悪のカリスマ 08
或る男の告白
その場に張りつめた沈黙が流れていた。
ローも、ルフィも、ドフラミンゴの言葉の意味を理解出来ずに居たが、
には何を意味する言葉か分かったらしい。ゆっくりと振り返る。
は掴んでいたローを打ち捨てる様に解放した。
噎せ返るローをすぐさま粘液で捉え、はドフラミンゴと目を合わせる。
その所作によって、ドフラミンゴは自らの懸念が的中したのだと確信せざるを得なかった。
「ドフィ、何を言っている?」
「おれがお前にシュガーを預けたのは、お前を信頼しているが故だ」
ファミリーの中でドフラミンゴに次いでの実力者は他ならぬだ。
純粋な戦闘能力ではピーカ、ディアマンテに劣るところもあるが、
油断も隙も、とはほど遠い言葉だった。
だからこそ、今日の失態は目に余る。
「・・・怒っているのかな?だが私も人間、失敗もするさ」
は冷静だった。
うろたえもせず、淡々とドフラミンゴに返してみせる。
しかし。
「ローの”ROOM”の中に、不用意に足を踏み入れたのもそうか?
・・・いつもならお前はそんな過ちを犯しはしない。
その粘液の一つに、火をつければ済む事だ。
そして今、おれと話をする為にお前はローの能力圏内を脱した。
気づかなかったわけじゃねェんだろう?」
その言葉には応えない。
「お前は衰えた訳でも、怒りに我を忘れている訳でもない。お前は冷静だ。
なら何故、シュガーを守り切れなかった?
ローの能力圏内に自ら足を踏み入れた?
・・・おれにはお前が何らかの目的で、
故意にこの状況を作り出したとしか考えられねェ」
驚いた事に、ドフラミンゴは銃に弾を込め直し、
そのままに銃口を向けていた。
「・・・おれの推測が間違っているのならそれで良い。
心から謝ろう。だが、」
ドフラミンゴは僅かに間を置いたが、それでもその言葉を口にした。
「裏切っているのなら、許してはおけない」
ドフラミンゴに向けられた銃口を見て、はしばし沈黙した後、
深いため息を吐いた。
しかし一度下がった口角はやがて緩やかに持ち上がる。
「”定められた歴史の、最後の一行”」
ドフラミンゴは怪訝に眉を顰めた。
それは”マクベス”の台詞の中に出て来る言葉だ。
は暗雲立ちこめる空を仰ぎ、呟く。
「私にとっては、この日が、この時が、与えられた最後の一日だった・・・」
は、ドフラミンゴをまっすぐ見据えた。
「さて、一つ、告白をしようと思う――」
※
まるで舞台女優の様に、長台詞を終えたは
呆然とする3人の男を尻目にけたけたと笑い出した。
「べへへへへっ!私の妄想の主役は、どういう訳かお前だったよ。麦わらのルフィ」
「!?」
突如話題の槍玉に上げられ、ルフィは困惑に眉を顰めた。
「東の海で仲間を集め、砂の国アラバスタを守り、空島で神と闘い、
闇の正義の軍団を倒し、天竜人を殴り、戦争で兄を失い、それを糧に鍛え、
魚人島を差別から解放し、そしてお前はこの国を救う。——ここから先も言ってやろうか?」
得体の知れない悪寒のようなものが、その場の空気を凍らせていた。
ルフィがこの先どのような道筋を歩むのかを、は確信しているようだった。
「まぁ、私には関係ない話だがねぇ、どうせ私は、ここで退場する予定だし、
お前と私の運命は交わることが無い。それは決まっていることなのだ」
「・・・お前、何言ってんのか全然わかんねェよ」
ルフィの茶化した様子の無い素直な言葉に、は柔らかく微笑んだ。
まるで生徒が難しい問題を解いたときのような、
状況に似つかわしく無い穏やかな笑みだった。
「そうさ、お前はそれで構わない」
その優し気な声色に誰かが息を飲んだのもつかの間、
は畳み掛ける様に言葉を吐いた。
「誰も私を理解出来ないだろう。
この妄想を一度でも口にすれば気違いだと詰られ、信用を失くしたとも。
身内も他人も誰も私を信じなかった」
その唇から笑みが消えた。
空を睨み、怒鳴りつけるようですらあった。
「・・・ベタベタの実を口にしたのだと分かった時、
憧れていたヒーローが私を討ち滅ぼす立場なのだと知った時の絶望も!
