お姫様と王子様

ドフラミンゴはの冒険の軌跡を読み終え、静かにその日記を閉じた。
見上げれば糸の檻に遮られ、暗雲立ち込める空が広がっている。

「ドフィ、テーブルと椅子、塩水の入ったグラスの用意ができた」

物思いに耽るドフラミンゴにヴェルゴが声をかけた。

テーブルとグラスをドフラミンゴの腰掛けるソファの前に置き、
椅子を2脚、テーブルを挟んでドフラミンゴと対面させるように揃えて並べる。
ドフラミンゴの思い描いていたのと同じ位置だ。

ドフラミンゴはヴェルゴへと目を向け、ねぎらう言葉をかける。

「ご苦労だった・・・ヴェルゴ」
「なんだ?」

振り返ったヴェルゴに、ドフラミンゴはしばしの間を置いて、
唐突に話し始めた。

「お前とは、ファミリーの中でも一番古い付き合いになる」
「そうだな」
「なぜおれを王に立てようなどと思った?」

尋ねられた言葉に、ヴェルゴは沈黙した。
ドフラミンゴは付け加えるように続ける。

「お前と出会ったのは薄汚い路地裏だ。
 弟を連れて、ボロを纏い、泥水を啜りながらも
 自分を”天竜人”だと喚き立てる半狂乱のクソガキだった」

ヴェルゴはそれを聞いて、昔のことを思い出したのか、
自身の顎に手を当てる。

「そうだな・・・お前に出会った時、
 おれは天竜人が何なのかをよく知らなかった。見たことがなかった。
 そう言ったらドフィ、お前は『知らないなら仕方ない』って、怒りを納めただろ」

ドフラミンゴはヴェルゴの言葉に、
自分も当時の出来事を思い出したのか、納得したように頷いた。

「そういや、そんなやりとりをしたかもな」

「おれは、そういうことができる人間には、一目を置くことにしていた。
 あそこじゃ理不尽に殴ることも、怒り続けることもしない人間は珍しかったからな」

ヴェルゴの、どこか皮肉るような言葉にドフラミンゴは少しの間を置いて答える。
その声には愉快そうな色が見えた。懐かしむようでもあった。

「フッフッフッフッ! そうだったなァ!
 どうでもいいことで暴力沙汰になる場所だった。
 他に娯楽がねェんだからしょうがねェ」

ヴェルゴは腕を組んで、ドレスローザの風景を見やる。

「お前は状況を読むのが上手かった。
 あの頃のお前に足りなかったのは純粋な、力だけだった」

不思議なことに崩壊していくドレスローザに感傷を覚えている様子ではなかった。
むしろどこか清々しささえ伺える佇まいだ。

「お前が覇王色の覇気の片鱗を示して、トレーボルたちはお前を世界の王にしようと動き出したが、
 ドフィ、おれはそれよりも前から、お前は支配者に向いていると思っていた。
 もっと言うのなら・・・誰かを導くことに、お前は向いていたんだろう」

ヴェルゴは「案外教師になっても大成したかもな」と真面目な口調で続けるので、
ドフラミンゴは少々唖然としたのち、腹を抱えて笑って見せた。

「フッフッフッフッ! 冗談だろう!?」
「さァ」

ヴェルゴはうっすらと口角を上げる。
ドフラミンゴは喉を震わせるように笑いながら眼下に広がる光景を指差した。

「フフッ! 導いた果てがコレでもか?」
「どのみちいつかは訪れた光景だ。
 世界を全て壊した果てというのは、きっとこんなものだろう」

ヴェルゴの言う通りかもしれないとドフラミンゴは燃え盛るドレスローザの風景を見て、肘掛に頬杖をついた。
悲鳴と銃声がそこかしこで聞こえ、炎は建物を飲み込み続ける。
もしもドフラミンゴの望み通り世界を壊せたとしたら、最初に広がるのはこんな光景なのかもしれない。

