2問目、あるいは父の育んだ狂気の話
その問いにドフラミンゴは目を眇めた。
ドフラミンゴは31年前、確かに父親を手にかけたが、
それは自分自身で決めて、行ったことだ。
口を開きかけて、噤む。 の口にした言葉が、どこか引っかかっていた。
『あなたは”事実”に目を向けていたけれど、それは”真実”ではないということよ』
ドフラミンゴが父親を殺したのは”事実”だ。
では、真実とは何か。
思案するドフラミンゴに、が口を開いた。
「第2問、一つ目のヒントを。
・・・あなたに引鉄を引かせたのは、一人ではない」
ドフラミンゴは訝しむように眉を顰めた。
「・・・どういう、ことだ?」
ロシナンテもの言葉に胸騒ぎを感じたのか、に顔を向ける。
は目を閉じる。
瞼を閉じれば、かつて聞いた言葉が一言一句違わずに、再生される。
「・・・母が私に何を望み、父が私の何を育んだかの話をしましょう。
全てはここから始まるのだから」
※
5歳の頃のはあばら屋の中に飛び込んだ。
肩で息をしながらも笑顔で、
手に持ったものを掲げながら寝台に横になる母親の元へと向かう。
『お母様! お花を摘んできたのよ、冠を作ったの、ご覧になって!』
病床のドルネシアは駆け寄ってきたを微笑んで迎えた。
は懸命にドルネシアを楽しませようと、明るい話を聞かせてみせる。
ロシナンテとドフラミンゴが食べ物を探しに行っていること。
ゴミ捨て場の中にあるガラスやビンのラベルには、北の海ではない、
遠くの海から来たものが沢山あったこと。
ドルネシアはの話を聞きながら、野花の冠を被ってみせた。
かつてマリージョアで着けていたものに比べればみすぼらしい花冠だったが、
とても嬉しそうだ。
『ありがとう。結婚式にこんな花飾りのついた冠をしたのを思い出したわ、
写真があれば見せてあげられたのに・・・』
ドルネシアはの頰を撫でた。
その目は穏やかで、かつての幸福を思い出してか、
病床にあっても頰には赤味がさしたように思えた。
『フフ、私もね、いろんな人に奥さんになって欲しいって言われたけれど
お父様を選んで良かったと思うのよ。
可愛い子供達に出会うことができたわ。
ドフィもロシーもいい子たちだし、もちろん、あなたも!』
はパチパチと目を瞬く。
は自分と結婚したいと言って来た天竜人を思い返すと
何とも言えない嫌悪感を覚えるので、なるべく違うことを考えて気を紛らわせていた。
自分と同じように母も嫌な思いをしていたのではないかと、は気遣うように眉を下げる。
『お母様も? 嫌じゃなかったの?』
ドルネシアは困ったように眉をハの字にして見せた。
『正直なことを言えば、・・・嫌だったわ。自分で見つけた人が良いと思ったし、
身の回りにいる、他の人たちには馴染めなかったから、
そんな人たちの奥さんになるのは嫌だなぁ、って思ってた、・・・優しい人が良かったの』
目を閉じたドルネシアは何を思い出したのか小さく笑った。
『あなたのお父様はちょっと変わった人でね、
私に宝石でもなく、お金でもなく、山ほどの手紙をくれたのよ』
貴族が求婚の際に送るものといえば、釣書に加えて結納金や財産の目録がほとんどだったが、
ホーミングがドルネシアに贈ったものといえば自分で選んだ花と手紙だ。
『お手紙?』
『そうよ。お父様自身を知って欲しいと思ったのですって、フフフッ』
機嫌が良さそうなドルネシアにも微笑む。
『何が書いてあったの?』
『フフフ、内緒よ。でも素晴らしい言葉だった。全部覚えているわ。
他の何を忘れても、覚えていたいと思ったから』
ドルネシアは眦を緩めた。
『ねぇ、。きっとあなたも見つけられると思うの。
あなたを大事にしてくれる、
あなたを本当に大切にしてくれる人がこの世界のどこかにいるはずよ』
はそうだといいけど、と頷いて、しかしやがて俯いた。
今は周囲の人間に大事にされるどころか、罵声と暴力を、うんざりするほど浴びている。
『・・・でも、みんな私たちのことが、嫌いだわ』
『・・・そうね、だけど、そんな人たちばかりじゃない』
ドルネシアはとうとう病床から半身を起こし、
の頰に宥めるようなキスをして、頭を優しく撫でた。
はくすぐったそうに目を細め、穏やかな言葉に聞き入っていた。
『私がお父様に出会えたように。私があなたと、ドフィとロシーを授かったように。
私にそんな奇跡が起きたのだから、きっとあなたにも』
