幽霊と竜宮城


リュウグウ王国、港町サンゴが丘。
マーメイドカフェの控え室を借り、ルフィらはサンジの輸血を行なっていた。

一行はリュウグウ号を奪い町へと出て、サンジと同じ血液型の人間を探し回ったが、
観光地だというのに魚人や人魚の姿しか見当たらず、
駆けずり回ってやっと双子のオカマの海賊から血を分けてもらうことができた。

ケイミー曰く、ここひと月の間、人間が魚人島にほとんどやってこなくなったとのことだ。
何者かが航海者の邪魔をしているのでは?と国中で噂になっているらしい。

魚人島の現状に諸々の疑問や懸念があることは確かだが、
ひとまずサンジの命の危機を脱したのだ。
はホッと息をつき、
マーメイドカフェの店主に礼を言いに行こうと言うルフィらに着いて行った。

店主のいる部屋はおそらくショーに使うのだろう小道具が積み上げられていた。
ブルックのライブ会場での控え室と似たような雰囲気を感じて、
は懐かしそうに目を細めた。

そして、キセルを吹かす大きなアオザメの人魚、マダム・シャーリーに頭を下げる。

「マダム・シャーリー、ありがとうございました、
 サンジがおかげで助かったわ!
 ・・・本当はきっと彼本人がお礼を言うべきなんでしょうけど、
 今はちょっと・・・美しい人魚達に会わせるのは賢明ではないから・・・」
「主治医のチョッパーちんのお墨付きだから、守らないと・・・!」

とケイミーに、シャーリーはクスクス笑って見せた。

「フフフ、おかしな処方だね」

ルフィが小道具の中に巨大な水晶玉を見つけて、不思議そうに腕を組んだ。
部屋の中に散らばるものとは少し毛色が違っている。

「おーい、”でか人魚”、これなんだ?」
「それにはお触れでないよ、麦わらボーヤ達」
「それは占いに使う水晶玉だよ。
 マダムの未来予知はこのサンゴが丘じゃ有名なんだよー!」

ケイミーの言葉に、シャーリーはその顔に影を落とした。

「もうやめたのよ、占いは・・・、
 未来なんて知らない方がいい・・・」

「”未来予知”・・・」

はシャーリーを思わず見つめていた。
ミホークの言っていた覇気の応用”未来視”に近いものがあると思い至ったのだ。

鍛え抜いて発現する覇気の才覚もあれば、
の”超記憶”のように、生まれつきその才に恵まれることもある。

だが、その才能に恵まれると言うことが、必ずしも幸福なこととは限らない。

「私の顔に、何か付いてるのかい?」
「あ・・・いえ、不躾な真似をしたわ。ごめんなさい。何でもないの!」

苦笑して首を横に振ったに、シャーリーは首を傾げる。
しかしあまり気にすることはなく、ケイミーに店を休んで島案内でもしてくれば良い、と声をかけた。

「近頃は人間の海賊の客足がパッタリで商売あがったりじゃないか。
 入江の娘らも直に来るし、人出は十分だよ」

シャーリーの言葉にケイミーはハッとしたように瞬いた。
ヒトデのパッパグに蛤を届けなくてはいけないことを思い出したのだ。
慌てるケイミーに、シャーリーは眉をあげる。

「ムッシュ・パッパグなら今ウチの店で騒いでるよ?
 何でも懐かしい友達にあったとかでね」

「なら、お店に正面から入って迎えに行きましょう!」
「そうだね。そうしよう!」

ケイミーと笑いながら歩き出したを、シャーリーは静かに見送った。
横目に水晶玉が、いつもよりまして煌びやかに光を反射しているように見えた。



「こっちが表通りだよ!ここが『マーメイドカフェ』入り口!」

貝殻の屋根のついた立派な店構えだ。
筆記体で書かれた「Mermaid Cafe」の看板は
タツノオトシゴの意匠と電飾に飾られている。

「うわー、腹減ってきた~!」
「カフェだっつーのに」

食欲に忠実なルフィにウソップが呆れているが、ケイミーは笑って答える。

「食べ物も置いてるよ。ケーキとか、海のフルーツが」
「肉は?」
「人魚はお肉もお魚も食べないから、メニューは海藻を使った料理が多いかな。
 あ! 貝のお肉はあるよ!ホタテサンドとか、シジミピザとか・・・」
「なるほど・・・」