ヴェルゴは淡々と続ける。

「お前の妹はドフィ、お前によく似ている。
 お前があらゆる敵をなぎ払うように彼女もまた、全てを打ち倒すまでは止まらない」

「だろうな」

ヴェルゴのへの評価にドフラミンゴは思うところがあったらしい。
続けられた言葉は恐ろしく皮肉めいたものだった。

「あいつがおれと似た者同士だって言うのなら、全く信用ならない相手だぜ。ヴェルゴ。
 全てを駒だと思ってやがる。人間を状況を作り出す要素としか思ってねェ。
 ・・・何事にも例外はあるだろうがな」

ドフラミンゴとにとっての”例外”。
それが何を指すのか、ヴェルゴは直感している。

それを察してかドフラミンゴは諧謔味を滲ませ、ヴェルゴに問いかけた。

「お前はその質を、おそらくファミリーの誰より知ってるってのに、
 わからねェ奴だな、ヴェルゴ」

「自分でもそう思うことがあるよ。ドフィ」

ヴェルゴは笑う。

「だがおれは、お前を担ぎ上げたことを後悔していない。
 それが必要ならお前の計画のために死ぬことすら厭わない。
 おそらく馬鹿げていると言われるのだろうが、
 今までの人生、振り返ってみても割と満足している」

ドフラミンゴと、テーブルを挟んで置いた椅子を眺めた後、
ヴェルゴはサングラスの下で目を細め、腕を組んだ。

「・・・お前は分かっていると思っていたが?」

「そうか」

ドフラミンゴは頷いた。
相槌というよりは一人呟くような調子だった。

「そうだったな」

王宮最上階では城下の喧騒に似つかわしくないほど、静かに時間が流れていく。



ローとが王宮へと急ぐ途中、地響きが鳴り出した。
二人は立ち止まり、周囲を見回す。

「何だ・・・!?」
「ロー先生、気をつけて! これは・・・!」

ローの走っていた地面が盛り上がり、
王の台地が建物を飲み込んで人の形を成していった。

巨人の体から瓦礫が崩れ落ちる。
皆固唾を飲み、その男を仰ぎ見た。

「ピーカ・・・!」

ローがその男の名前を呼んだ。
あまりに現実離れした強大な能力に、思わずこめかみには汗が滲む。
街と同化した巨人。イシイシの実の能力者、ピーカが口を開いた。

「さァ、我がファミリーに楯突く者達は、おれが相手に、」

ピーカにとってはもしかすると、宣戦布告のようなものだったのかもしれないが、
それを打ち消すように、静まり返ったドレスローザに笑い声が響き渡った。

「声!!! 高ェ〜〜〜〜〜っ!!!
 あっはっはっは!!! 似合わねェ〜〜〜っ!!!
 あっはっはっはっは!!!」

は頭が痛い、と額を押さえた。

「・・・ルフィ」

ローもこれにはため息を吐いている。

「お前の船長は厄介ごとを抱え込まなきゃ気のすまねェ質なのか?」

「残念ながら否定できないわ・・・。
 と、とりあえずルフィの無事と居場所は分かったからよしとしましょう!
 王宮からは離れてるけど、合流できれば攻略が楽になるのでは?」

は無理矢理にポジティブな解釈を展開した。
ルフィと達のいる場所はそれなりに距離があるが、
それでも声の届かない場所ではない。
なんとか合流できればいいのだが、とが首を捻ったその時、
頭上に影が落ちた。

「・・・え?」

ピーカが拳を振り下ろす。
それは街一つが空から落ちてくるかのようだった。

「”ROOM”! ”シャンブルズ”!!!」

ローがとっさにの腕を掴み、広範囲に”ROOM”を展開して、
その攻撃を凌いだ。

ローとの目の前に広がる景色は様変わりする。

突然ドンキホーテファミリーと思しき男たちに囲まれるような格好になり、
は瞬き、驚きの声を上げる。

「ロー先生、一体どこまで飛ばしたの?!」
「ついでだ。王宮1段目。ドフラミンゴのいる最上階まではあと3段・・・」

“ROOM”の展開した先は巨大なピーカの石像を挟み、王宮へと向かう1段目まで伸びていたのだ。
ドンキホーテファミリーの構成員達が突然現れたローとにたじろいでいる。

