選択


    夏島であるはずのドレスローザの一角は異常なまでに寒く、
    それどころか、はらはらと雪が降っていた。

    は手の平に落ちた粉雪を眺め、モネらが隠れ家としている、
    ドレスローザ外れの家に顔を出した。

    食料を机に置いて、立ち去ろうとしたに声をかけたのはシュガーだ。

    「ねぇ」

    ベッドに横たわっていたシュガーは半身を起こし、
    を見てなんとも言えない表情を浮かべている。

    シュガーはの魔眼に縛られていた。
    への一切の攻撃を禁じられたシュガーは目を眇める。

    モネより魔眼の耐性があったおかげで、心まで奪われる事は無い。
    しかしシュガーは純粋に疑問に思っていたのだ。

    「なんであんたは私たちのことを殺さないの。憎んでいたんでしょう。
     ドンキホーテ・ファミリーを」

    「・・・種明かしをご所望なら応じましょう。
     もうはぐらかしたり、嘘をつく必要もないから」

    はシュガーを一瞥すると、側にあった椅子に腰掛けた。

    「モネ、盗み聞きは余り良い趣味ではないわ。
     質問には答えるから座りなさい」

    の座った向かい側の椅子に、モネが少々罰の悪そうな顔で現れる。
    は息を吐くとシュガーにもう一度目を向けた。

    「まず、何故殺さないのか、その理由を知りたいのよね?
     単純な理由だわ。
     あなた達は13年前の事件とは何も関係がなかったから。それだけよ」

    の言葉に、シュガーはぱちくりと目を瞬いた。

    「それだけ・・・?」

    「運が良かったわね、もしもあなた達が13年前、
     私の婚約者を殺した当時のドンキホーテファミリーの中に居たのなら、
     ヴェルゴと同じように殺してた」

    さらりと言われた言葉にシュガーはこめかみを汗が滴るのを感じていた。
    は本気だった。

    「情報を得るためにモネ、あなたの過去はあなたの口から聞いてる。
     ドフラミンゴの手をとらなくては、あなた達は生きては居なかったでしょうね」

    「フフ、同情でもしたって言うの?」

    モネが皮肉な笑みを浮かべる。
    は頬杖をついた。

    「残念ながら否定いたしかねるわ」

    すぅ、と目を細めたシュガーをよそに、は肯定する。

    「・・・馬鹿にしてるの?」

    同情しているだなんてどの口で言うのだろう。
    シュガーの怒りを見ても、は狼狽することなく、ただ苦笑していた。

    「フフ、いいえ、シュガー。
     やがて心はきちんと成長し、大人としての自負を持つだろうと分かっていたでしょうに、
     ドフラミンゴのために悪魔の実の呪いに縛られ永遠の子供となったあなたと、
     自分の手足を切り落とし、鳥のものと変えてでも、人の姿を捨ててでも、強くなりたいと願い、
     ドフラミンゴのために死のうとしたあなたの姉は、愚かで、哀れよ」

    は人の心を土足で踏みにじるように言葉を使う。
    そして自身の胸に手を当てて、微笑んだ。
    その言葉にはどこか偽悪的な響きがある。

    「私は”白衣の悪魔”。物語に出てくる悪魔は人間を試すでしょう?
     私は同じような事をモネにしただけ。
     与えられた選択肢を選びとり、結論を出すのはいつだって選んだ側。
     主導権があるのは選択肢を与える側ではない」