は腕を組んで納得した。
人魚は魚と意思疎通ができる種族である。食事に魚を避けるのも納得ができる。

しかしルフィはショックを受けた様子だ。
わなわなと拳を震わせている。

「貝は肉じゃねェぞ! 肉をナメんな!!!」
「怒るポイントそこなのね・・・」
「とにかく行こうぜ、マーメイドカフェ!」

肉を何だと思っているんだ!とぷりぷり怒るルフィを宥めつつ
店に足を踏み入れようとした時、誰かが店の中から出て来た。

「ウィーーー!!!」
「ありがとうございました〜!」

特徴的なアフロヘアーの骸骨、ブルックは美しい人魚2人を侍らせ、
肩にヒトデのパッパグを乗せている。
かなりテンションが上がっているのか声が弾んでいた。

「あれー!? ルフィさん達!それにお懐かしいケイミーさんも〜!!!」
「ブルックちん!」
「何だオメー、ここにいたのか!」

ウソップが安堵したように息を吐く。
パッパグは再会に喜び、涙ぐんでいた。

「ムギー! ハナー! ユーレイ! 会いたかったぞオメェら! 来てたんだなー!!!」
「パッパグさん! お久しぶりね!」

がパッパグに自己紹介していると、
ブルックの額に人魚の1人がキスを落とした。

「ソウルキング、また来てね、夢のような時間だったわー!」
「ヨホホホ!! 必ず戻って来るぜ!! ビューティフルマーメイズ!!
 もー・・・骨抜きです・・・」

ヨホホイヨホホイ、と一人踊り出しているブルックに、
とルフィ、ウソップは唖然としていた。

「あっ!! 骨抜いたら私なくなっちゃいますけどー!!
 はー、もー死んでもいい・・・。
 いえいえ私もう死んでますけどー!!!」

「カフェでそこまでハイテンションに!?」
「ほんとだ、中で一体何が!?」
「楽しそうね、ブルック」

しかし、ブルックはを見てピタ、と動きを止めた。

「はっ!? さん!?」
「あら? 私ならずっと居たけど、どうしたの?」
「いや、あの、これはですね、その・・・」

もじもじと言い淀むブルックに、は首を傾げている。

「何をそんなに慌てているの? 何かやましいことでもあって?」
「いえ! そう言うわけではないんですけれども!!!」

ブンブンと両手を振ったブルックに、は頭に疑問符を浮かべた後、
カフェの方に視線を向けた。

「変なブルックね? それにしてもマーメイドカフェ、私も行ってみたいわ!」

「待て待て!お前ら今日帰るわけじゃあるめー、
 マーメイドカフェには全員で後から行けるだろ!?」
 今から”骨”を我が屋敷に招待するとこなのさ。
 ついて来い!海獣の肉は好きか!?」
「あるのか〜!?」

ルフィが肉と聞いてテンションが上がったのか目を輝かせている。

「人魚はダメだが、魚人達は魚も肉も食らう。
 この島に素材がねェわけじゃないのさ」
「そうか、ホッとした」
「良かったわね、ルフィ」

肉があったことで安心したルフィの肩を叩くを見て、
ブルックはいじけた様子で地面に指先で「の」の字を書いていた。

「・・・気にされないなら気にされないで、何となく落ち込みます。
 別に何か思ってて欲しいわけじゃないんですけどー、世にも複雑なホネゴコロ・・・」
「おめェ一人で何言ってんだよ」