広範囲に”ROOM”を展開したツケか、浅く息を吐くローには奥歯を噛んだ。

「随分な無茶をするのね!」
「お互い様だろ・・・お前ら、ぶった切られたくなきゃ道を開けるんだな」

敵に向かい不敵に笑ったローに、ドンキホーテファミリーの構成員達が武器を構えた。
は深く息を吐き、意を決して口を開こうとしたので、
ローは抜いた鬼哭の切っ先をの前に払い、釘を刺した。

「ロー先生?」

「ドクターストップだ、。お前の歌は最後の最後にとっとけ。
 おれは命令されるのは嫌いだが、お前の頼みなら・・・露払いくらいはしてやるからよ」

「・・・! お願いするわ、ロー先生!」

は頷く。
ローが万全の状態で応急最上階に行くことは難しくなるが、
ここで力を温存する余裕がないことはわかっていた。

ローが立ちはだかる構成員達を薙ぎ払いながら進んでいると、
構成員の一人が声を上げた。

「幹部達が来たぞ!!!」

その声が響くや否や、ローの目の前に大柄な男とメイド服の女が降り立った。
どうやら空を飛んできたらしい。

その二人に見覚えがあったのか、ローは刀を構えながらも驚いた様子だ。

「・・・ バッファロー!? お前は、ベビー5か!?」

「お前、本当に若に楯突く気かァ、ロー!?
 勝ち目があるわけねェだすやん!」

バッファローがローを睥睨する。
ローは忠告めいた言葉に眉を上げた。

「愚問だな、・・・いくらお前達でも切って捨てるぞ」

バッファローが攻撃に移ろうと構えをとった、その時だ。
ベビー5がバッファローの前に立ち、咥えていたタバコを手に取って、
ローとその後ろにいたへと目を配らせる。

「ロー、それに・・・

突然名前を呼ばれ、はベビー5に視線を返した。
ローはとベビー5の間に入るよう、立ち位置を変える。

しかし、警戒するローに構わず、ベビー5は首を傾げて見せた。

「二人はいつからのお付き合いなの?」

「え?!」
「は・・・?」
「なっ!?」

困惑するとロー、そしてバッファローだったが、
ベビー5は気に止める様子もなく、
まるで久しぶりに会った親戚に世間話をするような雰囲気でローに問いかけ続ける。

「やっぱり、秘密の部屋での診察がきっかけなの?!
 水臭いじゃないの、教えてくれても良かったと思うわよ、私!
 ・・・正直あんたのことちょっと見直したわ。
 まァ、ちょっと目つきは悪いし、どう見たって”王子様”って柄じゃあないけど」

「・・・話がわからねェが、喧嘩売ってるのかお前は」

いち早く困惑から立ち直ったのはローだった。
揶揄うようなベビー5の感想に不服そうに目を眇めている。

「本当のことを言ってるだけでしょ。
 それにしても、あの時あんた性格最悪のクソガキだったのに。
 ・・・どんな手使ったわけ?」

「人聞きの悪ィことを言ってんじゃねェよ」

好奇心に満ちたベビー5の視線から逃げるようにローは帽子のつばを目深に被る。
は刀を下げたローを見て頭に疑問符を浮かべていた。

「え? え? あ、あの、ロー先生、彼女は、お知り合い・・・?」

戸惑うに気づいたのかハッとベビー5が頭を振った。

「あ! 安心してちょうだいお姫様! 私とローは全然何でもないの! ただの腐れ縁みたいな、」
「まァ、そんなところだな」

ローも素早く肯定するのでは勢いに押されて頷いた。

「まあ、そうなの、腐れ縁?」

どことなく安堵するようではあったが、
それ以上にベビー5から向けられる異様にキラキラとした眼差しに、
は当惑を隠せないでいる。

「・・・ところでお姫様ってなに?」

ベビー5がそれに答えようとした時、
唖然としていたバッファローが我に返り、ベビー5の腕を掴んだ。

「ベビー5何やってんだすやん!? 敵と親しくしてどうする!?」
「いいじゃないの、ちょっとくらい話したって! 会ってみたかったって言ったでしょ!?」
「はァ!? お前そんなことが理由で先鋒買って出たのかよ!?」