訳の分からない妄想であるはずの事柄が現実となっていく恐怖も!
・・・この妄執を抱えて生きて行かねばならなかった私の苦痛も!
誰にも分かってたまるものか!!!」
その声には、覇気が籠っていた。震える程の覇気だった。
「この私がまともに生きていけたと思うか?
正気を保っていられたとでも?べへへへへ、無理だったよ。
お前たちの良く知っている通りだ」
は改めてドフラミンゴに向き直った。
「私の頭はとっくにイカれているんだよ。
正気だったためしなんか無いのさ、
さぁ、ドフィ、これを裏切りと見なすかどうかはお前の自由だ」
「・・・なんだと?」
銃口を向け続けながらも、ドフラミンゴは尚も引鉄を引かないでいる。
はそれを煽り立てる様に言い放った。
「私のマクベス。私の作り上げた”悪のカリスマ”!
教えてやろう。元天竜人のお前が、天竜人の牛耳るこの世界を破壊し、悪逆の限りを尽くし
今日ここで滅びるのを見るのが私の最たる野望だったのだとも。
私はこの日、ローに切られ、
最後の力を振り絞って粘液を爆発させ自爆する役回りだった」
ローは倒れ臥しながらも息を飲んでいた。
ドフラミンゴが口を挟まなければまさしく、
の思惑に乗っていたところだったからだ。
「それでもローは麦わらに助けられて無傷だっただろうがねぇ!べへへへへ!
全く、私にはとんだ”役柄”が巡って来たものだよ・・・だが、」
「この展開は想定外だった。
よくぞ、この私の考えを見破ってくれたな。ドフィ」
は静かに笑っている。
「ローを巻き込んだ上で無駄死にするよりは、お前に殺された方がずっと良い。
お前のおかげで、この10年は、
・・・いや、お前に出会ってからは、ずっと愉しかった。
我が世の春だった」
その時、誰が気づいただろう。
ドフラミンゴがサングラスの下で目を見張り、
それから静かに奥歯を噛み締めていたことに。
ドフラミンゴは分かっていた。
の育て上げた”悪のカリスマ”なら、迷わずを殺すのだろう。
の求めた、冷徹で残酷。凶悪そのものの”悪のカリスマ”だったならば。
「・・・何を躊躇う?」
は一向に引鉄を引こうとしないドフラミンゴに訝しむように首を傾げた。
「父親も弟も殺せたくせに、私の事は殺せないか?」
ドフラミンゴはその時、張りつめていた一本の糸が切れたような感覚を覚えていた。
は相変わらず何も分かっていないのだ。
自分がドフラミンゴに何をしたのかも、ドフラミンゴにとって何者であるかも知らず、
台詞を終えた役者のように出番が終わるのを待っている。
それがドフラミンゴの神経をどれだけ逆撫でするかも分からぬままに。
ドフラミンゴは静かに銃を下ろした。
「・・・下らねェな」
その声は地獄から響いて来たのかと思う程低く、明確に怒りを内包していた。
の身体を糸が縛った。
その代わり、鳥カゴが音も無く、だが確かにその姿を消した。
立ちこめていた雲が晴れ、晴天が広がる。
それに驚きを露にしたのはだけではなかった。
「ドフラミンゴお前・・・何のつもりだ!」
ローが叫ぶ。
ドフラミンゴは深いため息を零して、ローにその顔を向けた。
「ロー、”コラソンの本懐”とやらはこのおれを止める事なんだろう。
お前の望む通り、ジョーカーとしての商売も、
この国の支配も、王下七武海である事も全部辞めてやるよ」
何を言っているのか、暫く誰も理解出来なかったに違いない。
「・・・はぁ!?」
「悪いが『今ここでおれを殺したい』って言う頼みは聞いてやれねェがなァ」
その時ドフラミンゴだけが冷静に状況を把握しているように見えた。
が唖然として目を瞬いている。
「・・・ドフィ、ドフラミンゴ、お前、・・・何を言っている?」
