幽霊とドレスローザまでの道行


海軍と麦わらの一味がパンクハザードを離れて数時間後、
誰もいないはずのパンクハザードに2人の人影が現れた。

1人は大柄な男。歯にドンキホーテ・ファミリーの刻印を入れた、グルグルの実の能力者バッファロー。
もう1人はミニスカートのメイド服、くわえタバコのブキブキの実の能力者ベビー5。

2人は一通り研究所を見て回ると、でんでん虫でドフラミンゴに連絡を入れた。

「ジョーカー、こちらパンクハザード。”バッファロー”!
 パンクハザードには人っ子一人いないだすやん。
 SADのタンクも木っ端微塵!」

『・・・まァ、大方の予想通りだな』

ドフラミンゴはバッファローの報告に頷いた。

『その第三研究所には、4年前に第一第二研究所、及びその島を滅ぼした兵器が、
 もう一つ眠っている。場所は・・・』

ドフラミンゴの指示を受け、バッファローは了承した。

「了解。遠隔操作で爆発させるだすやん」

通話を切ったバッファローはベビー5と共に爆発の準備を整えた後、
パンクハザードから十分に距離をとってから、空中でその島の終焉を見届けた。

爆炎はシーザーの研究の成果を全て消しとばした。
それを見守り、ドレスローザへと帰還しながらベビー5はバッファローに問いかける。

「それにしても、”若様”と、この”写真の女”。一体どういう関係だと思う?」
「さァ・・・見つけ次第捕まえろって言ってたが、」

ベビー5の手に握られていたのは、古い写真の切れ端の写しだった。
破られた先にいる誰かに、微笑みかけているのだろうか。楽しそうに笑っている。

「だっておかしいじゃない。
 麦わらの一味も、ローとコラさんも、海軍も、見つけたら殺しても良いっていうのに、
 この人だけ”生かして”連れてこいって言うのは」

バッファローはベビー5の言葉に少し考えるそぶりを見せた。
ドフラミンゴはこの写真の女以外は殺せと命令したのだ。
確かに珍しいことではある。だが、それ以上にベビー5の声色が弾んでいるのが気になった。

「・・・ベビー5、なんか面白がってないか」

ベビー5は肯定するように笑う。

「フフフ・・・だって面白いじゃない。
 あの”ジョーカー”が目の色を変えて誰かを探すのは珍しいでしょう。
 それも相手は女! 私、心当たりがあるのよ。この人は”お姫様”だわ!」
「”お姫様”?」

首を捻るバッファローに、ベビー5は訳知り顔で語り始めた。

「あんたは知らないだろうけどね、バッファロー。
 昔、北の海にいた頃。ドンキホーテ・ファミリーのアジトには”特別な部屋”があって、
 そこを任された使用人は”お姫様”に会うことができたのよ」

バッファローは驚いてベビー5を問いただす。

「若が誰かを囲ってたっていうのか?
 おれはそんな話、一回も聞いたことがないだすやん」

「使用人頭だけの秘密だったのよ。居たでしょ、昔、おばあちゃんが。
 私も彼女から引き継ぎを受けるってことになって初めて知ったわ。
 でも・・・私は結局、一度も”お姫様”には会えなかった」

残念そうにため息をついたベビー5を、バッファローは鼻で笑った。

「ホラ話だすやん。お前担がれたんだろう。
 もしそんな女が居るとして、若がおれ達にも秘密にするようなことじゃないし、
 しかも麦わらの一味になってるなんて、そんなことがあるか?
 騙されやすいのもほどほどにしろだすやん」

ベビー5はバッファローの言葉に、”お姫様”の話の信憑性に自信を失ったらしい。

「ええ? 確かに、そう言われてみると、そうだけど・・・」

「大体、その女が誰だって同じことだすやん。
 あんまり詮索すると、若に怒られるぞ、ベビー5」

バッファローが忠告すると、ベビー5はまだ納得がいかないのか、
ドフラミンゴから渡された写真を眺めながら呟く。

「だってこの写真、少し古いし、絶対そうだと思ったんだけどな。
 『波打つ金色の髪、夕焼け色の瞳の、病に伏した美しい姫君』
 私一目でいいから会ってみたかったのよ。それに聞いて見たかったの」

