幽霊と悪夢


幽霊がモリアの居た場所からどのくらい進んだ頃だろうか。
爆発音を聞いて、幽霊はその場所に向かっていた。

何が出来るのかとか、何をすれば良いのかは分からなかったが、
とにかくそうせずにはいられなかったのだ。

幽霊が何枚も壁をすり抜け、辿り着いた先には、ウソップと、
モリアの部下、ペローナが居た。

「ウソップ!」
「・・・幽霊!」
「お前は・・・、さっきの!」

驚愕を露にする2人に、幽霊は息を飲んだ。
ペローナの手が、ウソップの身体を貫いている。

「ちょっと!」

幽霊はペローナにすぐさま近づいて、その手を”掴んだ”。
ペローナは目を丸くする。

「ウソップに何してるの!」
「は・・・!?お前なんで私に触れるんだ!?」
「え?」

幽霊は首を傾げる。
良く見るとペローナは空中に浮いていた。

ペローナが幽霊を唖然と見ている。
幽霊もペローナを見つめ返した。

ペローナは確かに生きている人間だったはずだ。
幽霊は胸の前で手を叩いた。

「あら、あなたも死んで幽霊になったの? ねぇ、死因って覚えてる?
 過去の記憶は? 幽霊になると忘れてしまうものなのかしら?」

「ば、馬鹿野郎!そいつは敵だぞ!
 のんきに幽霊談義してる場合か!?」

ウソップが叫ぶ。
幽霊はハッとしてペローナを見つめた。

「・・・そう言えばそうだったわ。・・・ちょっと残念」

ペローナは幽霊の手を振り払うと、キッと幽霊を睨み上げた。
幽霊が触れていた右手を庇っている。

「まさか私に触れる奴が居るとはな・・・!
 しかも、ウゥ・・・ッ!凍えそうだ・・・!お前一体何者だ!?」

「実はそれ、私が知りたいんだけど・・・。
 記憶喪失の幽霊です。よろしくね、ええと、ペローナちゃん」

スカートを持ち上げて挨拶すると、
ペローナはイライラと声を荒げる。

「誰がよろしくするかァ!」

ウソップは幽霊を戸惑った様に見上げている。
幽霊はウソップの周囲をくるくる回って様子を確認した。
どうやら大きな怪我をしているわけではないらしい。
幽霊は安堵に胸を撫で下ろした。