「フフフ、わからねェだろうなァ、、お前には。
フッフッフッフッフ!」
ドフラミンゴは声を上げて笑った。
不思議と晴れやかな気分でさえあった。
ただ、新しく沸き上がった感情も、確かに濁流の様に胸の内を渦巻いているのだ。
ドフラミンゴはローに向けて諧謔味を含んだ笑みを向けた。
「そうなれば、カイドウを含め名だたる大物達に、おれは狙われる。
恐らくおれはろくな死に方をしないはずだ。
フフフフフッ、ロー、きっとお前はそれを新聞か何かで知るんだろう。
だが、それは今すぐという訳じゃない」
ドフラミンゴは縛り上げたに、内心とは裏腹な柔らかな笑みを向けた。
「それまで蜜月と行こうぜ、」
「何・・・?!」
「・・・!?」
は言葉の意味を飲み下すのに時間を要したようだった。
ローは絶句し、呆然と縛られたその女に顔を向けた。
「——良くわかんねェけど、ミンゴ、お前この国の支配止めるのか」
粘液で拘束されたまま、ルフィが首を傾げてみせる。
「ああ、そうだ。もう良い。仲良しこよしが好きならリク王でも復権させりゃ良いし、
おれの部下はお前らに負けてるらしいが、そうそう一筋縄で行く奴らじゃない。
脱獄なり一泡吹かすなり好きな様にやるだろう。おれはを連れて逃げる」
ドフラミンゴの言葉に、ローは眉を顰めて食って掛かった。
「・・・それでおれが納得できると思ってんのかよ、
お前が、お前達がしてきたことが、どういうことなのか分かってるのか!?」
「言い方が不味かったか?償う気は毛頭ねェし、
お前が納得出来るかどうかは知らねェな。
ただ、起きた事だけが現実だ・・・なァ、」
ドフラミンゴは未だ事態を飲み込めていないに向き直る。
「これでお前の妄想は現実ではなく”妄想”になった。そうだろう?」
の顔が一瞬、悲しみとも怒りともつかない表情で歪んだが、
それに構わずにドフラミンゴは自身を見上げるを抱き上げ、笑った。
「フフッ、フフフフッ
何が起きてるかわからねェって面だ。
ちゃんと言葉にしてやるよ。
おれは10歳のガキだった頃からお前に心底惚れてるんだ」
「・・・え?」
は畳み掛けて来る”現実”に言葉を失っていた。
理解の範疇を超える情報にどうすればいいのか分からず、
告げられた言葉の意味さえすぐには読みとれはしなかった。
それにドフラミンゴは芝居がかった仕草で、嘆く様に天を仰ぐ。
しかしその声色は揶揄うような雰囲気でもあった。
「思えば最初からこう言えば良かったんだ。お前は酷い女だよ。
14の時、一度だけ抱いたお前を思い出して、
おれが何度自分を慰めたか分かるか?」
「・・・おい、ちょっと待て、
・・・ちょっと待ってくれ!お前、何を言っている?!
何を・・・?!」
ドフラミンゴにこの上なく丁寧に抱えられ、
何が起きているのか分からず半ばパニックに陥っているを見て、
ローはあんぐりと口を開き、そして小さく呟いた。
「・・・知りたく無かった」
「?」
ルフィは頭に疑問符を浮かべつつも成り行きを見守っている。
「その時もおれが手近に居る女だからってお前を選んだと思ってやがる。
フフフ、そんな訳ねェだろ。・・・忘れようと思っても出来ねェしなァ」
ドフラミンゴの声には自嘲するような響きがあった。
「なァ、何しろ仮にも国王が、何もかも放り出してお前を選ぶと言ってるんだ。
文字通りの傾国だ。責任をとれ、」
はもう二の句が告げない状態だった。
それを見て、ローは深いため息を零した。
「ドフラミンゴ」
呼びかけられ、ドフラミンゴはローと目を合わせたようだった。
「出来るだけ苦しんで死んでくれ。新聞で見かけたら盛大に祝ってやる」
「フッフッフッフ!餞の言葉にしちゃあ、物騒だな!
