幽霊と港町アカシア
錦えもんとモモの助、ローとロシナンテが加わった食卓は随分賑やかになった。
サンジの作ったサンドイッチと、
ローとロシナンテのために作られたおにぎりがみるみる消えていく。
食事を運んでいたサンジが錦えもんに尋ねた。
「それにしても、なんでお前らパンクハザードに?」
「・・・元々、拙者たちは、”ゾウ”という場所を目指して海へ出たのだ」
錦えもんの目的地に心当たりがあったのか、おにぎりを頬張りながらローが顔をあげた。
「ゾウ?」
「存じおるか?!」
ローは錦えもんに頷いてみせる。
「何から何まで奇遇だが、おれの仲間たちの潜伏先がそこだ」
「元々の作戦が成功したら、
そこでハートの海賊団と合流するつもりだったんだ」
ロシナンテが続けた言葉に、錦えもんは瞬いた。
「まことか、それは!?
では、そ、そこまで拙者たち同行するわけには・・・」
ローは少し考えるそぶりを見せると、ルフィに顔を向けた。
「どうする、麦わら屋。
ドレスローザでの事件は多かれ少なかれ騒ぎになるだろう。
一時的にカイドウから身を隠すのにもゾウは適切な進路だと思うが」
ローは一応の同盟相手だからと話を振ってみたが、
ルフィはローの問いかけに特に深く考えることもなく即答していた。
「いいぞ! ワノ国まで行こう!」
ドフラミンゴを打倒し、カイドウを敵に回すことの意味をルフィは本当にわかっているのか、と
ローは眉を顰め、ブルックの横で紅茶を飲んでいたを振り返った。
「・・・ホントにこいつノリが軽いが、大丈夫か、」
「ウフフフフ! まぁ、そう心配しなくとも平気よ」
はいつも通り朗らかに笑っている。
横にいたブルックも、に続けておどけて見せた。
「ヨホホホホ! トラ男さん。
心配なのはわかりますが、あまり考え過ぎてもいけません。
まァ私なんかはこの通り、考える脳みそはとうに失われてますけどー!!!」
「ウフフフフ! ナイススカルジョークよ、ブルック!」
自身の頭蓋骨を開けて見せるブルックにはパチパチと拍手して見せる。
ローはブルックをまじまじと眺め、首を捻っていた。
「どう言う仕組みで動いてんだ骨屋は・・・」
「アンタもアンタで、興味持つのはそこなのね」
ローの横でコーヒーを口にしていたナミが半ば呆れたように
音楽家たちと客人のやり取りを眺めている。
ロシナンテはその様子に苦笑していたが、はた、と思い当たることがあったのか、
錦えもんに尋ねた。
「だが、ゾウは特殊な島だ。お前たちよく航路がわかったな」
「いや・・・、実は、」
錦えもんは気まずそうに視線をそらしポツポツとこれまでの経緯を説明し始めた。
錦えもんとモモの助の他に2人の侍とでゾウを目指したが遭難。
ドレスローザに錦えもんとモモの助、そしてもう一人の侍が漂着したのだという。
モモの助が龍の姿でサンドイッチを頬張りながら、皿を睨む。
「しかし、そこでドフラミンゴという者たちに追い回されて、
拙者、よくわからぬ船に逃げ込んだのでござる」
「それがパンクハザード行きの船だったわけか・・・」
フランキーが顎を撫でながら呟く。
錦えもんは回想し、思うところがあったのか悔しそうに奥歯を噛んだ。
「それを慌てて追う拙者をかばい、侍同心”カン十郎”が人質となるも、
拙者を海へ逃がしてくれたのでござる!!! 必ずや助けねば!!!」
錦えもんのただならぬ気迫に、ルフィが胸を叩いた。
「よし! おれも助けるぞ、そいつ!!」
「お前な、一番の目的はなんだかわかって・・・、
いや、もういい。好きにしろ」
ローは何か言いかけたが、途中で諦めたようにため息をついた。
「・・・ロー、諦めが早ェぞ」
「じゃあコラさんが説得してくれよ」
嗜めるようなロシナンテだったが、ローに突っぱねられると首を横に振って見せた。
「嫌だね。あの手合いは大体聞き流されて終わりなんだ・・・。
センゴクさんがガープさんにどんだけ苦労してきたことか・・・」
