幽霊とコロシアム


盲目の男が酒場を立ち去った直後、にわかに辺りが騒がしくなった。

「バッグがないっ!」
「おれは時計が!」
「今の粉塵に紛れてか?!」
「まだ昼間だってのに!」

どうやら物盗りのようだ。被害者も多数いるようであちこちで声が上がっている。
下手人は先ほどの盲目の男だろうか、とサンジが首を捻った。

「ん?! 一本足りねェ!」
「ええ!? ゾロまで!?」

その上ゾロまでも刀を盗られてしまったらしい。
その一刀がスリラーバークで侍・リューマから譲り受けた名刀”秋水”だったものだから、
錦えもんも慌てている。

「ワノ国の宝だぞ?! 盗まれたと言うのか!?」

は少々の焦りを覚えた。これだけ被害者がいるのであれば、
すぐに警察やドンキホーテ・ファミリーが来るのではないかと危惧したからだ。

しかし。

「みんなやられたみたいだな。”妖精”が持ってったんだ」

被害者たちは各々「仕方ない」と苦笑している程度で、それ以上騒ぎが大きくなる様子もない。
ゾロはテーブルを叩いて、笑うおもちゃに尋ねた。

「なんだよそりゃ?! 妖精ってのは盗人の名前か?」

おもちゃはゾロの苛立ちにも構わずおどけながら答える。

「妖精は妖精だよ、旅の人。笑って諦めるんだねェ、
 何しろ妖精ってのは目には見えないドレスローザの守り神。
 彼らのやることにゃ目を瞑らなきゃならない」

「冗談じゃねェ!!! 納得できるか?!」

ゾロは周囲を見渡した。すると、何の気配を感じ取ったのか、
一点方向めがけて走りだす。

「逃さねェぞ!! 盗人の妖精!!!」

「おいゾロ! どこ行くんだ?!」

ルフィが驚いて声を上げる。
事態の深刻さを真っ先に悟ったのはサンジだ。

「待て待て!! てめェを一人彷徨わせてる時間はねェぞ、迷子マリモォ!!!」
「犯人を見つけたか?! ワノ国の宝、何人にも渡しはせぬ!!!」

「えっ、みんな!?」

錦えもんもゾロの後を追いかけてしまい、残ったのはとルフィ、フランキーだけだ。

「なんか知らんが面白そうだな。ししし! おれたちも行こう!!!」
「待て! ルフィ!」
「そうよ! あっという間にバラバラになっちゃったけど、良くないわ!
 工場をなんとかしなくちゃでしょ!?」

ゾロを追いかけようとしたルフィをフランキーが捕まえ、
が眦をつり上げながら言うと、ルフィは唇を尖らせている。

不服そうなルフィに、フランキーがニヤリと口の端を上げた。

「まァ、聞け。おれに名案が浮かんでんだ。
 万事このアニキに任せとけ!!!」

どうやら何か企んでいるようである。



アカシアの酒場の外、路地裏では腕を組み、首を捻った。

「確かに、『末端から情報を聞き出して徐々にボスに迫って行く』
 と言うのがクライムサスペンス物のセオリーでもあるわね・・・でも」

「下っ端すぎたのかもしれねェな・・・」
「参ったなー、仲間でも知らねェことがあんのか」

先ほど盲目の男から攻撃を受けていたドンキホーテ・ファミリーの男に
スマイル工場の場所や、捕らえた侍の居場所をフランキーが脅して尋ねているのだが、
男から返ってくるのは要領を得ない返事ばかりだった。

曰く、「確かに侍は追いかけたが捕まってたことも知らなかった」
曰く、「スマイル工場の場所なんて知らない」
曰く、「そもそも”スマイル”とは何だ?」

は頰に手を当ててため息をこぼす。

「ヴェルゴとモネから聞き出せていれば話は早かったんでしょうけど、
 彼ら、『喋るくらいなら舌を噛む』って一点張りだったから・・・困ったわね。
 下っ端すぎず、偉すぎない中堅どころを狙ったほうがいいかしら」

の意見を聞いたフランキーは男を指差し恫喝する。

「じゃあもうちょっと偉いヤツの居場所を言え!」
「今日はみんな忙しくて居場所なんて・・・、
 ああ! そうだ、ファミリーに会いたけりゃ”コリーダコロシアム”だ!」