使用人頭から聞く、美しい姫君の話は幼いベビー5にとって印象的で、
いつか”特別な部屋”を任された時にはきちんと挨拶をして、
そして失礼にならないように、聞いてみようと思ったのだ。

「『白馬に乗った王子様は、あなたの所には来たの?』って」



サウザンドサニー号はパンクハザードを出港し、ドレスローザを目指して航海中。
船の上には一味の他に、
同盟を組んだハートの海賊団のローとロシナンテ。
そして人質である、シーザー、モネ、ヴェルゴ。
侍とその息子、錦えもんとモモの助が乗っている。

「なんか坂道になってねェか!? この海。船が速ェ!」
「”海坂”だ。良くある」
「ねェよ!」

ルフィが猛スピードで進むサニー号に興奮して海を眺めていると、
ローが冷静に呟いた。
ウソップはそうそうあってたまるか、とツッコミを入れてから、ローに尋ねる。

「て言うか、本当にドフラミンゴの奴、
 ドレスローザまでおれたちを野放しにしといてくれんのかよ・・・」

「七武海を辞めるか、四皇とモメるかなんて選択、
 普通どっちもイヤで私たちを殺しに来そうなものですけどねェ」

ブルックも腕を組んで首をひねって居る。
それを聞いて、ローのそばにいたロシナンテが頷いた。

「まァ、普通はな。だが今回のケースは別だ」
「シーザーが死んだ瞬間、ドフラミンゴはSMILEをカイドウに供給できなくなる。
 これがあいつにとって一番避けたい事態だ。
 シーザーの死が確定すればドフラミンゴも死ぬんだからな」

ローの補足に、指針を確認していたナミが眉をひそめて尋ねた。

「・・・そんなにヤバいの?」

「カイドウはマトモじゃない。
 どんな事情があろうが気に入らなければ消されるだろう。
 そうでなくとも世界最強生物との呼び声高い”四皇”だ。単体で挑めば確実に死ぬ。
 ドフラミンゴであってもだ」

「ドフラミンゴって言えば、七武海の中でも相当の実力者だろ、それでも歯が立たねェのか」

皆に紅茶のカップを配りながら、サンジはゴクリと唾を飲み込んだ。

「だからドフラミンゴは追手をよこさない。自分から来ることもない。
 シーザーが手元にいる以上、こちらが有利だ。
 それにドレスローザへ確実に来ることがわかってるなら、
 そこで待ち受けた方が効率的だろう?」

「そういうもんか・・・」

どこか腑に落ちない様子のウソップだが、ひとまずは納得したようで頷いている。

船の縁に腕を預け、海を眺めていたは波の下にうさぎを見つけて瞬いていた。

「あら、波間にうさぎ・・・」
「”波兎”だ。良くいる」
「いるかァ!?」

ウソップがローに律儀に突っ込んでいた。
は振り向いて微笑む。

「詳しいのね。ロー先生の船は、潜水艦なのでしょう?」
「ああ、だが、海上に出て航海することもあるんだ」
「そうなの? 魚人島へ行くのに海の中を航行するのは面白かったわ!
 潜水艦だと、それとはまた感じが違うのでしょう?」

の質問に、ローは帽子を被り直すと提案する。

「乗ってみるか?」
「良いの?」

首を傾げるに、ローは頷いた。

「構わない。・・・なんならずっと乗ってくれても、」
「おいこらトラ男! いい加減にしろ! はおれの仲間だっつってんだろ!」
「・・・チッ」

さりげのない提案を装ったはずだったがルフィは聞き捨てることなく抗議した。
ローは短く舌打ちして不機嫌そうにそっぽを向いた。

苦笑していたにブルックが声をかける。

「お嬢さん、BGMいります? 私としてはラヴァーズ・コンチェルトなんかオススメですけど」
「揶揄うのはやめてちょうだいブルック!」

がほおを膨らませて怒り始めると、ブルックは愉快そうに笑って、
そしてローに釘を刺した。

「ヨホホホホホホ! ところでローさん、お嬢さんは結構おモテになるので、
 うかうかしてるとまずいことになりますよ」
「・・・へェ?」

ブルックの発言にローは口角を薄っすらと上げた。ただし目は笑っていない。
はぎょっとしてブルックに食ってかかる。

「ちょっと待ってブルック!? 誤解させるような物言いはよろしくないわよ!?
 と言うか、身に覚えがないのだけど!?」
「ヨホホホホ!!! お嬢さんてば罪作りですねェ」

