海賊同盟
「麦わらとイエティ COOL BROTHERSが交戦中。・・・私が行きましょうか?」
「いい、下がっとけ」
ROOMを展開したローを見つけたイエティ COOL BROTHERSの一人、スコッチが
ローを味方と見て安堵したように叫ぶ。
「お前らいいところに来たな!今”麦わらのルフィ”がここに・・・!」
鬼哭を抜いたローはそのまま、空中で刃を滑らせた。
ROOMの内部でその切れ味を増した斬撃は、獣人の巨体を二つに分つ。
スコッチは呆然と息を飲んだ。
「相変わらず鮮やかね」
パチパチ、とさしてやる気の感じられない拍手を送るに苛立ったのか、
スコッチがその上半身でナイフをの頭上に振り下ろそうと構える。
「テメェら・・・!何のつもりだァ!」
「あら、”目が合った”わね、迂闊じゃない?」
の瞳が青白い光を帯びる。
指を立てて振り払うようにすると、スコッチの身体がぐらりと傾いた。
「”強制睡眠導入”」
大きな音を立てて雪に沈んだスコッチを見て、
ローは呆れたようにを見た。
「別にお前が出なくてもおれ一人で十分だった、
で?コイツはいつ目を覚ます?」
「それは失礼。
彼は身体が大きいからかなり強めに導入したわ。
3日は起きないと思うけど」
「・・・まぁ、いい」
ローが静かに会話を打ち切ると、
鎖で縛られていた鉄人フランキーが話しかけて来た。
「あ、ありがとう・・・、あ、違う!あんた、私の体返してよ!」
その口調にが違和感を覚えていると、ルフィが大きく手を振って来た。
「おまえら、ナミを助けてくれたのかー!」
ルフィの口ぶりと、先ほどの戦闘を思い出し、は内心で納得した。
なるほど、ナミとフランキーの精神をローが入れ替えていたのだ。
歯でフランキーを拘束する鎖を解いたルフィに、ローは切り出した。
は腕を組んで静観する。
「お前に話があって来た、麦わら屋、
お前らは偶然ここへ来たんだろうが、
この島には”新世界”を引っ掻き回せる程の、ある『重要な鍵』が眠っている」
は思わせぶりなローの口調に、人を乗せるのがお上手だ、と目を細める。
ルフィは興味を引かれたらしい、頭に疑問符を浮かべながらも、
ローの提案に聞き入っているようだ。
「”新世界”で生き残る手段は2つ・・・!
『四皇』の傘下に入るか・・・、挑み続けるかだ」
雪が激しくなりつつあるのに、ローのその声は不思議とよく通った。
「誰かの下につきてェってタマじゃねェよな、お前」
「ああ!おれは船長がいい!」
「だったらウチと同盟を結べ、お前とおれが組めばやれるかもしれねェ・・・」
ルフィの横に居るフランキー・・・、
ナミはその表情に疑念を浮かべているが、決定権は船長が持つものだ。
今のところその感触は悪くない。
その手応えをローも感じているのか、笑みを浮かべる。
愛想がいいとは言えない、海賊らしい不敵な笑みだったが。
「『四皇』を一人、引きずり降ろす”策”がある」
その言葉に、ナミが声を荒げた。
「同盟ですって!?
あんた達と私たちが組めば、『四皇』の誰かを倒せるの!?
馬鹿馬鹿しい・・・!」
ナミという女性は割に現実的な視点を持っているらしい。
そう、確かに、四皇に挑むリスクと言うのは、凄まじいものがあるのだ。
ルフィに向かって、聞く耳を持つな!と言い募るナミは正しい。
しかし、ルフィは黙っている。
ローがナミに聞かせるように補足する。
「いきなり『四皇』を倒せると言ったわけじゃない。
順を追って作戦を進めれば、そのチャンスを見出せるという話だ・・・!
どうする?”麦わら屋”」
ローの言葉の中には、幾つもの誘導が潜んでいるようだ。
自分の用意した作戦に従わない限りチャンスは来ないと思わせるようなニュアンス。
そして”麦わら屋”と言う言葉にアクセントを置いたのも、
決定権は船長が持つということを改めて強調したのだろう。
言葉で相手を縛り、相手を自分の思い通りに動かすのは、
夢魔であるの十八番でもあるが、ローもいつの間にかその術を身につけていたらしい。
だが、相手は麦わらのルフィである。
「その『四皇』って、誰のことだ?」
「『百獣のカイドウ』という男だ」
「ふーん、一人目はシャンクスじゃなきゃ、まあいいか!