「コロシアム?」
「”コロシアム”・・・、闘技場があるのね、この国は。
 なんでそこにファミリーが集まっているの?」

不思議そうな顔をする3人に、男は指を立てて説明する。
 
「今日はどういうわけか若様がものすげェ賞品を用意しちまってよ!!
 いやァ、アレはビビったぜ!!!」

男の言葉に、ルフィがハッとしたように顔を上げた。

「まさか・・・!? ミンゴが言ってた美味しいお肉か?!」

「ルフィ、ちょっとお肉から離れて」
「あいつはお前が欲しがる物としか言ってねェよ」

呆れるとフランキーだったが、
ルフィは未だに美味しいお肉に意識を捕らわれているらしい。上の空だ。

フランキーが仕方なしに男の言葉を促した。

「で? 一体何を用意したっていうんだよ」
「聞いて驚け! ロギア系悪魔の実、・・・メラメラの実だ!」

したり顔の男の言う通り、”メラメラの実”と聞いて3人は息を飲んだ。

悪魔の実の中でも最強と名高いロギア系。
そして何より、その能力は白ひげ海賊団2番隊隊長、
火拳のエースのものとして長く知れ渡っていた。

「何ですって?!」
「本物なのか!?」

「若様がくだらねェウソなんかつくか!!」

はルフィへと視線を移す。
ルフィは呆然と、男の言葉を反芻していた。

「エースの、”メラメラの実”!?」

悪魔の実は同時期に同じものが存在することはないが、
能力者が死ねば世界のどこかに、再びその能力を秘めた悪魔の実が復活する。

エースの死後、人知れず再生していたメラメラの実を、
ドフラミンゴは手に入れていたようだ。

はぐ、と奥歯を噛む。
交渉の際にルフィにやたらと絡んだのは、
”メラメラの実”によってルフィをおびき出すためにちがいない。

「ロギアの悪魔の実を興業の景品にしちまうとは若様も水臭ェ。
 あんなスゲェ能力手に入れたら、おれも人生変わるだろうな」

「お前なんかに食われてたまるか?!」

案の定メラメラの実を欲しがる男に、ルフィは苛立ったように答えている。

「おれ欲しい! メラメラの実!!!
 そうだ、お前食わねェか!? フランキー!」

ルフィが提案するが、フランキーは首を横に振る。

「カナヅチになるのはゴメンだ。
 船大工だし、海に潜る機会も多いからな」
「そっか・・・!」

ルフィは残念そうに肩を落としたが、すぐに前を向いた。

「おれには”ゴムゴム”があるからもう食えねェけど、
 エースの能力を知らねェどっかの誰かに持ってかれんのはイヤだ!」

は腕を組み、目を細める。

「・・・罠の可能性が高いわ」

コロシアムに誘い込んで閉じ込めるつもりかもしれない。
そもそもルフィが作戦の戦力外になると、かなりの痛手だ。

だが兄、エースの形見のような悪魔の実を、
見ず知らずの誰かに奪われるのが我慢ならないと言う
ルフィの気持ちもわかるだけに、は眉を顰める。

「確かに。ドフラミンゴの発言から見てもその線は十分にある、が」

フランキーはを見てから、ルフィへと視線を移した。

「チャンスを逃して後悔するよりは、掴んでから後悔しようぜ!」
「フランキー・・・」

フランキーはへと再び顔を向ける。

「大体コロシアムにはドンキホーテ・ファミリーが集まってるっていうじゃねェか。
 とにかく行って見ないと何も始まらねェよ」

「うん! 、ダメか?」

フランキーの言葉に力強く頷いたルフィが
に目を向けた。

「・・・十分に気をつけましょう」

根負けする形で、は頷く。
おそらくは罠だ。だが、罠一つで失敗するような作戦をは立てていない。