何か思い出しているのか、ロシナンテは遠い目をしている。
ゾロがに声をかけた。
「お前の兄貴はルフィのじいさんに苦労されられてたんだな」
「そうみたい。海軍だってことは知ってたけど、ルフィのおじいさんもそうなのね!」
「・・・一度会ったら忘れられないタイプよ。言っとくけど」
何を思い出しているのか、苦笑しているナミに、は首を傾げた。
「ゾロもナミも会ったことがありそうな口ぶりだけど、
どんな人だったの?」
ナミとゾロは顔を見合わせ、それぞれに同じような感想を呟く。
「とにかくルフィにそっくり」
「・・・歳食ったルフィを海軍にしたら、多分あんなんだろう」
「・・・なるほど!」
はマイペースにサンドイッチを平らげるルフィを見て、納得したように頷いた。
※
「島が見えたわよ」
見張りを行なっていたロビンが再びキッチンに戻ってきた。
その声を聞いて、食事を終えた一行は次々に甲板へと飛び出していく。
一行は島の影を見た。
それは天然の要塞。巨大な岸壁に囲われた島。
は島影を見つめる。
元をたどれば、古いドンキホーテの血筋はこの島に行き着くのだ。
愛と情熱の国。”ドレスローザ”。
「”容易に外敵の侵入を許さない地形、肥沃な大地・・・植物に愛された夏島”」
古い書物の記憶がの脳裏に蘇る。
その横ではルフィが歓声をあげていた。
「うほーっ、なんだ、あのゴツい島っ!
着いたぞー! ドレスローザ!!!」
「バカ! 大声出すなよ!!ドフラミンゴに聞こえちまう!!」
「聞こえるかよ」
ルフィに見当違いのツッコミを入れるウソップにゾロは呆れている。
「今助けるぞ! カン十郎!」
錦えもんはドレスローザを目の前に、決意を新たに決めたようだ。
迫り来るドレスローザに、はローとロシナンテへと声をかけた。
「ロー先生、ロシー兄さん、ドフラミンゴとの取引、午後3時までは時間が少しあるでしょう?」
「ああ、それがどうした?」
「私、ドレスローザを見てみたいわ」
「!」
この申し出にはローもロシナンテも驚いている。
ロシナンテはに眉を顰めて見せた。
「おい、今更だな!? 悠長に観光してる場合か!?」
「それは・・・そうなんだけど。
もちろん3時にはグリーンビットへ行くつもりなのよ。
私は空を飛べるから、すぐに移動できるし、それに何より、」
視線を彷徨わせたは再びドレスローザへと目を向ける。
「ドレスローザが、ドフラミンゴが治めている国が
一体どんな国なのか、少しでも知らなくてはいけないと思ったの」
ローはの言葉に考えるそぶりを見せた。
ロシナンテも思うところがあったのか、目を細め、ローへと視線を移した。
「・・・」
「ロー、どうする」
ローは腕を組み、頷いた。
「わかった。好きなように動けば良い。
ただ、連絡手段を持った仲間とは離れるなよ」
念を押され、は笑顔で答える。
「ええ、私はでんでん虫を携帯できないから・・・肝に命じておくわね」
※
ドレスローザの海岸に船をつけると、ルフィは真っ先に島へと足を踏み入れ、
手を掲げて上陸を喜んでいる。
フランキーも工場を破壊しようと張り切っているようで、
錦えもんにドレスローザでの服装を尋ねていた。
「さっさと町へ行こうぜ。服はどんな感じなんだ?」
「そうでござった。ドレスローザは皆このような衣装にござるゆえ、
町に溶け込めるようお主ら変身させてしんぜよう!!」
錦えもんの手にはワノ国風のイラストが描かれていた紙が握られている。
『男はえりしゃつ、女はまるだし』
「最高じゃねェかドレスローザ!!!」
「ウソを吐け!!!」
むしろ自身の下心が丸出しになっているサンジと錦えもんに
ナミが鉄拳制裁を食らわせている。
どさくさに紛れてそれぞれに一発づつ拳を叩き込んだロシナンテが
の肩を掴んでさらに念を押した。
「普通でいいぞ、普通で!」
「・・・ロシー兄さん、わかってる。わかってるから」
はロシナンテに呆れている様子だ。