ギターをかき鳴らしながらその場を去ろうとするブルックを
は追いかけようとするが、ローがジト目でを睨むので
おろおろとその場を漂い始めていた。

「ブルック! 待ちなさい! ・・・誤解! ロー先生、誤解だから!」

「・・・」

その様子を、ロシナンテはタバコを咥えながら眺めていた。
恐ろしく尖った目つきでとローのやり取りを睨むロシナンテに、
チョッパーが恐る恐る声をかける。

「ドジ男、顔怖ェよ」

「・・・チョッパー君、おれはな、二人には幸せになってもらいてェんだ。
 ローはこれまで苦労かけっぱなしだし、だって生きてたんなら、尚更。
 だがな・・・なんか納得できねェんだよ!!! わかるだろ!?」

がしっと肩を掴まれたチョッパーは困ったように腕を組んだ。

「ええ? う〜ん」
「ロシー兄さん、チョッパーを困らすのはやめてよ」

がチョッパーに絡んでいるロシナンテに気づいてため息をついた。
ロシナンテは一度煙を吐き出して、に告げる。

「おれはお前にもし、決まった相手ができたなら、
 何処の馬の骨とも知れねぇ野郎だった場合ブチのめして、
 騙すような奴ならサメの餌にして、
 海賊だったらぶっ殺してやろうと思ってたんだ・・・。
 と言うかとりあえず気にくわねェからどんな男でも一発ぶん殴るつもりだったんだ・・・」

口をへの字に曲げ沈鬱な表情でそんなことを言うものだから、は飛び上がって驚いた。

「ロシー兄さんそんなこと考えてたの!?」
「怖っ!」

チョッパーも一歩引いている。
しかしロシナンテはそんなことにはお構いなしで小さく笑って見せたのだ。

「フフ。相手の命は奪わねェでやるんだ・・・優しいぜ、おれは・・・。
 でもおれは・・・ローを殴るのは嫌だ・・・!」
「コラさん、」

黙って話を聞いていたローが目を瞬いた。

「じゃあ殴らなきゃいいだろ」
「なんかいい話に持って行こうとしてるのか、ドジ男の奴」

チョッパーとウソップが最もな感想をこぼし、
ローは深いため息をついてロシナンテに言った。

「・・・あんた、ガキの頃のおれを散々どついといてよく言うよな」
「黙れ! 余計なことを言うな! サイレントするぞ!!!」

人差し指を一本立てて、しきりに黙れ、というジェスチャーを繰り返すロシナンテに、
ローは慣れているのかにべもなく言い放つ。

の前だからって見栄張るなよ」
「ロシー兄さん・・・」

も呆れているようでこめかみに手を当てていた。
そのやり取りを眺めていたフランキーが呟く。

「緊張感が、カケラもねェな」
「フフ・・・いつものことよ」

ロビンがクスクス笑いながら返した。

一連の流れを見ていたモネが、思わずと言わんばかりに口を開いた。

「こんなのに私たち・・・捕まったのね。・・・情けなくて涙が出そう」
「・・・言うな、モネ」

隣にいる首だけのヴェルゴにもどこか哀愁が漂っているように見える。

各々の思惑を胸に秘め、サウザンドサニー号はドレスローザを目指す。
航海は今のところ、順調だ。



適当な場所で錨を下ろし、一同はそれぞれに夜を過ごす。
ルフィやゾロ、ブルック、ロビンとナミ、モモの助は眠りについた、
ウソップとチョッパーはドフラミンゴが来ないか不安で芝生をうろうろと見張っている。
キッチンではサンジと錦えもんが飲み物を片手に起きていた。
フランキーが展望室で遠くを見張る。

