幽霊と運命


は宴会の余韻を覚まそうと竜宮城の階段前まで降りてきていた。

「少し、酔ったかしら。とても楽しかったけど。
 ・・・はしゃぎすぎたわ」

数時間前、広場を後にした麦わら一味をネプチューンは宴へと誘い、ルフィは二つ返事で頷いた。
そして、開かれた宴会は呆れるほど盛大だったのだ。

きっと島中の人々が一味をもてなそうとしていたに違いない。

はとろけるような声を持つ歌姫マリア・ナポレとブルックと歌い、
マーメイドカフェのダンサー達やリュウボシ、マンボシ王子らと踊った。
酒や食べ物も少しだけ口にした。

賑やかで、笑い声が絶えなくて、楽しかった。

 スリラーバークでの宴会も楽しかったが、やはりこうして、
 一味みんなで歌い、踊り、飲み、食べるのは良いものだ。

はふわふわと空中を漂いながら、余韻に浸り小さくはにかむ。

その姿を見とめ、声をかける人影があった。

「・・・あんたは幽霊だってのに、随分楽しそうだね」
「あら? マダム・シャーリー! いらしてたのね」

シャーリーは緩やかにへと近づいた。

「ウチの子達と踊ってたろう? 見てたよ。
 あんた華があるから、人魚だったらスカウトしてたかもしれないねぇ」

「ありがとう! お世辞でも嬉しいわ! ウフフフフッ」
 
クスクス笑うを見て、シャーリーは僅かに目を伏せる。
何かを言い澱むようなそぶりに、はシャーリーを見上げ、
少し顎に手を当てた後「ベンチへ行こう」と提案した。

サンゴに囲まれた白い貝殻の屋根があるベンチに二人は腰掛ける。
は小さく首を傾げて見せた。

「きっと、何か言いたいことがあるのではないかしら。 
 ・・・あまり、良くないことなんでしょう?」

シャーリーはの顔を眺めてから、頷いた。

「・・・麦わらのボーヤとは別に、あんたにも何となく、
 思うところがあってね。水晶玉を覗いたんだ」

シャーリーは口を噤むが、すぐに顔を上げてに予言した。

「あんたは近いうち、”愛する人間”を、その手で殺すことになる」

流石にも驚いたようだった。
シャーリーは静かに告げる。

「私が見たのはその剣で、男の首を刎ねるあんたの姿だ。
 『愛してる』って、言っていた。笑っていたが泣いてもいた」

は腰のベルトに差した剣”ティソーナ”を見た。
はミホークに贈られた、先代幽霊の形見を未だに抜いては居ない。
ミホークの言う、”然るべき時”はまだ来て居ないからだ。

「こんなことを言うのは何だが、私の占いが外れたことは、今まで、一度もないんだよ」

念を押すように言うシャーリーに、は小さく息を吐いた。

「話してくれて、ありがとう。マダム」

はシャーリーに笑顔を向けた。
シャーリーは瞬き、を見つめている。

「生まれつきの才能というのは、時に、見たくもないものを見せ、
 聞きたくもないものを聞かせるものね。
 きっとあなたが一番、自分の力を忌まわしく思っているのでしょう?」

かすかに息を飲んだ音が聞こえた。
シャーリーの瞳にうっすらと涙の膜が張る。
は見ないふりをして、明るく言った。

「でも、あなたが教えてくれたおかげで、
 私は未来を変えることができるかもしれないわ!
 バタフライ・エフェクトって、ご存知?」

首を横に振ったシャーリーに、は人差し指を立てて説明する。

「ウフフ、『小さな蝶の羽ばたきは世界の裏側で嵐を起こす』
 些細な変化を加えた場合と、その変化を与えなかった場合とでは
 結果が全く違ってくるって言う意味なのよ」

はベンチから立ち上がった。

「もし、私に酷い運命が定められているのだとしても、
 もし、私が愛する誰かを、殺さなくてはいけない場面を迎えたとしても、
 私は最後の最後まで、何も失わずに済むように、抗うことにするわ。
 あなたは私に、その心構えをさせてくれたわ!」