先に死んだら祝えもしねェんだ。腕は小人の姫にでもくっ付けてもらえ。
——じゃあなガキ共」
そう言うや否やドフラミンゴは雲に糸をかけて、
を抱きかかえたまま飛び去ってしまった。
能力者が離れたからか、粘液がその効果を失くし、さらさらと溶けはじめている。
粘液を払い落とした後、ルフィは首を傾げつつ、ローに問う。
「良かったのか、トラ男」
拘束から抜け出したローはルフィの言葉に僅かに目を伏せた。
全てが納得の行く結果と言う訳では無かったが、
しかし、あのまま行動していたなら、
全てはの手の平の上だったと言うことになる。
「・・・あの女の妄想に付き合ってやるのは癪だ。
ドフラミンゴの言っていた通り、
あいつらの行く末は明るくは無いだろう。それに」
の告白が狂気に駆られた”妄想”ではなく”現実”に起きた出来事であるなら、
にとってドフラミンゴと共にあることは一概に良いことでもない。
おそらくはドフラミンゴにとっても。
「あれはドフラミンゴの望みで、あの女にとっては最悪の、
おれたちにとっては悪くは無い結末なんだろうよ」
※
雲を縫い、空を駆け、ドフラミンゴはを連れてドレスローザから遠ざかる。
不思議なことに、人一人抱えて移動していると言うのに、驚く程気分が軽い。
「ドフィ、ドフラミンゴ!離せ!」
ドフラミンゴは暴れるの糸を締めあげる。
は小さく呻き、眉を顰めた。
「、お前は嘘ばかり吐く、お前の言う”悪のカリスマ”とやらになってから
おれが一番欲しいと思ったものが、手に入った試しがねェんだ。
こうして何もかも打ち捨ててやっと1つ手に入った・・・」
は混乱の極みに居たが、置かれる状況が
自身の思惑から大きく外れていることは理解していたらしい。
「正気か、お前?!大体今私は幾つだと思ってるんだ!?」
「フッフッフ、50近い年増だな、だがおれも41でもう良い年だ、釣り合いはとれてる。
それにお前はいくつになっても綺麗だよ」
「――何、を言っているんだ。私はお前から父も弟も奪った・・・!
お前の破滅を願っていたのに・・・!」
呪詛を吐くようなに、ドフラミンゴはサングラスの下、目を細めた。
「ああ。そのことか、だからなんだ?」
「何・・・?」
「勘違いするなよ。あれはおれがそうすると決めた事で、苦渋の決断ではあったが、
悔やんでは居ない。あのときはああするしか無かった。
フフフッ、残念だったなァ、。
おれは絶望してないし破滅もしてない。
少々身軽にはなったし、状況が良いわけじゃないが、
・・・どうにでもなる。お前が居るなら」
は驚愕を通り越して恐怖を覚えているようでもあった。
ドフラミンゴのことを心底理解出来ない生き物を見るような目で見ている。
「フフ、納得がいかねぇか?。お前にも分かるように言い換えてやるよ。
お前は一生、死ぬまで、おれのものだ。
死ぬ程憎む”天竜人”の、おれとともに生きて死ね。
——逃げられると思うなよ」
はそこで初めて納得したようなそぶりをみせた。
その唇からああ、と嘆くようなため息を零している。
はその時、手が自由に動かせたなら顔を覆いたいと思っていた。
「信じられない・・・」
「だろうなァ、フッフッフッフッ!」
ドフラミンゴは頷き笑う。
何しろ、ドフラミンゴはから見限られるのも、
嫌われるのも捨てられるのも嫌だったのだ。
”家族”としてでも己の側に居るのならそれで良かった。
だから、の期待に応え続けた。今日、この時までは。
「しかし揚げ足をとるようだが、お前が信じられるものなんて
お前の言う"妄想"くらいのものだったんだろう?
