幽霊は交渉上手


「と言うわけで、海兵さんたち、もう少しだけ協力してくださらないかしら?」

幽霊、ドンキホーテ・をスモーカーは睥睨する。

確かにG-5はたしぎが交渉した結果、麦わらの一味とは一時的に協力体制をとっていた。
しかしは指揮官であるスモーカーとたしぎの拘束は解かず、
携帯用でんでん虫での指示だけをするようにと命令して来たのである。

そしてまた、柔らかな笑みを浮かべ、はスモーカーらに歩み寄って来た。

先ほどまで何事かを一味とローとロシナンテとで話していたが、
その声はロシナンテの能力で聞くことはできなかった。

ロシナンテも腕を組んでスモーカーとたしぎを見ている。
スモーカーが未だにたしぎと精神が入れ替わったままなせいで、
目があうと微妙な表情を浮かべるのが腹立たしい。

苛立ちまじりにスモーカーは舌打ちすると、に胡乱げに言い放つ。

「何が『と言うわけで』かは知らねェが、何度も海軍が海賊に協力すると思ってんのか?」
「あら、ウフフ、思ってるわよ。だってあなたたちは」

は目を細める。

「”正義の味方”。そうでしょう?」
「何だと?」

スモーカーは眉を上げた。
たしぎもの言い草には思うところがあるのか、を睨んでいる。

は海兵2人の敵意に構わず、指を立てて説明を始めた。

「”王下七武海”ドフラミンゴはあなたたちにとって”味方”だけど、
 ヴェルゴを海軍に潜入させたり、パンクハザードで好き勝手実験をさせたりしてるのはルール違反。
 もちろん子供を誘拐して、もみ消すのだってそうでしょ?」

の言うとおり、王下七武海は”何をしてもいい”という訳ではない。
収穫の何割かを政府に納めることが義務づけられる代わりに、
海賊および未開の地に対する海賊行為が特別に許されていると言うだけである。
 
「私は称号剥奪のペナルティを課すか、あるいは、
 ”王下七武海”の地位を傘に好き勝手やってたのを見逃していた政府の醜聞を隠蔽するか。
 そのどちらかがあなたたちの取る行動だと思っているわ」

「!」

スモーカーとたしぎの顔色が変わった。
は言葉を区切ると腕を組んで2人を見下ろした。

「もちろん麦わらの一味を拿捕することも、”正義”だわ。
 ええ、私たち海賊だもの。悪党で間違いない。
 だけど、政府に縛られていないと言う点では、あなたたちより自由に動ける」
「・・・何が言いたい」

スモーカーはを見上げる。

どうやらは船長であるルフィとは違う種類の海賊らしい。
どちらかと言えば、兄だと言うドフラミンゴや、
の後ろで成り行きを伺っているローのような、策を弄するタイプだ。

そしてタチの悪いことに、浮かべる優しげな微笑みは悪人らしいものではなかった。

「私たちドフラミンゴを倒しに行くんだけど、邪魔しないで貰いたいの。
 それから、子供達を家に帰してあげてくれないかしら」

「・・・言われなくても、そうするつもりです!」
「おれ達だけでドフラミンゴ拿捕に動くと言ったら?」

の提案にたしぎとスモーカーはそれぞれに答える。
は瞬くと首を傾げて見せた。

「麦わらの一味を全員捕まえて、子供達を家に送り届け、
 それからドフラミンゴを捕まえに動くの?・・・無理だと思うわ」
「何ですって?」

まるで出来の悪い生徒に勉強を教える教師のような物言いである。

「全部やろうとすると、麦わらの一味を戦闘で確保、そのあと刑務所、あるいは駐屯基地に送る部隊、
 子供達を護送する部隊、それから、”パンクハザードを守る”部隊、
 ドフラミンゴ拿捕に動く部隊がいるんですもの。
 ・・・何人部下がいると思う?」