は腕を広げ、おどけて、恭しくお辞儀して見せた。

「だから、ありがとう」

シャーリーはの芝居掛かった仕草に毒気を抜かれたのか、
笑顔を見せる。どうやら、肩の荷は降りたらしい。

「フフッ・・・あんた明るいんだね、

「ウフフフフッ、私幽霊だけど、ネガティブでいなきゃいけないなんて、
 決めつけられたら困るわ! 楽しいことが好きだもの」

はそう言うと、そろそろ仲間達と合流しなくては、と
シャーリーに大きく手を振って別れた。



一味の仲間達の元へと姿を見せたに、
ブルックがギターを手慰むように弾きながら迎えた。

「あ、さん戻って来ましたね!」
「ごめんなさい、ついシャーリーさんと話し込んでしまって・・・。
 ところで、なんでルフィとゾロとサンジは今更重症なの?
 ・・・ナミが殴ったのかしら? すごい迫力ね」

の視線の先に居るのは顔が変形するまで殴られた麦わら3強の面々である。
ルフィの胸ぐらを掴んで怒りを露わにして居るナミを見ては冷や汗をかいていた。

「ヨホホ、実はですね・・・」

ブルックが経緯を説明し始める。

どうやらどさくさに紛れて竜宮城の財宝を奪った人間がいたらしいのだ。
しかし国の一大事を乗り越えた今は財宝泥棒を追いかけるよりも
魚人街の撤廃などの方に兵士たちを割きたいのが実情。
ネプチューンは「もし泥棒を捕まえたなら諸々の礼も兼ねて財宝は全部一味にやろう」
と告げたらしい。

「すごいじゃない! ナミはむしろ喜びそうなのに・・・」
「実際喜んでたんですが、そうは問屋はおろしませんで・・・」

ルフィらは財宝泥棒だったカリブーを打ちのめし、財宝を手に入れることができたそうだ。
しかしそこに、思わぬ連中が現れた。
魚人島に旗を貸す、ビッグ・マム海賊団である。
お菓子の取り立てに来たのだ。
しかしどうやら宴会に供された食べ物の中にはビッグ・マムが毎月要求して居るお菓子もあり、
その上ホーディ達の襲撃もあって菓子工場がまともに機能しない状況だったのだそうだ。

少しだけお菓子の取り立てを待ってくれと言う島民達だったが、
ビッグ・マム海賊団は引かない上に、しまいには国を滅ぼすと脅しをかけて来たのである。

その状況に居合わせたルフィはビッグ・マムに財宝と引き換えに
2週間ほどお菓子の取り立てを待ってもらうよう交渉し、
ビッグ・マム海賊団はそれを飲んだのだそうだ。
魚人島の失態を見逃す代わりに、麦わらの一味を標的にすると言う条件で。

「おまけに、ルフィさん。ビッグ・マムを相手に
 魚人島を『自分のナワバリにする!』と啖呵を切ったようです」

「喧嘩を売ったようなものじゃない!?
 ルフィらしいといえば、ルフィらしいけれど」

麦わらの一味とビッグ・マム海賊団は敵対することが確定したと言うことだろう。
どうりでウソップやチョッパーがさめざめと泣いているわけだ。

「お菓子の弁償に魚人島の財宝全部つぎ込んじゃったそうでして、
 ナミさん、それに怒り狂っているわけです。ヨホホ! がめつい!」

「聞こえてるわよ、ブルック!」

ナミは殺気立った視線を向けてブルックを震え上がらせていた。
は肩を竦め、よろよろと歩くルフィ、ゾロ、サンジらを見ながら苦笑した。

「前途多難ってやつだわ」



出港準備をするために港に出ると、魚人島の人々が一味の見送りに集っていた。
しらほしは泣きながらルフィと別れを惜しんでいる。

「お前は最初から最後まで泣いてんな、よわほし」
「も、申し訳ございません。泣き虫やめます」

嗚咽しながらも宣言するしらほしに、サンジは目をハートにして感嘆している。

「ああ・・・。夢にまで見た魚人島の人魚姫が、おれ達の出港に涙してくれる日が来ようとは・・・!
 おれも1年くらいここに住みてェ」
「名案だな。ぜひお前ここに残れよ、鼻血くん」