そのやり取りを横目に、ローが紙をナミへとちぎって渡す。
「お前にこいつを渡しとく」
「ビブルカード?」
ナミは不思議そうに渡されたビブルカードを眺めた。
「さっき話した”ゾウ”という島を指す。俺たちに何か会ったらここへ行け」
「おい!! 何もねェよなァ!!」
「さァな」
聞き捨てならないと声を上げるウソップだが、ローは適当に流している。
そしてドレスローザの地図を広げ、現在地を指さした。
「シーザーを引き渡すチームは人質を伴って
ドレスローザを通って北へ伸びる長い橋を渡り、グリーンビットへと向かう」
「船で行けば良いだろ、全員で!」
「船じゃ不可能らしい」
「なんでも闘魚とかいう魚の生息地だそうだ」
「・・・あら、それは楽しみ」
人質引き渡しチームはウソップ、ロー、ロシナンテ、ロビンだ。
3時にはがこのチームに合流予定である。
「あ、安全に頼むぞ・・・オイ!!」
「・・・」
「・・・なるようにしかならないだろう。そう気を張るな、モネ」
とにかく不安そうなシーザー、
なんとか心臓をローから取り戻せる手段を考えて虎視眈々と隙を伺うモネ、
そして沈着冷静なヴェルゴは同じ人質という立場でも振る舞いが対照的だ。
「カン十郎、無事だと良いが」
「ねェちょっと! 敵が来るってどういうこと!?」
「ああー、やっぱり船番安全じゃないんですねー・・・」
「そりゃここは敵の本拠地だぞ。
でも船番はサンジも一緒だから、あれ!? サンジが居ねェ!?」
サニー号安全確保チームはモモの助、ナミ、ブルック、チョッパー、
そしてサンジのはずだったがそのサンジが見当たらない。
他にもすでに姿を消しているメンツが居ることに気づいて、ローが声を荒げる。
「おい、麦わら屋達はどうした!? あいつら作戦のメインだぞ!?」
「も居ねェじゃねェか?! せめてなんか一言言ってからとかあるだろ!?」
頭を抱えて慌てるロシナンテを、ローは思わずジト目で見ていた。
「・・・それあんたが言うのか」
「うっ!?」
13年前なんの挨拶もなしにの前から姿を消したことを思い出したのか、
ロシナンテは言葉に詰まった様子だ。
ローは多少溜飲を下げたのか、小さくため息をついた。
「・・・まァ、しょうがねぇ。工場破壊チームと一緒なら
すぐにドフラミンゴに拐われることもねェだろう」
一度サニー号へと戻り、変装を終えたら行動開始だ。
※
ドレスローザの港町、アカシア。
はフード付きの羽織を錦えもんに出してもらい、
薄く実体化したまま町を歩く。
周囲を見通して、は静かに目を細めていた。
町並みは整い、人々には笑顔が多く、街角では音楽が鳴っている。
「びっくりするぐらい、平和というか、楽しそうな町ね」
レストランが近くにあるのか、料理の香りが漂ってきていた。
ルフィとフランキーとサンジは「いい匂いーっ!」とはしゃいでいる様子だ。
ただし、サンジの関心は料理ではなく、
音楽に合わせて踊る、踊り子に向けられているようだったが。
今アカシアにいる、ルフィ、ゾロ、フランキー、錦えもん、そして成り行きでサンジが
工場破壊&侍救出チームである。
「コラー、待て!! 返せー!!! 私の腕を返しなさーい!!」
「!?」
ルフィらの目の前をぬいぐるみの腕を咥えた犬と、ぬいぐるみが駆けていった。
唖然と動くおもちゃに目を奪われていた一行に、またマリオネットのおもちゃが声をかける。
「こんにちは、兵隊です!! あれあれ? 君達どこかで〜、
お会いしましたかねー? あ! そう言えば今朝の新聞に・・・」
「え、ええと、」
は思わずどきりとして、繕うような言葉を探したが、
それよりも先に兵隊のおもちゃがガシャン、と音を立てて転んでしまう。
「いて!? しまった糸が絡まった!! 助けてー!!」
「・・・ちょっと誰かを思い出しちゃうのが嫌だわ。大丈夫?」
兵隊のおもちゃを助け起こしたに、
兵隊のおもちゃは照れ臭そうに頭をかいて見せた。