だが、それも今はあてにならない。・・・おれが全部ぶち壊したからだ」
確かにを苛んだ”妄想”をドフラミンゴは完膚なきまでに壊してしまった。
今のに、信じるものは何も無い。
「だから残り時間をつぎ込んで信じさせてやる」
はサングラスの下、目を閉じる。
足掻く様に言葉を探しているようだった。
「女にのめり込むような質には見えなかったが」
「そりゃそうさ、お前が居たからなァ」
「・・・情熱的だな、ドフラミンゴ」
「フッフッ、お前が冷血だからちょうど良いだろ、」
ドフラミンゴはそう言えば、とに問いかけた。
「本気で死ぬ気じゃあなかっただろう。
何もかも捨てて、どこへ行こうとしてた?」
僅かに棘のある言葉になったが、に気にするような様子はなかった。
「・・・トットランドへ行こうと思っていた」
は観念したように呟いた。
思い当たる国は一つしか無い。
四皇の一人、ビッグマムの治める大国である。
「トットランド?・・・あそこはビッグマムが治める国だぞ、
寿命と引き換えに住民権を得る国だ」
「私は自分の命にそこまで未練があるわけじゃあないんだ。
ただ、あの国は」
はそこで少し言葉を切った。
表舞台に出る気はもう無さそうなので、隠居でもしようとしていたのだろうが、
場所が場所である。
なにか頼る縁でもあるのだろうかと、ドフラミンゴは続きを促した。
「あの国は?」
「・・・チョコレートで出来ている」
ドフラミンゴは何も言うべきではないと思った。
何も表情に浮かべてはなるものかと思った。
残酷で冷酷で、人を人と思っていないような言動を取り、
先ほどまで人を踏みつけ笑っていたような女だというのに、これだから。
「笑いたければ笑うがいい」
「——いや、笑わないさ」
静かに笑みを讃えたドフラミンゴを
は訝しむようなそぶりを見せたが、
やがて何もかもを諦めたようだった。
「・・・どうやら私は、育て方を間違えたらしい。
昔のお前は、もう少し良い子だったと思うんだが」
「フフフッ、残念だったなァ、。
お前にとって"都合の良い子”はどこにも居ねェんだ。
嘆くなら、お前の”視野の狭さ”を嘆くんだな」
ドフラミンゴの言葉を聞き、
はここに来て、皮肉めいたものではあったが、
ようやく唇に笑みを取り戻した。
「全く、返す言葉が無い。
ローのことを、私は笑えなかったのだねぇ。
気づきもせず、気づきたくもなかった・・・。
間抜けは、私のほうだったな。べへへへへ!」
嘲笑するの頬を、落日が照らした。
太陽が何もかもを燃やし尽くそうとしているかのようだった。
いつだか火の中で笑った時も、はこんな顔をしていた。
「それでもお前を愛している」
ドフラミンゴは僅かに眉を顰めていた。
これは恐らく、には伝わらない言葉だ。
「これはお前がおれに教えた中で、最も価値あるものだが」
だが、残された時間全てをかけて口にしても惜しくは無い言葉なのだ。
「・・・お前は知らないし、分からないだろう」
だからこそ、ドフラミンゴは笑う。
「分からせてやるから覚悟しろ」
はその頬を引きつらせた。
「・・・恐ろしいことを言う」
「そうだ。おれは恐い男なんだよ。
だが、”そこがいい”——違うか、?」
はサングラスの下、僅かに目を見張ると、やがて硬く目を瞑った。
その唇には薄い笑みが浮かぶ。
諦観にも、嘲りにも見えたが、それは確かに微笑みだった。
「その通りだ。ドフィ」
「フッフッフッフッフ!」
ドフラミンゴは声を上げて笑った。
その時確かに、何もかもを打ち捨てたと言うのに、
何もかもが手に入ったかのような優越と全能感を覚えていた。