幽霊と旅立ち


シッケアール王国での修行を始めて一年。
は朝刊の見出しに叫んだ。

「ええええええ!?」
「うるせェよ朝っぱらから。どうした?」

ゾロが声をかけると、は新聞をゾロに押し付けた。

「こ、これ、見てよ!」
「・・・はァ!?ブルック!?」

新聞の一面にはミュージシャンのワールドツアーのポスターが大々的に飾られている。
ファンキーなサングラスをかけた骸骨にトレードマークのアフロヘアーは健在だ。
どう見てもブルックである。

「あいつ何やってんだ・・・」
「無事だったのは嬉しいけど、本当、びっくり・・・!
 ・・・ソウルキングって呼ばれてるみたい」

は懐かしむように新聞を眺めた。
ゾロはその横顔に何か思うところがあったのか、考えるそぶりを見せる。

いつまでも新聞が気になるのかそわそわしているを見て、
ゾロが見かねて声をかけた。

「そんなに気になるなら先に合流すればいいんじゃねぇか?
 ツアーってことは、ブルックの行く場所は分かってるんだろ」
「ええ?どうして?」

は怪訝そうな声を上げる。
ゾロはいたって真面目にに進言した。

「あいつが歌手やってるなら、お前の能力の足しになるかもしれねェし」
「・・・そういえばそうね」

は盲点だった、と言わんばかりに瞬いている。

が覇気を込めて歌うと生じる怪奇現象は、
もうシッケアールの面々によく知るところとなっている。

ミホークなどはがトゥーランドットのオペラを歌い、自ら首を落とされる瞬間を体験してからは
お化け屋敷を楽しむが如くの演奏を面白がって、よく晩酌にを付き合わせるようになった。
どうやら実戦とは異なるスリルがあるらしい。