「やー! ありがとうございます! シニョリーナ!」
そのやり取りを見ていた一行はそれぞれにポカンと口を開けて呟く。
「ホントにオモチャが生きてたな」
「一体や二体じゃねェぞ」
「いや、話には聞いてたが実際こうして見てみると」
「摩訶不思議でござる・・・」
人間と同じように街を闊歩するおもちゃたちへと目を向け、
はふむ、と顎に指を這わせた。
「・・・オモチャと言っても、全て人形なのね」
「ん? 言われてみるとそうだな。ロボとか動物とかぬいぐるみ、デザインは様々だが」
フランキーも頷いている
すると人だかりができている場所から、物騒な言葉が聞こえてきた。
「わァー! 男が刺されたぞー!!」
「ああ・・・。またか」
が助け起こしたおもちゃの兵隊の言葉に、ゾロが首を捻る。
「・・・またってなんだ? 連続通り魔でも居るのか?」
「いえ、この国の女性達は恋に情熱的で嫉妬深く、
男の裏切りにあったりすると・・・よく人を刺すんです」
おもちゃの兵隊に淡々と告げられた言葉にゾロは思わず一歩引いていた。
「コエェな?!」
「美しい人ほど、まー刺しますよ、ホント!」
「ウフフ、気持ちはわからなくもないわね!」
ゾロはを呆れたような眼差しで見やった。
オモチャはの言葉を冗談だと思っているし、
はいつものようにクスクス笑っているが、
実際これから実の兄を殺しに行くと宣言している女である。
「お前実はドレスローザ出身だったりしないか?」
「・・・ウフフフフフフ、やだ、ゾロったら! 情熱的で美しいかしら私!」
「ぐっ!?」
バシバシとゾロの肩を思い切り叩いて、はルフィらの元へと向かった。
ゾロは曲がりなりに武装色の覇気で叩かれた肩を軽く押さえ、小さく息を吐く。
「なんだお前、お嬢さん口説いてたのか!?」
「口説いてねェよ?!」
どこから見ていたのかサンジがゾロを怒鳴りつけたのに、
ゾロは怒鳴り返し、面倒臭そうにサンジへと念を押した。
「・・・おいクソコック、
間違ってもそれトラ男とドジ男の前で言うなよ。
めんどくせェことに巻き込まれんのはごめんだ」
サンジは一瞬納得したような表情を浮かべたが、
すぐにとぼけた顔を作るとゾロをあからさまに見下してみせる。
「・・・そりゃァ、てめェの態度次第だなァ、
『お願いしますサンジ様』とか物の言い方があるだろ」
「てめェ・・・」
カチンときたのか青筋を浮かべるゾロだったが、
ルフィの声に小競り合いは中断させられた。
「おい、お前ら何ごちゃごちゃ言ってんだ! とにかくメシだ!!!」
ゾロとサンジは顔を見合わせると、互いに時間の無駄だと悟ったのか、
小競り合いをやめて、ルフィの元へと歩を進めたのだった。
※
アカシアの酒場は繁盛している様子だ。
おもちゃも食事をとるようで、人間とともに料理を囲んでいるのが見て取れる。
「拙者このような場所で油を売ってる場合ではないぞ!」
錦えもんは以外の全員を一気に変装させたのは良いものの、
一刻も早くカン十郎を助けに行きたいのか焦っているようだ。
嗜めるようにフランキーが錦えもんの肩を叩く。
「まァまァ、落ち着け。ドジ男の奴も言ってたろ、
工場の場所については現地で情報収集しろってな」
「しかし、妙だと思わねェか」
「ええ・・・実は少し変だと思っていたの」
サンジの言葉に同調するようにも目を眇める。
ゾロは運ばれてきた水の氷を噛み砕きながら問いかけた。
「どう言うことだ?」
「仮にもこの国の王が今朝王位を放棄したばっかりだ。
おれァてっきりパニックにでもなってるかと」
「そう・・・そして混乱に乗じて色々物事が捗ると思っていたのに、
誤算だったわ」
ふぅ、とは頬杖をついてため息をつく。
「知らねェんじゃねェか?」
「んな馬鹿な!」
「じゃあ聞いてみようぜ、おいおっさ、」
「やめろ!!!」
ルフィが隣のテーブルの男性に声をかけようとしたのを
サンジが蹴りを入れて止める。