それを見てウソップが呆れた様子で声をかける。

「良いんです。孤独、慣れてますから!」

いつもの調子で立ち上がったブルックは大きなサンゴに貼られた手配書に気づき、
驚きの声をあげた。

「わー!! バンダー・デッケン!?
 なぜオバケが指名手配に!?」
「おお、来るときに遭ったゴーストシップの?」

ブルックとウソップがごくりと唾を飲み込みながら手配書を眺めていると、
瞬間移動してきたかのようにが手配書の前に立った。

「手配書があるのね! これ、本当に”あの”ご本人なのかしら・・・、
 わ、私と同じように幽霊なのかしら!?」
「お嬢さん・・・本当にファンなんですねぇ」

どさくさに紛れては手配書を剥がし、その顔をうっとりと眺めている。
写真の中のバンダー・デッケンは影になって居て顔貌はあまり伺えないが、
帽子をかぶり、尖った歯を見せて笑っていた。

「何?! お前ら遭ったのか!?
 そいつァ今、国を挙げて何年も探してるストーカーの海賊だ」

パッパグの言葉に、は勢いよく振り返る。

「え!? ストーカー・・・!?」
「それより乗っちまえ、お魚タクシーだ」

パッパグが呼び寄せた”お魚タクシー”は
大きな魚の背に椅子とシャボンがくくりつけられているという代物だ。
椅子はふかふかでルフィとウソップは思わず頬ずりしていた。

「ふかふかだなー!」
「ふかふかだー!」

はしゃぐルフィらをよそに、はパッパグに詰め寄った。

「それより、バンダー・デッケンがストーカーってどう言うことなの!? 何年も探してるって?」

迫るにパッパグは引き気味だ。

「おう、えらいテンション高いな、ユーレイ・・・。
 あいつは週に一度はこのリュウグウ王国の人魚姫にラブレターを送ってきやがってな。
 やがてそれは手紙から小包、そして脅迫の求婚状に変わっていった」
「ええ・・・!?」
「人魚姫は怯え、無視できない事態になって・・・」

ケイミーがパッパグの言葉を引き継いで答えた。

「そう! お姫様のお父さん、ネプチューン王が怒って、さっき会った3人の王子が、
 軍隊を引き連れて探し回ってるんだけど、見つからないの」

会話を取られてパッパグは不満そうだが、ケイミーは意に介さず、説明を続ける。

「あ、つまり、この国を治めてる”海神”ネプチューン王には、4人の子供達がいてね、
 一番下が人魚姫様、そのお兄さん達がさっきの3人の王子様達なんだよ」

「でも、バンダー・デッケンという人は、何百年も前の呪われた海賊なのでは?」

ブルックが問うと、気を取り直してパッパグが答える。

「まー、伝説なんてものには尾ヒレハヒレ付くもんでよ、
 実在はしたようだが、実際その海賊の船長バンダー・デッケンはこの魚人島へ行き着き、
 この国で息絶えたと聞いている。
 現におめェらの会った船はまさに伝説通りのフライング・ダッチマンだったろうが、
 乗ってるのはその子孫」

「”バンダー・デッケン9世”よ!」

「は〜、そうでしたか。いやあ、本物の呪われた海賊に会ったかと、
 生きた心地がしませんでしたよ、ホネだけに!!」

ブルックが安堵のため息を漏らしているが、は呆然と呟いていた。

「”さまよえる幽霊船”の、バンダー・デッケン船長の子孫が、”ストーカー”・・・」
「・・・? お嬢さん?」

その意気消沈ぶりにブルックが首を傾げている。
パッパグはの言う”さまよえる幽霊船”に何か考えるそぶりを見せていた。

「”さまよえる幽霊船”・・・? ああ、オペラか。あれもバンダー・デッケンがモデルになってたなァ、
 この国じゃ、奴が人魚姫様に求婚し始めた頃から上演されねェ演目だ・・・、
 なんたって9世の方は当時6歳の人魚姫様に求婚するような奴だし」