    モネとシュガー、二人を見つめて、問いかけた。

    「だからもう一度問いかけるわ。
     ドフラミンゴはそこまでの価値がある男だった?」

    その目は青白い光を帯びては居なかったが、
    ウソも偽りも、通用しそうにないことだけは分かっている。
    シュガーは唾を飲み込んだ。

    「命を賭し、まともな人間としての幸福を捨てて仕えるに値する人間だったの?」

    「当然だわ」

    シュガーは即答した。
    その考えが揺るいだことなどなかったのだ。

    しかしモネは考えているようだった。

    シュガーはを睨む。
    モネに余計なことを吹き込み、利用し、挙句姉妹を仲違いさせようとした女は
    静かにシュガーの視線を受け止める。

    シュガーはそういえば、と眉を上げた。
    はなぜ、ここにいるのだろう。

    ドフラミンゴは失脚し、ドレスローザもの望み通り滅びた。
    モネやシュガーはにとって用済みのはず。
    気にかける理由は、もう無いはずだ。

    モネはゆっくりと口を開いた。

    、あなたは言ったわね。『自分の心臓に嘘はつけない』と」

    モネの言葉を、は静かに聞いている。

    「・・・私はあなたが好きだったわ。殺せと言われても、できなかった。
     初めて若様に逆らった。それを後悔はしていない。
     あなたが生きていてくれて良かったと思う。
     でも、それと同じくらい、翼を得たことを、悔いたことは無いの」

    モネは告げる。

    「私は若様のファミリーで居たい」

    シュガーは瞬く。

    「姉さん、それは・・・」
    「若様がインペルダウンに送られると言うのなら、私も付き従うだけ。
     他のファミリーと同じように」

    モネはに意地悪く微笑んで見せた。

    「私の自惚れでないのなら、あなたは私を連れて行こうとしていた。
     そうでしょ、?」

    驚いてシュガーがを見ると、はそれを否定しなかった。
    それどころか、冗談まじりに肯定してみせる。

    「ええ、全く。あなたのご想像の通りよ。・・・振られてしまったわね」

    その様子を見て、静かに目を眇め、
    どうしても黙っていられなくなったのか、今度はモネが問いかけた。

    「13年間、失った婚約者のため、復讐の為に生きて来て、
     その果てに死ぬ事があなたの望みだった」

    モネの言葉に、は頷いた。

    「そうよ」
    「ドレスローザは滅び、若様は失脚した。それでもあなたは生きている。
     あなたこそ、”愚かで、哀れ”よ、
     あなたなら、もっと違う生き方を選べたでしょう?」

    は頬杖をついていた手を離した。
    自身の手の平を見つめている。

    「・・・そうね、例えば、他に愛する誰かを見つけたりだとか、
     失った者ばかりを見ずに、医師として、
     人としての私自身の幸福を探しても良かったのだとは思うわ。
     それを怒るような人ではなかったし」

    の脳裏に、声が蘇る。
    かつて、別れを告げようと、ロシナンテはこう言ったのだ。

    『おれを忘れて・・・幸せになってくれ』

    にそんな事が出来る訳が無かったと言うのに。

    「でもそうしてしまったら、私は”私でなくなる”と思った。
     忘れたくなかったのよ。愛していたから。
     あの人のために、生きたかったの」

    その言い草に、モネは納得していた。

    なぜ、がモネをドレスローザに連れて来たのか。
    それはシュガー対策でもあったが、やけにはモネに肩入れしていた、
    その理由は、”誰かのために生きて、死のうとしていた”からなのだろう。
    やはりはモネに同情していたのだ。

    「さて、そろそろお暇するわね。
     モネ、シュガー・・・」

    は立ち上がり、扉に手をかける。

    「自分で選びとった人生を謳歌するが良いわ。
     どんな苦難も状況も、選んだのはあなた自身なのだから」

    きっとこれが最後だろう。
    そう悟ったモネは立ち上がった。



    振り向いたその顔は穏やかだ。
    白い髪、白い肌。刃物のように鋭かった灰色の瞳は、今は凪いでいる。
    白衣を羽織ってはいるが、その下に着るのは白いシャツと青いスカートだ。