人質の過ごし方も様々で、シーザーは眠り、モネとヴェルゴは目は閉じているものの、
起きて周囲を警戒していた。

ローは図書室で休むことにしたらしい。
は窓辺から月を眺めながら、本を読んでいた。

、ローは眠ったか?」
「ロシー兄さん」

の側で眠るローに目をやると、ロシナンテは少しだけ声をひそめた。

「お前は眠らなくても、平気か?」
「幽霊は眠らなくてもいいのよ。ロシー兄さんこそ、大丈夫なの?」
「おれは平気だ。このくらいは」

そういうと、しばらく二人の間には沈黙が落ちた。
はベンチの横を叩いて、隣に座るよう促した。
ロシナンテはおずおずと、の横に座る。

は目を伏せた。

「ローには話したの? 私たちの、生い立ちのこと」
「・・・まだだ。こればっかりは、どうしても、」

嘆くように呟くロシナンテに、は首を横に振る。

「当然だわ。私もまだ、一味の皆に打ち明けてはいないもの。
 信用している仲間だからこそ、ということがあるわよ」

は深く息を吐いた。

「それにしても、私は昔からロシー兄さんには、つい甘えてしまうから、ダメね!」

その言葉に、ロシナンテは意外そうな顔をする。

「そうかな? お前はどちらかといえば、ドフィにべったりだっただろ?」
「放って置けなかっただけよ」

は淡々と言い放つ。

「昔からロシー兄さんはなんだかんだ図太かったわ。
 殴られようと罵られようと、その場でわんわん泣いちゃったら、後は全然引きずらないの」

の言い草に、ロシナンテは唇を尖らせた。

「・・・だからお前、言葉にトゲあるぞ?!」
「ウフフフフッ!」

は笑って誤魔化すと、話を続ける。

「私は引きずらないでいることができなかった。
 だって全部覚えてるんですもの。今もね。
 ・・・恨んだわ、忘れられない自分自身を、一番」

ロシナンテはの横顔を見た。

の記憶力についてはローから話を聞いていたが、
あの迫害の日々を味わったにとって、
その力がどれほどの苦痛だったのか、考えると痛ましい。
だが、はそれを感じさせなかった。昔も、今も。

「でもね、そのうち何にも感じなくなったの。どうでも良くなったの。
 だって、時間の無駄だと思ったのよ。
 私たちを追い立てる連中も、マリージョアの天竜人も、
 ・・・全然幸せそうじゃなかったわ」

ロシナンテは息を飲んだ。

「・・・私は執拗に誰かを迫害するような醜悪な人間でもなければ、
 天竜人のような欲望の奴隷でもなかった。
 不幸で、病に苦しむだけの女の子じゃなかった。
 マリージョアじゃなくたって、幸せな時間も楽しい時間も見つけられたわ。
 だから耐えていられたし、自分を見失うこともなかった。
 家族を愛していたから・・・家族が愛してくれたから」 

・・・」
「ウフフ、私ばかり虫が良すぎたのかしら」

は自嘲するように笑うと、ロシナンテの顔を見上げた。

「ロシー兄さんは、いざとなれば刺し違える覚悟だったでしょう」
「!」
「作戦をロー先生から聞いた時、わかったわ。
 ロー先生もロシー兄さんも、自分の命を投げ出すくらいの覚悟で、この作戦に望んでるって。
 そうじゃなきゃ、2人だけでパンクハザードには来ない、でしょう?」

ロシナンテは眉を顰める。

「ローはドフィに『お前が殺された』っていう真実を伝えたがってた。
 そのためなら、何も惜しむものなんて無いみたいだったよ。
 ・・・お前のせいだぞ、。あいつは、
 ・・・悪い、こんなことが言いたかったんじゃない」

ロシナンテはから目を逸らして、首を横に振る。
ロシナンテは気まずそうに息を吐いたが、やがてポツポツと語り始めた。

「おれはずっとドフィを止めたいと思ってた。
 それが逃げだしたおれの、責任だと思ってた。
 スマイルなんざ世の中にあって良いもんじゃねェし、
 ・・・フフ、さっきのお前の台詞はおれの気持ちの代弁だったな。
 おれも気に入らねェんだ」