覇気の訓練にもなるのでとてやぶさかではなかったのだが、
己の首を斬られる幻を何度も見たがるのはどうかと思っていた。

ゾロもその効果を体験している。
以前ブルックと即興で作った応援歌を、
が覇気を込めて歌っただけで疲労感が軽減したこともあるのだ。

その際ゾロは驚きと共に奇妙な脱力感にも襲われた。
「そんな適当な能力で良いのかよ!? あと効いちまうのもなんか癪だ!」と苛立つゾロを、
はケラケラと笑っていた。

そういう出来事もあったので、歌手として世界を巡るブルックにが合流すれば、
より一層その能力に磨きがかかるのかもしれないとゾロは考えたのである。

「そういうのもアリなの、かしら?」

「別に制限があるわけじゃないだろ。
 それにお前の修行はここじゃねェとできないってわけでもない。
 もう腕は1時間くらい出せるんだったな?」

ゾロの問いかけには頷く。
の覇気の扱いも近頃上達してきてはいるのだ。

「ええ、全身になると、5分が限界だけど」
「・・・せめて30分は欲しくないか?」
「そうなのよ・・・」

まるで筋トレ上級者と初心者の会話のようである。
ため息をつくに、ゾロは先は長そうだな、と笑っている。

「でも、私がブルックと合流してしまったら、・・・ゾロは大丈夫?」
「ガキじゃねェんだ。一人でもシャボンディには行ける」

ゾロの言葉に、は心配そうに腕を組んだ。

「だってあなた、とんでもない方向音痴じゃない。疑わしいわ。心配だわ」
「うるせェ!どうにかするよ!」

「お前はお前のことだけ考えとけ!」と指を差し怒るゾロに、
はいつものようにクスクス笑った。



はしばらく考えて、ブルックの元に向かってみることにした。
音楽に関して、はブルックほど精通してはしないし、
何より様子が気になったのである。

こうしては旅立ちを決意した。

旅立ちについてミホークとペローナに報告すると
ミホークは「そうか」と淡白な返事をよこし、
ペローナは「ふん、清々するっ」と一言言ってそっぽを向いた。

らしい反応には笑ったものである。

数日後、常の通り覇気の練習も兼ねてピアノを弾こうと
楽器のある部屋に向かうと、そこにはすでに先客が居た。

「ペローナちゃん?」
、今日一日私に付き合え」

ペローナは有無を言わせぬそぶりでを指差した。

「え?付き合うって、どういう・・・?」

頭に疑問符を浮かべるの手を引いて、
ペローナは勝手に自室と定めている城の一室に連れて行った。

「・・・随分カスタマイズしたわね」

手を引かれ、足を踏み入れたその部屋はペローナらしい内装だった。
可愛らしいぬいぐるみや、どこから持ってきたのか美しい装飾の施された燭台、
煌びやかなシャンデリア、大きな鏡のついた衣装箪笥、
天蓋付きのベッドにランプや鏡台が揃っている。

「フツーだ。過ごしやすくして何が悪いんだよ。
 ミホークの野郎はどうせ私が部屋を弄ったところで興味ねェだろ」
「まぁ・・・気にしなそうではあるけれど」

も納得して苦笑する。
ペローナはにビシ、と指を向けた。

「それよりも、お前だ!お前!」
「私?」

ペローナはを叱りつけた。

「お前ときたら毎日毎日覇気の練習。歌って読書・・・。
 そんで持って馬鹿の一つ覚えみてェに同じ髪型!同じ服!
 いくら幽霊で衛生的になんの問題もないとはいえ、
 見てるこっちが飽きるんだよ!」

「そ、そんなことを言われても・・・。
 そもそも覇気を習得するまでは、着替えることも難しかったし・・・」

言い訳するをペローナはますます詰る。

「今はできるだろうが!5分10分もあれば、慣れれば着替えられるだろ!慣れろ!
 歌とか読書もいいが、服くらい変えやがれ!女としての嗜みだ!
 そんなとこまでロロノアを見習ってどうする!?その内腹巻きでも着る気か!?」

「ううっ・・・」

には自身を振り返って、確かに気を配るのをおろそかにして居たと
思い当たる節があったので言葉に詰まった。

ペローナはを言い負かして満足したのか、衣装箪笥を開き、得意げに言う。

「ふん、丁度よく私が飽きた服が何枚かあってな、恵んでやるよ。感謝しろ。
 あとその鬱陶しい髪の毛もなんとかしてやる、ふふふ、腕が鳴るな・・・」

ペローナに鬼気迫るものを感じ、は一歩引き下がる。

「ぺ、ペローナちゃん?」

ペローナはゴーストを作り出すとの周りを取り囲んだ。
くるくると輪になって踊るゴーストの真ん中で、ペローナが高らかに宣言する。

「往生しろ、お前は今日一日私の着せ替え人形になるんだ!
 ホロホロホロホロ!」



その後、はまさしくペローナの着せ替え人形になった。

ペローナが飽きたと言って何着か渡された洋服を上半身だけ実体化させて着たり、
下半身だけ実体化させて着るのは間抜けにもほどがある絵面で、
は何度かペローナが笑いを堪えているのを目撃した。

非常に遣る瀬無い気分になったが、はペローナに従った。
とて、普通にオシャレするのが好きなのだ。
今までは、幽霊なのだから出来もしないことだと思っていたが。

ペローナはテイストの異なる洋服を何枚もに着せた後、
短く舌打ちして見せた。
は言う通りにしているのになぜ不機嫌になるのかと首を傾げる。

「・・・腹立つくらい何着ても様になるな。
 ていうか前から思ってたけどデカイんだよ、お前」

「そ、そう?」
「このヒール履いたら2メートルくらいあるんじゃないか?」

ペローナが差し出した靴を見て、はさすがにジト目でペローナを睨んだ。

「・・・それすごい高いヒールじゃないの。誰でも大きくなるでしょう。
 と言うか、そんなので歩けるの?」

「お前浮いてるんだから関係ないだろ。
 とっくに足の痛みともおさらばしてるじゃねぇか」

「そうね。幽霊だから痛む皮膚も骨もないんだったわ。
 ・・・やるじゃないペローナちゃん、ゴーストジョークの前フリが上手!」
「何の話だよ」

軽口を叩きながらペローナがに投げて寄越した服にまた着替える。
ナミの着ていたようなTシャツとショートパンツを着て
鏡の前に立ったは興味深そうに服の裾を引っ張った。