この先待ち受けるであろう困難に備え、は静かに気を引き締めていた。



コリーダコロシアム。

ドレスローザの名所とあってその建物はすぐに見つかった。

円形の闘技場は大勢の国民たちでごった返していた。
もうすでになんらかの競技が行われているのか、
コロシアムの中からは歓声が聞こえてくる。

「でけーな、コロシアムー!」
「ずいぶん盛り上がっているみたいね」

しかし歓声をかき消すように、コロシアム前で銃声が響いた。
見れば、憲兵たちがオモチャの兵隊を追いかけ回している。

「また出た”指名手配”のオモチャの兵隊!」
「もはやコロシアムの主だな・・・」

オモチャの兵隊は器用に片足で駆けていく。

「当たらん、当たらん! ”ジェットウォーク”!!」

「まぁ、片足なのに、なんて素早い・・・!」

その様にが感心していると、
オモチャの兵隊はあっという間にコロシアムの窓に足を踏み入れていた。

「ノロマ共め! 見ろ! 片足をコロシアムへ突っ込んだぞ!」

「う・・・!?」

憲兵達はたちまち怯む。
オモチャの兵隊は笑って彼らに宣言した。

「コロシアムには”警察”及び”海兵”は立ち入り禁止!!
 コロシアム内に犯罪者を見てもその権限は発動しない!」

はその言葉に目を瞬き、難しい顔をした。

「ここはドンキホーテ・ファミリー独断の法が存在するだけ!
 その引鉄を引けば、犯罪者はお前たちである。
 消えろー!」

憲兵達が苦々しく立ち去っていくのを見送って、
オモチャの兵隊はコロシアムの窓からさっと飛び降りた。
ちょうど成り行きを伺っていたルフィ達の目の前だ。

オモチャの兵隊は変装したルフィを年寄りだと思ったのか、近づいてきた。

「やや! これはご老体。お荷物でもお持ちしましょうか」
「なんだ、急に礼儀正しいな」
「あはははは! 面白ェ兵隊だ」

ルフィが笑うと、兵隊はおどけてみせる。

「面白いですかな!?」

しきりに転んだり起きたりを繰り返すオモチャの兵隊に、
ルフィは楽しそうだ。

「いかがかな? いかがかな?」
「あはははは!」

しばらく考えるそぶりを見せていたがオモチャの兵隊に声をかけた。

「ねぇ、兵隊さん、さっき憲兵たちはあなたを”コロシアムの主”と言ったわね」

オモチャの兵隊はへと顔を向けると、大げさに驚いたような声を上げる。

「ややや!? シニョリーナ、コロシアムに興味が?!
 ですがコロシアムで開かれているのは”殺し合い”の見世物。
 オススメ致しかねますが!」

「・・・ここで行われているのは”旧式”の闘技会なの?」
「!」

が険しい顔でオモチャの兵隊に尋ねた。
オモチャの兵隊は軽く息を飲んで、を見上げている。
フランキーは首を傾げて見せた。

「なんだ? 、闘技会についてなんか知ってるのか?」

はフランキーへと目を向ける。

「こういう、ショー形式の闘技会はずっと昔から続く見世物だわ。
 猛獣との戦いや、コロシアムに水を溜めての模擬海戦。
 剣闘士同士の試合とかが行われているわけだけど、」

は目を伏せる。
遠い昔、故郷でもそういう催しが開かれていた。
の両親は流血沙汰を嫌って闘技場に足を向けようとはしなかったし、
子供達にも見せようとはしなかったが、
それがどう言う内容だったかを、は風の噂に聞いていた。

「今では訓練されている猛獣を使うことが多いし、銃や大砲も本物を使わない。
 剣なんかは刃を潰したり、模擬刀を使ったりして、
 人や動物が死なないように行われることが殆どなのよ。
 政府が旧式の闘技会を非人道的だと定めたから。・・・でも、」