ドルネシアは目を伏せる。それはどこか、哀れんでいるようにも見えた。
『、あなたがまた本当に笑える日が、いつかきっと、来るのよ』
※
『あのね、お父様、それでね』
ドルネシアが亡くなって、も同じ病に伏していたが、
は健康であった頃と同じように明るく振舞っていた。
ドフラミンゴとロシナンテが寝静まった頃、まだ起きていた父親に、
昼寝していた時に見た夢の話を聞かせる。
大いに愉快な夢だった。
夢の中では自由に空を飛び回ることができたのだ。
三日月の縁に腰掛けることも、雲の上を裸足で駆けまわることもできた。
地上に手を振れば、一家がに微笑みかけ、手を振って見せる。
楽しそうに笑うの頭を、ホーミングは優しく撫でる。
しかしその目には、憐憫の色が見えた。
『、無理して笑うのはやめなさい』
は息を飲み、ホーミングの悲しげに細められた目を見つめる。
『私はが、心から笑ってた時の顔のほうが好きだなあ、
ほら、昔ドフィとロシーと3人で、楽器を奏でてくれたろう。キラキラ星だ。
私の誕生日だったね。あの時はみんな楽しそうだった』
手のひらが、自分にかけられていたボロ切れをぎゅっと掴んだ。
『あの頃はそんな顔、しなかったよ。悲しいなら泣きなさい。
・・・無理をすることはない』
は俯く。
『・・・いつから、気づいてたの?』
『フフ、私はお前のお父様だからね』
ホーミングはどこか得意そうな調子でおどけて見せた。
はそれに小さく微笑むと、
いつも自分のことを気にかけてくれる兄たちのことが気になって、
ホーミングに問いかける。
『ドフィと、ロシーは、』
『安心しなさい。気づいていたのは私とドルネシアだけだとも』
ホーミングの目に涙が溜まる。声が小さく震えていた。
『いっつも、には無理をさせてばかりだ。
ダメな父様で、ごめん、』
『そんなことない!』
は弾かれたように顔を上げ、
ホーミングのやつれ細った手のひらを手繰り寄せ、強く握った。
『わたしを、・・・私を守るためだったんでしょ!
無理なんてしてない!
私は貴族なんかじゃなくたっていい! 私は家族がいたら、それで良かったもの!』
『・・・それでもね、お前たちを不幸にしたのは私だ。
私のせいなんだ。・・・ドルネシアを、幸せにすると誓ったのに、
私は・・・』
『お母様はお父様を愛してたわ!』
はきっぱりと言い切った。
ホーミングの手のひらにすがるように、は額を寄せる。
『ずっと、ずっとよ・・・! 最後まで、お母様は・・・、』
ドルネシアは最後の最後まで家族を案じ、ホーミングに笑いかけて死んだ。
「みんなを愛している」と微笑んで、美しいままこの世を去った。
ホーミングの目尻から一筋涙が伝う。
『そうだったな、、私ばかりが幸せ者だ。
どう償えば、良かったんだろうね、』
しばしの沈黙があばら屋に満ちた。
朽ちかけたロウソクの火が揺れる。
が次に聞いたのは、疲労の滲んだ静かな呟きだった。
『・・・私の首を差し出したなら、帰れるだろうか』
ホーミングはではない、遠くを見つめている。
その暗澹とした眼差しには背筋を震わせた。
『お父様・・・?』
恐る恐る問いかけたの手のひらを小さく握り返し、
ホーミングは淡々と言った。
『この身に流れるドンキホーテの血が、神に等しく尊いと言うのなら、
この首一つにお前たち3人を養えるだけの、価値はあるだろうか。』
独り言のように聞こえたが、そうではなかった。
はホーミングの眼差しに恐怖する。
ホーミングは断罪を望んでいた。
自己嫌悪の果て、にも同じものが胸中を過ぎることもあったが、
ホーミングのそれは、のものより遥かに固い決意のようにも見える。
は思わず首を横に振った。
もう家族を失うのは嫌だった。
どんな袋小路に追い詰められても、そんな手段は認めたくなかった。
『・・・嫌! 絶対に嫌よ!』
『、』
の目から涙がとめどなく溢れる。
『別の方法を考えて! きっと!きっと方法はあるはずよ!』
泣きじゃくるをなだめるように、ホーミングの手がの背中をさすった。
はホーミングに縋り付く。
『わ、私に、引鉄を、引かせないで・・・!』
ホーミングは小さく答える。か細い、弱り切った声で。
『・・・すまない、』
何に対する謝罪だったのか。
が知る機会は訪れなかった。
それから三日も経たないうちに、ホーミングが死んだからだ。
※
『、父上が死んだ、ドフィに、殺された』