「私、こんな足を出す格好、したことなかったわ・・・可愛いわね」

密かにカジュアルな服装に憧れを抱いていたは嬉しそうだ。
心なしか健康的に見える気がしなくもない。

「は?どんだけ箱入りだったんだ・・・。でもなー、んー・・・」

ペローナは腕を組むと首を捻った。

「似合ってねェわけじゃねェけど、やっぱり幽霊がTシャツとデニムだと気が抜ける」
「気が抜ける!? 似合うとか似合わないとかの話じゃないの!?」

ペローナは花の刺繍が入ったワンピースをに投げ渡した。

「形から入るのは大事だぞ。ジャージ着た女の幽霊とか嫌だろ」
「そりゃ、嫌だけど!」

そんなもの気が抜けるどころの騒ぎではない。

だが確かに足の露出に落ち着かない気分になることも確かなので
は泣く泣くTシャツを脱いだ。

「幽霊になって重さが気にならねェなら、
 いっそゴテゴテのドレスとか着ても良いよな。迫力出るし。
 足元が見えねェから、裾も広がってた方が良いか。
 せっかく靴履いても見えねェのは癪だが・・・」

に裾の広がったワンピースを着せてペローナは吟味するように呟いている。
着慣れた長い丈のスカートに、は安堵の息を吐いた。

「よし、次は髪だな」

ペローナはブラシとゴムを握って鏡の前に立った。
に頭だけ実体化するように命令して、ブラシを構える。

「これ、天然なのか?巻いてもないのに自然にこれ?」
「ええ」

たっぷりとした金髪をブラシで梳くペローナはため息をついた。
ふわふわとしたウェーブを保った髪型は一見手入れされているようにも見えるが、
修行一辺倒だったことを考えると、にそんな時間はなかったと思い至ったのだ。

「ウフフ、寝癖が誤魔化せるの」

「自慢にならねェよ。
 でも、伸ばしっぱなしでもそれなりに見えるのはいいことだな。
 こんだけ長いんだったら色々できるだろ」

そう言って、ペローナはの髪を好き勝手遊び始めた。
ツインテール、ポニーテール、フィッシュボーン、シニョン、サイドテール。
めまぐるしく変わる髪型に、は目を白黒させながら見入っている。

「それにしてもペローナちゃん、器用ね」

感心するに、ペローナは得意そうな顔をした。

「ふふん、ぬいぐるみも自分で縫えるくらいだからな」
「本当?すごいわ!」

目を輝かせてペローナを褒めるに、
ペローナは少々目を伏せて、静かに言った。

「・・・一回弄ってみたかったんだ。
 なりふり構わねェで修行狂いなのはロロノアの奴に似たんだろ?」

「・・・そうね、必死だった」

は苦笑しながらも肯定する。
物に触ることもできず、自分を完璧な死人だと誤解して居た頃は、
ガムシャラでも前に進まなければならないと思って居た。

「私、何にもできなかったから、それが、嫌だったの」
「ここに着た時もそんなようなこと言ってベソかいてたな」
「あら、覚えてたの? 恥ずかしいわ」

「当たり前だろ!末代まで祟るとか言うし!」

「大体、お前らいつも私をこき使って・・・」と
ブツブツ言いながらも、ペローナはの髪を結い上げる。

「よしっ、力作だ」
「・・・お姫様みたいだわ」

結局薄く化粧まで施されてしまった。
は完全に霊体に戻ってしまっているが、
色を失くしながらも尚、色褪せないペローナのセンスに息を飲んで居た。

ワンピースに施された華やかな刺繍はモノクロになってしまっても存在感を損なわず、
今まで半分寝巻きのような格好だったのが、比べ物にならないほどの見栄えである。
薄く施された化粧も顔立ちを際立たせ、
髪はすっきりと大人っぽくシニョンにまとめられている。