「彼女、物理的な攻撃は出来ないんじゃない?
 ウソップ、さっき彼女の手が刺さってたみたいだけど、外傷はなさそうよ」
「え、あ、本当だ・・・!」

「つまり、あなたの攻撃はウソップには通らないんじゃないかしら!」

犯人を指差す探偵のように、幽霊がペローナに宣言する。
しかし、ペローナはどういう訳か不敵な笑みを浮かべてみせた。

「ホロホロホロ・・・それはどうかな?」
「え?」

ペローナは手を広げ、小さなゴーストを作り出した。

「”ミニホロ”」

そのゴーストがウソップのすぐ側にある壁にくっつくと、
ペローナが指を鳴らす。

「”ゴースト・ラップ”」

破裂音がその場に響く。
分厚いレンガの壁が凹んでいた。

「しょ、衝撃波・・・!?」
「嘘・・・!」

ウソップの肩に、小さなゴーストがくっ付いた。
幽霊は急いでそのゴーストを剥がして投げる。
空中で爆発が起こった。

「うおおおお!助かった、幽霊!」

ウソップは何とか無事だったらしい。
それを見て、ペローナは苛立った顔で何匹ものゴーストを生み出し、
ウソップと幽霊に向かわせる。

幽霊はそのゴーストを懸命にちぎっては投げるが、
これでは終わりが見えないとウソップに叫んだ。

「キリが無いわ!ペローナちゃんに攻撃しないと勝てない!」
「分かった! 必殺!!”火の鳥星”!!!」

ウソップがパチンコで巨大な炎の鳥を生み出して、攻撃した。
しかしペローナは笑ってその攻撃を受け流している。

「ダメだ、効かねェ!」

にっちもさっちも行かない状態だ。
幽霊は意を決したように、顔を上げた。

「・・・私が彼女に抱きついたらダメージを与えられるかしら?
 さっき私が手を触ったら、凍えそうだって、言ってたわ」

幽霊がペローナに目を向けると、ペローナは嫌な予感がしたのだろう、後ずさっている。

「な、お、お前・・・?何する気だ私に!?」

「・・・こんな真似をするのは気が進まないんだけど、
 ウソップを散々脅かしていたみたいだし、
 大コウモリさんに、バカにされてちょっと虫の居所が悪いの、私」

「幽霊・・・?」

ウソップにまで怪訝そうな目を向けられて、幽霊は苦笑した。
幽霊はペローナに聞こえないよう、ウソップに囁く。

「ウソップ、私が彼女を引き付けるから、策を考えて」
「・・・!?」
「私じゃ多分、彼女に触れても、決定打は与えられない。
 ・・・頼んだわね!」

「おい、幽霊!?」

幽霊はペローナに近づいて、ペローナの手を取った。

「え!?何・・・、さ、寒い!離せ!バカ!」
「ウフフフ、離さないわよ!ワルツはいかが?」
「はァ!?」

幽霊はステップを踏んだ。くるくると空中で踊ってみせる。
ペローナは暫く目を白黒させていたが、やがてハッと我に返ると幽霊の手を弾いた。
幽霊の手は霊体にダメージを与えられるらしい。
ペローナの左手がだらんと力なく揺れている。
眦をつり上げたペローナに、幽霊は右手で頬を張られた。

「痛ッ・・・!」
「は、はァ・・・!いい加減にしろ!気安く触るな!」

「幽霊!」

ウソップが幽霊を案じて声を上げる。
しかし自身の怪我に構うこと無く、幽霊は息を飲む。

「ウソップ!後ろ!」

幽霊はウソップの後ろにくまのゾンビが居ることに気づいて叫んだ。

ウソップは仮面を被ると、くまのゾンビの口に塩を入れている。
断末魔の声を上げ、くまのゾンビは倒れ臥した。

「クマシー!」

ペローナが悲鳴を上げる。
クマシーと呼ばれたくまのゾンビは、浄化されているようだ。

「・・・ウソップ!すごいわ!」

幽霊が賞賛の声を上げると、ペローナがウソップを睨み据えた。
しかしウソップは意に介した様子が無い。

「てめェ!よくも私のクマシーを!」

ウソップはそのまま、パチンコを扉に向けて、攻撃した。

「必殺!!!”アトラス彗星”!!!」

ペローナが焦って息を飲む。

「見つけたぞ・・・!あれがお前の本体だ!」

ウソップはペローナに向かって言う。
崩れ落ちた壁からは、
天蓋つきの大きなベッドに眠るペローナの姿が伺える。

「姿は見えるが空を飛び、
 壁も人もすり抜けて、身体のデカさも自由自在、
 ・・・それじゃまるで実体のねェゴーストだ!コイツみたいな!」

ウソップは幽霊を指差した。

「確かに、そうね、身体を大きくしたりとかは、試したこと無いけど」

考えたことも無かったが出来るものだろうか、と幽霊は自分の手を見つめた。
しかし幽霊が思索に耽るのも構わず、ウソップは話を続ける。

「だが、お前が一度おれから逃げ回った姿を思えば、
 あの時点ではまだ実体があった・・・!」

ペローナはウソップの推理を肯定した。

「そう・・・私はゴーストだ。
 だが本体に操られるゴーストじゃない。
 幽体離脱によって本体から抜け出た、意思ある私自身の霊体だ!!」

「・・・なるほど、なら私とは違うわ。実体があるのね、羨ましいわ」

ウソップはパチンコを構え直した。

「だったら帰る肉体を失ったら、お前は一体どうなるんだろうな!
 必殺!”大爆発星”!」

ウソップがペローナの本体を攻撃する。
しかし、不発だったようだ。爆発する様子もない。
ウソップがそのまま続けて攻撃に移ろうとすると、
ペローナが巨大なゴーストを作り出した。