「わかります。夢の魚人島暮らし、ニューシングルにしました!
 聞いてください『朝起きたらグッドモー人魚』」

ギターをかき鳴らすブルックに、は笑いながら手拍子している。
サンジはゾロの「鼻血くん」発言に怒り、小競り合いに発展していたがいつものこと、
誰も気に留めていなかった。

そんな中、マイペースな一味のやり取りを眺めていた左大臣がナミに歩み寄り、
ブレスレットのような記録指針を渡す。

今までのものとは違い、指針が3つもある代物だった。
左大臣曰く、新世界の島々は磁気すら変動することがあるのだと言う。

「新しい記録指針は3本別々の島の磁気を記録する。
 つまり、進路は3本の航路の中から己の”勘”で選び進むことができるのだ。
 単純に言うなら、指針の動きが異常なほど危険度が高い」

「えー!?」

左大臣の言葉に、ナミやウソップ、チョッパーは嘆くような声を上げた。

「そんなのわかんない方がいい!」
「な、なぜだ?より安全な航海をせねば、この先命が・・・」

話を側から聞いていたルフィがろくろ首のように首を伸ばしてナミに巻き付いた後、
指針を見て呟いた。

「その真ん中のすげー針が揺れてる島、
 面白そうだなー!」

ナミとウソップは絶望的な表情を浮かべた。

「こうなると思ったんだよチクショー!!!」
「ルフィ、あんた黙ってなさいよ! これからは私が進路を決めていく!!」
「バカ言え! おれが船長だぞ!」

その様子を眺めていたブルックは再びギターを手に取ると、
に顔を向けた。

「これは、あれですね。カップリング曲のアイディアが浮かびました」
「あら、どんなタイトル?」
「『レクイエム・フォー・アス』なんて如何でしょう?」
「ウフフフフ! 素敵」