『四皇』は、おれが全部倒すつもりだから」
思わずの顔が引きつった。
今までは口を挟まずに静観していたが、そうも言っていられなかった。
「・・・また、大きく出たものね」
「おい、幾らなんでもナメすぎだ。
奴らはかつて”白ひげ”とも縄張り争いをしていた『海の皇帝達』
分かっているのか?
なかでも”百獣のカイドウ”という男は、この世における最強生物と言われてる」
ナミが息を飲んだ。
普通なら、喧嘩を売るなんて正気の沙汰ではない相手であることが通じたらしい。
「おれたちの同盟はカイドウの首をとるまで。
作戦成功の確率は、そうだな・・・30%」
「なにそれ、低すぎ!こんな話のる価値ないわよ!!」
「いいえ、30%”も”あるのよ。鉄人フランキー、今は、泥棒猫のナミちゃん、かしら?
一対一で彼を相手にして勝つことはまず無理でしょう。・・・話もまともに通じないしね。
どうする?ルフィ君?やってみる?」
ルフィはにぃ、と笑った。
まるで無邪気な少年のように、その事の重大さを理解していないように、目を輝かせている。
とても4億の首には見えなかった。
「そうか・・・、よし、やろう!」
※
他の仲間にも説明すると言うので、ローとも麦わらの一味の避難していた場所に足を運んだ。
そこに居たのは狙撃の王様そげキング、悪魔の子、ニコ・ロビン。
黒足のサンジ、気絶したチョッパー、ナミ、フランキーは精神があべこべになっていて複雑だ。
9人居るうちその場に居た一味は半数ほどだが、やはり同盟を組むと言うと難色を示した。
特にそげキング、本名をウソップと言うらしい、がルフィに食って掛かっている。
「ナミを奪い返しに行っただけで何でそんなエキセントリックな話になってんだよォ!!
こんな得体の知れねェスリリング野郎共と手を組んだ日にゃ、
おれァ夜もオチオチ眠れねェよォ!!!」
「得体の知れないスリリング野郎ですって。言われてるわよ」
「・・・まァ、麦わら屋の反応に比べりゃ自然だろう」
クスクス笑うに、ローは呆れたように眉を顰めた。
麦わらの一味の中でも冷静に見えたロビンがルフィに忠告する。
「ルフィ、私はあなたの決定に従うけど、
海賊の同盟には”裏切り”がつきものよ。
人を信じすぎるあなたには不向きかもしれない」
その忠告を聞いたルフィはローに向き直る。
「え?お前裏切るのか?」
「いや」
「あのなァ!!!」
無論、裏切ります、と言って裏切る人間など居はしない。
突っ込みを入れるウソップに、あっけらかんとルフィは笑う。
「トラ男も白いのも、おれは良い奴だと思ってるけど、
もし違ったとしても心配すんな!
おれには2年間修行したお前らが付いてるからよっ!」
その言葉に先ほどまで及び腰だった船員がでれでれと格好を崩す。
あまりに緊張感の無い空気に、
ローは理解出来ないものを見るような眼差しを麦わらの一味に向ける。
はそれより気になったことがあったらしい、ローに何とも言えない顔を向けた。
「・・・ねえ、さっきから気になってたんだけど、
もしかしてトラ男ってあなたのことかしら?」
「だろうな。訂正するのも面倒だ・・・」
心底どうでも良さそうな顔をするローに、はあきれ顔だ。
「ロー船長、あなたって、割とどうでも良いところは諦めが早いわよね。
言っても聞かなそうなのは確かに分かるけど。
・・・ベポ君達が聞いたら嘆きそうだわ」
やれやれと頭を振るだが、
自分が”白いの”呼ばわりされているのは気にならないらしい。
おそらくとて呼び名などどうでも良いと思っているのだろう。
ローがその場に居る一味の中で人格移植手術をした者たちを元に戻す。
ナミだけ体がその場に無いので戻ることが出来ず、
サンジの体に一時的に移植手術をしたようだ。
泣いているナミだが、体が無ければどうしようもない。
「なあ、トラ男、白いの。お前ら医者だろ、ちょっといいか?」
「なにかしら」
麦わらのルフィに手を引かれ、ローとが見たのは眠っている子供達だ。
鎖で拘束されているのを見ては目を眇めた。
「・・・禁断症状が出たから拘束したの?」
「!・・・わかるのか?」
チョッパーが寝そべったまま、の言葉に反応する。
は苦い顔を隠しもしない。
「ええ、覚醒剤をシーザーに投与されていたと先ほど知ったわ」
「コイツらを助けてぇんだ!」
ルフィの言葉に、ローは怪訝そうな顔をする。