「そうはさせるか!”特ホロ”!」
「ウソップ!」

ウソップにそのゴーストはかじり付いた。
幽霊は必死で引きはがそうとするが、びくともしない。

「うわあああ、幽霊!助けてくれ!」
「ちょっと待って・・・!お、重い・・・!」

「非力かァお前ェ!?
 こんなデカさで破裂されたら、身体がバラバラになっちまう!」
「ごめんなさいウソップ!自力で何とかできない!?」

そんなやり取りをしている間にも、ペローナは本体に戻ったらしい。
声を上げて幽霊とウソップを嘲笑った。

「ホロホロホロ!
 惜しかったな、ネガっ鼻に幽霊!
 次の合図でネガっ鼻の身体はバラバラだ!」

ペローナはパチンと指を鳴らした。

「”神風ラップ”!」

しかし、ウソップは貝のようなものを手に取り、
それで衝撃を吸収してみせる。

ペローナが驚きの声を上げた。
いつのまにか、その左腕にはべっとりとトリモチがついている。
幽霊が感心した様に声を上げた。

「トリモチ・・・!動きを封じたのね!」
「そうさ!肉体も霊体もこれで同時に仕留められる!」

ウソップが高らかに宣言すると、
カバのゾンビがウソップに攻撃しようと近寄って来る。
幽霊はそれを見て、すぐさまゾンビの身体を通り抜けた。
一瞬身体を強ばらせたゾンビに、ウソップが貝を当てる。

「”インパクト”!!!」

その衝撃に、カバのゾンビは一撃でノックアウトだ。
ウソップはそのまま流れる様に攻撃を続けた。

「”黒光り星”!!!」

その弾丸がペローナに命中したと思うや否や、
島中に轟き渡るような悲鳴が上がった。

「ギャアアアー!!ゴキブリー!!!」

ウソップはその叫びを肯定した。

「通称”ゴキブリ星”!!!」
「えええ!?」

がさがさとゴキブリに集られているペローナを見て、幽霊がゾッとして距離をとる。
ジト目でウソップを見ると、ウソップに「何だよその目は!?」と突っ込まれていた。

ウソップは気を取り直したらしい。
ハンマーに空気をさっと入れて、ペローナを脅してみせる。

「おれは東の海一番の怪力で知られた男・・・!」

ペローナはハンマーに書かれた10トンの文字に青ざめている。
ウソップはハンマーを振りかぶり、
そして許しを請うペローナに叩き付けた。

「”ゴールデンパウンド”!!!」

泡を吹いて気絶したペローナを見て、幽霊はほう、とため息を吐いた。

どうやら勝てたらしい。

「オバケ屋敷のプリンセスが、
 ・・・風船と、オモチャゴキブリで気絶してちゃ世話ねェな!」
「かっこいいわウソップ!
 ・・・ゴキブリはオモチャでも嫌だけど」

幽霊が言うとウソップはバンダナの上から頭をかいた。

「いや、幽霊、お前にも助けられたよ・・・結構手強かった。
 なんか・・・悪かったな、色々」
「ウフフ、それほどでも」

幽霊はそのとき手応えを感じていた。

 私でも、出来ることがあったのだ。

ウソップと幽霊が勝利の余韻に浸るのもつかの間、
屋敷に地響きのような音が轟き始める。

「ちょちょちょちょ、何だ何だ何だ何だ!?」
「屋敷が揺れてる・・・?!天井も・・・!?」

慌てて逃げ出したウソップと並走しながら幽霊が戸惑いの声を上げる。
それから暫くしないうち、轟音を立てて天井からオーズがパンチを打ち込んで来た。

「どわーーーっ?!ルフィゾンビーッ!!!」
「な、なんて迫力、私は平気だけど、建物とか人間はひとたまりも無いわ!」
「・・・お前ホントずりィよ!!!幽霊変われ!!!」

軽口を叩きながらもウソップは全速力で逃げ出した。



屋敷から出て、ペローナのワンダーガーデンについたウソップと幽霊は
オーズの様子を伺っていた。
その最中、チョッパーとロビンと合流する。

「ロビン!、チョッパー!」
「あ!幽霊とウソップ!一緒に居たのか」

手を振る幽霊に気づいて、チョッパーとロビンが近づいて来る。
ウソップは双眼鏡でオーズを検分し、何に気がついたのか焦りはじめた。

「たたた、大変だ!ルフィのゾンビの腕に、おれ達の手配書が貼付けてあるんだ!」
「・・・それ、狙われてるってことかしら」

幽霊の疑問に答えるかのようにオーズが雄叫びを上げる。

「出て来ォーい!!!麦わらの一味ィーーー!!!」

ビリビリと身体が震えるほどの迫力と大声だ。

「ルフィの奴、テメェの一味をテメェで潰す気か!」
「命令が下ったのね・・・!」

ロビンがオーズの様子を見て眉を顰めた。

「予想外だわ。私たちは影だけを狙われているかと思ったのに。
 ・・・ちょっと暴れ過ぎたかしら」
「もうルフィの影以外はいらねェって勢いだな・・・」
「コエーーよ!あんなのとどう戦うんだ?!」