『・・・え?』
あばら屋の入り口、肩で息をしていたロシナンテが告げた言葉が、
何を指しているのか、には全然わからなかった。
だが、じわじわと事態を飲み込むことが、できてしまった。
夢であればとも思ったが、冷えていく意識がそれを否定する。
ロシナンテの泣きすぎて嗄れかけた声が、つっかえつっかえ、残酷な情景を描き出す。
『ピストルで、撃ったんだ、そ、それから、首を、』
の脳裏に、一つの言葉が浮かんだ。
疲れ果てた眼差しと自己嫌悪と諦観の滲んだ顔が浮かんだ。
”この首一つに、お前たち3人を養えるだけの、価値はあるだろうか”
ああ、ああ。ああ!
『お父様・・・!』
の頰を大粒の涙が伝う。
それを見て、ロシナンテも泣き出した。
だが二人は全く違う理由で泣いていた。
の胸中を支配したのは、怒りだったのだ。
ドフィに撃たれることを受け入れたのですね、貴方は。
その銃を奪い、自分で自分の始末をつけることだってできたのではありませんか?
なぜ?
なぜドフィにやらせたの?!
嗚咽が止められなかった。 自問自答が止まらなかった。
そして、は一つの結論を導き出したのだ。
・・・ああ、違う。
・・・先延ばしにした、私の罪だ。
は口を押さえ、叫ぶのを堪える。
その結論は今まで受けたどんな暴力より、どんな苦痛よりも、を打ちのめした。
私が撃てば良かった。私が発端の地獄なら、私が始末をつければ良かった。
そうすればドフィがお父様を撃つことなんてなかった。・・・私が殺させた。
私が、卑怯だったせいで!
『逃げよう、! ”あいつ”と一緒にいちゃダメだ!』
崩れ落ちて泣き伏せているの手を、ロシナンテが引いた。
はその手を振り払う。
『私はドフィ兄さまを置いてけない』
置いて行っていいわけがなかった。
誰がドフラミンゴを罵っても、にその権利はないと思った。
父殺しの罪は、家族を殺した罪は、本来が被るべきだったのだから。
ロシナンテが驚愕し、を説得しようとドフラミンゴを糾弾した。
『なんで?! 兄上は、父上を』
慟哭するロシナンテに、は力なく笑みを浮かべた。
『私まで居なくなったら、ドフィ兄さまは、きっと、おかしくなる』
『そんな・・・、今はおかしくないの!? 父上を殺したんだよ!?』
は首を横に振り、俯いた。
『ロシー兄さま、私、どうしても、ドフィ兄さまのそばに居ないと、
そうでなければ、』
そうでなければ、割に合わない。全てを押し付けたままにはできない。
は顔を上げた。
『私が上手く言うから、ロシー兄さま。逃げて。
お願い、・・・できれば、ドフィ兄さまを、助けてあげて』
私にドフィは救えない。救うどころか、手を汚させた私には。
何度も躊躇うそぶりを見せながらも、最後には走り去ったロシナンテを見送って、
は止まらない涙を拭う。
あばら屋の角、散らばったガラスの破片に映った、自分の顔を眺めた。
ひどい顔だ。疲れ果て、消耗しきった、絶望した顔だった。
これではダメだ。
『笑え。煙に巻け。・・・涙など見せるな』
泣いていては他人も自分も騙せない。
まず最初に涙が止まった。
『怒りを隠し、心から愉しむフリをしろ』
ドフィに銃を与えた人間が居る。
だが、彼らのせいにしてはいけない。彼らはきっかけに過ぎない。
原因は、ここに居る、
私は自由を求めてはいけない。
ドフィに不安を抱かせてはいけない。
どうすればいいのか考えろ。
・・・母のような、優しい笑みを浮かべていれば、ドフィは心穏やかに過ごせるだろうか。
それから口角を上げる。眦を緩める。
思い出すのは母親のそれだ。
幸せそうで、明るくて、綺麗で、パッと周りが華やぐような。
ガラスに写ったのは完璧な微笑みだった。
それを見て思わず口から”楽しげな”笑い声が零れ落ちた。
何が面白くて楽しいのかも、もうわからない癖に。
『ウフフフフッ!・・・やれば、できるものなのね、
フフッ、ウフフフフッ・・・!』
これなら父も母も騙せただろう、
そう確信したは、 それから18年間、
ほとんど本心を明かすことなく毎日を過ごした。
白い帽子を被った、正直な医師の少年と出会うまでは。
※
かつての”真実”を語り、は目を開ける。
ドフラミンゴとロシナンテは語られた”真実”にその顔を青ざめさせていた。
特にロシナンテは信じられないとばかりに首を横に振る。
「そんな・・・、だったら親父は最初から死ぬ気だったっていうのかよ!?