「厄介だぞ、放っておけるならそうするのが得策だ。
薬を抜くのは簡単じゃない」
「分かってるよ!調べたから。
・・・だから家に帰してやりてェけど、治療には時間が掛かるし、
なにより、こんなに巨大化してる!」
チョッパーの意見に、ローは硬い声でを呼ぶ。
おおよそ何を聞かれるかは分かっていた。
「、お前の魔眼でこいつら正気に戻せるか」
「・・・鎮静と言う意味では出来るわよ。でも、抜本的な解決はできない。
依存を取り除くためには、長期的な治療が一番の近道。
私が今、ここで出来ることは無いわ」
「魔眼・・・?おれ、どこかで聞いたことある」
チョッパーの言葉に、が視線を向ける。
ロビンがその視線を遮るように、さりげなくチョッパーの前に立った。
心無しか警戒するような仕草だ。
「・・・”白衣の悪魔”・。
不完全な手配書の、軍艦を一隻血祭りに上げた賞金首、確か懸賞金は1億ベリー。
2年前も思ったけれど、トラファルガー・ローの仲間だったのね」
の代わりに、ローが頷いた。
「こいつは”夢魔”だ。”魔眼”をつかって人間の脳を操作出来る。
2年前、お前らの船長がウチの船で暴れた時も、鎮静作用のある魔眼をつかって対処した」
「その節はすいませんでした・・・」
ルフィがズーン、と申し訳無さそうに影を背負う。
「・・・意外と名前が売れてるのよね、最初だけよ。私が派手に暴れたのは」
「あなたの手配書、印象的だもの。長い白髪に目だけが映り込んでいる・・・。
おまけに服装も白い服ばかり着るっていうし。”白衣の悪魔”ってすぐに分かるわ」
肩を竦めてみせたに、ロビンは僅かに警戒を解いたようだ。
は口元に手を当てて、考えるようなそぶりを見せる。
「すぐに対策を打ってあげられなくてごめんなさいね。
・・・それにしても、あなた達、海賊にしては珍しいこと言うのね。
本気で助けたいの?どこの誰とも分からない、見ず知らずの子供を」
の疑問に、ナミが答えた。
「ええ、この子達に、泣いて『助けて』と頼まれたの。
”マスター”は上手く騙してここへ連れて来たようだけど、
本人達だってあの施設がおかしいって気づいてる」
気遣わし気に子供の一人の背中を擦るナミには腕を組んだ。
ルフィは、子供を助けたいというナミやチョッパーの意見を尊重する気らしい。
おまけにローが3つに体を分けた”侍”を仲間が元に戻したがっていたから協力しろ、と
ローに言い連ねたので、は苦笑した。
ローは戸惑っている。
麦わらの一味は今まで交戦したり、交渉したりしてきたどの海賊とも違うタイプの海賊団だ。
勿論、基本的に『船長の決定が絶対』というハートの海賊団とも違う。
ローの困惑を察したのか、ウソップがビシ、と指を指した。
「言っとくが、ルフィの思う”同盟”って多分少しズレてるぞ」
「友達みてェのだろ?」
「主導権を握ろうと考えてんならそれも甘い」
「そうなんだってよ」
「自分勝手さでルフィはすでに四皇クラスと言える」
「大変だな、そりゃあ」
その掛け合いに唖然とするローに、は喉を鳴らすように笑っていた。
「フフフッ、凄い相手と同盟組んだわね、ロー船長」
「、お前、人ごとみてェに言いやがって・・・」
「でもロー船長、あなた、ある程度は分かっていたんじゃない?」
は笑いながらルフィに向き直った。
その大きな瞳を覗き込むように見つめる。ルフィはぱちくりと目を瞬いていた。
「エニエス・ロビーは落とす。世界政府には喧嘩を売る。天竜人は殴る。
インペルダウンの囚人は解放する。戦争には真っ先に飛び込む・・・。
行く先行く先で大暴れ、それでも何故か人を惹き付ける。
仲間からも慕われ、誰もがあなたを助けようと思う。
・・・人たらしね、麦わらのルフィ?」
いつの間に詰め寄ったのだろうか。
はルフィの顎を人差し指で上向かせ、その喉に手をかけていた。
ルフィとなら、の方が背が高いのだ。
思いもよらないの行動にその場の空気に異様な緊張感が走った。
ルフィは特に抵抗らしい抵抗もせず、の目を覗き返している。
だが、その目から何を読み取ったのか、
ルフィはやがて、彼にしては珍しい、筆舌にし難い表情を作った。
「さっきも思ったけど、おれ、お前のこと・・・苦手だ!
悪い奴じゃねェのはわかるけど!・・・苦手だ!」
「あら、そう?・・・残念」
はルフィの言葉に手を離す。
喉を抑えながら膨れっ面でを睨むルフィに、は愉快そうに笑っていた。