スモーカーはの言葉にしばらく黙り込んだ。
の言葉には含むものが多い。

スモーカーは眉根を寄せ、に問いかける。

「・・・お前の予想だとドフラミンゴは、パンクハザードを消しにかかるんだな?」
「!?」

たしぎを始め、拘束されていたモネとシーザーもを見上げた。
ヴェルゴは黙ったままだが、心なしか表情が硬いように思える。

「まさか!? ここにはSADがあるんだぞ!?」
「あなたを取り戻しさえすれば解決できる問題でしょう、シーザー。
 優先順位の問題なのよ、これは」

シーザーの疑念に淡々と返したに、
モネとヴェルゴはこめかみに汗を滲ませながら沈黙する。
の予想は、モネ、ヴェルゴにとっても、ドフラミンゴの取る行動として妥当に思えたのだ。

「証拠が無ければほら、逮捕なんかできないでしょ。
 この島を丸ごと消し去って、のうのうと王下七武海で居続けるでしょうね。
 その上あなた達の敵は身内にも居るわ。
 政府上層部。ドフラミンゴが彼らを買収しないとも限らないし、
 醜聞を嫌う体質は、あなた達にも身に覚えがあるのではなくて?」

「・・・それは、」

たしぎが思わず言い淀んでいる。
スモーカーにも思うところがあった。
アラバスタ王国の一件は未だに2人の心中に影を落としている。

は迷いを浮かべたたしぎに微笑み、胸の前で指を組んで見せた。

「あと、あんまりスマートじゃないから使いたくないんだけど、
 言うこと聞かないならスモーカー中将の心臓を潰しちゃったり、
 あと入れ替わりを解かないって言う手段も考えられるんだけど、どうかしら?」

「はっ・・・!?」

たしぎがローに視線を送るとその手には確かに心臓が握られていた。
スモーカーはを見上げ、睥睨する。

「――良い性格してやがる」
「それについては多分兄譲りだと思うから、文句はドフラミンゴに言ってちょうだい」

肩を竦め、は嘆息する。

「・・・海賊が言うことじゃないとは思うけれど、
 海軍くらいは、”真っ当な正義の味方”であって欲しいわ。
 できればちゃんと、子供達を助けてあげたり、
 間違っていることを間違っていると断じてくれるような、」

は何を思っているのか軽く目を伏せた。
しかしそれも一瞬のことで、やがて口元には笑みが戻る。

「ウフフ! それが結構難しいみたいね!」
「海賊風情が、生意気な口を叩きやがって」  

スモーカーとの眼差しが重なった。

 幽霊の癖に、物言いや表情、声色からは生命力の強さを感じる。
 それとも、我の強い人間だからこそ幽霊になるのだろうか。

スモーカーは息を吐く。

 状況と、目的を天秤にかけた。ここは幽霊の策に乗ってやろう。
 出し抜くことは、それから考えればいい。

「・・・業腹だが仕方ねェ。お前の条件を飲んでやろう」
「スモーカーさん・・・」

スモーカーの答えに、たしぎは驚きと納得、そして密かな安堵を声に滲ませている。

は静かに頭を下げた。

「ありがとう」



「みんな! 海兵さんたちも快諾してくれたわ!
 子供達、家に送り届けてくださるそうよ!」
「いや、今のはどう見ても脅迫してたよな!?」

一部始終を見ていたウソップがに突っ込む。
はクスクス笑って誤魔化していたが、誰も誤魔化されたりはしていなかった。

が物騒なのは割といつものことだろ」
「うん」

ゾロの言葉にチョッパーが頷いている。
ウソップは「いい加減慣れなきゃだな・・・」と大きくため息を吐いていた。
しかし、何かに気を取られたのか別の場所へと目を向ける。

視線の先ではローがたしぎとスモーカーの精神を元に戻していた。
「スモーカーさんに心臓を返しなさい!」と迫るたしぎをローは面倒臭そうにあしらっている。
スモーカーは馴れ馴れしく話しかけてくるロシナンテに微妙な表情を浮かべていた。