だから銃弾を受け入れたって?・・・そんなこと、」
ロシナンテは前髪を掴む。
父の最期を思い出すと、の言葉を否定しきれなかった。
『私が父親で、ごめんな』
かつてホーミングは一筋の涙を零しながらも、
笑ってドフラミンゴの銃弾を受け入れたのだから。
は淡々と頷く。
「火薬を込め、銃弾を装填し、引鉄を引く。
それだけでいいのなら、私にもできたはず」
「・・・お前はまだ6歳だった、」
ドフラミンゴが思わず呟いた言葉に、は口角を上げる。
「そうよ? でもあなたは10歳だった。大して変わりはしないわ。
それにね、・・・ウフフフフッ!」
は肩を震わせて笑った。
「私は楽しくなくても笑えるし、悲しくなくても涙は出せる」
指を組むと手首の錠がジャラジャラと音を立てる。
それすらも笑い声に聞こえた。
は全てを嘲笑うようだった。
ただ、口元は微笑んでいても、目だけは冷たく赤い光を帯びている。
「母に似たのは顔貌ばかり、私の心は凍ってる・・・!」
絞り出すように紡がれた言葉には激しい自己嫌悪と侮蔑が滲む。
「ウフフ! 最愛の父が兄に殺されたと知った時ですら、最初に考えたことは
『お父様が自分で始末をつければ
ドフィ兄さんが手を汚さなくて済んだのに』だった・・・! ウフフフフッ!」
絶句する兄たちに構わず、はなおも言葉を続けた。
身を切るような言葉ばかりが、口をついて出てくるのだ。
「合理主義もここまで来ると狂気だわ。
なにが『家族がそばにいればそれでいい』?
その家族の死を真っ当に悲しむことも怒ることもできなかった、
私は人間なの? バケモノなの?」
の問いかけに誰も答えない。答えられない。
誰にも構わずにはドフラミンゴを見据えた。
氷よりも冷たい眼差しで、酷薄な笑みを浮かべる。
「父の死についてあなたに嘘を吹き込まれた時、
私は父の死を初めて知ったような顔をして、悲しむフリさえしてみせた。
図々しくも涙を流した。
あなたに銃を渡したんだろう、最高幹部たちにはこう言って頭を下げたわ」
は声色を変えた。
冷たい怒りに満ちた声が、いかにも感謝と感動に打ち震えているような声に。
「『あなたたちが、ドフィを助けてくれたの? ありがとう・・・!』」
しかしそれも、一瞬のことだった。
「・・・とんだ茶番よ。下らない」
吐き捨てられた言葉に、ドフラミンゴの後ろに侍る、トレーボルが顔を顰める。
「それを平然と演じられるのよ、私は。
これは血筋のせいなの?・・・私の頭がおかしいの?!」
の片目から涙が伝う。
しかしそれを煩わしそうに拭うと、は深くため息を吐いた。
「”貴族”としては、私の狂気は重宝されるでしょう、
権力闘争において人間的な感情は邪魔なだけだから」
そして、こう結論づける。
「だから私でも父を殺せた。・・・私がやるべきだった」
静まり返った王宮最上階で、次に口を開いたのはドフラミンゴだった。
「・・・あのバカはどこまで勝手だ」
サングラスの下に隠れた瞳は、その時確かにを見ていた。
「よりによって、お前に打ち明けたのか。・・・お前だけは知らなくて良いことだった。
それに、あの頃お前が引いて良い引鉄は一つもなかった——」
連なる言葉に、は首を横に振る。
「ドフィ、・・・兄さん、」
ドフラミンゴは口を噤む。
「これは私の罪だった。誰がなんと言おうと、それだけは変わらない。
なのに・・・私はあなたの”父殺し”の罪の半分を背負わなくてはならなかったのに、
私は・・・それをしなかった。あなたが悪人になるのを黙認して、噓にも目を瞑って、