「おいお前ら! 準備できたぞ!」

出港準備を終えて、フランキーが皆に声をかけた。
一味は船に乗り込んで、宣言する。

「よし、帆を張れ!!! 出港するぞ!!!」
「またな、『魚人島』ー!」

手を振ると、島の人々が口々に別れの言葉を告げる。

「また来いよー!!!」
「お菓子と肉を食いに来ーい!!」
「人間好きになったぞー!タヌキもロボも幽霊もー!」

「あれ、ホネは?」

「ホネも好きだぞ!」
「お気遣いどうも!!!」

忘れられて拗ねるブルックの肩を叩いてが笑っていると、
を呼ぶ荒くれの声が響いた。

「師匠ー!」「師匠ー!!!」
「船長は来られねェが、あんたが発つって言ったら寂しがってたぞー!」
「ゴースト師匠、またなー!!!」

「うっ、師匠って呼ばれるのホントに変な感じだわ・・・」

しかしは大きく手を振った。

「もうストーカーはダメよ! お元気でー!!!」

がそう言った直後、しらほしが最後の別れの挨拶に来て、
船のヘリに手をかける。

しらほしは今度会うときには泣き虫を卒業しておくから、
海の上、『森』へ散歩してくれるように、約束してほしいと小指を差し出した。

ルフィはそれに二つ返事で頷き、自分の小指を伸ばして結んで見せた。

「それ私たちにも責任ない?」
「ルフィさん、約束とは死んでも守るものですよ!」

ナミとブルックを始め、一味の大半がしらほしの小指に自らの小指を差し出した。

「これだけ結んでおけば、大丈夫ですかねェ」
「ウフフ、きっと大丈夫よ」

「しししっ、じゃ、お前も泣くな」
「はいっ・・・!」

ルフィの笑顔に、しらほしは力強く頷いて一味の出港を見送った。



魚人島を出たサニー号は、いよいよ”偉大なる航路”後半の海、
「新世界」へ向けて上昇中だ。

サンジはをキッチンに呼び寄せると、
手早くフルーツをカットし、美しく飾られたデザートを完成させての前に置いた。

「なんて綺麗なデザートなの・・・!」
「サンジ特製”フルーツ・ミニパルフェ”だ。召し上がれ」

デザートスプーンとフォークを渡すサンジに、は目を瞬く。

「えっ、いいの・・・?」
「あァ、魚人島のクリームを参考に作ったんだ。
 試作品だから1つしかない」

「だから他の奴らには内緒だよ」と口元に指を一本立てて、サンジは悪戯っぽく笑う。
は少々迷うそぶりを見せたが、頷いてスプーンを手に取った。

黒い霧がを一度覆うと、は幽霊ではなくなっていた。
その色を取り戻している。

サンジはその様を見て、おとぎ話に出てくる呪われたお姫様を思い出していた。
眠り続けなければいけなかった姫、毒リンゴを口にして一度死んでしまった姫。
彼女らは”王子様”に救われ、呪いが解けるのだが、
は悪魔の実の能力者だ。呪いが解けることはないだろう。

サンジの思索もよそに、はフォークで宝石のような果物を口に運び、
フルーツシャーベットと生クリームを美しい所作で掬い上げた。

「美味しい!」
「それは良かった」

ぱっと、の頰に赤みが差した。
サンジは満足げに頷く。

それから夢中になって、はパフェを食べ進めている。

魚人島の宴会で、ものを食べ、飲むは心底幸せそうだった。
2年の修行の成果で、食事を摂れるようになったのだと、は言っていたので、
サンジは腕を振るいたいと密かに思っていたのだが、なかなか機会が訪れなかったのだ。

「・・・私、人生の7割は損してたわ」
「どうした、急に?」

がしみじみと呟く。

「だってこんなに美味しいものを食べれないなんて、不幸だわ。
 今だって生き返った気分だもの!」

「ははっ、嬉しいよ」

「私、お世辞とかじゃなくて本気で言っているのよ!
 料理を美味しく食べられるって、素晴らしいことだわ。
 死んでいると、余計にそう思うのかもしれないけど」

笑うサンジには少しムキになって言った。

綺麗にデザートを完食し、「洗い物は私が」と譲らなかったを、
今度はサンジがカウンター席から眺める。

「なァ、お嬢さん」
「何?」
「あんまり家事、慣れてないだろう?」
「うっ・・・!」

は痛いところを突かれた、と視線を彷徨わせた。

「どうやらそうみたい・・・ペローナちゃんにも呆れられて、
 結構練習するようにはしたんだけど、」

「別に、無理になんでもできるようになる必要なんかねェさ、
 誰にだって得意不得意があるし」

「・・・私ね、甘やかされるのが、怖いの」

はそっと呟いた。

「今まで何も出来なかったから、甘えたり、頼るのは、嫌なのよ」

サンジはその時、の本心に触れた気がしていた。
陽気で明るいだが、もっと複雑な心持ちの一端を、
は隠し持っているのかもしれない。

「・・・じゃあ、できるようにならなきゃな」
「ウフフ、そうでしょう?」

は手を拭くと、幽霊に戻った。

「ナミさんやチョッパーみたいに、おれも料理を教えてあげるよ。
 安心してくれ、どこぞのクソジジイと違ってスパルタじゃないんだ、おれは!」
「まぁ嬉しいわ! ありがとうサンジ!・・・ところでクソジジイってどなた?」