「おい、、ところでお前幾つなんだ?」
「・・・え?」

ウソップに問いかけられ、の笑顔が固まった。
その様子も無視して、ウソップは顎を撫でながら首を傾げている。

「お前の兄貴、ドジ男は30半ばくらいだと思うんだけど」
「おっ、そんな若く見えるか?」

話題の槍玉に挙げられていることに気づいて、ロシナンテがウソップの肩を軽く叩いた。
心なし嬉しそうだ。
チョッパーがロシナンテを見上げ、目を瞬いている。

「おれは人間のトシ、よくわかんねェけど、ドジ男は何歳なんだ?」
「39歳。ちなみにドフラミンゴは41だ。・・・あと君たちドジ男は止めてくれ」

チョッパーの頭をボフボフと叩きながら答えたロシナンテに、
ローが胡乱げな眼差しを送る。

「いい歳して落ち着きってもんが辞書に載ってねェんだ。この兄弟は」
「ロー?! どういう意味だ?!」

「聞き捨てならない」と怒り出したロシナンテには構わず、
ローはすぐ横に居るの視線に気づいて帽子を目深に被りなおした。

「・・・ところでコラさん、良かったのか、
 が『余計なこと言いやがって』みてェな顔で睨んでるが」
「はっ!?」

に恨みがましい顔で睨まれてロシナンテは慌てている。
はしばらく黙り込んでいたが、一味の好奇心の篭った視線に射抜かれてぼそりと呟いた。

「・・・37歳」

「・・・え?」

あまり興味のなさそうだったゾロでさえ驚愕している。
絶句している一味には腕を組んだ。どうやら開き直ることにしたらしい。

「あら、お耳が遠いのね、聞こえなかった? 37歳って言ったのよ」
「えええええええ!?」

「おいおい、まさかの年上かよ!?」

フランキーの呟きに、はうっ、と言葉に詰まっていた。
何しろ記憶を取り戻したばかりである。
見た目と精神年齢、実年齢のギャップが一番大きいのは自身だ。

落ち込むのそばに寄って、ブルックが声をかける。

「ヨホホ! 大丈夫ですよさん! 私よりは年下です!」
「妙な慰めはよしてブルック! 良いのよ、享年24歳だし!
 永遠の24歳ってことで!!!」

の言葉に「おいおい」とロシナンテが呆れて言った。

「それはそれでどうなんだ・・・?」
「さすがにそれは図々しくないか?」

ウソップにも鋭く指摘されては頰を膨らませ憤慨しだした。

「うるさいっ! 年相応の落ち着きがなくて悪かったわねっ!?
 大体女性に年齢の話を軽々しく振るのは無神経だわ! 無神経!
 この話は終わりっ! 終了! 蒸し返したら祟るからね!!!」

「怖ェよ!?」

「でも確かに、今のは良くないわね。が怒るのも無理ないわ」

ロビンがを慰めるように言った。

「ありがとう、ロビン! ええ、ええ! そうでしょう!?」

は力強く頷いた。相当立腹しているらしい。

そこに慌てたそぶりで話しかけているのはローだった。
当のは腕を組んで不服そうにそっぽを向いている。

、おれはお前に言ったんじゃなくて、」
「知らないっ!」
・・・」

先ほどまでとは打って変わって、今度はローの方がを追いかけているようだ。
ロビンはどうやらわだかまりが解けたらしい、と小さく微笑んだ。



錦えもんは海兵たちと共にモモの助を探し、ゴミ捨て場から助けを呼ぶ声を聴いて、
竜に姿を変えたモモの助を救い出すことに成功していた。

モモの助は錦えもんの顔を見ると安堵したのか、ぱったりと気絶してしまった。
その際、緊張が解けたことで竜の姿から元の人間だった時の姿に戻る。
その体を背負って、錦えもんは研究室へと向かうことにした。
体のパーツを揃えることに協力した麦わらの一味に礼を言いに行こうと思ったのだ。

研究室へと無事辿り着くと、そこには不可思議な光景が広がっていた。

一味の全員と海兵たちが一つのテーブルを囲んで、何か話している。
中心にいるのは幽霊と、錦えもんを斬った七武海、ローだ。
そして何やら見覚えのない大男まで増えている。