故郷で行われていたのは”旧式”の闘技会だったのだ。

の憂いを肯定するように、オモチャの兵隊は静かに答える。

「・・・ここは七武海の治める国。治外法権なのです、シニョリーナ」

俯いたが何か言葉を探す最中、アナウンスが流れた。

『一般からの出場受付、打ち切りますよー!!』

受付はそう遠くない場所にある。
手続きを済ませようと意気揚々と向かうルフィにフランキーが囁いた。

「おい、ルフィ、おそらくバトルショーだとは思うが、
 これだけは守れ。正体だけはバレるなよ!!!」
「わかった!」

返事だけは良かったものの、
早速登録名簿に本名を書きそうになっているルフィをどついてから、
フランキーとは闘技場にルフィを見送った。

ルフィ改め”ルーシー”はおそらく闘技場で大暴れすることだろう。
それだけは確信できることだった。

は拳を握り、フランキーに向き直る。

「フランキー、ルフィの試合は見れないかもしれないけど、
 一試合、見ていくべきよ」

の言葉に、フランキーはサングラスの下意外そうに瞬く。

「そりゃあ、構わねェが」
「・・・コロシアムが治外法権だと言うのも気にかかるわ」

は考えるそぶりを見せたかと思うとしゃがみこみ、
そばにいた兵隊へと視線を合わせた。

「兵隊さん、どうやらあなたはコロシアムに詳しい方だとお見受けするわ。
 ・・・案内をお願いできますか?」

オモチャの兵隊はしばしの沈黙の後、頷いた。

「もちろんですとも。シニョリーナ」



フランキーとと兵隊の3人は空いている席へと腰を下ろした。
観客席は満員。オモチャも人間も固唾を飲んで闘技場を見つめている。

Aブロックの試合は開始直後から血なまぐさい展開になった。
は眉を顰める。

「やはりあの剣も・・・! 使われているのはみんな真剣だわ・・・」

の感想に、オモチャの兵隊が静かに答えた。

「ドフラミンゴが王になってからは、刃を潰した剣での模擬剣闘は許されなくなった」
「!」

は横に座るオモチャの兵隊に目を向ける。
オモチャの兵隊は淡々と話を続けた。

「今日は賞品が賞品だけに志願者が多い。
 故にバトルロイヤルの体をとったショーになっているが、
 大抵は罪人や奴隷を相手にした公開処刑が披露される。
 無論、途中棄権は許されない」

兵隊の無機質な声色に、は何を思い出したのか、
その表情を歪める。

「・・・”国民に奴隷の流血と負傷を見慣れさせると言うことは”」

?」

フランキーが俯くを伺うが、はそれに構う余裕もなさそうだった。

「”差別意識を助長し、人を一層非人間的にさせるが、
 苦痛や死に対して抵抗を失くす訓練として、これ以上効果的なものはない”」

は奥歯を噛んだ。
 
「誰も疑問に思わないの?
 観客席に座っていても、見ているものはお芝居なんかじゃない。
 本当の・・・殺し合いなのに?」

「・・・ドフラミンゴは人間の本質を突くのが上手い。
 ここに座る誰も、自分が人殺しに手を貸しているだなんて思ってやしないだろう。
 皆から罪悪感を奪い、煽動して、
 今ではこの見世物は立派なドンキホーテファミリーの収入源だ」