「今朝の一面だぞ、てめェの顔が載ったのは!!!」
が苦笑しつつ、首を捻った。
「さっきのロシー兄さんに似てたお人形。
ルフィの顔に見覚えがあると言っていたから、新聞を読んでいるのは確かなのよ。
一瞬、新聞の配達を差し止めたのかしらとも思ったんだけど、そんなわけでもないのよね・・・」
「お料理・・・お待たせしたとかしないとか!!」
おもちゃの店員が運んできた料理に、思考は一旦中断させられた。
「わー!! 待ってたぞー!!!」
ルフィが手を叩いて喜ぶ。
テーブルを埋め尽くすように並べられたのはドレスローザの名物料理の数々である。
「それぞれ、ドレスエビのパエリア、ローズイカのイカスミパスタ、妖精のパンプキン入りガスパチョ」
「どれもうまほー!!!」
「メニューをみたけど海産物が豊富なのね。
かぼちゃも名産なのかしら、とっても美味しそう!」
も思わず目を輝かせていた。
サンジは材料が気になったのか、店員のおもちゃに声をかける。
「妖精のパンプキンってのは、あれか、ドレスローザに伝わる伝説の・・・」
「ええ、その通りですとも〜っ。この国では妖精の伝説が今でも・・・
信じられているとかいないとか。
つまり妖精が出るとか出ないとか!!」
「妖精が出る?」
不思議そうな声を上げると、店員はおどろおどろしい声を作り、芝居掛かった挙動で答えた。
「ええ〜、不思議でしょ? 何百年も前からです。
どうぞ旅の人、お気をつけに、なるとかならないとか・・・」
「不思議なのはお前らだろ」
思わず感想をこぼすサンジだった。
は腕を組んで考えるようなそぶりを見せる。
「やっぱり妖精とオモチャは違うもののようね。
何だか幽霊みたいな扱いだったけど、・・・幽霊は私だし」
はぐるりと店内を見渡した。
外からざっと見た限りでも、アカシアの街には活気があり、豊かだった。
しかし店員を担っているのはおもちゃが多いことにも気がついていた。
単に人口の問題なのだろうか、とあたりを伺うと、一際騒がしいテーブルが目に止まる。
「あら・・・?」
「騒がしいのはルーレットか?」
「チンピラどもが盲目のおっさんから金をむしり取ってるみてェだな」
ゾロの言う通り、盲目の男を武器を持った男たちが取り囲むようにして、
同じテーブルについている。
テーブルの上にはルーレットが置かれていた。
どうやら男が盲目なのを良いことに、チンピラたちは嘘の結果を教え、金を巻き上げているらしい。
「・・・ドンキホーテ・ファミリーの、末端構成員かしら。
ねぇ、ところでルフィはどこ?」
いつの間にテーブルからルフィの姿が消えている。
だが、そう時間もかからずルフィは見つかった。
どうやらイカスミパスタを食べながら渦中の席を覗きに行ったようだ。
「は・・・!? あいつまた・・・!」
「首を突っ込む」
ゾロもサンジもいつものことだが、と呆れ顔だ。
盲目の男と共にルフィを始末してしまおうとチンピラが襲いかかるが、
盲目の男が仕込み杖を抜くと何もしていないように見えるのに、
チンピラたちがあっという間に地に伏してしまった。
しかし、騒ぎはそれだけでは止まらない。
「この、地響きは!?」
「なんだあいつ!? 何をした!?」
らは思わずテーブルから立ち上がる。
軋むような音を響かせ、そしてついには凄まじい轟音と共に
チンピラたちが店の床に空いた穴に吸い込まれていく。
まるで見えざる手に押しつぶされたようだった。
「・・・”能力者”だな」
「何の能力だ、こりゃ」
唖然と巨大な穴と盲目の男を見つめる一行を尻目に、
ルフィは飄々と声をかけた。
「おっさん強ェなァ! 何者なんだ!?」
勘定を済ませ立ち去ろうとしていた盲目の男はゆっくりと振り返り、
ルフィの方へと小さく微笑む。
「・・・へへ、そいつァ、どうやら言わねェ方が、
互いのためかと存じやす」
起こした騒ぎと裏腹に、盲目の男は静かにアカシアの酒場を後にした。