「これは・・・何事でござるか?」

「おや、キンエモンさん! お子さんはご無事で?」
「ああ、お主らのおかげで無事にござる! 本当に、かたじけのうござった!!!」

礼を言う錦えもんに、ブルックもサンジも頷いている。
錦えもんの疑問に答えたのは、ブルックである。

「今から我々、ドフラミンゴを倒しに行くことになりまして、
 それの作戦会議のようなものを始めているのです」

「は・・・?! ドフラミンゴを、倒す!? 海軍も一緒になってでござるか?!」

錦えもんは目を瞬いた。

「まァ、その辺は利害の一致だな」

サンジがおかしそうに笑っている。
錦えもんはしばらく黙り込むと、2人に頼み込んだ。

「誠に厚かましい願いと承知しているが、お頼み申す。
 拙者もその計画、一枚噛ませてはくれぬか!?」
「!」

突然の申し出に、2人は息を飲んだ。

「ドフラミンゴに、同心が1人捕まってござる・・・!
 モモの助を救出したら、どの道ドレスローザへと向かうつもりだった・・・!」

頭を下げる錦えもんに、サンジとブルックは顔を見合わせると、
テーブルの中心にいたルフィとに声をかけた。

「だそうだ。どうする? ルフィ? お嬢さん?」
「おれは別に良いけど、お前はどうだ?」

ルフィは二つ返事で頷き、は錦えもんへと視線を向けた。

「ええ、構わないわよ。・・・兄が、迷惑をかけたようで、ごめんなさいね」
「兄・・・?」

申し訳なさそうな顔をするに、錦えもんは首を傾げた。

「ドフラミンゴは私の一番上の兄なの。こっちにいるのが真ん中の兄のロシナンテ」
「おう。・・・本当にすまない。おれ達の兄が」

ため息をこぼすロシナンテとを交互に見やり、
錦えもんは驚愕に声を上げた。

「なっ!?・・・そっちの男はともかく、幽霊、おぬし全然似ておらぬではないか?!」

「まぁ、見た目はそうよね。ええ。病がちだったせいか、私は2人より随分小さいし」
「いや、むしろ嫌だろ。あいつにそっくりな妹は可愛くねェ」
「そう?」

軽口を叩くロシナンテとに、錦えもんはポツリと呟く。

「となると、お主らは兄と戦うことになるのだな・・・」
「もちろん。全て覚悟の上よ」

は笑顔で答えるが、その口ぶりには相当の決意が伺えた。
錦えもんが何か口を開こうとした時、背中の上で呻く声が聞こえる。

「モモの助! 目を覚ましたか?!」
「・・・ここは、拙者は、」

モモの助はうわごとのように何か呟いていた。
どうやらかなり衰弱している。

サンジはその様子を見て瞬くと、皆に声をかけた。

「悪い。しばらくおれは抜ける。
 腹が減ってる奴には食わせるのがおれの仕事だ」

「そういや、腹減ったなァ・・・」

ルフィが腹を抑えるのを見て、は頷いた。

「そうね。お腹が空いたら力が出ないわ。一度、食事にしましょうか」



サンジの作った食事は海兵、海賊、拿捕した者達、子供達、立場や年齢を問わず振る舞われた。
モモの助と錦えもんは泣きながら海豚のスープを啜っている。
さながら宴会のような様相を見せている状況に、は苦笑していた。
いつだって麦わらの一味は宴が好きなのだ。

モモの助は食事をとって落ち着いたのか周囲を見渡している。
そしてに目を留めて瞬いていた。どうやら幽霊だと気付いたらしい。

「ゆ、・・・幽霊?! なぜ白昼堂々と姿を!? 柳の下などに居るものではないのか!?」
「あら、そんなに怖がらないでモモの助くん。
 私幽霊だけど、とり憑いたりとかはしないわよ! ウフフ!」