    モノクロームの世界にただ一人立っていたは、少しずつ色を取り戻していくのだろう。

    「今度会ったなら、また買い物をしましょう」

    は少々驚いたようだったが、やがてその唇には笑みが浮かんだ。

    「ええ、是非」

    その微笑みが、モネの見た中で一番美しく、
    そして少し淋しそうに見えたのは、モネの錯覚だったのだろうか。

    扉はゆっくりと閉まる。
    シュガーはモネを見上げ、その表情を見てため息を吐くとベッドから起き上がり、背中を撫でた。

    姉を慰めるのは妹の役割だろうと、思ったが故である。



    がモネに別れを告げた翌日、
    ドフラミンゴ撃破から3日目。

    キュロスの家では起きたばかりのルフィが、
    レベッカの父がキュロスではなくどこかの王子だと言う噂の件で怒ったり、
    兄だと言うサボが去った件で泣いたり、
    食べたり眠ったりと忙しない。

    ゾロも呆れ、ウソップは心配なのか「食い意地張らずまだ寝てろよ!」と声をかけていた。

    ベラミーは壁にもたれかかりながら、たまにじろりとを見るが、
    が笑いかけるとむっとして目を逸らす。
    大方ドフラミンゴ戦であしらわれたのが気に入らないのだろう。

    しかしはどこ吹く風である。
    ローは呆れたようにを見やった。

    「お前、・・・前々から思ってたが金髪に対しての態度が露骨に甘いぞ」

    サンジしかり、ベラミーしかり、マンシェリーとレオもそうだ。
    ローの指摘には肩を竦めてみせる。

    「そりゃあ、私にだって好みというものがあるから」
    「へェ・・・?」

    面白く無さそうに鼻を鳴らすローを見て、は息を吐いた。

    一味と侍達は、キュロスが娘、レベッカの将来を思い、
    キュロスが父親であることを伏せていたいという話を聞き、
    神妙な面持ちで食事を続けている。

    その中でもルフィは全く納得している様子は無い。

    賑やかでどこかちぐはぐな一行の中にバルトロメオが駆け込んでくるのと、
    レオがキュロスにでんでん虫をかけてくるのはほぼ同時だった。

    バルトロメオは麦わらの一味のファンだと言い、感涙しながらも
    用件を伝えようと向き直った。

    「海軍のテントに動きが! ぼちぼちここも危ねェべ!!!
     大参謀おつる中将と、前元帥センゴクが到着した!」

    告げられた名前にの肩が小さく跳ねた。

    「おつるにセンゴク!?」
    「そんな大物まで何しに来やがった!! 帰れ!!」

    フランキーとウソップは驚愕に息を飲んでいる。

    「・・・海軍将校は、海賊の拿捕が当然仕事であるけれど、
     億越えとなれば”担当”が割り振られる。
     麦わらの一味だと・・・スモーカー中将が相当するのかしらね。
     ドフラミンゴが七武海になる前は、つる中将がその担当だった」

    「なるほどその縁もあって来たのかしら・・・
     でも、センゴクが来るのは何故かしらね」

    ロビンが口元に手を当て、考えるそぶりを見せている。

    はその理由を想像はできているが、口にする事は無かった。
    ただ目を細め黙り込んでいる。
    その様子をローは見つめていた。

    「レオ、そっちはなんだ!?」
    『その”海軍”が動き出しました!!』
    「!?」

    キュロスの家に居た全員が息を飲んだ。

    とうとう、と言った具合だ。
    錦えもんは動揺するウソップに声をかける。

    「何を今更! 逃げる準備ならいつでもできてござる。
     ルフィ殿が目覚めるのを待っていただけ」

    「うむ! なぜ敵が攻めて来なかったかの方が不可思議。
     あとないのは船だけでござる」

    カン十郎が錦えもんのセリフを引き継ぐように補足する。

    「その船がねェのが問題だろうが!? どうすんだよ!?」

    ウソップのもっともな疑問に答えたのはバルトロメオだった。

    「東の港に用意してありますべ!」
    「おお!やるじゃねぇか、オイ!」
    「いやァそれほどでも・・・!」

    ウソップの賞賛にでれでれとバルトロメオは格好を崩した。
    電話越しでレオが忠告する。

    『ニワトリさん!王宮へも海軍は行く模様れすよ!
     戦士達も危ないれす!』

    「おう!心配ありがとよチビ助!
     おれらも海軍の動きは随時見張りさつけてた!
     抜かりはねェべ!!」

    バルトロメオはその場に居た全員に宣言した。

    「ルフィ先輩たづ!案内します! まっすぐ東の港に走ってけろ!
     あんたたづがいづ目覚めても脱出出来るように、
     既に同志たづがずっと要所に待機してたんだべ!」