はショックを受けた様子でルフィの座るソファーの背もたれに
ぐったりと腕を伸ばし、額を押し付けた。

「・・・なんてことなの!・・・私、死んでしまいたい気分だわ。もう死んでるけど」
「お嬢さん、しっかり!」

励ますブルックだが、はらしくもなく影を背負っていた。
ルフィがそんなの肩を叩き、シャボンの外を指差してみせる。

「おい、、そんなことよりあれ見ろよ!
 おばはん人魚!」

二股のヒレで二足歩行する人魚を見て、ルフィは言う。

「ケイミーも30超えたらあの足になるんだろ?」
「そうだよ、よく知ってるねー」

ケイミーは笑って肯定する。
人魚という種族は30を超えると足が二股になり、
二足歩行できるようになる種族なのだ。

「あっち見ろ!! 赤ん坊」

またルフィが指差す方を見ると、
魚人の父親がベビーカーを押している姿が目に入る。

「魚人が父親、その子供が人魚と魚人!
 面白ェな〜色も大きさも、色んな奴がいて楽しいな〜」

パッパグは頷いた。

「人魚と魚人が結婚した場合、子供は人魚か魚人で男か女。
 つまり4パターンのお楽しみだ」
「そうなの」

魚人と人魚同士の間では見た目による偏見や差別はないと言うことなのだろう。
だからこそ、人間と魚人・人魚との間では根深い差別や悪しき歴史が残っているのかもしれない。
が顎に手を当てて考えていると、高速道路のウォーターロード、
そして海賊旗を掲げる建物が目に飛び込んできた。

「ん? あれなんだ?」
「海賊旗がついているわ」

「あれは『お菓子工場』だな。
 海賊旗の持ち主は新世界の大海賊
 四皇”シャーロット・リンリン”。通称”ビッグ・マム”
 今この島はあの海賊旗に守られてるのさ」

はパッパグに問いかける。

「・・・新世界の入り口にある魚人島は海賊の往来が激しくて、
 今でこそ彼らを相手にビジネスをすることができているけれど、
 白ひげがナワバリにする前はとても治安が悪かったと聞いているわ」

「その通り。白ひげ亡き今は、ビッグ・マムが睨みを利かせてるってわけよ。
 代わりに毎月大量の甘いお菓子を要求してくる。
 人魚達は甘いお菓子が好物だからな。菓子職人のレベルが高いんだ」

ルフィは背もたれに体を預け、パッパグに尋ねた。

「でも、”白ひげ”のおっさんの代わりに守ってくれてんなら、いい奴なのか、”ビッグ・マム”?」

「さァなァ、”白ひげ”は少なくとも見返りは求めなかった・・・。
 ”ビッグ・マム”はビジネス程度に考えてんのかもな」

「”ビッグ・マム”か・・・シャンクスと同じ四皇。いつか出会うのかなァ」

今はまだ出会うかどうかもわからない”四皇”に思いを馳せているらしいルフィに、
はクスクス笑いながら言った。

「ウフフッ、新世界に行ったら、ぶつかり合ったりするのかもね。
 私もシャンクスさんにはご挨拶してみたいわ。
 ルフィが幽霊を仲間にしてたら、ビックリするんじゃない? 驚かせたいわ!」

「しししし! いいなァ、それ!」

悪戯っぽく笑うに、ルフィも口の端をあげて悪い笑みを浮かべた。
仮にも四皇相手に悪戯小僧のような悪巧みを考える2人に、パッパグは冷や汗を垂らしている。

「・・・お前ら結構とんでもねー会話してんなァ、
 それより前を見ろ!もうここはセレブの町『ギョバリー・ヒルズ』だ!」
「あの真正面の大きいのがパッパグの家だよ!」