は柔らかく微笑んだ。人を安心させるような笑みだ。
モモの助はその様子に安堵したらしい、ホッと胸を撫でおろして見せた。

「ほ、本当か・・・?」

好奇心にかられてか恐る恐るに近寄るモモの助に、ローが声をかけた。

「おい、ガキ。その幽霊には近寄らねェ方がいい。ぺろっと食われちまうぞ」
「ええっ?!」

モモの助はローの忠告にサッとから距離をとり、錦えもんの元へと走って行ってしまった。
はローに向き直る。

「ロー先生?! 人聞き悪くないかしら?! いくら私が幽霊だからって・・・」
「お前には前科があるからな」

ローは帽子を被りなおして意味深に口角を上げた。
は腕を組んで首を傾げる。

「え? 前科・・・? なにを、言って・・・、・・・。・・・!?」

ボッとのスカートが燃え上がるように揺らめいた。
おそらく生身だったらその顔は真っ赤になっていただろう。

「ロー!!!」
「ふふ、」

その剣幕にローは口元に手を当てて笑っている。

「ちょっと! なに笑ってるの?! あなた私で遊んでるでしょう?!」

「トラ男さん、私その話興味あります。詳しく教えてください。詳しく」
「ブルックは茶々入れないで!!!」

ブルックが割って入ってきたのをが叩いて止める。
そのやりとりをローは面白がって見ていたが、
もう一人、ロシナンテも引きつった笑みを浮かべて静観していた。

そして長年の疑念に決着をつける時が来たと、に意を決して問いかける。

「あー・・・・・・、あの、ずっと思ってたんだが、
 やっぱり13のガキに手を出すのは、・・・お兄ちゃんちょっとどうかと思う」
「出してない! 出してないわよ!!! なに言ってるの?!」

首をこれでもかというほど横に振るに、ローはわざとらしくため息を吐いた。

「そうか・・・あれはお前にとっちゃあただの遊びか」
「ロー先生、悪ノリ止めて!!!」

をからかって遊んでいるらしいローを見て、
ロシナンテはどことなく複雑な心境ながらホッと胸をなでおろした。

「じゃあ、何もなかったんだな?!」
「!」

はロシナンテとローを交互に見た後、視線を彷徨わせた。
明らかに狼狽えている。

「・・・黙秘権を行使します」
?!」

ロシナンテは衝撃を受けた様子で目を見開いた。
はロシナンテと目を合わせずに抗議する。

「い、いくら兄でも! そういうことを聞くのはマナー違反だわ!」
「・・・コラさん、あんまりを虐めてやるな」

自分から始めた話題だというのにロシナンテを嗜める様子を見せたローに、
ロシナンテはこめかみに青筋を浮かべた。おまけにローときたらの手を取っている。

「ローお前なんだその満更でもねぇ顔は・・・!
 ふざけんなおい、ちゃっかり手なんか握ってんじゃねェ!!!」

「コラさん・・・26歳に何言ってんだよ」
「お前が楽しそうなのは嬉しいけど! 正直!! 複雑なんだよォ!!!」

葛藤を滲ませ苦悶するロシナンテを、骨つき肉を齧りながらルフィが笑っている。

「アハハ、やっぱドジ男面白ェよなー、仲間になれよ!」
「なるわけあるかァ!? 」

「しつこい!」とロシナンテはやり場のない怒りを叩きつけるようにルフィに突っ込む。
さすがに度重なる勧誘を厭わしく思ったのか、ローがルフィを睨んだ。

「麦わら屋、人の船員を勧誘するな」
「じゃあトラ男も仲間になるか?」
「ならねェよ!?・・・どういう理屈なんだ、お前らの船長は」

ルフィから返ってきた斜め上の返答にローは疲れている様子である。
そばに居たゾロに尋ねると、肩を竦めていた。

「わかってたら苦労はねェ」

はローとロシナンテの言葉に何か思うところがあったのか
口元に手を当てて考え込んでいる。

「・・・そっか、仲間にはならないのね」

「え?」
「あ?」

ロシナンテとローはの呟きに目を丸くした。
はふぅ、と悩ましげな息を零し、悲しげに眉を下げる。

「残念だわ、一緒に色んな島に冒険に行ったりとか、したかったけど」
「おお、残念だ」

ルフィがに頷いている。

「・・・」

「だ、ダメだ、ロー! さすがにダメだろ!?
 他の船員にメンツが立たねェ!!!」

ロシナンテが我に返って、悩み出した様子のローの肩を揺さぶった。
は顎に手を当てて遠くを見つめている。

「メンツ・・・そう、私よりもメンツの方が大事なのね」
!!! お兄ちゃんそういうの卑怯だと思う!!!」

ロシナンテの抗議にもはどこ吹く風である。
妥協点である「同盟」をローが口にしたのは、それから間も無くのことであった。