    「ありがてェな!
     サニー号を先に行かせたんで困ってた!!」
    「当然だべ!」

    皆立ち上がり逃亡に向けて準備をする中で、
    ルフィは肉を齧りながらベラミーに問いかけた。

    「ベラミー、立てるか!?」
    「——もう走れもする!」
    「そうか、よかったな!!」

    ルフィの笑みも無視し、ベラミーはを指差した。

    「白衣の悪魔、
     なぜおれを殺さなかった? おれは死に場所を失った!」

    ベラミーの問いかけには呆れたように息を吐く。

    「なんで私があなたを殺さなきゃいけないのよ・・・、
     死にたかったら勝手に死ねば良いじゃない」

    どうでも良さそうなの物言いに
    カチンときたのか、ベラミーはますます食って掛かった。

    「あの小人のおかげでバカみてェに回復しちまったよ!
     なぜおれが海軍相手に死ななきゃならねェんだ!?」

    答えるのも面倒になったらしいの代わりにローが言う。

    「仮にも命の恩人に随分な言い草だな。
     礼の一つも言えねぇなら、なんとかして死ね、バカ」
    「何だと!?」

    一触即発の空気になるが、そうも言ってられないとバルトロメオが仲裁し、
    一行は港へ向けて走り出した。

    ベラミーはまだ悪態をついているが、なんだかんだ言って
    走り出しているので、ここで死ぬ気は無いようだ。

    逃げに徹する皆とは別に、ルフィは東の港とは反対方向を向いている。

    「え!? ルフィ先輩!?」
    「やっぱちょっと用事あるから先行っててくれ!」

    肉を齧りながら不敵な笑みを浮かべるルフィを止められるものは
    その場に誰も居なかった。

    はルフィが駆け出した方向を見て、一人呟く。

    「あの様子だと・・・王宮に、レベッカに会いにいくつもりかしら」
    「さァな。麦わら屋の考えを予測するのは無駄だ。
     どうせなるようになる」

    「・・・、で、この手は何?」

    ローはの手を掴み、顎をしゃくった。

    「行くぞ」
    「・・・大体行き先は想像つくけど、気が進まないわ」
    「お前の都合なんざ知るか。良いから来い」

    は苦虫を噛み潰したような顔をしたが、
    結局はローに手を引かれるまま、走った。

    おそらくその人と会うのは、これが最後になるだろうと分かっていたのだ。



    東の港にほど近いその場所に、
    その人は待ち受けていたかのように現れた。

    が知っている頃より、幾分老いたように思える。
    その髪もヒゲも白くなり、装いもネクタイは締めているものの、
    アロハシャツにハーフパンツと、かつてより随分くだけたものに変わっている。

    好物のおかきを頬張り、後ろになぜかゴリラを伴っている以外に、
    他の海兵の姿は見受けられない。

    ローはの手を離した。
    は前を向いて、その人を呼んだ。

    「センゴク、大目付」
    「——おかきをどうだ?二人とも、」
    「いらねェ、早く話せ」

    ローがすげなく断ると、センゴクはおかきの詰まった袋をゴリラに渡して、瓦礫に腰掛けた。
    何かに思いを馳せるように、遠くを見ていた。
    暫く沈黙していたが、センゴクはやがて語り始める。

    「・・・ある日、海兵が一人、死んだんだ」

    海賊達の逃げる音が遠くに聞こえる。
    その中でも、センゴクの声はよく通った。

    「そいつは私にとって特別な男だった。
     ガキの頃に出会い、息子のように思っていた。
     正直で人一倍の正義感を持ち・・・、信頼のおける部下でもあった。
     ——だが生涯に一度だけ、私にウソをついた」