ロシナンテはに悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。

「あいつが王下七武海なのも、ドレスローザの王様やってんのも、
 まして、”JOKER”なんて最悪な商売やってるのも、全部気に入らねェのさ」

は静かに微笑む。
だがロシナンテは眉を顰め、に向き直った。

「でも、・・・なァ、。お前にできるのか?
 口で言うほど簡単じゃ無いぞ。お前、腰の剣だって、ほとんど使ってないだろう?」
「あら、・・・バレちゃった?」

「当たり前だろ。おれは海軍の将校にまでなったんだ!
 ・・・今は全部元がつくけど。
 相手が武器を使い慣れてるかどうかくらいはわかる」

ロシナンテは一度言葉を区切り、尋ねた。

「・・・本当に、引鉄を引くつもりか?」
「ええ、・・・だって昔、たった10歳の男の子が、同じことをしたわ」

は深く息を吐いた。ロシナンテは黙り込む。

「そうしなくちゃいけなかった。兄妹全員野垂れ死ぬか、
 悪い人たちの口車に乗って、マリージョアに帰れるかもしれない可能性に賭けてみるか、
 あの時選択肢は他になかった。
 あのね、ロシー兄さん。ドフィ兄さんは、多分、お父様を罵ったでしょう?」
「・・・ああ」
「それは、本当にお父様を憎んでいたから、だけでは無いと思うの」

瞬いたロシナンテに、は俯いた。

「私がドフィ兄さんを挑発したみたいに、口先だけでも強い言葉を使って、
 お父様を憎むべきものだと思い込まなくては、
 引鉄を、引くことなんてできなかったとしたら、」

「・・・まさか、そんな、」

ロシナンテは首を横に振る。信じられなかった。
が見ていたドフラミンゴが、
ロシナンテの考える人間と、本当に同じ人物だとは思えなかったのだ。

「だってあのドフィだぞ!?」

ロシナンテの中でのドフラミンゴは、自身のためなら家族をも殺せる化け物だ。
かつてはの説得で、ようやく歩み寄ることができると思ったが、
今となってはそれもできない。
もう、取り返しがつかない、怪物のような人間になってしまっている。

はロシナンテの言い草に、ふ、と小さく笑った。

「・・・そうね、私はそうあってほしいことを、信じ込んでいるだけなのかもしれない。
 でも、もしもお父様を憎んでいたとしても、許せなかったのだとしても、
 ドフィ兄さんは引鉄を引いたことを、何とも思っていないわけじゃ無いと思うわ」

は天を仰ぐ。

「少なくとも、息をするように、当然のように、
 お父様を殺したわけでは無いでしょう。
 ドフィ兄さんは、皮肉なことに、人間らしい人だから。ウフフフフッ!」

「え?」

意外そうな顔をするロシナンテに、は苦笑する。

「歴史を紐解けば権力を巡っての身内での殺し合いなど、掃いて捨てるほど良くあることよ。
 毒殺や謀殺は日常茶飯事だった・・・。貴族や王族というのは、そういうものだわ」

は眉を顰めた。

「なのにドフィ兄さんが立ち上げたのは、ドンキホーテ・”ファミリー”。
 ウフフ・・・気づいていないのか皮肉なのか。まだ、ドフィ兄さんは”家族”に囚われてるの。
 ・・・馬鹿ね、」

の声には哀れむような響きがあった。
怪物に成り果てて尚、家族を必要としているドフラミンゴを、は憐れんでいるのだ。

ロシナンテは、の言葉に、小さく頷いた。

「・・・ああ、大馬鹿だ」

「でもそれは、私たちも同じこと」
「は?」

は声色を明るいものに変えて、ロシナンテに人差し指を突きつける。

「ロシー兄さん、自覚しましょう。私たち、兄弟喧嘩が下手くそなのよ!」
「ん?」

ロシナンテが頭上に疑問符を浮かべるのにかまわず、は大げさに嘆いて見せた。

「話がどんどん拗れてくの! 意見のすり合わせをしないから。
 あと3人とも頑固で、嘘吐きだわ。嘘が上手いか下手かは別として・・・。
 だから面と向かって、腹を割って、正々堂々、一度話をしてみなきゃね?」

それがこの後の計画についてのことなのだろうことは見当がついたが、
の物言いには大分含みがあるように思える。
ロシナンテは呆れを隠そうともせず、に問いかけた。

「・・・でもお前、手段を選ぶつもりもないし、
 何なら無理矢理にでも言うこと聞かせるつもりだろ」

「ウフフフフフッ! さぁ、どうかしら!」
「おい、お兄ちゃん大体わかってきたからな。笑って誤魔化すのは無理あるぞ!?」

はますます笑って見せた。気がつけばロシナンテも笑っている。

ドレスローザまでは、もうすぐだった。