突然内輪揉めを始めたバッファローとベビー5に、は腕を組んで首をかしげる。

「ええと、」
「行くぞ、

ローは付き合ってられないと言わんばかりに先に進む。
は納得したように手を叩いてローに従った。

「あ、いいのね。そうよね! ええ!」

先を急ぐの背に、ベビー5が問いかけた。

! あなたのところに、白馬の王子さまは来たの!?」

は瞬き、それから笑顔で振り返る。
透明な髪がなびいて、ガラス細工のように繊細な文様を描いた。

ベビー5は息を飲む。血まみれの幽霊がその時は本当に本物の”お姫様”に見えたのだ。

「そんなのいらないわ! 私が迎えに行けばいいもの!」

頭を殴られたような衝撃だった。

ベビー5はその場にただ立ち尽くしていた。
バッファローが去って行くローとを追いかけようとベビー5に声をかけるが、
それでもベビー5は動けなかった。

苛立ったバッファローがベビー5を怒鳴りつける。

「お前?! それ以上は裏切りだすやんベビー5!!! もう庇いきれねぇぞ?!」

ベビー5はしばらく黙り込んでいたが、呟くようにバッファローに問いかけた。

「・・・バッファロー、私のこと、必要?」

バッファローは瞬く。
いつもと同じ質問だった。だが、その雰囲気は常のものではない。
しかし急を要する事態だ。ローとをここで止めるのがバッファローらに課せられた任務。
ベビー5を任務に戻らせるために、バッファローは大きく頷いた。

「ああ、勿論だすやん! だから奴らを追うぞ!」

だが、それに返ってきた答えはやはり、いつもと違うものだったのだ。

「”お姫様”に”王子様”って、必要じゃなかったのね」

どこか呆然としているような、それでいて何かを悟ったような表情で、
ベビー5はバッファローを見上げる。

「ローとコラさんを殺すことは、本当に、必要なことなの? バッファロー」

バッファローは立ち止まった。いつものように適当に頷けばいい話だった。
しかしまた、バッファローも常とは異なる答えを返したのだ。

「若を裏切るくらいなら、死んだ方がマシだすやん」

ベビー5は俯いた。

「そう・・・、そうだったわね」

彼らの元にルフィら率いるコロシアムの戦士たちが訪れるまでそう時間はかからず、
感傷に浸る間もなく、彼らは血と硝煙の香る戦場を駆け回ることになった。



コロシアムの戦士たちは今やドフラミンゴを倒そうと我先に王宮最上階へと向かっている。
その中には当然、ルフィとロシナンテの姿があった。

ロシナンテは腕に抱えたシュガーになんとなしに問いかける。

は王宮で合流しようって言ってたが・・・どこで待ち合わせになるんだろうな?」
「私に聞かないでよ・・・ムカつく。死んで」
「アッハッハ、そいつやけにドジ男に厳しいなァ」

仏頂面のシュガーはロシナンテに冷たい。

ルフィらは途中で合流した闘牛、ウーシーの背に乗って
ピーカの体の上を進み、最上階を目指す。
つい先ほどまでゾロがいたのだが、ピーカの本体を倒すべくウーシーの背中を降りた。