は言葉を失い、黙り込む。
目の前で血を流し倒れていく人々、そして歓声と野次に、
はひどく荒んだ心持ちになっていった。

「かつては違った。剣闘は勇気を示し、罪を償う機会だった。
 ・・・多少荒っぽい競技ではあったがね」

オモチャの兵隊の表情は変わらない。
だが、その言葉からは紛れもない怒りと失望が伺えた。
それからほんの少し、懐かしんでいるような雰囲気も。

そうこうしている間に、Aブロックの勝者が早々に決まってしまった。
血まみれで地に伏した男たちの中で、
覆面を被った大柄な男だけが闘技場の真ん中に立っている。

何を思ったか覆面の男が覆面を脱ぎ捨てると、瞬間、観客席は一様に驚きの声をあげた。
もちろん、とフランキーもその例外ではない。

「”黒ひげ海賊団”ジーザス・バージェス!?」
「なんでそんなのが出場してんだ?!」

『波乱の幕開け! 意外な出場者! Aブロックバトルロイヤル勝者は!
 泣く子も黙る”四皇”黒ひげ海賊団一番船船長ジーザス・バージェス!!!』

煽り立てる実況の紹介も相まってか、観客たちの驚嘆はすぐに賞賛へと変わる。
コロシアムでは、悪党も勇者も関係なく、勝ち残った者へ平等に喝采が送られるのだ。

「こんな大会ルフィがあっさり優勝かと踏んでたが、
 案外苦戦もあるかもな・・・」
「・・・」

は険しい顔つきのまま闘技場を睨んでいたが、
やがて首を軽く振るとフランキーへと目を向けた。

「そろそろ行きましょう」
「ああ、”仕事”の時間だ。工場破壊は”元”解体屋のおれにはうってつけだろうからな!」
「やや!?」

オモチャの兵隊がフランキーの言葉にハッと顔をあげた。

「ちょっと待ちたまえ! 私も行くぞ!」

その言葉に、は眉を下げる。

「ごめんなさい、兵隊さん、私たちちょっと急ぐのよ」
「そうだ。”工場”の場所を知らねェ奴に用はねェんだ!」
「待てと言っているだろうに!」

フランキーの袖を引いて、オモチャの兵隊は小さく囁いた。

「スマイル工場の事なら私が知っている!
 場所を変えよう。ここではファミリーに盾突くような発言はタブーだ!」



観客席への通路に出たところで、とフランキーはオモチャの兵隊から話を聞くことにした。
すると、驚くべきことに、オモチャの兵隊の目的も”スマイル工場”の崩壊なのだと言う。

「お前も工場の崩壊を企んでんのか?!」
「いかにも・・・! 仲間たちとともに着々と準備を進めてきた!!」
「なんて偶然・・・、協力した方が効率的だわ!」
「もちろん、歓迎しよう」

思わぬ協力者の出現に、は破顔した。
フランキーも揚々とオモチャの兵隊に尋ねる。
 
「場所を教えろ!! おれが即破壊してやる!!」
「それはダメだ!!」

その剣幕に、とフランキーは瞬いた。
オモチャの兵隊は首を横に振った。

「我々はその工場で働く者たちを救いたいのだ!!」

オモチャの兵隊の言葉には悲痛なまでの決意が伺える。

「我らの作戦はこの国の崩壊へも繋がる一大事業!!
 君たちにドフラミンゴに盾突く度胸と覚悟があるのなら、
 この悲劇の国、ドレスローザの”全て”を教えてやる!!!」

は目を眇めた。

ドフラミンゴがドレスローザを乗っ取った経緯はロシナンテからすでに聞いているものの、
当事者たちから聞いた話はより一層惨たらしいものだろうと想像したのが理由の一つ。
そしてもう一つ。ある確信があった。

「・・・最初に一つ、聞いてもいいかしら」
「なんだ?」

オモチャの兵隊に視線を合わせたは、静かに尋ねる。

「あなたは、いえ、あなた達おもちゃは、
 ”悪魔の実の能力者によっておもちゃに姿を変えられた人間”なの?」

「!?」
「なんだって?!」

の言葉に息を飲んだのはオモチャの兵隊だけではない。
フランキーも驚いていた。

は沈痛な面持ちで言葉を続ける。

「ドレスローザを見て回るうちに気づいたわ。
 動くおもちゃは皆”人形”。言葉を話す者と話さない者がいる。
 多分、おもちゃの能力者が姿を変えさせる条件は、相手が”生き物であること”。
 言葉を話すのは元人間。話さないのは動物なんでしょうね」

の推理に、オモチャの兵隊は絶句していた。

「それに・・・おもちゃ達は皆”演技”をしていたわ」
「”演技”?」
「・・・ウフフ、どうしてかしらね。なんとなくわかるのよ。
 おもちゃはみんな楽しそうに振る舞っているけど、・・・どこか、ぎこちない」

は小さく笑い、首を傾げて見せた。

「兵隊さん。最初に私たちにおどけて見せたのは、
 人間には正体がバレるとマズいからでしょう?
 悪魔の実の能力の条件がどんなものかまではわからないけれど、
 ・・・あなた達はドンキホーテ・ファミリーに支配されているのではないの?」

オモチャの兵隊はを唖然と見上げる。

「シニョリーナ・・・君は、いや、あなたは、一体何者だ?!
 まるで全てを見通しているような・・・!」

それはほとんど肯定だった。
は自分の心が徐々にさざ波だっていくのを感じながらも、
微笑んで見せた。

「・・・私は。ドフラミンゴを玉座から降ろすために、この国に来たのです」