散々ウソップなどには幼いだの何だの言われて居たが、
今のの姿を見ればそんな言葉は出てこないだろう。

心なしか幽霊としての格調のようなものが出ているのでは?とは鏡を覗き込んだ。

ペローナはその様を満足げに眺めると指を立ててに宣言した。

「いいか、今までは幽霊だったからしようと思ってもできなかったのかもしれねぇが、
 今は違う。着たいものを着れるだろ?」
「ええ」

それからじっとを上から下まで眺め、不機嫌そうに言う。

「それに食っても太らないだろお前!」
「そうねぇ、一応、そういう悪魔の実みたい」

幽霊である間は時間が止まっているため、代謝が起きない。
当然は空腹を覚えなかった。

しかし、覇気を扱うようになってから
少しずつ空腹を覚えるようになったのだ。
どうやら幽霊が覇気を纏うのはそれ相応にエネルギーが要るらしい。

そのため、も最近は食事を摂るようになったのだが、
食事を摂るためにも覇気を使っているので、
摂ったエネルギーはすぐに使われてしまうのである。
つまり、太りにくい体質と言っていいだろう。燃費が悪いとも言う。

ペローナはジト目でを睨む。

「羨ましい」
「えっ」
「羨ましい。お前な、不老不死って女の夢だぞ!」
「そうは言っても・・・」
「有効に使わねェと損だ」

は顔を曇らせるが、ペローナは歯牙にも掛けないで
に言う。

「病気だかなんだか知らねぇけど、着たいもの着て、食いたいもの食べて、
 歌って踊って好きなことしろ。女なんだから」

はペローナの顔をまじまじと見つめた。そしてあることに気がついた。
はペローナよりも幾分背が高い。
しかし、試着した服のほとんどが、にぴったりのサイズで小さすぎることはなかった。

「もしかしてペローナちゃん、励ましてくれてるの?」
「だから、いっつも同じ服着てるのが不憫になっただけだ!」

そう言ってそっぽを向くペローナはトランクまで用意して居たようで、
に荷造りをさせながら「お前は鈍いとこがあるから注意しろよ」とか
「早着替えと化粧は慣れだ」とかアドバイスを送っていた。



旅立ちの日は思いの外すぐに訪れた。

一度実体化してトランクを持ち上げ、それから霊体に戻ると、
トランクもと同じように色を無くしている。

「へぇ、どうやって荷物を持ってくかと思ってたが、そんな風になるのか」
「ええ、身につけた物や、持っているものを霊体にすることもできたの!
 覇気の応用ね」

ゾロの感嘆に、は頷いた。

「ペローナちゃん、色々とありがとう」
「・・・ああ」

ペローナは短く頷いた。
ペローナの周囲のゴーストは悲しそうな表情を浮かべ、ハンカチで目元を拭っている。

「今生の別れじゃないわよ、また会えるわ。ウフフ!
 私、もう死んでるから今生って言い方は違うかもだけど!」

は笑い、ミホークへと顔を向ける。

「淋しくなるわ。あなたにはとてもお世話になったから。ミホーク」
「・・・そうだな」

ミホークは静かに頷いた。

先ほどまで消沈していたペローナがミホークの言葉を聞き、目を丸くする。
ゾロは特に気にするそぶりもなさそうだ。
ベローナが突然ゾロの頭を殴り、騒ぎ出した。

「おいテメェこのニブチン!空気読め!行くぞ!」
「は? 何言ってんだいきなり?」
「もう! 良いからこっちこい!!!」
「だから、何の話・・・! イテェ!? お前、ピアスを引っ張るのは止めろ!!!」

嵐のように部屋から出て行った2人を唖然と見送ると、
ミホークは帽子のつばを少し下げ、小さく口元を緩めた。

「フフ、下らん気を使われたな」
「・・・あなたが珍しいことを言うから、ペローナちゃんが誤解をしたのよ」

苦笑するに、ミホークは目を細めた。

「誤解でないと言ったら、ここに残るか?