その代わりとも言うべきか、ウーシー一行の後ろには、
ルフィがコロシアムで知り合った選手達が怒号をあげながら付いて来ている。

「でもそいつ連れてたら声の高いやつ、全然殴ってこなくなったな」
「それだけ重要な能力者なんだろう。いやー、パンクハザードで海楼石を準備してて良かった」

らと共に周到に準備した甲斐があったと胸をなでおろすロシナンテに、
シュガーは悔しそうに眉を顰め、ロシナンテを下から睨みつけた。

「・・・こんな錠が無かったら、あんたを真っ先におもちゃにしてやる。
 その次はあの幽霊よ」
「ん?」

眉を上げたロシナンテに、シュガーは苦々しく言い放った。

「あんた達がいるから若様が苦しむ」

ロシナンテは一瞬目を見張ったようだったが、何に思い至ったのか目を眇める。
それから真顔で、ポツポツと語り始めた。

「・・・ホビホビの実、確かに強力な悪魔の実だ。
 だがその能力そのものが強大な力を持てば持つほど、リスクが上がる。
 特に一部の超人系の能力者はそういう傾向にあるだろう、・・・これは経験則だがな」

一番身近な例はやはりローの口にしたオペオペの実だろう。
先代の能力者が寿命をリスクに不老不死という恐るべき効果を与えることが知られている。

他にも、怪我を治すことができるチユチユの実も、
寿命と引き換えに”物”を復元させることができるという。

シュガーはロシナンテが言わんとするところを悟り、奥歯を噛んだ。
ロシナンテは静かに問いただす。

「お前のリスクは何だ? 何を犠牲にした? それに見合うだけの待遇だったか?」

シュガーはホビホビの実を口にした時のことを思い出していた。
姉であるモネと共に、シュガーは悪魔の実を口にした。
リスクもメリットも承知の上だった。

シュガーはそれを後悔したことなど一度もない。
たとえ大人になれなくても良かった。

だから、ロシナンテに向かって堂々と頷いてみせたのだ。

「当然よ」

だが、ロシナンテはその答えさえ予想の範疇だと言わんばかりに嘆息する。

「まあ、そうだろうな。ドフィはそういう奴だ。
 ・・・だが、そんなもん食わなくたっていい方法はいくらでもあったぞ、
 お前が気づいていないか、あるいは見ないふりをしているだけでな」

