。