は目を瞬き、ミホークに向き直る。
ミホークは腕を組んでにやりと笑う。

「冗談だ」
「――だから、あなたの冗談は心臓に悪いわ!私の心臓、今は止まってるけど!」
「ハッハッハ!」

ミホークは大笑する。心底愉快そうに。
そして、に柔らかく目を細めて見せたのだ。

「お前は”無力な幽霊”ではなくなった」

はそれに、力強く頷いた。

「ええ!あなたやペローナちゃん、ゾロが力を貸してくれたおかげだわ」
「しかし強欲にも、それでもお前は足りないのだろう?」
「ウフフ、そうね。だって私は、”海賊”ですもの」

”失った記憶を取り戻したい”

最初の願いはそれだけだった。

だが、ルフィや様々な人々と出会い、少しずつ記憶を取り戻して行く中で、
やりたいことやしたいことが増えて行く。
島々を巡り、冒険すること、様々な文化に触れること、知らない世界を知ること。
能力者だとわかってからは、病気を治したい、オシャレがしたい、食事を摂りたいといった、
叶わないと思っていたことに、手を伸ばし始めた。

そして、仲間のために強くなりたいと願った。

ルフィの勧誘を受けて、海賊になったその日から、
は強欲でロマンチストの、無法者なのだ。

そして、それはきっと、ミホークもまた同じなのだろう。

「――あなたと同じ様に、ね」

の悪戯めかした口調にミホークは小さくため息を吐くと、
テーブルに置いていた細長い箱をに差し出した。

、これを持って行くが良い。餞別だ」

「これは・・・剣?」

細く、すらりとした軽い剣だった。十字架のようなシルエットに見える。

「お前の先代の幽霊が使用していたレイピアだ。
 彼奴は洒落で”ティソーナ”と呼んでいた」

「”ティソーナ”?」

「古い言葉で”炎の剣”を意味する。
 その強さが使い手によって変わるという伝説の名刀にあやかったらしい。
 だがこの剣自体は名刀でもなければ妖刀でもない。
 一応真剣だが、練習用に毛が生えた程度の剣だ」

ミホークは懐かしむように言った。

「だが、これを存分に振るった男は、このおれに勝るとも劣らぬ強さだったぞ」

は戸惑うようにミホークを見上げる。

「でも私、真剣を扱ったことなんてないわ」

「お前におれが剣技を期待するとでも思うのか?
 せいぜい小道具にでもすると良い」

呆れを滲ませたその声に、は剣を眺めた。
手入れされた銀色の剣は、冴え冴えと光っている。

「お前は優れた演じ手だった。
 然るべき時に、使いこなすことができるはずだ」
「然るべき時・・・」

はその剣を受け取った。

「ありがとう、ミホーク」
「お前の旅路に、武運を祈ろう」

眼差しが重なる。

「世界一の剣豪に祈って頂けるのなら心強いわ!
 でも、ゾロだって負けてないんだから!」

は柔らかく微笑んだ。

「・・・お元気で」

思えば、沢山のことを教わった。

は幽霊に戻ると、剣とトランクを片手に城を出て行った。
いつまでも手を振りながら。

3人はそれを見送る。
ペローナは満足げなミホークの横顔に声をあげた。

「オイコラ、ミホーク!
 気を効かせてやったんだからちょっとは甘い言葉の一つや二つ・・・」
「余計な世話だった」

ミホークはペローナに容赦なく言った。

「何だと?!」

頰を膨らませ怒り出すペローナの横で、
ゾロは意外そうにミホークを見た。

 気に入っているとは思っていたが、まさか。

「お前、あいつに惚れてたのか?」
「さあ」

ミホークは自身でも分かりかねると言うように首を傾げている。
しかし、その唇には笑みが浮かんでいた。

「そもそもは海賊だ。おれが剣を捧ぐ必要もないだろう」

そしてこれが、今生の別れでもないのだ。