そう行ってケイミーが指差したのは一見小さなマンションにも見える、
水玉模様の巨大な巻貝をモチーフにした屋根の家だ。
「Cri★min」のロゴが入っている。

「すごい!立派な邸宅じゃないの!?」
「ヒトデのくせにすげーなオイ!?」

その邸宅の豪奢さに、思わずウソップが失礼なことを口走るほどである。



「さァ、着いたぞ! ここがおれんちだァ!」

誇らしげに胸を張るパッパグに、屋敷の前にいる門番が丁寧に挨拶している。
周囲を歩く身なりの整った人魚や魚人達もパッパグに一目を置いている様子だ。

「ウッホホイ、驚いたか!
 海に出れば俺はただのオシャレヒトデだが、
 魚人島では”クリミナルブランド社”社長兼超人気セレブデザイナーなのだ!!
 今やそのデザインは世界中の国に店舗を構え、かのドスコイパンダにも負けずとも及ばない
 一流ブランドに成長したんだぜ!!!」

は頷いてその建物を眺めた。

「一階がお店になっているのね、それにしてもすごいわ、パッパグさん!」
「いやァ、それほどでもあるけど!?」

帽子の上から頭をかくパッパグだったが、
パッパグの店の中では誰かが騒いでいる様子だ。

「だからァ、この店高すぎじゃない?! そりゃ服は可愛いけど!!」
「クレーマーか?」

ウソップが眉をあげる。
ひとまず店の中に一行が足を運ぶと、
見知った顔が店員と思しき魚人にいちゃもんをつけているところだった。

「じゃあ1万ベリーにしなさいよー!」
「そんな殺生な、お客さん、半額以下じゃないですか!」

「ナミったら・・・」
「あいつかよ、クレーマー」

ナミの守銭奴ぶりに呆れるとウソップだったが、
ルフィはかまわずに大きく手を振る。

「おーい、ナミー!!!」
「あ、ルフィ!ケイミーも!」

ナミはルフィとケイミーを見て笑顔を見せたが、
そばにいるパッパグを見つけると詰め寄ってその頰をつねりあげた。

「ちょっとここあんたのお店なんだって?
 何よこの値段、ぼったくり!?」
「いや、ブランド価格というか、おれ人気デザイナーだから・・・」

しかし、なおも食い下がるナミに、
パッパグは2年前ケイミーとハチを救った大恩を理由にこう言ったのだ。

「なんでもタダだ! 好きなだけ持ってけ!」

気前の良い言葉だが、は心配そうに忠告する。

「あの、パッパグさん、あんまりそう言うことは言わない方が・・・」
! いいじゃないのタダでくれるって言うんだから!」
「う、うーん・・・良いのかしら」
「良いのよ! あんたたち、出番よっ!」

ナミはその場にいた一味の皆を荷物持ちにして根こそぎ商品を袋に詰め込んでいった。
あれよあれよと言う間に店は空っぽである。
もはや強盗だ。
パッパグは唖然として居たが諦めた様子で「持ってけドロボー!」と叫んでいた。

しかし、そうこうしているうちに
店の外で悲鳴のような歓声のような声が上がっていることに、ブルックが気付いた。

「あれ、店の外が騒がしいですね?」
「ムッシュ〜!大変です!上空に、竜宮城からあの方が!」

従業員に促されるように店の外に出て上空へと顔を上げる。

「なんだ?クジラ?」

ケイミーもパッパグも驚いている。
パッパグの邸宅の前に現れたのは巨大な男の人魚と、
ルフィが呟いた通り、クジラだった。

「デッケー男の人魚だ・・・」
「女性がいいですよねー、人魚は」
「けったいなもじゃもじゃのおっさんだなー」
「クジラかわいいっ」
「みんなどうしてこんなに慌ててるのかしら・・・?」

好き勝手言う麦わらの一味に、パッパグは慌てている。

「失敬だぞお前らァ、ひれ伏せェ」
「ネプチューン王様・・・初めて生で見た!」
「え!? この国の、王様!?」

が驚いてネプチューンを見ると、確かに頭上に王冠を戴いていた。
そして、シャボンをまとった巨大なサメがネプチューンの横におりてきた。
クラーケンに捕らえられていたサメだ。