    センゴクは一度目を閉じ、に視線を合わせた。

    「あの日、ロシナンテは”居てはいけない”島にいた。君も居たな、
    「・・・はい」

    は拳を握りしめる。

    「私は、君に話を聞くことが出来なかった。
     ロシナンテを失い、ドフラミンゴを拿捕することにがむしゃらになった君に、
     裏切りを問いただすのは余りに酷だと思ったからだ。
     そして、ドフラミンゴが七武海となった後も、海軍に残り、正義を体現するかのように、
     海兵を治療し、海賊を拿捕しつづけた君を見て、
     私も、つるも、立ち直ったとばかり思っていた。
     私には何も、見えていなかった・・・」

    悔いるような口調だ。
    は唇を噛み何か答えようとするが、言葉が見つからず、結局はその口を閉ざした。

    センゴクは意を決するかのようにローに向き直り、問いかける。

    「あの日の事件で消えたものは4つ。
     『バレルズ海賊団』『私の部下の命』『オペオペの実』
     そして当時ドンキホーテファミリーに居た『珀鉛病の少年』」

    「ああ、おれだ」
    「——やはりそうか。ロシナンテが半年間任務から離れたのはお前のためか?」
    「・・・そうだ。病院を連れ回された」

    センゴクに問いかけられる度、ローの声が微かに揺れる。

    「それで”オペオペの実”に手を伸ばし、
     お前を生かす為にロシナンテは死んだんだな!?」

    センゴクは半ば叫ぶように詰問する。

    「あいつの死因をはっきり知りたいんだ!」

    「あぁ、そうだ、本当は二人で、いや、三人で逃げるはずだった!
     おれはあの人から、『命』も『心』も貰った! 大恩人だ!!!」

    恐らくそれを認めるのは、ローにとっては辛いことでもあったはずだ。
    は眉を顰め、目を伏せる。

    「だから彼に代わってドフラミンゴを討つ為だけに生きて来た!!!」

    ローは一度奥歯を噛み、自問するように言葉を続けた。

    「——だがこれが、コラさんの望む”D”の生き方なのかわからねェ」
    「”D”?」

    センゴクは訝し気に首を捻る。

    「”麦わら”と同じように、おれにもその隠し名がある。
     あんたは”D”について何か知ってんじゃねェか?」

    センゴクの目が驚きに見開かれたように見えた。
    しかし、センゴクはすぐに平静を取り戻してみせる。

    「さァな。だが少なくとも、ロシナンテは何も知らないはずだ。
     ——つまり、その為にお前を助けた訳じゃない、受けた愛に理由などつけるな!」

    「!」

    ローは叱咤するようなセンゴクの言葉に帽子を目深に被る。
    その拳は白くなるほど握られていた。
    センゴクは僅かに目を伏せて、に問いかけた。

    「・・・、君はロシナンテの死因をいつから知っていた?」
    「・・・13年前、最初からです」

    「はァ、そんで黙りを決め込んでたってわけだよな?
     まったくまったく、・・・薄情な奴だよ。お前は」

    噛み締めるようなの言葉に答えたのはセンゴクでも、ましてやローでもなかった。
    突然、その男は現れたのだ。

    白いシャツに薄手のグレーのスラックス、将校の羽織る正義のコートによく似た、
    しかし全く別物の黒いコートを羽織り、革靴の踵をコツコツと鳴らした男は、
    ポケットに手を突っ込みながら、へらりと軽薄な笑みを浮かべてみせた。
    しかしその、黒縁メガネの奥の瞳は鋭く光っている。
     
    「セルバント!?」

    の驚愕をよそに、セルバントは片方の眉を上げ、笑ってみせた。
    ひらひらと手を振り、にこやかに声をかける。

    「よォ、”元”軍医。
     それとも”白衣の悪魔”って呼んだ方がいいか?」