あまりに率直な糾弾に、シュガーは表情を強張らせた。
ロシナンテは構わずに言葉を続ける。

「救われたから恩を返す。結構なことだ。
 だがそれは真っ当な人間が恩人の場合に限られるだろうよ」

それはシュガーにとっての逆鱗だった。

「・・・あんたに何がわかるっていうの!」

思わずロシナンテを怒鳴りつけたシュガーは、
自身を見下ろすロシナンテの目に恐ろしく冷たいものを見つけて息を飲む。

それは皮肉にも、シュガーが誰より敬愛するドフラミンゴとよく似た眼差しだった。
軽蔑と潔癖の入り混じった声で、ロシナンテは呟く。

「わかるわけねェだろ。
 罪のねェ人間を奴隷にして、のうのうと生きてるような奴の言い分を、おれが」

シュガーは黙り込んだ。

その様子を見てあまりに威圧しすぎたと反省したのか、
ロシナンテは軽く頭を掻いて、元のどこかとぼけた調子に戻る。

「お前は止めるべきだったよ。誰かが止めるべきだった。
 こんな大ごとになる前に・・・はァ」

深くため息をついたロシナンテのにルフィが声をかけた。

「なっちまったもんはしょうがねェよ、ドジ男」
「だよなァ・・・」

ロシナンテの背をバシバシと叩いていたルフィだが、
前方に見覚えのある人物を見つけて手を大きく振った。

「ん?! あれか?! おーい!!!」
「ロー!? ?! 無事か?!」

ルフィの声に顔を上げたロシナンテも敵を薙ぎ払うローに気づいて声をあげる。

「ルフィ! ロシー兄さん!・・・それに、見覚えのない子がいるわね?」
「・・・」

振り向いて溌剌とした笑顔を見せると、
どこか気落ちしたようにも見えるローがウーシー率いる軍団と合流した。

はシュガーがホビホビの実の能力者と知って納得したようである。
しかしそれとは打って変わって、
ロシナンテはのワンピースの血痕に驚いた様子だ。

「ギャーーーー!!! 全然無事じゃねェぞ!?
 お前その血はどうした?! 大丈夫か!? 生きてるか?!」

それを聞いて、は愉快そうに笑う。

「ウフフ、私ならもう死んでるけど。
 ちょっとさっき吐血しただけで、ロー先生から処置を受けたから大丈夫よ!」 

朗らかに言い放ったにロシナンテはさらにギョッとしたのか声を荒げた。

「ちょっとで吐血するわけあるかァ!?」
「いやァ、案外無茶をするよなァ、お前」
「ウフフフフ!」

ルフィですら呆れた調子でを見ているが、はいつものように誤魔化すばかりだ。
ウーシーの頭を撫でて、ルフィらが引き連れてきたコロシアムの軍団がドンキホーテの構成員たちを
返り討ちにしている様を眺める。

「にしても・・・随分大勢連れて来たのね、それも、だいぶ個性的な・・・」
「コロシアム変なのばっかりいたんだ」

しみじみとルフィが頷くのもつかの間、ローの方でもトラブルが起きていた。

「トラファル、ガー・ローォ!!!」
「!?」

突然白馬に乗った貴公子然とした男に斬りかかられ、
ローは鬼哭で剣を受ける。

「僕の人気を返せ”最悪の世代”ィー!!!」
「なんなんだ急に?! 誰だお前は!?」

ドンキホーテ・ファミリーではなさそうだが、と訝しむように眉を顰めるローに、
男はいたくショックを受けた様子でわなわなと震えている。

「ぼ、僕を知らない!? 失敬にもほどがあるぞ貴様!!!
 海賊貴公子”白馬のキャベンディッシュ”!!
 本当に知らないのか!? 新聞にも連日登場!
 手配書と言う名のブロマイドが刷られるたび女性たちに盗まれていたこの僕を!!!」

胸に手を当てて堂々と自己紹介するキャベンディッシュに、
ローはこめかみを押さえた。

「・・・言われてみりゃ、そんなのが居たような・・・そうでないような」
「よし、忘れられないようにしてやろう。首を出せ!」

ローの反応が不服だったらしいキャベンディッシュが剣を振り上げる。

「おいキャベツ何すんだ! そいつはおれの仲間になったんだ! あとドジ男も」

キャベンディッシュにルフィが声を荒げると、聞き捨てならないとローとロシナンテが声を上げた。

「なってねェよ!!! お前どさくさに紛れて何言ってんだ?!」
「おれはついでか!?」

「ロシー兄さん、そういう問題でもないと思うわよ、私が言うのもどうかと思うけど」
「・・・何こいつら、緊張感ってもんがないわけ? 不愉快。死んで」

は呆れたようにため息をついているし、
シュガーは辛辣な感想をポツリと呟く。

ルフィがキャベンディッシュを指差し、「さっきと言ってることが違う」と抗議し始めた。

「だいたいお前、もう麦わらの一味は狙わないって言ってたじゃねェか!?」
「ああ、そうとも! 僕は”ゴッド・ウソップ”に人生を救われたんだからな」

は聞き覚えのある名前と、聞きなれない二つ名に首を傾げ、
事情を知ってそうなロシナンテに声をかけた。

「・・・”ゴッド”って?」
「色々あったんだ」
「・・・」

シュガーが不機嫌そうに頰を膨らませてそっぽを向いた。
それを見ては大体のことを察したらしい。「なるほど、」と頷いている。

「いつまでもこうしちゃいられねェ・・・先に行くぞ」
「待て! トラファルガー!」
「・・・何だ?」

先を急ごうとしたローを止めたキャベンディッシュが真面目な顔を作り、皆に告げた。

「作戦がある。乗るか乗らないかは君たち次第だ」