幽霊はごくりと唾を飲み込み、オーズを見た。
麦わらの一味とオーズの対決が始まろうとしていたのだ。



オーズ対麦わらの一味とブルックの戦闘は苛烈を極めた。
巨体に見合わぬ敏捷性と破壊力をもったオーズは全く躊躇うこと無く、
屋敷を破壊し、麦わらの一味とブルックを倒そうと拳を振るう。

モリアの忠実なしもべと化したルフィの影の入ったオーズに、
幽霊は手も足も出なかった。

一人、また一人と傷つき倒れ臥して行く麦わらの一味の仲間を前に、
幽霊は何も出来なかった。

「そんな・・・みんな・・・、ブルック!!!」

オーズは倒れ臥した麦わらの一味らを冷たく一瞥する。

「おめェらなんか知らねェぞ。
 おれはモリア様の部下。オーズだ」

幽霊は奥歯を噛んだ。

「ちょっとあなた!」
「ん?・・・何だお前・・・幽霊?」

突然目の前に現れた怒れる幽霊に、オーズは少々たじろいだ様に見えた。

「なんでこんなことするの!?」

「モリア様の命令だからに決まってるだろ。
 ・・・ていうか寄るなよ。幽霊。
 おれ後3人倒さなきゃいけねぇんだ。邪魔するならお前もぶっ飛ばすぞ!」

不機嫌そうに眉を顰めたオーズに、
幽霊は少し考えるようなそぶりをみせたあと、意を決したように顔を上げた。

「やってみればいいわ」
「何?」
「私に触れるなら、やってみればいいんだわ」

オーズはますます嫌そうな顔をする。

「嫌だ!あっち行け!」
「失礼ね!どこにいても私の勝手でしょ!」
「お前なんかやな感じするんだよ!どっか行け幽霊!!!」

オーズは幽霊を薙ぎ払うように拳を振るう。
しかし幽霊に実体はない。幽霊の後ろにあった建物を壊しただけだ。

ダメージを受けること無く空中に浮かび続ける幽霊の冷えた眼差しに、
オーズはぞっとしたように後ずさる。

「・・・幽霊、ちょっとそこ退いてくれ」
「・・・!」

そんな最中に、幽霊に声をかけたのは、先ほどオーズから一撃を受けていたゾロだ。
ゾロだけではない、麦わらの一味は全員、立ち上がっていた。

「おい、オーズ!
 てめェの中身がルフィの影なら、仲間の底力、見くびるなよ・・・!」
「ゾロ!みんな・・・!」

幽霊はほっと胸を撫で下ろし、
倒れていたブルックの元へ向かう。

「ブルック!大丈夫!?」
「お、お嬢さん・・・?あなたも無事で?」
「もう死んでるもの。無事に決まってるでしょう」

どうやら意識はあるらしいことを確認して、
幽霊はオーズを睨み上げる。

「ゾンビは皆、私のことが怖いみたいだわ。
 ねぇ、ブルック・・・皆はオーズと戦うのね。私たち、何が出来るかな?」
「・・・」

ブルックは少し考えるそぶりをみせる。
そしてゆっくりと顔を上げた。

「ここはやはり”塩”でしょう。塩を使えば、ゾンビは浄化出来る!
 申し訳ありません・・・しかし私重症なもので・・・、
 お嬢さん、私と一緒に、塩を取りに行ってはいただけませんか?」