目を輝かせたを見て、サンジは笑った。
コックの城ともいうべきキッチンに立つを見るのが、
不思議と嫌いではなかったのだ。

2人がつかの間の穏やかな時間を過ごしていると、
船がぐらりと大きく揺れる。

「なんだ?!」
「様子、見に行きましょう」

甲板にサンジとが出ると、巨大な深海魚が目に入り、
は飛び上がって驚いた。

「何!? 釣ったの!?」
「おお、サンジに深海魚料理やってもらいたくてよ。
 あの中にもう2匹入ってんだ!」

ルフィの言葉にサンジは嬉しそうに顎を撫でた。

「なるほど、腕が鳴るぜ!」
「それはいいけど、これだけ大きいと重いんじゃないかしら」
「確かに心なしか沈んでってるような・・・」

ウソップも心配そうだが、ルフィは「気のせいだろ」と意に介したそぶりもない。
それどころか、突然目の前に現れた白い蛇の腹のようなものに気をとられている。

「おい、あれなんだ!?」
「海ヘビ!?」
「頭が見えないけど、なんて、巨大な・・・」

生きているようにうねるそれを見ていると、
ロビンが何か思い当たったようで、声をあげる。

「あれは、”ホワイト・ストローム”!!!
 生きた龍のように突然海底に現れるという、巨大な白い渦巻よ!!」

入浴していたナミも異変を察知してバスローブ姿で甲板に出てきていた。

「みんな!! 急いであの渦から離れるわよ!!」

しかし、巨大な深海魚を捕まえていたサニー号が逃げるには遅すぎたのだろう。
白い渦に深海魚が飲み込まれた。

「船体にしがみつけ!!!」

ルフィが声をあげると、サニー号は渦に飲み込まれる。
激しい揺れと轟音に、皆叫んでいた。しかし、それも一瞬の出来事だった。
何かにサニー号がぶつかったのである。

いつの間にかホワイト・ストロームからも抜け出していた。
顔を上げた一味の前に、巨大なクジラの集団が見える。

「ラブーン!?」
「ええ!?」

ルフィが叫んだ言葉に、は瞬く。
それはブルックがグランドライン前半に置いてきたクジラの名前だ。
ブルックは涙を流し、再会を喜んでいるが、人違いならぬクジラ違いである。

「奇跡的・・・、アイランドクジラの群れに出会うなんて」

ロビンの呟きに、ゾロは目を凝らしてクジラを観察して言う。

「ラブーンと同じように頭をケガしてるのが何頭かいるぞ」
「うん、傷までそっくりだ。びっくりした、ラブーンじゃねェのか」

ルフィも驚いているようだ。
サンジはナミに航海の指示を仰いでいる。
ナミは帆を張るように皆に告げた。

「これだけ大きなクジラの群れは、すでに海流を生んでる!
 流れに逆らっては危険が増すわ!」

帆を張って安定した海流に乗ると、ブルックはバイオリンを手に取った。
クジラの群れに語りかけるように、ビンクスの酒を奏で始める。

陽気な音楽を聴いてか、クジラのうちの一頭が、サニー号を頭に乗せた。

「乗せてくれんのか?」

ルフィが問いかけると、答えるようにクジラが鳴いた。
ナミも笑って頷いている。

クジラの頭に乗って、サニー号はあっという間に海上へと浮かび上がった。
クジラの咆哮に迎えられ、サニー号はついに、新世界へと着いたのだ。

「天候最悪ー!!!」
「ヨホホホ!! 空は雷雨!!」
「風は強風!」
「海は大荒れ!!」

ウソップ、ブルック、ロビン、フランキーが周囲を見回して言った。
彼らの言う通り、雷鳴が轟き、海は波が高く、
とてもじゃないがこの先の航海の幸先は良いとは言えない。

「指針、的外れ!」

ナミが記録指針を見て笑った。
ホワイト・ストロームに巻き込まれてしまい、
通常の航海ルートからは外れてしまったのだろう。

「赤い海が見える!!」
「逆巻く火の海!!」
「まるで地獄の入り口」
「何が起きても、おかしくないわ!」

チョッパーが目を凝らして見えたのはサンジの言うように、炎の海だ。
ゾロは面白そうに口角を上げ、
はこの世のものとは思えない光景に息を飲む。

しかしルフィは笑った。
その腕を高く掲げ、叫ぶ。

「望むところだァー!!!」