ただ、側にいるだけなんて、卑怯だった、ずっと、」
は懺悔するように、指を組んだ。
「ごめんなさい、兄さん、ごめん・・・、」
ロシナンテが痛ましいものを見るようにを見ている。
ドフラミンゴの口には笑みはなく、やがては静かに顔を上げた。
「——ゲームを、続けましょう」
「・・・良いだろう」
ドフラミンゴは、に尋ねる。
「、質問だ。
2問目の答えは、おれに引鉄を引かせた連中の、”総称”か?」
は力なく笑みを浮かべた。
「第2問、二つ目のヒントの答えは”イエス”よ。もう、お分かりでしょう?」
ドフラミンゴはそれを聞いて、淡々と答える。
「死にたがった父親、・・・引鉄を引くべきだったお前、
おれに銃を与えた最高幹部の4人。それがおれに引鉄を引かせた連中か。
2問目の答えは――『家族』」
は固く目を瞑り、頷いた。
「・・・おめでとう、正解です。
シュガーとシーザーの身柄を引き渡しましょう。
まず先に、シュガーを、」
「おれはおれの意思で引鉄を引いた」
の言葉を遮り、ドフラミンゴは告げる。
「後悔は微塵もしていない」
は一度眉を顰めたが、やがて目を伏せ、苦く笑う。
それからシュガーへと顔を向け、モネを指差した。
「・・・あなたを引き渡すわ。
先にお姉さんのところへ向かいなさい。錠の鍵はドフィに渡すから」
シュガーはモネへと駆け寄る。
モネはシュガーを羽で包み込むように抱きしめた。
それを見て、ロシナンテがドフラミンゴに鍵を投げ渡す。
ドフラミンゴはヴェルゴに鍵を渡して、シュガーの錠を外させた。
「2問目に正解したから、こちらの陣営の誰かに錠をかけるんだったわね、誰が良いの?」
の問いに、ドフラミンゴは腕を組む。
「・・・お前だ、トラファルガー・ロー」
「だと思ったよ、・・・この中で能力者じゃねェのはお前だけだな、ヴェルゴ」
ローはヴェルゴを挑発するように顎でしゃくる。
ヴェルゴは眉を顰め、テーブルの上にある海楼石の錠を手に取ると、
ローの手首に嵌め、海水の入ったグラスでローを殴った。
額から血を流すローに、は顔色を変える。
「ヴェルゴ!」
「、別にいい、・・・やらせとけ」
滴る血と海水を鬱陶しそうに払いながら、ローはヴェルゴに不敵な笑みを浮かべて見せた。
ヴェルゴはこめかみに青筋を浮かべながらも、それ以上は何をするでもなく、引き下がる。
ドフラミンゴはに目を向けた。
もうに後はない。
それどころか、1問目、2問目もはドフラミンゴを”意図的に”正解させたようなものだ。
おそらく最後の問題が、本当の勝負になるのだろう。
の真の狙いが分からぬまま、ドフラミンゴはにゲームの続きを促した。
「次で最後だ、」
「ええ、その通りよ、最後の問題を出題しましょう」
は口角を上げた。
とは対照的に、ドフラミンゴの顔からは笑みが失われている。
は1問目、2問目と同じように、問題を出そうとした。
「”第3問” 13年前、ドンキホーテ・を殺したのは――」
その瞬間、王宮最上階に銃声が響き渡る。
の言葉が最後まで紡がれることはなかった。
その時、ドフラミンゴには全てがスローモーションに見えていた。
椅子ごと倒れていく。
ロシナンテが驚愕に立ち上がり、ローが目を見開き、
ルフィがの名前を呼ぶ。
しかし、それのどこにも現実感がない。
体が地面に転がり跳ねた。
胸のあたりが赤く染まっていく。あっという間に血溜まりができた。
「!」
誰が呼びかけても答えない。
そこに溌剌とした魂の残り香はなく、ただ抜け殻となった肉体が残るだけ。
ドンキホーテ・は4度目の死を迎えたのである。