「おい!! ”麦わら”の人間達っ!! おぬしらを竜宮城へ招待するんじゃもん!!!」



一味一行は巨大なホホジロザメ、メガロの背に乗って竜宮城へ向かっていた。
なんとネプチューン自らが案内役を買って出ての招待だ。
ケイミーとパッパグはガチガチに緊張している。

「ほっほっほ!! 落ちるでないぞ! ネ〜プチュ〜ン!」
「何だおっさん。そのかけ声バカみてェ」
「やめろ無礼者!ムギ!てめー!もうコワイ!おれはお前がコワイッ!」
「ウフフフフ!!!」

しかしネプチューンはルフィの無礼も意に介した様子がない。
どうやらメガロは人魚姫のペットだったようだ。

「クラーケンに襲われとったとは危ないところ。よう助けてくれたもんじゃもん!」
「ししし!まー、偶然だけど助かってよかったな!」

メガロの頭を軽く叩いて、ルフィは笑う。
はネプチューンに尋ねた。

「王様なのに、一人で私たちを迎えに来たり、出歩いたりして良かったんですか?」

「ほっほっほ!! 実は先に息子達を使いにやったんじゃが、
 とんと戻って来ないんじゃもん。それでわしが来た!
 なーに、ここは我が国、出歩いてまずい道理はないんじゃもん!
 宴の料理が楽しみだったしな!」

宴と聞いてルフィは嬉しそうな顔をする。
ネプチューンはそう言えば、と言ってルフィらに顔を向けた。

「お前達の仲間をすでに一人招いておる。
 そやつがさっさと酒盛りを始めてしまってのう。
 宴はみんなでやる方が楽しいと言うのに身勝手な男よ!」

その言葉に、皆ゾロのことだと思い至ったらしい。

「ゾロったら・・・相変わらずね」

ネプチューンは他の仲間達も探し出して招くから安心しろと言う。

「ああ、そういやナミ、他の奴らはどこ行ったかわかるか?」
「ええと、確か・・・」

ウソップの問いかけに、ナミが言うことには、
フランキーは自分の恩人トムの親族を探し、
ロビンは歴史関係のことで魚人島に気になることがあるようだ。
バラバラで島にいるらしいが皆無事が確認できたことになる。

皆が安堵したところでナミはネプチューンに、海底に光が差し、天候がある理由を尋ねた。
航海士としては気になるところだったのだろう。

ネプチューンは国王らしく説明を始めた。

魚人島には地上の光をそのまま海底に伝える”陽樹イブ”の根が届いているのだ。
1万メートルを超える光る根を持つ大木。
その木の根の呼吸は空気をも海底へと供給するのである。
地上に日がさせば海底も明るく、地上の夜には光を失う仕組みだ。
魚人島は太陽の光と空気を送り出す陽樹の恩恵を受け、暮らしている。

「光を届ける大木の根・・・確か、この真上には、」
「そう、”聖地マリージョア”がある。
 本体は天竜人の召使い達に大切に手入れされていると聞くんじゃもん」
「・・・へぇ」

は空を見上げた。レッドラインの小さな穴に位置する魚人島。
真上には天竜人の座する、聖地があるのだ。

ウソップは面白いことを聞いた、とメモを取っている。

「サニー号の船体を作った”宝樹アダム”と何か繋がりはあるんだろうか、フランキーに教えてやろう」
「それよりよー、もじゃもじゃのおっさん、おれ、腹減った」

腹を抑えるルフィに、ネプチューンは笑って言った。

「ほっほっほ、もうすぐじゃもん」

竜宮城は魚人島の巨大なシャボンの上にある、シャボンで覆われた宮殿だ。
魚人島とは丸いゲートと伸縮自在のウォーターロードで繋がっていて、
ゲートは侵入者を通さない関門となっているようだ。

サンゴの庭を抜けると巨大な龍の彫刻がとぐろを巻く、その城がそびえ立っている。
竜宮城。
海の中に鎮座する絢爛豪華な王宮である。
圧倒される一味にネプチューンは満足そうに胸を張った。

「我が城じゃもん!! ゆるりとしてゆけ!!」