幽霊はブルックに頷いた。

「ええ、勿論、ゾンビ避けにはなると思うわ!」



ブルックと共に厨房へ塩を取りに行った幽霊は、
ブルックを先導しながらオーズのもとへと戻る。

するとウソップとオーズの腕が迫ってくるのが見える。
緊急事態と悟った幽霊とブルックが顔を見合わせた。

「ブルック!ウソップが危ない!」
「ええ、お嬢さん、助けます!」

ウソップが建物とオーズの拳に挟まれる前に、
ブルックがウソップを助け出す。

チョッパーがウソップの無事を確認しようと声を上げた。

「ウソップ、返事しろ——!!」
「ご無事ですよっ!!!」

ブルックが塩とウソップを抱え、一味へと宣言する。

「遅くなって申し訳ありません!!!
 大量に塩が必要かと思い!!集めていました!!!」
「ブルック!!!」
「お前、動けるのか!?」

「ヨホホ、牛乳で骨折治りますよね!!!」
「ウソ吐け!!!」

フランキーがブルックの身を案じ、ウソップが突っ込んでいる最中、
幽霊がひょっこりと瓦礫の隙間から顔をだした。

「うわっ幽霊?!」

チョッパーが戦いていると、幽霊はふわりと空中に浮き上がった。

「死ぬかと思ったわ・・・もう死んでるけど。
 皆は無事ね?良かった・・・!」

幽霊はオーズを見上げる。すると腹の中にモリアの姿を認め、
怪訝に眉を顰めた。

「・・・大コウモリさん、なんでオーズのお腹の中に?」

いつの間に霧も晴れている。
幽霊がその場を離れている間にも、状況は変わっているようだ。

「ともかく、朝が来る前に、あの怪物の口に塩を放り込み、モリアをぶっ飛ばせば勝ちだ」

サンジの言葉を聞いたモリアが、高らかに笑う。

「キシシシ!!おれが戦いの場に出向いてやったことに感謝しろ!!
 そして充分に気をつけるんだな・・・!
 おれはただ乗ってるだけじゃねェ!最高の悪夢を見せてやろう」



モリアは確かに、悪夢じみた強さを誇った。
ただでさえ巨大で強力な力をもったオーズが
モリアという頭脳を得たことで、手に負えなくなっている。

一味は協力し、なんとかオーズにダメージを与えることには成功したが、
それでもオーズとモリアを倒し切ることはできなかった。

幽霊は見ていることしか出来なかった。
無力感に苛まれ、立ち尽くす幽霊を見て、
ブルックの集めて来た塩をウソップにぶつけ、モリアは笑う。

「キシシシ!よォ、幽霊、お前は傷つかねェが、仲間はそうじゃない。
 教えてくれよ、お前に何が出来るんだ!?」

幽霊はウソップを踏みつけようとするオーズに向き直った。
オーズは幽霊に、少したじろいだ様に見える。

「実体のない私が怖いでしょう、巨人さん!
 あなたと比べ、こんなにも小さい私が!」
「うっ・・・」
「何・・・?」

オーズは幽霊に怯んだ。
モリアは怪訝そうに声を上げる。

「大コウモリさん、あなた、どうやらここで”死”を克服しようとしてるみたいだけど!
 あなたの作り出したゾンビは皆私を怖がるの!
 あるゾンビに言われたわ!私、”死”そのものなんですって!」

ゾンビとゴーストの集まる”死者達の魔境”スリラーバーク”の本質を、
幽霊は指摘する。
幽霊は目尻から涙が零れるのにも構わず、モリアに言った。

「ゾンビが私を怖がるのは、影を操るあなたが、私を、”死”を怖がっているからよ!」
「なにィ!?」
「あなたは”死”を克服してなんかいないんだわ!」

モリアの顔が苛立ちと、煮詰められた複雑な感情で歪んだように見えた。
オーズに攻撃のきかない幽霊を踏みつけるように命令する。

幽霊は麦わらの一味らに攻撃の余波が行かないよう逃げた。
それを追ってオーズは攻撃を繰り返す。

少しでも、時間を稼がなくては行けない、と幽霊は唇を噛む。

ダメージは受けないと分かっていても、迫り来る拳は恐ろしい。
幽霊は後ろから迫る攻撃に目を瞑った。
しかし、迫って来ていた拳は、幽霊の目の前で止まった。

幽霊は驚きに目を見張る。

「・・・?」

「幽霊、もうおれたちは大丈夫だ。
 お前が時間を稼いでくれた分、暴れてやる・・・!」

どうやら、青い肌の青年が、幽霊を助けてくれたらしい。
誰なのだろう、と幽霊は首を傾げてみせた。

「あなた・・・?」
「おれはルフィだ」
「え!?」

姿形は随分変わってしまっているが、その男はルフィだと名乗った。

そしてそのままルフィはオーズの顎に、アッパーを決めた。
かなりの威力だったようだ。オーズの巨体が殴り飛ばされている。
唖然と息を飲んだ幽霊に、励ますような声が聞こえた。

「あとはおれに任せろ」